乾いた目、乾いた口、そして「リウマチの反応」―結婚を前に測るべき抗体は何か
第112回医師国家試験 D問題 第45問
国試問題にチャレンジ
34歳の女性。昨年受けた人間ドックで「リウマチの反応が出ている」と言われたが,自覚症状がなかったため精密検査は受けていなかった。近々結婚の予定で挙児を希望しているため,人間ドックでの指摘事項が気になり来院した。現在はドライアイのため眼科で点眼薬による治療を受けている。また,う歯のために頻繁に歯科を受診している。舌の写真を別に示す。 診断に有用な自己抗体はどれか。

- a.抗ARS抗体
- b.抗SS-A抗体
- c.抗平滑筋抗体
- d.抗Scl-70抗体
- e.抗dsDNA抗体
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
ドライアイと多発性う歯・舌乳頭萎縮などのドライマウスがそろい、リウマトイド因子陽性を伴う中年女性では、Sjögren症候群を考えます。診断に用いる自己抗体は抗SS-A抗体(感度が高い)と抗SS-B抗体(特異度が高い)で、口唇小唾液腺生検、唾液分泌検査、Schirmer試験などの眼科検査と組み合わせて診断します。抗ARS抗体は筋炎、抗平滑筋抗体は自己免疫性肝炎、抗Scl-70抗体は全身性強皮症、抗dsDNA抗体はSLEと、疾患と抗体の対応を整理しておくことが重要です。抗SS-A抗体は胎盤を通過して新生児ループスや先天性完全房室ブロックの原因となるため、挙児希望の女性では妊娠前の測定と妊娠中の胎児心拍の監視が欠かせません。何気ない受診歴から乾燥症状を読み取り、妊娠という将来まで見据えて検査を選ぶ視点は、膠原病診療の基本といえます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・34歳の女性。人間ドックで「リウマチの反応」が陽性と言われている。通常これはリウマトイド因子(RF)陽性を指す。 ・眼の乾燥(ドライアイ)があり、眼科で点眼治療を受けている。 ・う歯が多く、頻繁に歯科に通っている。唾液には自浄作用・抗菌作用・再石灰化作用があるため、唾液分泌が減ると多発性のう歯を生じやすい。つまり口腔乾燥(ドライマウス)の存在がうかがわれる。 ・舌の写真では、舌表面が乾燥して光沢を欠き、舌乳頭が萎縮して多数の溝や亀裂が走り、敷石状・分葉状を呈している。慢性の唾液分泌低下による舌の変化である。 ・関節症状や皮疹、筋力低下などの他の膠原病を示す所見は記載されていない。
診断へのプロセス
中年女性に眼と口の乾燥症状(乾燥性角結膜炎と口腔乾燥)がそろい、RF陽性を伴うことから、Sjögren症候群(SS)を最も考える。SSは涙腺・唾液腺などの外分泌腺にリンパ球が浸潤して腺組織が破壊される自己免疫疾患で、中年女性に多い。RFはSSの約7割で陽性となるが、関節リウマチをはじめ他の膠原病、慢性肝疾患、さらに健常者の数%でも陽性となるため、単独では診断に結びつかない。乾燥症状の原因としては、薬剤の副作用、加齢、糖尿病、IgG4関連疾患、サルコイドーシスなども鑑別に挙がる。
設問の考え方
SSの診断では、①唾液腺の病理所見(口唇小唾液腺生検でのリンパ球浸潤)、②口腔の検査(唾液分泌量の低下、唾液腺造影・シンチグラフィ)、③眼科検査(Schirmer試験、角結膜の染色試験)、④血清学的検査(自己抗体)を組み合わせる。自己抗体のうち診断基準に採用されているのは抗SS-A(Ro)抗体と抗SS-B(La)抗体であり、本問の選択肢では抗SS-A抗体が該当する。 さらに本例は挙児を希望している。抗SS-A抗体は胎盤を通過して胎児に移行し、新生児ループスや先天性完全房室ブロックの原因になるため、妊娠前にこの抗体を測定しておくことは、診断だけでなく妊娠管理の点でも重要である。
選択肢考察
- ×a. 抗ARS抗体
抗ARS(アミノアシルtRNA合成酵素)抗体は、抗Jo-1抗体をはじめとする一群の自己抗体の総称で、多発性筋炎・皮膚筋炎の診断に用いられる。陽性例では間質性肺炎、筋炎、多関節炎、機械工の手(mechanic's hand)、発熱、Raynaud現象などを伴いやすく、抗ARS抗体症候群と呼ばれる。本例には筋症状や間質性肺炎を示す所見がなく、SSの診断には用いない。
- ○b. 抗SS-A抗体
抗SS-A(Ro)抗体はSSで最も高頻度にみられる自己抗体で、一次性SSの約5〜7割(報告によってはそれ以上)で陽性となり、わが国の診断基準と米国リウマチ学会/欧州リウマチ学会(ACR/EULAR)分類基準のいずれにも採用されている。感度は高いがSLEなどでも陽性になるため特異度はやや劣り、抗SS-B抗体は陽性率が低い代わりにSSへの特異度が高い。また抗SS-A抗体は胎盤を通過するIgG抗体であり、母体が陽性の場合、新生児ループス(皮疹、血球減少、肝障害など)や胎児の先天性完全房室ブロック(陽性母体からの出生の約1〜2%)を起こしうる。挙児希望のある本例では、診断と妊娠管理の両面で測定意義が大きい。
- ×c. 抗平滑筋抗体
抗平滑筋抗体は主にアクチンを標的とする自己抗体で、抗核抗体とともに自己免疫性肝炎(特に1型)の診断に用いられる。原発性胆汁性胆管炎やウイルス性・アルコール性肝障害で低力価陽性となることもある。本例には肝障害を示す所見がなく、SSの診断には役立たない。
- ×d. 抗Scl-70抗体
抗Scl-70抗体(抗トポイソメラーゼI抗体)は全身性強皮症に特異性の高い抗体で、陽性率は全体で2〜4割程度である。びまん皮膚硬化型や間質性肺炎の合併例で陽性となりやすい。本例には皮膚硬化やRaynaud現象などの強皮症を示す所見がなく、乾燥症状の評価には用いない。
- ×e. 抗dsDNA抗体
抗dsDNA(二本鎖DNA)抗体は全身性エリテマトーデス(SLE)に特異性が高く、約6〜7割で陽性となる。抗体価が疾患活動性、特にループス腎炎の活動性とよく相関するため、SLEの診断と経過観察に用いられる。本例には発熱、蝶形紅斑、関節炎、腎障害などSLEを示す所見はなく、SSの診断に有用な抗体ではない。
Sjögren症候群(SS)の概要
・涙腺・唾液腺などの外分泌腺へのリンパ球浸潤を特徴とする自己免疫疾患。中年女性に多い(男女比はおよそ1:10以上)。 ・他の膠原病を伴わない一次性(原発性)と、関節リウマチやSLEなどに合併する二次性(続発性)に分けられる。 ・腺症状:乾燥性角結膜炎(ドライアイ、異物感)、口腔乾燥(ドライマウス、多発性う歯、嚥下困難、舌乳頭萎縮・溝状舌)、反復性の耳下腺腫脹。 ・腺外症状:関節痛、環状紅斑、間質性肺炎、尿細管間質性腎炎(遠位尿細管性アシドーシス、低カリウム血症)、末梢神経障害、自己免疫性甲状腺疾患の合併など。 ・検査所見:高γグロブリン血症、RF陽性(約7割)、抗核抗体陽性(斑紋型が多い)、抗SS-A抗体・抗SS-B抗体陽性。 ・悪性リンパ腫(特に唾液腺のMALTリンパ腫)の発症リスクが一般より高い。
診断に用いる検査
・眼:Schirmer試験(5分間で5mm以下を陽性)、フルオレセインやリサミングリーンによる角結膜の染色試験。 ・口腔:ガムテスト(10分間で10mL以下)、サクソンテスト(2分間で2g以下)、唾液腺造影、唾液腺シンチグラフィ、唾液腺超音波。 ・病理:口唇小唾液腺生検で導管周囲のリンパ球浸潤(4mm²あたり50個以上のリンパ球集簇=フォーカス)。 ・血清:抗SS-A抗体、抗SS-B抗体。 ・わが国の改訂診断基準(1999年)では、病理・口腔検査・眼科検査・血清検査の4項目のうち2項目以上を満たせばSSと診断する。ACR/EULAR分類基準(2016年)では、口唇腺生検のフォーカススコア1以上と抗SS-A抗体陽性をそれぞれ3点、眼の染色スコア、Schirmer試験、安静時唾液分泌量の異常をそれぞれ1点とし、合計4点以上でSSと分類する。
治療
・乾燥症状に対する対症療法が中心:人工涙液・ヒアルロン酸点眼・ジクアホソル点眼、涙点プラグ。唾液分泌促進薬(ムスカリン受容体刺激薬のセビメリン、ピロカルピン)、人工唾液、口腔ケア。 ・腺外症状(間質性肺炎、腎炎、血管炎など)が強い場合は副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬を用いる。
抗SS-A抗体陽性女性の妊娠
・新生児ループス:母体の抗SS-A抗体(および抗SS-B抗体)が胎盤を通過して起こり、皮疹、血球減少、肝機能障害は一過性だが、先天性完全房室ブロックは不可逆的で、ペースメーカーを要することがある。 ・抗SS-A抗体陽性母体からの先天性房室ブロックの発生は約1〜2%で、前児が罹患した場合の再発率はそれより高い(10数%程度)。 ・妊娠中は胎児心拍・胎児心エコーで監視する。ヒドロキシクロロキンに再発予防効果が報告されている。
主な疾患特異的自己抗体
・SS:抗SS-A抗体、抗SS-B抗体 ・SLE:抗dsDNA抗体、抗Sm抗体 ・全身性強皮症:抗Scl-70抗体、抗セントロメア抗体(限局皮膚硬化型)、抗RNAポリメラーゼIII抗体 ・多発性筋炎・皮膚筋炎:抗ARS抗体(抗Jo-1抗体など)、抗MDA5抗体、抗TIF1-γ抗体、抗Mi-2抗体 ・混合性結合組織病:抗U1-RNP抗体 ・自己免疫性肝炎:抗核抗体、抗平滑筋抗体(1型)、抗LKM-1抗体(2型) ・原発性胆汁性胆管炎:抗ミトコンドリア抗体
POINT
・ドライアイ+ドライマウス(多発う歯、舌乳頭萎縮・溝状舌)+RF陽性の中年女性 → Sjögren症候群。 ・診断に用いる自己抗体は抗SS-A抗体(感度が高い)と抗SS-B抗体(特異度が高い)。 ・診断は口唇腺生検、唾液分泌検査、眼科検査(Schirmer試験など)、血清学的検査の組み合わせで行う。 ・抗SS-A抗体は胎盤を通過し、新生児ループス・先天性完全房室ブロックの原因となる → 挙児希望の女性では妊娠前に測定し、妊娠中は胎児心拍を監視する。 ・抗ARS抗体=筋炎、抗平滑筋抗体=自己免疫性肝炎、抗Scl-70抗体=強皮症、抗dsDNA抗体=SLE。
