歩けないけれど待てる人―START法で読み解く黄タッグの判定
第112回医師国家試験 B問題 第3問
国試問題にチャレンジ
多数の傷病者が発生した場面でトリアージを行う際,脈拍108/分,整,呼吸数14/分で,歩くことはできず,簡単な指示に従うことができる状態の患者に適用すべきトリアージタッグはどれか。
- a.黒タッグ
- b.赤タッグ
- c.黄タッグ
- d.緑タッグ
- e.タッグなし
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
多数傷病者の一次トリアージではSTART法が広く用いられ、歩行、呼吸、循環、意識の順に短時間で判定します。歩ければ緑、気道確保しても呼吸がなければ黒、呼吸数30回/分以上または10回/分未満、橈骨動脈触知不能・脈拍120回/分以上・CRT 2秒超、簡単な指示に従えない場合は赤となります。歩けなくても呼吸・循環・意識が基準内であれば黄(待機的治療群)であり、脈拍108回/分のような軽度の頻脈でも基準に達しなければ赤にはしません。評価した傷病者には全員タッグを付け、状態の変化に応じて再評価することも重要です。基準に沿って迷わず判定する訓練は、災害現場で一人でも多くを救うための土台になります。
解答・解説
正解はcです
多数の傷病者が同時に発生した災害現場では、限られた人員・資材で一人でも多くを救命するため、治療と搬送の優先順位を短時間で決めるトリアージを行う。一次トリアージ(現場で最初に行う大まかな選別)には、START法(Simple Triage And Rapid Treatment)が広く用いられる。START法は「歩行 → 呼吸 → 循環 → 意識」の順に、1人あたり30秒〜1分程度で判定する手順である。
本問の患者をSTART法に当てはめる
1. 歩行:歩けない → 緑ではない。次の評価へ進む。 2. 呼吸:自発呼吸があり、呼吸数14/分(10回/分以上・30回/分未満の範囲内)→ 呼吸の基準では赤に該当しない。 3. 循環:脈拍108/分・整。日本で用いられる基準(脈拍120/分以上、橈骨動脈を触れない、または毛細血管再充満時間[CRT]が2秒を超える場合に赤)に該当しない。 4. 意識:簡単な指示に従える → 意識の基準でも赤に該当しない。 すなわち「歩けないが、呼吸・循環・意識のいずれにも緊急を要する異常はない」状態であり、待機的治療群である黄タッグ(区分II)が適用される。
選択肢考察
- ×a. 黒タッグ
黒(区分0)は、自発呼吸がなく、用手的に気道を確保しても呼吸が再開しない傷病者、すなわち死亡または現状の医療資源では救命の見込みがないと判断される者に付ける。本患者は呼吸数14/分で自発呼吸があり、指示にも従えるので該当しない。
- ×b. 赤タッグ
赤(区分I)は、生命に関わる状態ですぐに処置・搬送すれば救命できる最優先治療群である。START法では、気道確保で初めて呼吸が出現した場合、呼吸数が30回/分以上または10回/分未満の場合、脈拍120/分以上・橈骨動脈触知不能・CRT 2秒超などの循環不全がある場合、簡単な指示に従えない場合に赤と判定する。本患者は呼吸数14/分、脈拍108/分で、指示に従えるため、いずれの基準も満たさない。
- ○c. 黄タッグ
黄(区分II)は、自力では歩けず搬送や治療が必要だが、呼吸・循環・意識が保たれており、数時間程度なら治療開始を待てる待機的治療群である。本患者は歩行不能である一方、呼吸数・脈拍は赤の基準に達しておらず、簡単な指示にも従えるため、START法の手順どおりに進めると黄に分類される。
- ×d. 緑タッグ
緑(区分III)は、自力で歩行できる軽症者(保留群)に付ける。START法では最初に「歩けるか」を確認し、歩ける者はその時点で緑とし、指定場所へ自分で移動してもらう。本患者は歩行できないため該当しない。
- ×e. タッグなし
トリアージで評価した傷病者には、判定結果にかかわらず必ずタッグを装着する。タッグがないと、まだ評価していない者と区別できず、再評価や搬送の際に混乱を招くからである。軽症者であっても緑タッグを付ける。
トリアージ区分(日本のトリアージタッグ)
・赤(区分I):最優先治療群。直ちに処置しなければ生命が危うく、処置すれば救命が期待できる者。 ・黄(区分II):待機的治療群。治療は必要だが、多少遅れても生命に危険が及びにくい者。 ・緑(区分III):保留群。歩行可能な軽症者で、専門医療をほとんど要さない者。 ・黒(区分0):死亡群または救命困難群。 タッグは右手首に付けるのが原則で(右手首に損傷があれば左手首、次いで右足首、左足首の順)、下端の色を切り取って区分を示す。
START法の流れ
①歩行可能 → 緑 ②歩行不能なら呼吸を確認:呼吸なし → 気道確保 → それでも呼吸なしなら黒、呼吸が出れば赤 ③呼吸数30回/分以上または10回/分未満 → 赤 ④循環:橈骨動脈を触れない、脈拍120/分以上、CRT 2秒超 → 赤 ⑤意識:簡単な指示に従えない → 赤 ⑥上記いずれにも該当しない → 黄
その他
・トリアージは一度で終わりではなく、状態の変化に応じて繰り返し再評価する。搬送前や医療機関到着時には、生理学的・解剖学的評価を組み合わせたPAT法(生理学的・解剖学的評価法)などによる二次トリアージが行われる。 ・小児には、体格や生理学的特徴を考慮したJumpSTART法がある。
POINT
・START法の順序:歩行 → 呼吸 → 循環 → 意識。 ・歩ければ緑。歩けなくても呼吸・循環・意識に異常がなければ黄。 ・赤の基準:気道確保で初めて呼吸が出現、呼吸数30回/分以上または10回/分未満、橈骨動脈触知不能・脈拍120/分以上・CRT 2秒超、指示に従えない。 ・気道確保しても呼吸がなければ黒。 ・トリアージした傷病者には全員タッグを付ける。
