StudyMed医師国家試験

骨に転移しても武器はある―前立腺癌の転移癌は「男性ホルモンを断つ」から始まる

第112回医師国家試験 A問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第112回 A問題 第8問

無症候性骨転移を伴う前立腺癌にまず行う治療はどれか。

  1. a.PDE 5〈phosphodiesterase 5〉阻害薬投与
  2. b.抗癌化学療法
  3. c.ホルモン療法
  4. d.経尿道的レーザー前立腺切除術
  5. e.ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、骨転移を伴う前立腺癌に最初に何をするかを問う問題だ。ポイントは2つ。前立腺癌が男性ホルモンに依存して増える癌であること、そして病期によって局所治療と全身治療を使い分けることだ。まず、骨転移があるということは、癌がどんな状態にあると考えられるかな。
医学生医学生
前立腺の中にとどまっていなくて、全身に広がっている状態ですよね。
ドクタードクター
その通り。つまり全身病として扱う必要がある。前立腺だけを取ったり焼いたりしても、骨の病変は残ってしまうからね。そこで、全身の癌に効く治療が必要になる。
医学生医学生
全身治療というと、まず抗癌化学療法が思い浮かびます。
ドクタードクター
多くの癌ならそう考えるよね。でも前立腺癌の多くは、増殖が男性ホルモン、つまり主に精巣で作られるテストステロンに依存している。だからアンドロゲンの産生を抑えたり作用を遮断したりすれば、原発巣も転移巣もまとめて縮小・制御できる。これがアンドロゲン除去療法、いわゆるホルモン療法で、転移癌でまず行う治療なんだ。
医学生医学生
薬理学の講義で、乳癌のホルモン療法と並べて習いました。前立腺癌も同じ発想なんですね。
ドクタードクター
そう、ホルモン依存性の癌という点で共通している。具体的にはLH-RHアゴニストやGnRHアンタゴニストの注射、または両側精巣摘除術でテストステロンを去勢域まで下げる。問題文に「無症候性」とあるのもポイントで、骨痛や脊髄圧迫のように緊急の局所治療を優先すべき状況ではないから、素直にホルモン療法から始めればいい。
医学生医学生
では抗癌化学療法は前立腺癌では使わないんですか。
ドクタードクター
使うけれど、単独で最初に行うことはない。ドセタキセルなどのタキサン系薬は、伝統的にはホルモン療法が効かなくなった去勢抵抗性前立腺癌に使われてきた。最近は転移量の多いホルモン感受性癌でホルモン療法と同時に併用することもあるけれど、その場合もあくまで土台はホルモン療法だ。
医学生医学生
ロボット支援の前立腺全摘は、泌尿器科の実習で見学しました。あれは転移があるとやらないんですね。
ドクタードクター
そう。全摘除術は前立腺内にとどまる限局癌に対して、根治を目指して行う局所治療だ。骨にまで広がっている状態で原発巣を摘出しても治しきれないから、標準治療としての適応はない。限局癌なら全摘のほか、放射線療法や、低リスクならPSA監視療法も選択肢になる。
医学生医学生
経尿道的レーザー手術とPDE5阻害薬は、前立腺肥大症の治療で出てきた気がします。
ドクタードクター
よく整理できているね。経尿道的レーザー手術は、尿道を圧迫する腺腫を取り除いて排尿障害を改善する前立腺肥大症の手術で、癌の根治にも全身治療にもならない。PDE5阻害薬はcGMPの分解を抑えて平滑筋を弛緩させる薬で、勃起障害や前立腺肥大症に伴う排尿障害、肺動脈性肺高血圧症に使う。どちらも名前に前立腺が絡むので紛らわしいけれど、癌治療ではないんだ。
医学生医学生
限局癌なら局所治療で根治、転移癌なら全身治療としてホルモン療法、という整理ですね。
ドクタードクター
その通り。ここからは発展知識だ。LH-RHアゴニストは下垂体を持続刺激して受容体を減らすことで効くけれど、投与初期には一時的にテストステロンが上がって、骨痛や排尿障害が悪化するフレアアップ現象が起こりうる。だから抗アンドロゲン薬を先行・併用して予防する。GnRHアンタゴニストは受容体を直接遮断するから、フレアアップが起こらない。
医学生医学生
骨転移がある患者さんでフレアアップが起こると、骨痛や脊髄圧迫が悪化しそうで怖いですね。
ドクタードクター
鋭いね。まさにそれが臨床での注意点だ。それから、ホルモン療法は長く続けるので副作用にも目を配る必要がある。ほてり、性欲低下、女性化乳房、骨粗鬆症、筋肉量の減少、脂質異常や耐糖能異常など、生活の質や心血管リスクに関わるものが多い。
医学生医学生
ホルモン療法はずっと効き続けるんでしょうか。
ドクタードクター
残念ながら、多くは数年でテストステロンが去勢域なのに病勢が進む去勢抵抗性前立腺癌になる。そうなるとエンザルタミドやアビラテロンなどの新規ホルモン薬、ドセタキセルやカバジタキセル、骨転移に対するラジウム223、BRCA変異例ではPARP阻害薬などを使う。さらに今は、ホルモン感受性の段階からADTに新規ホルモン薬やドセタキセルを上乗せすると生存期間が延びることが示されていて、併用療法が推奨されているんだ。PSAの推移を追いながら、治療の切り替え時期を見極めていくことになる。

まとめ

前立腺癌の多くは男性ホルモン(アンドロゲン)に依存して増殖するため、骨転移などで全身に広がった転移癌では、全身治療であるホルモン療法(アンドロゲン除去療法)がまず行う治療となります。LH-RHアゴニスト・GnRHアンタゴニストや精巣摘除でテストステロンを去勢域まで下げ、現在は新規ホルモン薬やドセタキセルを上乗せする併用療法も推奨されています。前立腺全摘除術は限局癌の根治治療、経尿道的レーザー手術とPDE5阻害薬は主に前立腺肥大症や勃起障害の治療であり、抗癌薬はホルモン療法への併用か去勢抵抗性となった後に用います。LH-RHアゴニストの投与初期のフレアアップ現象や、骨粗鬆症などの長期的副作用にも注意が必要です。病期に応じて局所治療と全身治療を使い分ける考え方は、前立腺癌に限らず癌治療全般を理解する土台になります。

解答・解説

正解はcです

前立腺癌の病期(広がり)に応じた治療方針を問う問題である。

前立腺癌の性質

前立腺癌の多くは、増殖が男性ホルモン(アンドロゲン、主に精巣で作られるテストステロン)に依存している。そのため、アンドロゲンの産生を抑えたり、その作用を遮断したりすると、原発巣だけでなく転移巣も含めて全身の癌を縮小・制御できる。この「アンドロゲン除去療法(androgen deprivation therapy: ADT)」が、いわゆるホルモン療法(内分泌療法)である。

病期と治療の対応

・限局癌(前立腺内にとどまる): 根治を目指す局所治療が中心である。前立腺全摘除術(現在はロボット支援手術が主流)、放射線療法(外照射、密封小線源療法)、低リスク例では監視療法(PSA監視療法)が選択肢となる。 ・局所進行癌(被膜外浸潤・精嚢浸潤など): 放射線療法とホルモン療法の併用などが行われる。 ・転移癌(骨転移・遠隔リンパ節転移など): 癌は全身に広がっているため、局所治療だけでは制御できない。全身治療であるホルモン療法が治療の基本(まず行う治療)となる。

設問への考え方

本問は「骨転移を伴う」ので転移癌であり、全身治療が必要である。また「無症候性」とあり、骨転移による疼痛や脊髄圧迫などの症状に対する緊急の局所治療(放射線照射など)を優先すべき状況でもない。したがって、まず行う治療はホルモン療法である。なお、ホルモン療法を開始していない転移癌はホルモン感受性前立腺癌と呼ばれ、現在はADTを基盤に、新規ホルモン薬や抗癌薬を上乗せする強化療法が標準化しつつある。

選択肢考察

  1. ×a.  PDE 5〈phosphodiesterase 5〉阻害薬投与

    誤り。PDE5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィルなど)は、cGMPの分解を抑えて血管や平滑筋を弛緩させる薬である。勃起障害(ED)、前立腺肥大症に伴う排尿障害(タダラフィル)、肺動脈性肺高血圧症に用いられる。癌に対する治療効果はなく、前立腺癌の治療には用いない。

  2. ×b.  抗癌化学療法

    誤り。抗癌化学療法を単独で最初に行うことはない。前立腺癌で用いられる抗癌薬はドセタキセルやカバジタキセルなどのタキサン系薬で、伝統的にはホルモン療法が効かなくなった去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)に用いられてきた。近年は、転移量の多いホルモン感受性前立腺癌に対し、ホルモン療法と同時にドセタキセルを併用する方法も行われるが、この場合もあくまでホルモン療法が治療の土台である。

  3. ○c.  ホルモン療法

    正しい。骨転移を伴う前立腺癌は全身病であり、アンドロゲン依存性という前立腺癌の性質を利用した全身治療であるホルモン療法が第一選択となる。具体的には、LH-RH(GnRH)アゴニスト(リュープロレリン、ゴセレリン)やGnRHアンタゴニスト(デガレリクス)の投与、または両側精巣摘除術(外科的去勢)によりテストステロンを去勢域まで低下させる。これに抗アンドロゲン薬を併用することもある。現在は、ADTにアンドロゲン受容体経路阻害薬(アビラテロン、エンザルタミド、アパルタミド、ダロルタミド)やドセタキセルを上乗せすることで生存期間が延びることが示され、こうした併用療法が推奨されている。

  4. ×d.  経尿道的レーザー前立腺切除術

    誤り。経尿道的レーザー前立腺切除(核出・蒸散)術は、主に前立腺肥大症に対して、尿道を圧迫する腺腫を取り除き排尿障害を改善する手術である。前立腺癌に対する根治治療や全身治療にはならない。癌の局所進行で高度の尿閉を来した場合に、症状緩和として経尿道的手術を行うことはあるが、本問のように無症候の転移癌でまず行う治療ではない。

  5. ×e.  ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術

    誤り。前立腺全摘除術は、癌が前立腺内にとどまる限局癌(および一部の局所進行癌)に対して根治を目的に行う局所治療である。骨転移があり全身に癌が広がっている状態では、原発巣を摘出しても癌を治しきれないため、標準治療としての適応はない。

前立腺癌のホルモン療法の種類

・外科的去勢: 両側精巣摘除術。 ・LH-RH(GnRH)アゴニスト: 下垂体のGnRH受容体を持続刺激して受容体を減らし(脱感作)、LH分泌を抑えてテストステロンを低下させる。投与初期に一時的にテストステロンが上昇し、骨痛の増悪や排尿障害の悪化などの症状が一過性に強まる(フレアアップ現象)ことがあり、抗アンドロゲン薬を先行・併用して予防する。 ・GnRHアンタゴニスト(デガレリクス): 受容体を直接遮断するため、フレアアップが起こらない。 ・抗アンドロゲン薬: アンドロゲン受容体を遮断する。従来薬のビカルタミドに加え、新規のアンドロゲン受容体阻害薬(エンザルタミド、アパルタミド、ダロルタミド)がある。 ・CYP17阻害薬(アビラテロン): 副腎や癌組織でのアンドロゲン合成を抑える。ステロイドを併用する。

ホルモン療法の副作用

ほてり(ホットフラッシュ)、性欲低下・ED、女性化乳房、骨粗鬆症・骨折、筋肉量減少、体重増加、脂質異常症・耐糖能異常、心血管疾患リスクの上昇など。

去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)

ホルモン療法を続けると、多くは数年でテストステロンが去勢域にもかかわらず病勢が進行する状態となる。治療には新規ホルモン薬、タキサン系抗癌薬(ドセタキセル、カバジタキセル)、骨転移に対するラジウム223(α線放出の放射性医薬品)、遺伝子変異(BRCAなど)を有する例ではPARP阻害薬(オラパリブなど)が用いられる。

骨転移への対策

・前立腺癌の骨転移は骨を作る方向に働く造骨性転移が多い(骨シンチグラフィで集積、単純X線で骨硬化像)。 ・骨痛や脊髄圧迫などの症状がある場合は、局所の放射線照射で症状緩和を図る。脊髄圧迫による麻痺は緊急の対応(放射線照射や除圧手術、ステロイド)を要する。 ・骨関連事象(病的骨折など)の予防に、ゾレドロン酸やデノスマブといった骨修飾薬が用いられる(主にCRPCで)。 ・転移が少ない(低転移量)ホルモン感受性癌では、ホルモン療法に原発巣への放射線照射を加えると生存期間が延びることも示されている。

POINT

・前立腺癌はアンドロゲン依存性であり、転移癌の基本治療はホルモン療法(アンドロゲン除去療法)である。 ・限局癌は前立腺全摘除術・放射線療法・監視療法などの局所治療で根治を目指す。 ・抗癌薬(ドセタキセルなど)はホルモン療法に併用、または去勢抵抗性となった後に用いる。 ・LH-RHアゴニストは投与初期にフレアアップ現象を起こし得る。 ・PDE5阻害薬・経尿道的前立腺手術は主にED・前立腺肥大症に対する治療である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。