「食べる」はADL、「作る」はIADL―炊事が映し出す自立生活の力
第112回医師国家試験 F問題 第30問
国試問題にチャレンジ
手段的日常生活動作〈IADL〉に含まれるのはどれか。
- a.移動
- b.着替え
- c.炊事
- d.入浴
- e.排泄
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
日常生活動作は、食事・排泄・入浴・更衣・整容・移動などの身の回りの基本動作である基本的ADLと、炊事・買い物・家事・洗濯・電話・交通機関の利用・服薬管理・金銭管理など、道具の使用や段取り・判断を要する手段的日常生活動作(IADL)に分けられます。「食べる」はADL、「食事を作る(炊事)」はIADLであり、単なる移動はADL、交通機関を使った外出はIADLと区別します。評価尺度は、ADLではBarthel指数(10項目・100点満点)やFIM(18項目・18〜126点)、IADLではLawtonの尺度(8項目)が代表的です。高齢者の機能低下はADLより先にIADLの障害として現れやすいため、IADLの評価は認知症やフレイルの早期発見と、生活全体を見据えた支援の出発点として重要です。
解答・解説
正解はcです
日常生活の自立度を評価する際には、基本的日常生活動作(ADL:activities of daily living)と手段的日常生活動作(IADL:instrumental activities of daily living)を区別して考える。
ADL(基本的ADL、BADLともいう)
自分の身の回りのことを行うための、生きていくうえで最も基本的な動作である。食事、排泄、入浴、更衣(着替え)、整容、移動・移乗、階段昇降、排尿・排便のコントロールなどが含まれる。
IADL
ADLよりも一段複雑で、道具の使用や段取り・判断などの認知機能を要し、家庭や地域で自立した生活を営むために必要な動作である。炊事(食事の準備)、買い物、掃除などの家事、洗濯、電話の使用、交通機関を利用した外出、服薬管理、金銭管理などが含まれる。 考え方の目安として、「自分の体の世話をする動作」はADL、「生活を切り盛りするための動作」はIADLと整理するとよい。たとえば「食事をとる」はADLだが、「食事を作る(炊事)」はIADLである。選択肢のうち、移動・着替え・入浴・排泄はいずれも身の回りの基本動作(ADL)であり、IADLに該当するのは炊事である。
選択肢考察
- ×a. 移動
歩行や車椅子での移動、ベッドと車椅子間の移乗などは、身の回りの基本的な動作としてADLに分類される(Barthel指数にも移乗・歩行の項目がある)。なお、バスや電車などの公共交通機関を使って外出することはIADLに含まれるが、単なる移動はADLである。
- ×b. 着替え
着替え(更衣)は自分の身体の世話にあたる基本動作であり、ADLに分類される。Barthel指数や機能的自立度評価法(FIM)の評価項目にも含まれる。
- ○c. 炊事
炊事は、献立を考え、材料をそろえ、調理器具や火を安全に扱い、手順を組み立てて食事を作るという、道具の使用と計画・判断を伴う複雑な活動である。自立した生活を営むために必要な動作としてIADLに分類され、代表的なIADL評価尺度であるLawtonの尺度にも「食事の準備」として含まれる。なお、出来上がった食事を口に運んで食べること(食事動作)はADLである。
- ×d. 入浴
入浴(身体を洗う、浴槽に出入りするなど)は身の回りの基本動作であり、ADLに分類される。Barthel指数やFIMの評価項目にも含まれる。
- ×e. 排泄
排泄(トイレ動作、排尿・排便のコントロール)は生命維持に直結する最も基本的な身の回りの動作であり、ADLに分類される。
代表的な評価尺度
・Barthel指数(バーセル指数):ADLの評価尺度。食事、移乗(車椅子とベッド間)、整容、トイレ動作、入浴、歩行(移動)、階段昇降、更衣、排便コントロール、排尿コントロールの10項目からなり、満点は100点。点数が高いほど自立度が高い。実際に「できる能力」を評価する。 ・機能的自立度評価法(FIM:functional independence measure):ADLの評価尺度。運動項目13項目と認知項目5項目(理解、表出、社会的交流、問題解決、記憶)の計18項目を各1〜7点で評価し、18〜126点となる。実際に「している」動作を評価する点が特徴である。 ・Lawtonの尺度(Lawton & BrodyのIADL尺度):IADLの評価尺度。電話の使用、買い物、食事の準備、家事、洗濯、移動・外出(交通手段の利用)、服薬の管理、金銭管理(財産取り扱い能力)の8項目からなる。
臨床的意義
高齢者では、認知機能や身体機能の低下はまずIADLの障害として現れやすく、進行するとADLの障害に至ることが多い。たとえば認知症の初期には服薬管理や金銭管理、調理の段取りが難しくなるが、食事や排泄などのADLは保たれていることが多い。そのため、IADLの低下は認知症やフレイル(虚弱)の早期発見の手がかりとなる。高齢者総合機能評価(CGA:comprehensive geriatric assessment)では、ADL・IADLに加えて認知機能、気分、社会的背景などを総合的に評価する。
用語の整理
・ADL:食事、排泄、入浴、更衣、整容、移動・移乗、階段昇降など ・IADL:炊事、買い物、掃除・洗濯などの家事、電話、交通機関の利用、服薬管理、金銭管理など
POINT
・ADL=身の回りの基本動作(食事、排泄、入浴、更衣、整容、移動・移乗) ・IADL=自立した生活を送るための複雑な動作(炊事、買い物、家事、洗濯、電話、交通機関の利用、服薬管理、金銭管理) ・「食べる」はADL、「作る(炊事)」はIADL ・ADLの評価:Barthel指数(10項目・100点満点)、FIM(18項目・18〜126点) ・IADLの評価:Lawtonの尺度(8項目) ・認知機能低下はADLより先にIADLの障害として現れやすい
