StudyMed医師国家試験

「質問はありますか?」の一言が医療を変える―患者中心の医療の本質をつかむ

第112回医師国家試験 B問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第112回 B問題 第16問

患者中心の医療を実践するにあたり適切でないのはどれか。

  1. a.患者の意向の確認
  2. b.患者の感情への配慮
  3. c.患者との対立の解消
  4. d.患者からの質問の制止
  5. e.患者とのパートナーシップ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、患者中心の医療とは何かを問う問題だ。「適切でないもの」を選ぶ形式なので、まず患者中心の医療の考え方の軸をしっかり持ち、それに反するものを見抜くのがポイントになる。そもそも患者中心の医療って、どんな医療だと思う?
医学生医学生
患者さんの希望を何でも優先する医療、というイメージでした。
ドクタードクター
惜しいけれど、少し誤解があるね。患者の言うことをすべて聞くという意味ではないんだ。病気を検査値や画像の異常としてだけ捉えるのではなく、その病気を抱えた一人の人間として患者を理解し、考えや感情、期待、生活背景を踏まえたうえで、医師と患者が協力して方針を決めていく考え方だよ。対になるのが、医師が一方的に決めて患者が従うパターナリズムだ。
医学生医学生
医療倫理の講義で、パターナリズムから自己決定の尊重へ、という流れを習いました。
ドクタードクター
そう、その流れの延長線上にある。代表的なのがカナダのStewartらがまとめた患者中心の臨床技法で、疾患(disease)と、患者自身の病いの体験(illness)の両方を探ること、家族や社会背景を含めて全人的に理解すること、医師と患者の共通基盤を見いだすこと、医師患者関係を強化すること、が中核とされている。
医学生医学生
illnessの捉え方として、FIFEという覚え方もありましたよね。感情、解釈、生活機能への影響、期待でしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。では選択肢を見ていこう。まず患者の意向の確認。これはどうだろう。
医学生医学生
意向を聞かないと治療方針を一緒に決められないので、適切だと思います。
ドクタードクター
その通り。EBMでも、研究エビデンス、医療者の専門技能、患者の価値観・意向、患者の置かれた状況を統合して判断するとされている。エビデンスを目の前の患者に当てはめるとき、意向の確認は欠かせない。次に患者の感情への配慮はどうかな。
医学生医学生
OSCEの医療面接で「ご不安ですよね」と共感の言葉を入れるよう何度も練習しました。
ドクタードクター
まさにそれが感情への配慮だね。病気の患者は不安や恐れ、怒りを抱えていることが多い。感情に気づいて言葉で受け止めると、患者は本当の懸念を話しやすくなり、信頼関係も深まる。では、患者との対立の解消は?
医学生医学生
対立を「解消」するというのは、医師の考えを説得して納得させることなのかな、と少し引っかかりました。
ドクタードクター
いい疑問だね。ここでいう解消は、医師の判断を押し付けることではなく、お互いの考えを出し合って、問題点や治療目標、役割分担について合意点を探ることを指す。共通基盤の形成そのものだから、適切だよ。意見の食い違いを放置すると、治療の中断や服薬アドヒアランスの低下にもつながる。
医学生医学生
患者とのパートナーシップは、まさに協力して決めるということなので、適切ですね。
ドクタードクター
そう。医師は医学的知識を、患者は自分の価値観や生活状況を持ち寄って一緒に方針を決める。これを共有意思決定、shared decision makingと呼ぶ。そして残る患者からの質問の制止。これが正解、つまり適切でないものだ。
医学生医学生
質問を止めてしまったら、患者さんが何をわかっていないのか、何が不安なのかが見えなくなりますね。
ドクタードクター
その通り。質問は患者の理解度や懸念を知る大切な手がかりだ。それを制止すると、十分な情報がないまま判断を迫ることになり、インフォームド・コンセントが成り立たない。自律尊重という倫理原則にも反するし、患者に不信感を与えて信頼関係も損なう。むしろ医師のほうから「何かご質問はありますか」と促すべきなんだ。
医学生医学生
内科の実習で、外来が混んでいると先生が質問を遮りたくなる気持ちも少しわかる気がしました。
ドクタードクター
正直な感想だね。時間の制約は現実にある。だからこそ、最初に開放型質問で話してもらい、傾聴し、途中で要約して確認し、最後に質問の有無を尋ねる、という面接の型が役に立つ。結果的に聞き漏らしや誤解が減って、かえって効率的になることも多いよ。
医学生医学生
質問を受けることは時間の無駄ではなく、診療の質を上げる投資なんですね。
ドクタードクター
うまいまとめだ。臨床では、患者の解釈モデル、つまり「自分の病気をどう考えているか」を聴き取ることも大事だ。医師の説明と患者の理解がずれていると、どんなに正しい治療でも続かない。患者中心の医療は、医師が患者に迎合することではなく、医学的な専門性と患者の価値観をすり合わせる技術だと覚えておこう。

まとめ

患者中心の医療とは、病気を生物医学的な異常としてだけでなく、患者の考え・感情・期待・生活背景を含めて理解し、医師と患者が協力して方針を決めていく医療で、医師が一方的に決めるパターナリズムに対置されます。患者の意向の確認、感情への配慮、対立の解消(共通基盤の形成)、パートナーシップ(共有意思決定)はいずれもその構成要素です。一方、患者からの質問を制止することは、患者の知る権利や自己決定を妨げ、インフォームド・コンセントと信頼関係を損なうため不適切であり、医師はむしろ質問を促すべきです。開放型質問、傾聴、要約、共感、解釈モデルの聴取といった医療面接技法は、患者中心の医療を日々の診療で実践するための具体的な道具であり、OSCEから臨床現場まで一貫して求められる基本姿勢です。

解答・解説

正解はdです

患者中心の医療(patient-centered medicine)とは、病気を生物医学的な異常としてだけ扱うのではなく、その病気を抱える一人の人間としての患者に目を向け、患者の考え・感情・期待・生活背景を理解したうえで、医師と患者が協力して治療方針を決めていく診療の考え方である。従来の、医師が一方的に判断して患者がそれに従う「医師中心(パターナリズム)」の医療に対置される概念である。 この考え方を体系化した代表的なモデルとして、カナダのStewartらによる「患者中心の臨床技法」がある。そこでは、(1)疾患(disease)と患者の病いの体験(illness:患者自身の解釈、感情、期待、生活への影響)の両方を探ること、(2)患者を家族や社会的背景も含めた全人的に理解すること、(3)問題点・治療目標・役割分担について医師と患者の共通基盤(common ground)を見いだすこと、(4)医師患者関係を強化すること、などが中核とされる。 設問は「適切でないもの」を問うている。選択肢のうち、患者の意向の確認、感情への配慮、対立の解消、パートナーシップはいずれも上記の要素に直結する。一方、患者からの質問を制止することは、患者の疑問や懸念を汲み取る機会を奪い、患者の知る権利や自己決定を妨げる行為であり、患者中心の医療とは正反対である。よって正解は d である。

選択肢考察

  1. ×a.  患者の意向の確認

    適切である。患者中心の医療では、患者が自分の病気をどう理解しているか(解釈)、何を心配しているか、どのような治療や結果を望んでいるか(期待)を確認することが出発点となる。根拠に基づく医療〈evidence-based medicine:EBM〉においても、最善の研究エビデンス、医療者の臨床的専門技能、患者の価値観・意向、患者の置かれた状況の4つを統合して判断するとされ、エビデンスを目の前の患者に適用する段階では患者の意向の確認が不可欠である。

  2. ×b.  患者の感情への配慮

    適切である。病気になった患者は不安、恐れ、怒り、悲しみなどの感情を抱えていることが多い。患者の病いの体験を理解するうえで感情は重要な要素であり、医師がそれに気づいて言葉で受け止め、共感的な態度を示すことで信頼関係が深まる。感情に配慮することで、患者は本当の懸念を話しやすくなり、治療への主体的な参加にもつながる。

  3. ×c.  患者との対立の解消

    適切である。医師と患者の間で、病状の理解や治療方針に関する考えが食い違うことはまれではない。患者中心の医療では、意見の相違を放置したり医師の判断を押し付けたりするのではなく、互いの考えを出し合い、問題点・治療目標・役割について合意点(共通基盤)を探って対立を解消することが重視される。良好な医師患者関係があってはじめて、治療の継続や服薬の遵守といった成果も得られる。

  4. ○d.  患者からの質問の制止

    適切でない。患者からの質問は、患者が何を理解できていないか、何を不安に思っているかを知る重要な手がかりである。質問を制止すると、患者は十分な情報を得られないまま判断を迫られることになり、インフォームド・コンセント(十分な説明を受け、理解したうえでの同意)が成立しなくなる。患者には説明内容に疑問があれば質問し、納得のいくまで説明を求める権利がある。また、質問を遮る態度は患者に不信感を与え、信頼関係を損なう。医師はむしろ「何かご質問はありますか」と質問を促し、患者が話しやすい雰囲気をつくるべきである。

  5. ×e.  患者とのパートナーシップ

    適切である。患者中心の医療では、医師と患者は上下関係ではなく、健康問題の解決に向けて協力するパートナーとして位置づけられる。医師は医学的な専門知識を提供し、患者は自分の価値観・生活状況・体験を提供して、両者で治療方針を決めていく。このような協働的な意思決定は共有意思決定〈shared decision making:SDM〉とよばれ、患者中心の医療を具体化する方法の一つである。

パターナリズムから患者中心の医療へ

かつての医療では、医師が患者にとって最善と考える方針を決め、患者はそれに従うというパターナリズム(父権主義)が一般的であった。その後、患者の自己決定権の尊重が重視されるようになり、インフォームド・コンセント、さらには共有意思決定へと医師患者関係のあり方が変化してきた。

患者中心の臨床技法の主な要素

・疾患(disease)と病いの体験(illness)の両方を探る。illnessは、患者の解釈(Feelings, Ideas, Function, Expectationの頭文字をとってFIFEとまとめられることがある:感情、考え・解釈、生活機能への影響、期待)として捉えるとよい。 ・家族、職場、地域などの背景を含めて全人的に患者を理解する。 ・問題点、治療目標、医師と患者の役割について共通基盤を見いだす。 ・医師患者関係を強化する。

医療面接で役立つ技法

開放型質問(「どうされましたか」のように自由に答えられる質問)、傾聴、促し、要約、共感的な応答、解釈モデルの聴取、最後に質問の有無を確認することなどが、患者中心の医療を実践するための基本的なコミュニケーション技法である。

関連する医療倫理の原則

自律尊重(患者の自己決定の尊重)、善行(患者の利益を図る)、無危害(害を与えない)、正義(公平な医療資源の配分)の4原則がある。質問の制止は、このうち自律尊重の原則に反する。

POINT

・患者中心の医療は、患者の考え・感情・期待・生活背景を理解し、医師と患者が協力して方針を決める医療である。 ・患者の意向の確認、感情への配慮、対立の解消(共通基盤の形成)、パートナーシップはいずれも患者中心の医療の要素である。 ・患者からの質問を制止することは、知る権利・自己決定・インフォームド・コンセントを妨げるため不適切であり、むしろ質問を促すべきである。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。