「症状を教えてください」では届かない―患者の頭の中にある“病気の物語”を聞く
第112回医師国家試験 B問題 第6問
国試問題にチャレンジ
解釈モデルを知るための質問として適切でないのはどれか。
- a.「症状をあげていただけますか」
- b.「どんな治療が必要になるとお考えですか」
- c.「病気が治ったら生活はどう変わりますか」
- d.「病気があることでどのようにお困りですか」
- e.「原因について思い当たることはありませんか」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生まとめ
解釈モデルとは、患者が自分の病気について抱く考えの体系で、原因、発症の契機、病態、重症度・経過、生活への影響、望む治療・期待などが含まれます。原因や必要と思う治療、困っていること、治った後の生活像を尋ねる質問はいずれも患者の考えを引き出すものですが、症状を列挙してもらう質問は症候という事実の収集であり、解釈モデルを問うものではありません。関連する枠組みとしてFIFE(感情・解釈・機能・期待)があり、開放型質問を用いると引き出しやすくなります。医師の考える疾患と患者が体験する病の両方を理解してすり合わせることは、納得度やアドヒアランス、満足度を高める患者中心の医療の基本です。
解答・解説
正解はaです
解釈モデル(explanatory model)とは、患者が自分の病気について抱いている考えの体系である。原因は何か、どういう病気か、なぜ今起きたのか、この先どうなるのか、生活にどんな影響があるのか、どんな治療を望んでいるのか、といった内容が含まれる。医療人類学者のクラインマン(A. Kleinman)が提唱した概念で、医療者の側にも独自の解釈モデルがある。 医師が生物医学的な観点で診断を下しても、それが患者の解釈とかけ離れたままだと、説明への納得、治療への参加(アドヒアランス)、満足度が損なわれやすい。そこで、患者中心の医療面接では、患者の解釈モデルを意識的に引き出し、医師の考えとの違いをすり合わせていく。 本問は「適切でないもの」を選ぶ問題である。原因、必要と考える治療、生活への影響、治った後の生活像についての質問は、いずれも患者自身の考えや思いを尋ねている。一方、症状を列挙してもらう質問は客観的な病歴情報(症候)の収集であり、患者の解釈を問うものではない。
選択肢考察
- ○a. 「症状をあげていただけますか」
この質問で得られるのは、どんな自覚症状があるかという事実情報である。現病歴の聴取には必要だが、患者がその症状を「どう理解し、どう意味づけているか」を尋ねてはいない。したがって解釈モデルを知るための質問としては適切でなく、本問の正解である。
- ×b. 「どんな治療が必要になるとお考えですか」
患者が自分の病気をどの程度の重さととらえ、どのような治療を想定・期待しているかを尋ねる質問である。治療への期待は解釈モデルの重要な構成要素であり、適切な質問である。
- ×c. 「病気が治ったら生活はどう変わりますか」
病気が現在の生活にどのような制約を与えているかを、裏返しの形で引き出す質問である。患者が回復に何を望んでいるか(治療のゴールや受診の期待)も明らかになる。病気の影響や期待についての患者の考えを問うており、適切である。
- ×d. 「病気があることでどのようにお困りですか」
病気が日常生活・仕事・家庭などにどのような支障をもたらしていると患者が感じているかを尋ねる質問である。病気の影響は解釈モデルの要素の一つであり、適切である。
- ×e. 「原因について思い当たることはありませんか」
患者が病気の原因をどう考えているかを尋ねる質問である。原因についての考えは、解釈モデルの中心となる要素である。患者が特定の原因を心配している場合(例:家族が同じ症状で癌と診断された)、それを把握して説明することで不安の軽減につながる。適切な質問である。
クラインマンの解釈モデルの主な要素
①病気の原因(何が原因と考えているか) ②発症の時期と契機(なぜ今起きたのか) ③病態(体の中で何が起きていると思うか) ④重症度・経過(どのくらい重く、今後どうなるか) ⑤望む治療(どんな治療を受けたいか、何を期待するか) これに、病気が生活に及ぼす影響や、病気に対する感情(不安・恐れ)を含めて考えることが多い。
患者中心の医療面接での関連概念
患者の病の体験(illness)を把握する枠組みとして、FIFEがよく用いられる。 ・F(Feelings):感情(何を心配しているか) ・I(Ideas):解釈(何が原因・どんな病気だと思うか) ・F(Function):機能・生活への影響(何に困っているか) ・E(Expectations):期待(医師に何をしてほしいか) 医師がとらえる疾患(disease)と、患者が体験する病(illness)の両方を理解し、共通の理解基盤を築くことが患者中心の医療の要点である。
解釈モデルを聞く質問例
・「ご自身では何が原因だと思われますか」 ・「一番心配されていることは何ですか」 ・「今日はどのようなことを期待して来られましたか」 ・「この症状で日常生活にどんな支障がありますか」
面接技法との関係
解釈モデルは、患者が自由に語れる開放型質問(open-ended question)で引き出しやすい。一方、症状の有無や性状の確認には閉鎖型質問や焦点を絞った質問を用いる。
POINT
・解釈モデル=患者自身が病気について抱く考え(原因、病態、重症度・経過、生活への影響、望む治療・期待)。 ・症状の列挙は事実(症候)の聴取であり、解釈モデルを問う質問ではない。 ・解釈モデルを把握すると、説明の納得度、アドヒアランス、患者満足度が高まる。 ・関連する枠組みとしてFIFE(感情・解釈・機能・期待)を押さえる。
