StudyMed医師国家試験

年をとると肺は「縮みにくく」なる―加齢で増える肺気量を読み解く

第111回医師国家試験 G問題 第38問

国試問題にチャレンジ

第111回 G問題 第38問

加齢に伴い増加するのはどれか。2つ選べ。

  1. a.肺拡散能
  2. b.全肺気量
  3. c.吸気予備量
  4. d.機能的残気量
  5. e.closing volume

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は加齢に伴う呼吸機能の変化を問う問題だ。丸暗記に頼るより、肺と胸郭に年齢とともに何が起こるかを押さえれば、どの指標が増えてどれが減るかは自然に導ける。まず、年をとると全体的に呼吸機能は落ちる、というイメージはあるかな。
医学生医学生
はい、なので全部減るような気がしてしまいます。でも2つ選べということは、増えるものもあるんですよね。
ドクタードクター
そう。鍵は3つの変化だ。1つ目は肺の弾性収縮力、つまり肺が縮もうとする力の低下。弾性線維が変性して肺胞が拡大し、老人肺と呼ばれる状態になる。2つ目は胸郭の硬化で、肋軟骨の石灰化や脊椎の後彎、呼吸筋力の低下で胸郭が広がりにくくなる。3つ目が末梢気道の早期閉塞だ。
医学生医学生
老人肺は肺気腫と似ているんでしょうか。病理実習で見た肺気腫の標本を思い出しました。
ドクタードクター
肺胞が拡大する点は似ているけれど、老人肺では肺胞壁の破壊は伴わない点が違う。さて、肺の弾性収縮力には、末梢気道を外から引っ張って開いておく役割もある。これが弱まると何が起こると思う?
医学生医学生
息を吐いたときに細い気道がつぶれやすくなって、空気が奥に残ってしまう、ということですか。
ドクタードクター
その通り。だから残気量が増える。さらに安静呼気位は、肺が縮もうとする力と胸郭が広がろうとする力のつり合いで決まるので、肺の縮む力が弱まるとそのつり合いの位置が吸気側にずれる。結果として、残気量と呼気予備量の和である機能的残気量は増加する。
医学生医学生
機能的残気量が正解の一つですね。では全肺気量も一緒に増えるのでしょうか。
ドクタードクター
そこはよく間違えるところだ。肺そのものは膨らみやすくなるけれど、胸郭は硬くなって広がりにくい。この2つが打ち消し合うので、全肺気量はほぼ変わらないんだ。
医学生医学生
全肺気量が変わらないまま残気量が増えるなら、そのぶん肺活量が減りますね。吸気予備量も肺活量の一部だから減る、と。
ドクタードクター
素晴らしい、肺気量分画の図を頭に描けているね。吸気予備量は胸郭の硬化や吸気筋力の低下も加わって減少する。呼気予備量も減るし、RV/TLC比は上昇する。では肺拡散能はどうだろう。
医学生医学生
生理学の講義で、DLCOは一酸化炭素で測ると習いました。肺胞が広がるなら増えそうな気もしますが……。
ドクタードクター
肺胞が拡大しても表面積の合計はむしろ減るんだ。肺胞壁の消失で肺胞表面積が減り、肺毛細血管床も減少し、換気血流比の不均等も増える。だから肺拡散能は健常な高齢者でも低下し、予測式にも年齢が組み込まれている。PaO2も年齢とともに下がるけれど、PaCO2は通常ほぼ変わらない。
医学生医学生
残るclosing volumeは名前は聞いたことがあるのですが、正直よくわかっていません。
ドクタードクター
closing volumeは、最大呼気に向かって吐いていく途中で、肺底部の末梢気道が閉じ始める時点の肺気量のことだ。単一呼吸窒素洗い出し法で、呼気の窒素濃度が急に上がり始める点、第Ⅳ相の始まりとして求める。加齢で気道を引っ張る力が弱まると、より肺気量が大きい段階で気道が閉じ始めるので、closing volumeは増加する。
医学生医学生
なるほど、末梢気道の早期閉塞をそのまま数字にしたのがclosing volumeなんですね。正解は機能的残気量とclosing volumeです。
ドクタードクター
その通り。発展として、closing volumeに残気量を加えたclosing capacityが機能的残気量を上回ると、安静呼吸中にも一部の気道が閉じてしまう。これが換気血流比不均等を生み、高齢者のPaO2低下やA-aDO2開大の一因になる。closing volumeは喫煙者の末梢気道病変の早期発見にも使われてきた指標だよ。
医学生医学生
総合診療科の実習で、高齢の患者さんは安静時は平気でも肺炎になると急に呼吸不全になると聞きました。予備能が落ちているからなんですね。
ドクタードクター
まさにそこが臨床で大事な点だ。加齢変化は安静時には症状に出にくく、運動時の息切れや感染時の重症化として表れる。咳反射や嚥下機能、線毛運動の低下も重なって誤嚥性肺炎も起こしやすい。術前評価や呼吸機能検査の解釈でも、年齢による正常範囲の変化を意識しておこう。

まとめ

加齢により肺の弾性収縮力が低下し、胸郭は硬くなり、末梢気道が呼気時に早く閉じるようになります。その結果、残気量・機能的残気量・RV/TLC比・closing volumeは増加し、肺活量・吸気予備量・呼気予備量・1秒量・肺拡散能・PaO2は減少し、全肺気量とPaCO2はほぼ不変です。全肺気量が保たれるのは、肺の膨らみやすさと胸郭の硬さが打ち消し合うためで、肺拡散能の低下は肺胞表面積と毛細血管床の減少によります。closing capacityが機能的残気量を上回ると安静呼吸中にも気道閉塞が起こり、高齢者の低酸素血症の一因となります。こうした生理的変化を理解しておくと、高齢者の呼吸機能検査の解釈や、肺炎・周術期の呼吸不全リスクの評価に役立ちます。

解答・解説

正解はd, eです

問われていること

加齢による呼吸機能の生理的変化(呼吸器の老化)を問う問題である。

加齢で呼吸器に起こる3つの変化

1. 肺の弾性収縮力(肺を縮ませようとする力、elastic recoil)の低下:肺胞壁の弾性線維が変性し、肺胞や肺胞管が拡大する。この状態は「老人肺(senile lung)」とよばれ、肺気腫に似ているが肺胞壁の破壊は伴わない。 2. 胸郭の硬化:肋軟骨の石灰化、脊椎の後彎、呼吸筋力の低下により、胸郭が広がりにくくなる。 3. 末梢気道(小気道)の早期閉塞:肺の弾性収縮力は気道を外側から引っ張って開いておく役割(牽引)をもつため、これが弱まると、呼気時に末梢気道が早い段階でつぶれやすくなる。

肺気量分画への影響

・肺が膨らみやすく縮みにくくなる一方で胸郭は広がりにくくなるため、両者の効果が相殺され、全肺気量(TLC)はほぼ不変である。 ・呼気時に末梢気道が早く閉じて空気が肺内に取り残されるため、残気量(RV)は増加し、安静呼気位(肺と胸郭の力がつり合う位置)も高くなるので機能的残気量(FRC)も増加する。 ・TLC が変わらないまま RV が増えるため、肺活量(VC)は減少し、その構成要素である吸気予備量(IRV)・呼気予備量(ERV)も減少する。RV/TLC 比は上昇する。 ・末梢気道が閉じ始める肺気量であるクロージングボリューム(closing volume)は増加する。

ガス交換への影響

肺胞表面積と肺毛細血管床が減少し、換気血流比の不均等も増すため、肺拡散能(DLCO)は低下し、動脈血酸素分圧(PaO2)も年齢とともに低下する。一方、PaCO2 は通常ほぼ変化しない。 以上より、加齢に伴い増加するのは機能的残気量と closing volume である。

選択肢考察

  1. ×a.  肺拡散能

    誤り。肺拡散能は肺胞と肺毛細血管の間でガスが膜を通って移動する能力で、通常は一酸化炭素を用いた DLCO として測定する。加齢により肺胞壁の消失による肺胞表面積の減少、肺毛細血管床の減少、換気血流比不均等の増大が起こるため、肺拡散能は年齢とともに低下する。健常高齢者でも低下がみられ、予測式にも年齢が組み込まれている。

  2. ×b.  全肺気量

    誤り。全肺気量(TLC)は最大吸気位で肺内に含まれる全気量である。加齢で肺の弾性収縮力が低下して肺は膨らみやすくなるが、胸郭は硬くなり呼吸筋力も落ちて広がりにくくなる。両者が打ち消し合うため、TLC は加齢でほとんど変化しない(身長で補正すればほぼ一定)。

  3. ×c.  吸気予備量

    誤り。吸気予備量(IRV)は安静吸気位からさらに最大限吸い込める気量である。TLC がほぼ不変のまま FRC・RV が増加するため、肺活量とその構成要素である IRV・ERV(呼気予備量)は加齢で減少する。胸郭の硬化や吸気筋力の低下も IRV 減少に寄与する。

  4. ○d.  機能的残気量

    正しい。機能的残気量(FRC)は安静呼気位で肺内に残る気量で、呼気予備量+残気量にあたる。安静呼気位は、肺が縮もうとする力と胸郭が広がろうとする力のつり合いで決まる。加齢で肺の弾性収縮力が低下するとこのつり合いの位置が吸気側へずれ、さらに末梢気道の早期閉塞で空気が取り残され残気量が増えるため、FRC は増加する。

  5. ○e.  closing volume

    正しい。closing volume(クロージングボリューム)は、最大呼気に向かって息を吐いていく過程で、肺底部の末梢気道が閉塞し始める時点の肺気量(残気量より上の部分)をいう。単一呼吸窒素洗い出し法で、呼気窒素濃度曲線が急に上昇し始める点(第Ⅳ相の始まり)として求める。加齢で末梢気道を外から引っ張って開いておく肺の弾性収縮力が弱まると、より大きい肺気量の段階で気道が閉じ始めるため、closing volume は増加する。closing volume に残気量を加えた closing capacity が FRC を上回ると、安静呼吸中にも一部の気道が閉塞して換気血流比不均等が生じ、高齢者の PaO2 低下の一因となる。喫煙など末梢気道病変の早期検出にも用いられる。

肺気量分画の整理

・全肺気量(TLC)=肺活量(VC)+残気量(RV) ・肺活量(VC)=吸気予備量(IRV)+一回換気量(TV)+呼気予備量(ERV) ・機能的残気量(FRC)=ERV+RV ・最大吸気量(IC)=IRV+TV ※RV・FRC・TLC は通常のスパイロメトリーでは測定できず、ヘリウム希釈法、窒素洗い出し法、体プレチスモグラフ法で測定する。

加齢による呼吸機能の変化のまとめ

増加:残気量、機能的残気量、RV/TLC 比、closing volume(closing capacity)、肺コンプライアンス(肺そのもの)、A-aDO2(肺胞気-動脈血酸素分圧較差) 減少:肺活量、吸気予備量、呼気予備量、努力肺活量、1秒量・1秒率、肺拡散能、PaO2、胸郭コンプライアンス、呼吸筋力、咳反射・線毛運動 ほぼ不変:全肺気量、PaCO2

臨床的意義

加齢による呼吸機能の低下は、安静時には症状を生じにくいが予備能の低下として現れ、運動時の息切れ、肺炎時の呼吸不全の起こりやすさにつながる。咳反射や嚥下機能の低下も加わり、高齢者は誤嚥性肺炎を起こしやすい。なお、老化に伴う予備能低下は腎(糸球体濾過量の低下による脱水・薬物蓄積)など他臓器でも顕著である。

POINT

・加齢で肺の弾性収縮力が低下し、末梢気道が早く閉じるようになる。 ・増加:RV、FRC、RV/TLC、closing volume ・減少:VC、IRV、ERV、1秒量、肺拡散能、PaO2 ・不変:TLC、PaCO2

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。