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神経内分泌の顔をもつ癌―小細胞肺癌の腫瘍マーカーはProGRP

第111回医師国家試験 I問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第111回 I問題 第15問

小細胞肺癌で高値を示すのはどれか。

  1. a.CEA
  2. b.SCC
  3. c.AFP
  4. d.ProGRP
  5. e.PIVKA-Ⅱ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は腫瘍マーカーの知識問題だ。ポイントは「肺癌は組織型によって上がるマーカーが違う」ということ。そして小細胞肺癌がどんな性質の細胞からできた癌なのかを思い出せれば、答えは自然に出てくるよ。
医学生医学生
肺癌のマーカーといえば、まずCEAが思い浮かびます。CEAじゃだめなんでしょうか。
ドクタードクター
多くの人がまずそう考えるね。CEAは癌胎児性抗原で、大腸癌や胃癌、膵癌などの消化器癌、それに肺腺癌で上がりやすい代表的なマーカーだ。肺癌では組織型を問わず上がりうるけれど、陽性率が高いのは腺癌で、小細胞肺癌に特徴的なものではないんだ。
医学生医学生
なるほど、上がることはあっても「特徴的」ではないんですね。じゃあ小細胞肺癌は何が特徴なんでしょう。
ドクタードクター
病理の講義を思い出してほしい。小細胞肺癌の細胞はどんな性質をもっていたかな。
医学生医学生
確か神経内分泌腫瘍の一種で、免疫染色ではクロモグラニンAやシナプトフィジンが陽性になると習いました。
ドクタードクター
その通り。神経内分泌細胞の性質をもつから、神経内分泌系の物質がマーカーになる。それがProGRP、つまりガストリン放出ペプチドの前駆体と、NSE、神経特異エノラーゼだ。小細胞肺癌はGRPを自分で作って増殖因子として使うので、血中ProGRPが高くなる。だから正解はProGRPだね。
医学生医学生
自分の増殖のために作っている物質だから、腫瘍量を反映しやすいんですね。
ドクタードクター
そう。特異性が高く、早期の限局型でも上がりやすいのが利点で、診断の補助だけでなく化学療法の効果判定や再発の監視にも使われる。ただし腎機能障害があると排泄が落ちて偽陽性になることがあるので注意しよう。
医学生医学生
残りの選択肢も確認させてください。SCCは扁平上皮癌のマーカーでしたよね。
ドクタードクター
正解。肺扁平上皮癌のほか、子宮頸癌、食道癌、頭頸部癌など扁平上皮由来の癌で上がる。肺扁平上皮癌ではCYFRAもセットで覚えておこう。乾癬やアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患でも上がることがあるのは要注意だ。
医学生医学生
AFPとPIVKA-Ⅱは肝細胞癌ですね。消化器内科の実習で、肝硬変の患者さんのフォローで2つ並べて測っていました。
ドクタードクター
いい経験をしているね。AFPは胎児期に肝臓や卵黄嚢で作られる蛋白で、肝細胞癌のほか卵黄嚢腫瘍を含む胚細胞腫瘍でも上がる。PIVKA-ⅡはビタミンKが足りないときに肝臓が作る異常プロトロンビンで、肝細胞癌に特異性が高い。ただしワルファリン内服中やビタミンK欠乏、閉塞性黄疸でも上がるから、薬歴の確認が欠かせない。
医学生医学生
整理すると、腺癌はCEA、扁平上皮癌はSCCとCYFRA、小細胞癌はProGRPとNSE、という対応ですね。
ドクタードクター
完璧だ。腺癌ではSLXも挙げられる。もう一歩踏み込んで、小細胞肺癌の臨床像も押さえておこう。喫煙との関連が非常に強く、肺門部に好発して増殖が速く、早期から脳や肝、骨、副腎へ転移しやすい。
医学生医学生
神経内分泌の性質があるということは、腫瘍随伴症候群も起こしやすいんでしょうか。CBTでSIADHが出た記憶があります。
ドクタードクター
まさにそこがつながるところ。SIADHによる低ナトリウム血症、異所性ACTH産生によるCushing症候群、電位依存性カルシウムチャネルへの自己抗体によるLambert-Eaton筋無力症候群が代表的だ。原因不明の低ナトリウム血症をみたら、喫煙者なら小細胞肺癌を頭に置いておきたい。
医学生医学生
治療は手術より化学療法が中心でしたか。
ドクタードクター
そう。化学療法や放射線への感受性は高いけれど再発しやすいので、プラチナ製剤とエトポシドを軸に、近年は免疫チェックポイント阻害薬を併用する治療が中心になる。NSEについては溶血した検体で偽高値になることも覚えておくと、検査結果の解釈で困らないよ。

まとめ

小細胞肺癌は神経内分泌細胞の性質をもつ腫瘍で、ガストリン放出ペプチド前駆体(ProGRP)や神経特異エノラーゼ(NSE)が高値を示し、とくにProGRPは特異性が高く早期でも上昇しやすいため、診断補助や治療効果判定、再発監視に用いられます。肺癌のマーカーは組織型ごとに異なり、腺癌ではCEA・SLX、扁平上皮癌ではSCC・CYFRAが上昇しやすく、AFPとPIVKA-Ⅱは肝細胞癌のマーカーです。ProGRPは腎機能障害、NSEは溶血、PIVKA-Ⅱはワルファリン内服で偽高値となりうる点にも注意が必要です。小細胞肺癌は喫煙と強く関連し、SIADHやLambert-Eaton筋無力症候群などの腫瘍随伴症候群を起こしやすく、化学療法・放射線療法が治療の中心となります。腫瘍の由来となる細胞の性質からマーカーを理解しておくと、暗記に頼らず臨床像全体と結びつけて考えられるようになります。

解答・解説

正解はdです

腫瘍マーカーとは、腫瘍細胞が産生する(あるいは腫瘍に反応して生体が産生する)物質のうち、血中などで測定でき、癌の補助診断・治療効果判定・再発の監視に役立つものをいう。多くは臓器や組織型に一定の特異性をもつため、「どの癌(どの組織型)でどのマーカーが上がるか」を組で覚えておくことが重要である。 肺癌は組織型によって大きく小細胞肺癌と非小細胞肺癌(腺癌・扁平上皮癌・大細胞癌など)に分けられ、組織型ごとに上昇しやすいマーカーが異なる。小細胞肺癌は神経内分泌細胞の性質をもつ腫瘍であり、神経内分泌系の物質であるProGRP(ガストリン放出ペプチド前駆体)やNSE(神経特異エノラーゼ)が高値を示す。したがって本問では、神経内分泌系マーカーを選べばよい。 他の選択肢は、腺癌・消化器癌(CEA)、扁平上皮癌(SCC)、肝細胞癌・胚細胞腫瘍(AFP)、肝細胞癌(PIVKA-Ⅱ)のマーカーであり、それぞれの対応を整理しておくと類題にも対応できる。

選択肢考察

  1. ×a.  CEA

    誤り。CEA(carcinoembryonic antigen: 癌胎児性抗原)は、大腸癌・胃癌・膵癌などの消化器癌や、肺腺癌で上昇しやすい代表的なマーカーである。肺癌では組織型を問わず上昇しうるが、とくに腺癌で陽性率が高く、小細胞肺癌に特徴的なマーカーではない。臓器特異性は低く、喫煙者や高齢者、肝硬変、肺結核などの炎症性疾患、甲状腺機能低下症などでも軽度上昇することがあるため、偽陽性に注意が必要である。

  2. ×b.  SCC

    誤り。SCC(squamous cell carcinoma-related antigen: 扁平上皮癌関連抗原)は扁平上皮癌のマーカーであり、肺扁平上皮癌のほか、子宮頸癌、食道癌、頭頸部癌、皮膚癌など、扁平上皮由来の癌で上昇する。小細胞肺癌では通常上昇しない。皮膚疾患(乾癬・アトピー性皮膚炎・天疱瘡など)でも上昇しうるため、偽陽性に注意が必要である。SCC抗原は正常の表皮や唾液にも多く含まれるため、検体処理の際に皮膚片(ふけ)や唾液が混入すると偽高値となることがある。肺扁平上皮癌ではCYFRA(シフラ: サイトケラチン19フラグメント)も有用である。

  3. ×c.  AFP

    誤り。AFP(α-fetoprotein: αフェトプロテイン)は胎児期に肝細胞や卵黄嚢で産生される糖蛋白であり、成人では肝細胞癌や、卵黄嚢腫瘍を含む胚細胞腫瘍(精巣・卵巣・縦隔など)で上昇する。慢性肝炎・肝硬変の肝再生時や妊娠中にも上昇することがある。小細胞肺癌のマーカーではない。

  4. ○d.  ProGRP

    正しい。ProGRP(pro-gastrin-releasing peptide: ガストリン放出ペプチド前駆体)は、神経内分泌細胞が産生するガストリン放出ペプチド(GRP)の前駆体である。小細胞肺癌は神経内分泌細胞の性質をもち、GRPを自ら産生して増殖因子として利用するため、血中ProGRPが高値となる。小細胞肺癌に対する特異性が高く、NSEとともに小細胞肺癌のマーカーとして用いられ、診断の補助、化学療法の効果判定、再発の早期発見に役立つ。早期の限局型でも上昇しやすい点が利点である。なお、腎機能障害では排泄が低下して偽陽性を示すことがある。

  5. ×e.  PIVKA-Ⅱ

    誤り。PIVKA-Ⅱ(protein induced by vitamin K absence or antagonist-Ⅱ)は、ビタミンKが不足した状態で肝臓が産生する異常プロトロンビン(凝固活性をもたない)である。肝細胞癌に特異性の高いマーカーで、AFPと併用して肝細胞癌の診断・経過観察に用いられる。ワルファリン服用中、ビタミンK欠乏、閉塞性黄疸などでも上昇するため、解釈には注意を要する。小細胞肺癌では上昇しない。

肺癌の組織型と主な腫瘍マーカー

・腺癌: CEA、SLX(シアリルLex-i抗原) ・扁平上皮癌: SCC、CYFRA(シフラ) ・小細胞癌: ProGRP、NSE ・CEAは組織型を問わず上昇しうるため、肺癌全般の指標としても用いられる。

小細胞肺癌の特徴

・肺癌全体の約10〜15%を占め、喫煙との関連が非常に強い。 ・肺門部(中枢側)に好発し、増殖が速く、早期からリンパ節転移や遠隔転移(脳・肝・骨・副腎など)をきたす。 ・神経内分泌細胞の性質をもつため、腫瘍随伴症候群を起こしやすい。代表例は抗利尿ホルモン不適合分泌症候群〈SIADH〉による低ナトリウム血症、異所性ACTH産生によるCushing症候群、Lambert-Eaton筋無力症候群(電位依存性カルシウムチャネルに対する自己抗体による)である。 ・化学療法や放射線療法への感受性が高いが、再発しやすい。治療は手術より化学療法(プラチナ製剤+エトポシドなど、近年は免疫チェックポイント阻害薬の併用)と放射線療法が中心となる。

NSEの補足

・NSE(neuron-specific enolase: 神経特異エノラーゼ)は神経細胞・神経内分泌細胞に存在する解糖系酵素で、小細胞肺癌のほか神経芽腫でも上昇する。 ・赤血球や血小板にも含まれるため、溶血した検体では偽高値となる。 ・ProGRPはNSEに比べ、早期の小細胞肺癌でも陽性になりやすいとされる。

その他の主な腫瘍マーカーと対応する癌

・CA19-9: 膵癌、胆道癌 ・CA125: 卵巣癌 ・PSA: 前立腺癌 ・AFP、PIVKA-Ⅱ: 肝細胞癌 ・hCG: 絨毛癌などの絨毛性疾患、一部の胚細胞腫瘍

POINT

・小細胞肺癌のマーカーはProGRPとNSE(いずれも神経内分泌系の物質)である。 ・肺腺癌はCEA・SLX、肺扁平上皮癌はSCC・CYFRAが上昇しやすい。 ・AFPとPIVKA-Ⅱは肝細胞癌のマーカーである(AFPは胚細胞腫瘍でも上昇)。 ・偽陽性の要因: CEAは喫煙、SCCは皮膚疾患(乾癬・アトピー性皮膚炎など)、ProGRPは腎機能障害、NSEは溶血、PIVKA-Ⅱはワルファリン・ビタミンK欠乏。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。