StudyMed医師国家試験

「痛くない赤い尿」を見逃すな―放射線治療後の血尿、最初の一手は超音波と膀胱鏡

第112回医師国家試験 D問題 第69問

国試問題にチャレンジ

第112回 D問題 第69問

78歳の男性。約1か月前から断続的に生じる肉眼的血尿を主訴に来院した。排尿時痛はない。60歳時に前立腺癌に対して放射線照射を行った。喫煙歴はない。血液所見に異常を認めない。PSA値は0.01ng/mL(基準4.0以下)。  まず行うべき検査はどれか。2つ選べ。

  1. a.骨シンチグラフィ
  2. b.腎シンチグラフィ
  3. c.腹部超音波検査
  4. d.膀胱鏡検査
  5. e.FDG-PET

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢男性の肉眼的血尿に対して「まず何を調べるか」を問う問題だ。注目したいのは、痛みを伴わない血尿であること、そして過去に前立腺癌で骨盤に放射線を当てていること。この2つが診断の方向性を決めるよ。
医学生医学生
前立腺癌の既往があるので、まず再発を疑って転移を探すべきかと思いました。
ドクタードクター
自然な発想だね。でもPSAの値を見てごらん。ほぼ測定できないくらいの低値だ。放射線治療後は、最低値から2 ng/mL以上上がった場合を生化学的再発とみなす基準が一般的だから、この値なら前立腺癌の再発は考えにくい。
医学生医学生
なるほど、PSAが「再発の線は薄い」と教えてくれているわけですね。では血尿の原因は別に探す必要がある、と。
ドクタードクター
その通り。高齢者の無症候性肉眼的血尿でまず念頭に置くべきは何だろう?
医学生医学生
泌尿器科の臨床実習で「痛くない血尿は膀胱癌を疑え」と何度も言われました。でもこの方は喫煙歴がないので、可能性は低いですか。
ドクタードクター
そこは要注意。喫煙は尿路上皮癌の最大の危険因子だけれど、非喫煙者でも発生するから、喫煙歴がないことは除外の根拠にならない。しかもこの方には骨盤照射の既往がある。放射線照射は膀胱癌の危険因子のひとつで、二次がんとしての膀胱癌を考える必要があるんだ。
医学生医学生
放射線というと、放射線性膀胱炎もありますよね。照射後すぐに起こるものだと思っていました。
ドクタードクター
実は晩期障害として、照射後数か月から十数年たってから起こりうる。粘膜の毛細血管が拡張して脆くなり、肉眼的血尿が主症状になる。18年たっていても十分に候補になるよ。ほかにも腎細胞癌、腎盂・尿管癌、尿路結石などが鑑別に挙がる。
医学生医学生
候補が多いですね。どこから手をつければいいんでしょう。
ドクタードクター
考え方はシンプルで、出血源を「上部尿路(腎・尿管)」と「下部尿路(膀胱・尿道)」に分けて評価する。そこで正解になるのが腹部超音波検査と膀胱鏡検査だ。超音波は被曝がなく外来ですぐできて、腎腫瘍や水腎症、結石、膀胱内に突出する腫瘍まで一度に見られる。
医学生医学生
膀胱も超音波で見えるなら、膀胱鏡までは必要ないのでは?
ドクタードクター
いい疑問だ。超音波では小さな腫瘍や平坦な病変、たとえば上皮内癌は見落としうる。膀胱鏡なら粘膜を直接観察して生検もできるし、放射線性膀胱炎なら発赤や毛細血管拡張、出血といった所見が確認できる。出血中なら、左右どちらの尿管口から血尿が出ているかで上部尿路の出血側も推定できるんだ。
医学生医学生
骨シンチグラフィはどうでしょう。CBTの勉強で前立腺癌は骨転移が多いと覚えました。
ドクタードクター
前立腺癌の病期診断や再発時の転移検索には確かに使う。でも今回は再発が否定的で、そもそも血尿の原因となる癌の診断もついていない段階だ。出血源を探す検査ではないね。
医学生医学生
腎シンチグラフィは腎臓の検査だから関係ありそうに見えますが……。
ドクタードクター
名前に惑わされやすいところだね。腎シンチはMAG3で左右別の腎血流や排泄機能を、DMSAで腎実質の瘢痕などを評価する、いわば機能検査だ。腫瘍や出血部位を見つける検査ではない。
医学生医学生
FDG-PETなら全身の癌を一度に探せそうですが。
ドクタードクター
FDG-PETは悪性腫瘍の病期や転移・再発の評価に使うもので、癌かどうかも分からない段階で最初にやる検査ではない。それにFDGは尿に排泄されて膀胱に強く集まるから、膀胱病変の評価にはそもそも向かないんだ。
医学生医学生
まず出血源を局在させて、診断がついてから全身検索、という順番なんですね。
ドクタードクター
そういうこと。実際の精査では、尿沈渣で変形赤血球や赤血球円柱がないかを見て糸球体性かどうかを確認し、尿細胞診も併せて行う。そのうえで必要に応じて造影CT(CT urography)で腎盂・尿管まで評価する。特発性腎出血は、こうした検査で原因が見つからないときの除外診断だよ。
医学生医学生
放射線性膀胱炎だと分かれば、それで安心してよいですか。
ドクタードクター
放射線性膀胱炎の診断は、膀胱癌の除外が前提になる。照射後の膀胱には癌も炎症も起こりうるから、思い込まずに確認することが大切だ。また放射線性膀胱炎は時に大量出血や膀胱タンポナーデを起こすこともあるので、経過にも注意しよう。

まとめ

高齢者の無症候性肉眼的血尿では、喫煙歴の有無にかかわらず膀胱癌をはじめとする尿路上皮癌を必ず疑い、除外する必要があります。初期検査は、上部・下部尿路を非侵襲的に評価できる腹部超音波検査と、膀胱内腔を直接観察し生検も可能な膀胱鏡検査(+尿細胞診)の組み合わせが基本です。骨盤照射の既往は、晩期障害としての放射線性膀胱炎や二次性膀胱癌の手がかりになり、PSAが極めて低値なら前立腺癌の再発は考えにくくなります。骨シンチグラフィやFDG-PETは悪性腫瘍の診断後に病期・転移を調べる検査であり、腎シンチグラフィは腎機能評価の検査です。「出血源の局在診断が先、全身検索は後」という順序は、血尿診療に限らず検査計画を立てるうえでの基本姿勢になります。

解答・解説

正解はc, dです

所見の整理

・78歳男性、約1か月続く断続的な肉眼的血尿。 ・排尿時痛はない:膀胱刺激症状を伴わない「無症候性肉眼的血尿」である。 ・18年前(60歳時)に前立腺癌に対し放射線治療を受けている。 ・喫煙歴なし、血液検査は異常なし(貧血をきたすほどの出血ではない)。 ・PSA 0.01 ng/mL:極めて低値であり、前立腺癌の再発は考えにくい(放射線治療後は、最低値から2 ng/mL以上上昇した場合を生化学的再発とする基準が一般に用いられる)。

鑑別の考え方

高齢者の無症候性肉眼的血尿では、膀胱癌をはじめとする尿路上皮癌(腎盂・尿管・膀胱)を必ず念頭に置き、除外しなければならない。喫煙は尿路上皮癌の最大の危険因子だが、非喫煙者でも発生するため、喫煙歴がないことは除外の根拠にならない。さらに本例では、前立腺癌に対する骨盤への放射線治療の既往があり、以下も考えられる。 ・放射線性膀胱炎(出血性膀胱炎):照射後数か月から十数年たって発症する晩期障害で、肉眼的血尿が主症状となる。 ・放射線照射後の二次がんとしての膀胱癌。 そのほか、腎細胞癌、腎盂・尿管癌、尿路結石、特発性腎出血なども鑑別に挙がる。

まず行うべき検査

出血源を探すため、上部尿路(腎・尿管)と下部尿路(膀胱・尿道)をそれぞれ評価する。非侵襲的で簡便な腹部超音波検査で腎腫瘍・水腎症・膀胱腫瘍などを確認し、膀胱鏡検査で膀胱内を直接観察する。両者は肉眼的血尿の初期診療で欠かせない組み合わせである(あわせて尿細胞診も行う)。骨転移やがん全身検索のための検査は、悪性腫瘍の診断がついてから行うものである。

選択肢考察

  1. ×a.  骨シンチグラフィ

    骨シンチグラフィは、骨に集積する放射性医薬品を用いて骨転移などを全身的に検索する検査であり、前立腺癌の病期診断や再発時の転移検索に用いられる。本例はPSAが極めて低く前立腺癌の再発は否定的であり、また血尿の原因となる癌の診断もついていない段階である。血尿の出血源検索として最初に行う検査ではない。

  2. ×b.  腎シンチグラフィ

    腎シンチグラフィは、99mTc-MAG3(腎動態シンチ:左右別の腎血流・排泄機能の評価)や99mTc-DMSA(腎静態シンチ:腎実質の瘢痕や機能部分の評価)を用いて腎機能を調べる検査である。腫瘍や出血部位を見つけるための検査ではなく、肉眼的血尿の初期精査には用いない。

  3. ○c.  腹部超音波検査

    放射線被曝がなく、外来ですぐに施行できる非侵襲的な検査である。腎腫瘍、腎盂の拡張(水腎症)、結石などの上部尿路の異常と、膀胱内に突出する腫瘍や膀胱壁の肥厚などの下部尿路の異常を一度に評価できるため、肉眼的血尿の出血源検索の第一段階として行うべき検査である。泌尿器科以外を受診した場合でも、まず超音波検査を行い泌尿器科へ紹介する。

  4. ○d.  膀胱鏡検査

    尿道から内視鏡を挿入して尿道・膀胱の内腔を直接観察する検査で、超音波では見落としうる小さな膀胱腫瘍や平坦な病変(上皮内癌など)も発見できる。必要に応じて生検を行い組織診断につなげられる。放射線性膀胱炎であれば、膀胱粘膜の発赤や毛細血管拡張、出血などの所見が得られる。また、検査時に出血していれば左右の尿管口からの血尿の流出を確認でき、どちらの上部尿路が出血源かを推定する手がかりとなる。高齢者の肉眼的血尿では必須の検査である。

  5. ×e.  FDG-PET

    FDG-PETはブドウ糖類似物質の集積をみる検査で、悪性腫瘍の病期診断や転移・再発の検索に用いられる。保険診療上も、他の検査や画像診断で病期・転移・再発の診断が確定できない悪性腫瘍が対象とされる。また、FDGは尿中に排泄されるため膀胱内に強く集積し、膀胱病変の評価にはそもそも不向きである。悪性腫瘍かどうかも分からない段階でまず行う検査ではない。

血尿の分類

・肉眼的血尿:目で見て赤い尿。 ・顕微鏡的血尿:尿沈渣で赤血球5個/HPF以上。 ・無症候性血尿:排尿時痛・頻尿・発熱・腰背部痛などを伴わない血尿。高齢者の無症候性肉眼的血尿は、尿路悪性腫瘍を疑う重要な徴候である。

肉眼的血尿の精査の流れ

1. 尿検査(尿沈渣で赤血球形態を確認:変形赤血球や赤血球円柱があれば糸球体性を考える)。 2. 尿細胞診(尿路上皮癌の検索)。 3. 腹部超音波検査(腎・膀胱の評価)。 4. 膀胱鏡検査(膀胱・尿道の直接観察)。 5. 必要に応じて造影CT(CT urography)で腎盂・尿管を含めた上部尿路を評価し、異常があれば逆行性腎盂造影や尿管鏡などへ進む。 ・特発性腎出血は、これらの検査で原因が見つからない場合の除外診断である。

膀胱癌の要点

・大部分は尿路上皮癌で、高齢男性に多い。 ・危険因子:喫煙(最大の因子)、芳香族アミン(ベンジジン、β-ナフチルアミン)などの職業曝露、シクロホスファミド、骨盤への放射線照射、ビルハルツ住血吸虫症(扁平上皮癌の原因)など。 ・初発症状は無症候性肉眼的血尿が最も多い。

放射線性膀胱炎

・前立腺癌・子宮頸癌・直腸癌などに対する骨盤照射の晩期障害で、照射後数か月から十数年後に生じうる。 ・粘膜の毛細血管拡張や血管の脆弱化により肉眼的血尿をきたし、時に大量出血や膀胱タンポナーデとなる。 ・診断には膀胱鏡が有用だが、膀胱癌の除外が前提となる。

POINT

・高齢者の無症候性肉眼的血尿では、まず尿路上皮癌(特に膀胱癌)を疑う。喫煙歴がなくても否定できない。 ・初期検査は腹部超音波検査と膀胱鏡検査(+尿細胞診)。 ・骨盤照射の既往は放射線性膀胱炎や二次性膀胱癌の手がかり。 ・骨シンチ・FDG-PETは悪性腫瘍の診断後の病期・転移検索に用いる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。