「突然」こそ最大のサイン―腰背部痛に潜む大動脈解離を見抜く
第112回医師国家試験 B問題 第12問
国試問題にチャレンジ
大動脈解離による腰背部痛の特徴はどれか。
- a.突然の発症
- b.数日間の高熱の先行
- c.前屈での痛みの軽減
- d.圧迫による痛みの軽減
- e.呼吸による痛みの強さの変動
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
大動脈解離は内膜の裂け目から血液が中膜に流れ込み壁が裂ける病態で、その痛みは「突然発症し、発症直後が最も強い」引き裂かれるような激痛が特徴です。解離の進展に伴って痛みが胸部から背部、腰部へ移動することがあり、姿勢・圧迫・呼吸では痛みがほとんど変化しません。発熱の先行は腎盂腎炎や化膿性脊椎炎などの感染症、前屈での軽減は腰部脊柱管狭窄症や急性膵炎、呼吸での変動は胸膜炎や気胸、心膜炎を示唆します。高血圧が最大の危険因子で、Stanford A型は緊急手術の適応となり、痛みのない非典型例や、心筋梗塞と誤認した際の抗凝固療法の危険性にも注意が必要です。痛みの発症様式と増悪・寛解因子を整理する習慣は、致死的疾患を見逃さない問診の基本になります。
解答・解説
正解はaです
本問は、腰背部痛を訴える患者のうち、大動脈解離による痛みを他の原因と見分ける手がかりを問う問題である。
大動脈解離の痛みが生じるしくみ
大動脈解離は、大動脈壁の内膜に裂け目(エントリー)が生じ、そこから血液が中膜内に流れ込んで壁が2層に裂ける病態である。本来の血管腔を真腔、新たにできた腔を偽腔と呼ぶ。壁が裂ける瞬間に強い痛みが生じるため、痛みは「突然」「発症した瞬間が最も強い」という形をとり、「引き裂かれるような」「経験したことのない」激痛と表現される。痛みの部位は解離の位置を反映し、上行大動脈の解離では前胸部痛、下行大動脈の解離では背部痛が主体となり、解離が腹部大動脈へ進むにつれて痛みが腰部や腹部へ移動することがある。
鑑別の考え方
腰背部痛の原因は、筋骨格系疾患(腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、圧迫骨折)、感染症(腎盂腎炎、化膿性脊椎炎)、内臓疾患(尿路結石、膵炎)、血管疾患(大動脈解離、腹部大動脈瘤破裂)など多岐にわたる。痛みの「発症様式」「増悪・寛解因子」「随伴症状」を整理すると、大動脈解離は発症様式が突然である点が最大の特徴であり、姿勢・圧迫・呼吸で痛みが変化する性質は乏しい。したがって、選択肢の中で大動脈解離の痛みの特徴に該当するのは「突然の発症」である。
選択肢考察
- ○a. 突然の発症
大動脈壁が中膜で一気に裂けるため、痛みは前触れなく突然始まり、発症直後に最大となる。突然発症の激しい胸背部痛・腰背部痛をみたら、まず大動脈解離を念頭に置いて対応する必要がある。なお、高齢者などでは痛みを伴わず、失神、脳梗塞様の神経症状、下肢虚血などで発症する例もあるため、複数の臓器の虚血症状が同時に出現している場合にも本症を疑う。
- ×b. 数日間の高熱の先行
大動脈解離は血管壁の機械的な破綻で起こり、発症前に数日間の高熱が続くことは特徴ではない(発症後に炎症反応による微熱がみられることはある)。発熱が先行する腰背部痛では、腎盂腎炎、化膿性脊椎炎、硬膜外膿瘍、感染性大動脈瘤などの感染症を考える。
- ×c. 前屈での痛みの軽減
前屈で痛みが和らぐのは、腰部脊柱管狭窄症(前屈で脊柱管が広がり、神経の圧迫が軽くなる)の典型的な特徴である。前かがみで楽になる痛みとしては、ほかに急性膵炎(膝を抱えた姿勢で軽減)や急性心膜炎(座って前傾すると軽減)がある。大動脈解離の痛みは体位による変化に乏しい。
- ×d. 圧迫による痛みの軽減
大動脈解離の痛みは血管壁内部の病変によるもので、体表から押さえても軽減しない。押さえると楽になる、あるいは押さえると痛みが増す(圧痛)といった体表からの刺激に反応する痛みは、筋肉や体表に近い組織に由来する痛みを示唆し、大動脈解離の特徴ではない。
- ×e. 呼吸による痛みの強さの変動
深呼吸や咳で痛みが強くなるのは、胸膜が刺激される病態(胸膜炎、気胸、肺血栓塞栓症による胸膜の刺激)や急性心膜炎の特徴である。大動脈解離の痛みは呼吸の位相とは関係なく持続する激痛であり、呼吸による強弱の変動は特徴ではない。
大動脈解離の概要
・危険因子:高血圧が最も重要である。そのほか、Marfan症候群などの結合組織疾患、二尖弁大動脈弁、大動脈縮窄症、妊娠、外傷などがある。 ・分類:Stanford分類では上行大動脈に解離が及ぶものをA型、及ばないものをB型とする。A型は心タンポナーデ、大動脈弁閉鎖不全、冠動脈の閉塞(急性心筋梗塞)などの致死的合併症を起こしやすく、原則として緊急手術の適応である。合併症のないB型は、降圧・安静を中心とした内科的治療が基本である。DeBakey分類(Ⅰ型・Ⅱ型・Ⅲ型)も用いられる。 ・症状:突然の激しい胸背部痛のほか、分枝動脈の血流障害による症状(脳虚血による意識障害や片麻痺、腸管虚血による腹痛、腎虚血、下肢虚血)、血圧の左右差、大動脈弁閉鎖不全による拡張期雑音などがみられる。 ・検査:造影CTが診断の中心であり、真腔と偽腔を隔てる剥離した内膜(フラップ)を確認する。胸部X線写真では上縦隔の拡大がみられることがある。血液検査ではD-ダイマーの上昇がみられ、陰性であれば本症の可能性は低くなる。
突然発症の胸背部痛の主な鑑別
急性冠症候群(急性心筋梗塞など)、急性大動脈解離、肺血栓塞栓症、緊張性気胸は、見逃すと致死的になりうる胸痛として優先的に除外する。特に大動脈解離に対して血栓溶解療法や抗凝固療法を行うと致命的になりうるため、心筋梗塞を疑った場合でも大動脈解離の可能性を確認することが重要である。
POINT
・大動脈解離の痛みは「突然発症」「発症時が最も強い」「引き裂かれるような」激痛であり、解離の進展に伴って痛みの部位が移動することがある。 ・前屈で軽減→腰部脊柱管狭窄症(ほかに急性膵炎、急性心膜炎)。 ・呼吸で変動→胸膜炎、気胸、心膜炎など。 ・発熱の先行→腎盂腎炎、化膿性脊椎炎などの感染症。 ・痛みを伴わず、失神や神経症状、多臓器の虚血で発症する大動脈解離もある。
