「V字」を探せ―頭部MRIの水平断で黒質の高さを見抜く
第112回医師国家試験 F問題 第12問
国試問題にチャレンジ
頭部MRI(①~⑤)を別に示す。 黒質が映っている断面はどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
黒質は中脳の大脳脚と被蓋の境界に位置する神経核であり、頭部MRIで黒質を含む断面を選ぶには、中脳レベルの水平断を見つければよい。中脳は左右の大脳脚がV字(ハート形)に張り出し周囲を迂回槽が囲む形、橋は前方に膨らむ太い脳幹と背側の第四脳室、延髄は細く前面に錐体・オリーブをもつ形で見分けられる。黒質緻密部はドパミン作動性でParkinson病で変性し、黒質網様部はGABA作動性の基底核出力部である。T2強調画像での鉄による低信号、神経メラニン画像、磁化率強調画像のswallow tail signなど、黒質を評価する撮像法も知っておくとよい。解剖学的な位置と断面の目印を結びつけて読む力は、脳幹病変の局在診断をはじめ神経画像読影全般の基礎となる。
解答・解説
正解はcです
提示されたのは頭部MRIの水平断(軸位断)5枚で、いずれも脳脊髄液(脳室・脳槽)が低信号(黒)、脂肪を含む頭皮下組織が高信号(白)に写っていることからT1強調画像と判断できる。①から⑤へ向かって頭頂側から頭蓋底側へ断面が下がっている。 黒質〈substantia nigra〉は中脳にある神経核であり、問われているのは「中脳を通る断面はどれか」と言い換えられる。各断面を、目印になる構造で高さを決めていく。 ・①:脳室が写らず、左右の大脳半球の脳溝と正中の大脳鎌だけが見える。頭頂部に近い高位の断面(中心溝付近のレベル)である。 ・②:左右の側脳室体部が「ハ」の字状に写る。側脳室体部レベルである。 ・③:前方に前頭葉底部と眼窩前頭部、両側に側頭葉内側部が見え、正中に左右の大脳脚が「V」字(ハート形)に張り出した中脳が写る。その後方には中脳を囲む迂回槽(脳槽)と小脳虫部上部が見える。中脳レベルであり、黒質を含む。 ・④:眼窩上部・側頭葉下部と、後方に大きく広がった左右の小脳半球があり、その間に橋と第四脳室が見える。橋レベルである。 ・⑤:眼球と水晶体が写る高さで、中央に小さな延髄、両側後方に小脳半球が見える。延髄レベルである。 したがって中脳を通る③が正解である。脳幹は上から中脳→橋→延髄と並び、中脳は大脳脚の「V」字形、橋は前方に膨らんだ太い腹側部と後方の第四脳室、延髄は細く前面に錐体・オリーブの膨らみがある、という形の違いで見分けるとよい。
選択肢考察
- ×a. ①
脳室が見えず、大脳半球の皮質と脳溝、正中の大脳鎌のみが写る高位の断面で、前頭葉・頭頂葉が中心溝を挟んで並ぶレベルである。中心溝の前が一次運動野のある中心前回、後ろが一次体性感覚野のある中心後回であり、上前頭溝が後端で合流する脳溝が中心前溝、その一つ後ろが中心溝となる。中心前回には手の運動野に対応する後方凸の隆起(precentral knob)がみられることが多い。脳幹は含まれず、黒質は写らない。
- ×b. ②
透明中隔を挟んで左右の側脳室体部が写る側脳室体部レベルの断面である。側脳室の外側には皮質脊髄路などが通る放線冠(大脳白質)、正中前後には脳梁が見える。脳梁膨大部は、感染症・薬剤・けいれんなどで一過性に異常信号を示す病態(可逆性脳梁膨大部病変)が知られる部位である。基底核や脳幹よりも上の高さであり、黒質は含まれない。
- ○c. ③
中央に左右の大脳脚が「V」字状に張り出した中脳が写っており、中脳レベルの断面である。中脳は腹側から大脳脚、被蓋、中脳蓋(上丘・下丘)の順に並び、黒質は大脳脚と被蓋の境界に帯状に位置する。黒質はメラニン色素と鉄を多く含むため、肉眼の切断面で黒く見えることが名称の由来である。MRIでは鉄の沈着によりT2強調画像で周囲よりやや低信号となるが、厳密に低信号を示すのは腹側の黒質網様部であり、その背側の赤核との間に比較的信号の高い黒質緻密部がある。本問のようなT1強調画像では黒質自体の識別は難しいが、断面の高さから黒質を含むことが判断できる。
- ×d. ④
前方に太く膨らんだ脳幹があり、その背側に第四脳室、両側後方に小脳半球が大きく写る橋レベルの断面である。橋には三叉神経・外転神経・顔面神経・前庭蝸牛神経の核があり、これらの脳神経は橋前槽や小脳橋角槽を通って出る。小脳橋角部は聴神経鞘腫や髄膜腫などの腫瘍の好発部位である。中脳より下のレベルであり、黒質は含まれない。
- ×e. ⑤
眼球・水晶体が写る高さで、中央に細い延髄、その後方両側に小脳半球が見える延髄(上部)レベルの断面である。眼窩外耳孔線(OMライン)に沿った断面では、この高さで延髄が写ることが多い。延髄の腹側には錐体(皮質脊髄路)の隆起と、その外側にオリーブがあり、延髄外側から舌咽・迷走・副・舌下神経(下位脳神経)が出る。黒質は含まれない。
黒質の構造と機能
黒質は中脳の大脳脚と被蓋の間に位置する大脳基底核の一部で、次の2部に分けられる。 ・黒質緻密部:ドパミン作動性ニューロンが集まり、メラニンを含む。線条体(尾状核・被殻)へ投射する黒質線条体路を形成し、運動の開始・調節に関わる。 ・黒質網様部:GABA作動性ニューロンからなり、淡蒼球内節とともに基底核の主要な出力部として視床・上丘へ抑制性の出力を送る。 Parkinson病では黒質緻密部のドパミン作動性ニューロンが変性・脱落し、無動、静止時振戦、筋強剛、姿勢反射障害が出現する。病理学的には黒質の脱色素とLewy小体が特徴である。
MRIでの黒質の見え方
・T2強調画像:鉄沈着により黒質網様部と赤核が低信号に見える。 ・神経メラニン画像(特殊なT1強調撮像):黒質緻密部が高信号に描出され、Parkinson病では信号が低下・縮小する。 ・磁化率強調画像〈SWI〉:健常者では黒質背外側に高信号の小領域(nigrosome-1)が見えて「ツバメの尾」状となるが、Parkinson病ではこれが消失する(swallow tail signの消失)。
脳幹各レベルの水平断の目印
・中脳:左右の大脳脚が「V」字形(ミッキーマウスの顔に例えられる)。背側に中脳水道、上丘・下丘。周囲を迂回槽が取り巻く。黒質・赤核・動眼神経核がある。 ・橋:前方に大きく膨らむ橋底部、背側に第四脳室、外側に中小脳脚。三叉・外転・顔面・前庭蝸牛神経の核がある。 ・延髄:細く、腹側に錐体、外側にオリーブ。舌咽・迷走・副・舌下神経が関わる。
水平断の主なレベル(上から)
中心溝レベル → 側脳室体部レベル → 基底核・内包レベル(脳梗塞急性期のearly CT signの評価に重要)→ 中脳レベル → 橋レベル → 延髄レベル。
POINT
・黒質は中脳の大脳脚と被蓋の境界にある。中脳レベルの断面を選べばよい。 ・中脳は大脳脚の「V」字形、橋は前方に膨らむ太い脳幹と第四脳室、延髄は細く前面に錐体・オリーブ、で見分ける。 ・黒質緻密部はドパミン作動性ニューロン(Parkinson病で変性)、黒質網様部はGABA作動性の基底核出力部。 ・黒質網様部と赤核は鉄沈着によりT2強調画像で低信号を示す。
