首のしこりは「下」からのサイン―梨状陥凹に潜む下咽頭癌を見抜く
第113回医師国家試験 A問題 第46問
国試問題にチャレンジ
65歳の男性。徐々に増大する左頸部の腫瘤と嚥下障害を主訴に来院した。左頸部に径2.5cmの弾性硬のリンパ節を1個触知する。圧痛を認めない。同部位の穿刺吸引細胞診で扁平上皮癌と診断された。喫煙は20本/日を30年間。飲酒は日本酒4合/日を45年間。内視鏡像を別に示す。 考えられるのはどれか。

- a.喉頭癌
- b.上咽頭癌
- c.中咽頭癌
- d.下咽頭癌
- e.頸部食道癌
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
頸部リンパ節に扁平上皮癌の転移を認めたら、頭頸部や食道の粘膜に原発巣を探すことが基本です。下咽頭は梨状陥凹・輪状後部・後壁からなり、内視鏡で声門と披裂喉頭蓋ひだの外側にある梨状陥凹に腫瘤があれば下咽頭癌と判断できます。下咽頭癌は喫煙・飲酒歴のある高齢男性に多く、初期症状に乏しいため頸部リンパ節転移が初発症状となることが多く、予後は不良です。喉頭癌(声門癌は早期から嗄声)、上咽頭癌(EBウイルス・滲出性中耳炎)、中咽頭癌(HPV関連)、頸部食道癌とは解剖学的な局在と臨床像で区別します。フィールドがん化による食道癌との重複に注意し、上部消化管内視鏡まで含めて評価する姿勢が、頭頸部癌診療の基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・65歳の男性。徐々に大きくなる左頸部腫瘤と嚥下障害が主訴。 ・左頸部に径2.5cm、弾性硬、圧痛のないリンパ節を1個触知する。圧痛がなく硬いリンパ節腫大が徐々に増大する経過は、炎症性(反応性)のものより悪性腫瘍の転移を強く疑わせる。 ・同部位の穿刺吸引細胞診で扁平上皮癌と判明した。頸部リンパ節に扁平上皮癌の転移がある場合、原発巣としてまず頭頸部(口腔・咽頭・喉頭)や食道の粘膜を探す。 ・喫煙20本/日×30年(ブリンクマン指数600)、日本酒4合/日×45年の大量飲酒。喫煙と飲酒は頭頸部扁平上皮癌、なかでも下咽頭癌や食道癌の代表的な危険因子である。
内視鏡像の読み方
経鼻内視鏡で上方から喉頭・下咽頭を見下ろした像である。画像の左側に声門(左右の声帯に囲まれた気道の入口)がみえ、その右外側を斜めに走る粘膜のひだ(披裂喉頭蓋ひだ)を隔てて、さらに外側のくぼみ(梨状陥凹)の中に、表面が発赤した不整な隆起性腫瘤がある。内視鏡像では患者の左側が画面の右側に映るため、腫瘤は左の梨状陥凹に位置し、左頸部リンパ節転移の局在とも一致する。声門そのもの(喉頭内腔)には腫瘤を認めない。
診断
梨状陥凹は下咽頭の一部であり、本例は左梨状陥凹を原発とする下咽頭癌(梨状陥凹型)と、その左頸部リンパ節転移と診断される。下咽頭癌は初期症状に乏しく、本例のように頸部リンパ節転移による頸部腫瘤が初発症状となることが多い。腫瘍の増大に伴い嚥下障害や嚥下時痛、耳への放散痛、さらに喉頭へ浸潤すると嗄声を生じる。
選択肢考察
- ×a. 喉頭癌
喉頭癌は声門上部・声門・声門下部に発生する癌で、喫煙が最大の危険因子である。最も多い声門癌は早期から嗄声を呈し、頸部リンパ節転移は少ない。本例の内視鏡像では声門などの喉頭内腔に腫瘤はなく、腫瘤は披裂喉頭蓋ひだより外側の梨状陥凹(下咽頭)にあるため、喉頭癌ではない。
- ×b. 上咽頭癌
上咽頭(鼻咽腔)は鼻腔の後方、頭蓋底の直下に位置し、本例の内視鏡像に写っている部位ではない。上咽頭癌はEpstein-Barr(EB)ウイルスとの関連が深く、中国南部や東南アジアに多い。頸部リンパ節腫大のほか、耳管閉塞による滲出性中耳炎、鼻閉・鼻出血、頭蓋底浸潤による脳神経麻痺(外転神経麻痺など)を呈するのが特徴である。
- ×c. 中咽頭癌
中咽頭は口蓋垂・軟口蓋の高さから喉頭蓋谷の高さまでの範囲で、口蓋扁桃や舌根を含む。中咽頭癌は喫煙・飲酒のほかヒトパピローマウイルス(HPV、特に16型)感染が重要な原因で、HPV関連癌は嚢胞状の頸部リンパ節転移で発見されることも多い。しかし本例の内視鏡像は喉頭と梨状陥凹を写した像で、腫瘤は中咽頭より下方の梨状陥凹にある。
- ○d. 下咽頭癌
内視鏡像で腫瘤は左梨状陥凹にあり、梨状陥凹は下咽頭の亜部位であるため下咽頭癌と診断できる。高齢男性、長期の喫煙と大量飲酒という危険因子、扁平上皮癌の頸部リンパ節転移、嚥下障害という臨床像もいずれも典型的である。下咽頭癌は粘膜下のリンパ流が豊富なため早期から頸部リンパ節転移を生じやすく、初診時には進行例であることが多い。食道癌など他臓器の重複癌の合併も多いため、上部消化管内視鏡による検索も必要となる。
- ×e. 頸部食道癌
頸部食道癌も飲酒・喫煙を危険因子とし、嚥下障害や頸部リンパ節転移をきたしうるため鑑別に挙がる。しかし頸部食道は輪状軟骨下縁から胸骨上縁までの範囲で、下咽頭のさらに下方(輪状後部の下)にある。本例の内視鏡像で確認できる腫瘤はそれより上方の梨状陥凹にあり、頸部食道癌とは判断できない。
咽頭・喉頭の区分
・上咽頭:頭蓋底から軟口蓋の高さまで。耳管咽頭口、アデノイドを含む。 ・中咽頭:軟口蓋から喉頭蓋谷(舌骨)の高さまで。前壁(舌根、喉頭蓋谷)、側壁(口蓋扁桃)、後壁、上壁(軟口蓋、口蓋垂)。 ・下咽頭:喉頭蓋谷の下から輪状軟骨下縁の高さまで。梨状陥凹、輪状後部、後壁の3亜部位に分けられる。 ・喉頭:声門上部(喉頭蓋、披裂喉頭蓋ひだ、仮声帯など)、声門(声帯)、声門下部。下咽頭の前方に位置する。
頭頸部癌の特徴の比較
・上咽頭癌:EBウイルス関連、未分化癌が多い、滲出性中耳炎・脳神経麻痺、放射線感受性が高い。 ・中咽頭癌:喫煙・飲酒、HPV感染(HPV関連癌は予後が比較的良好)。 ・下咽頭癌:喫煙・飲酒、高齢男性に多い(輪状後部癌は鉄欠乏性貧血を伴うPlummer-Vinson症候群との関連で女性に多い)、頸部リンパ節転移が多く予後不良、食道癌などとの重複癌が多い。 ・喉頭癌:喫煙、声門癌が最多で早期から嗄声、声門癌は転移が少なく予後良好。
下咽頭癌の治療
病期に応じて手術と放射線治療・化学放射線療法を単独または組み合わせて行う。進行例では下咽頭喉頭全摘出術と頸部郭清術を行い、遊離空腸などで咽頭食道を再建する。早期例では喉頭を温存する経口的切除術(内視鏡下手術)や化学放射線療法が選択され、喉頭機能(発声)の温存が図られる。
フィールドがん化(field cancerization)
飲酒・喫煙により上部消化管・気道の粘膜全体が発癌刺激を受けるため、頭頸部癌と食道癌は同時性・異時性に重複しやすい。少量の飲酒で顔が赤くなる体質(アルデヒド脱水素酵素2〈ALDH2〉の活性が低い人)で大量飲酒する場合、発癌リスクが特に高い。
POINT
・頸部リンパ節に扁平上皮癌の転移があれば、頭頸部・食道の原発巣を探す。 ・梨状陥凹は下咽頭の亜部位であり、梨状陥凹の腫瘤は下咽頭癌である。 ・下咽頭癌は高齢男性、喫煙・飲酒が危険因子で、頸部リンパ節転移が初発症状となることが多く、食道癌との重複に注意する。 ・内視鏡像では声門・披裂喉頭蓋ひだ・梨状陥凹の位置関係を把握し、腫瘍の局在を判断する。
