「見る」障害と「動かす」障害―二重に見える原因を眼球運動系で整理する
第111回医師国家試験 G問題 第36問
国試問題にチャレンジ
複視をきたすのはどれか。2つ選べ。
- a.視神経炎
- b.甲状腺眼症
- c.網膜色素変性
- d.顔面神経麻痺
- e.眼窩吹き抜け骨折
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
両眼性複視は左右の眼位のずれによって生じ、眼球運動神経(動眼・滑車・外転神経)、神経筋接合部、外眼筋、眼窩といった「眼球を動かす経路」の障害が原因となります。甲状腺眼症では外眼筋の腫大・線維化による伸展障害で、特に下直筋が侵されて上方視時の複視をきたし、眼窩吹き抜け骨折では下直筋などが骨折部に嵌頓して上転障害と複視を生じます。一方、視神経炎や網膜色素変性は視力・視野を障害する「見る経路」の疾患であり、顔面神経麻痺は兎眼を起こしても外眼筋を支配しないため、いずれも複視の原因にはなりません。小児の閉鎖型吹き抜け骨折は早期手術が必要であり、甲状腺眼症の圧迫性視神経症にも注意が必要です。症状を入力系と運動系に分けて考える習慣は、眼科と神経内科にまたがる多くの疾患の鑑別に役立ちます。
解答・解説
正解はb, eです
ここで問題となる複視は、両眼で見たときに物が二重に見える「両眼性複視」である。左右の眼の視線がずれ、同じ対象の像が両眼の網膜の対応しない位置に結ばれると、脳はそれを一つに融合できず、二つの像として知覚する。
両眼性複視の原因の考え方
眼球を動かす経路のどこかに障害があれば眼位がずれ、複視が生じる。障害部位で整理すると次のようになる。 ・神経原性:動眼神経(III)、滑車神経(IV)、外転神経(VI)の麻痺、脳幹病変など ・神経筋接合部性:重症筋無力症(眼筋型)など ・筋原性:甲状腺眼症、外眼筋炎、ミトコンドリア病(慢性進行性外眼筋麻痺)など ・機械的(眼窩性):眼窩吹き抜け骨折での外眼筋の嵌頓、眼窩腫瘍など 一方、視神経・網膜など「見る」経路(視覚の入力系)の病気は、視力低下や視野欠損を起こすが、眼位のずれを生じないため通常は複視の原因にならない。また、顔面神経は表情筋を支配し、外眼筋の運動とは無関係である。 したがって、選択肢を「眼球運動系に障害を起こす疾患かどうか」で分けることが解答の鍵となる。
選択肢考察
- ×a. 視神経炎
視神経炎は視神経の炎症性・脱髄性疾患で、急性の片眼性視力低下、中心暗点などの視野障害、眼球運動時痛、相対的瞳孔求心路障害(RAPD:光を健眼から患眼に移すと患眼の瞳孔が散大して見える所見)が特徴である。障害されるのは視覚の入力経路であり、外眼筋や眼球運動神経は保たれるので、眼位のずれによる複視は生じない。多発性硬化症や視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)に合併することがある。
- ○b. 甲状腺眼症
甲状腺眼症(バセドウ病などに伴う眼症)では、自己免疫性炎症により外眼筋や眼窩脂肪組織が腫大する。炎症後に外眼筋が線維化して伸びにくくなるため、その筋が引き伸ばされる方向への眼球運動が制限される(伸展障害)。最も侵されやすいのは下直筋で、下直筋が硬くなると上方視が制限され、上方視時に複視を訴える。次いで内直筋が侵されやすく、外転が制限される。筋原性かつ機械的な眼球運動障害による複視の代表例である。
- ×c. 網膜色素変性
網膜色素変性は、主に杆体(暗所で働く視細胞)から変性が進む遺伝性の網膜疾患で、夜盲で始まり、輪状暗点から求心性視野狭窄へと進行し、末期には中心視力も低下する。眼底では骨小体様の色素沈着、網膜血管の狭細化、視神経乳頭の蝋様萎縮がみられる。網膜という入力系の障害であり、眼球運動は障害されないので複視は起こさない。
- ×d. 顔面神経麻痺
顔面神経(VII)は表情筋を支配し、眼輪筋の麻痺によって閉瞼が不十分となる(兎眼)。そのため角膜の乾燥や兎眼性角膜炎を生じうるが、眼球を動かす外眼筋は動眼神経・滑車神経・外転神経の支配であり、顔面神経麻痺単独では眼位はずれず、複視は生じない。ただし、脳幹(橋)病変で外転神経核と顔面神経が同時に障害される場合などは、外転神経麻痺による複視を合併しうる。
- ○e. 眼窩吹き抜け骨折
眼窩吹き抜け骨折(ブローアウト骨折)は、ボールや拳などによる眼部への鈍的外力で眼窩内圧が急に上昇し、薄い眼窩下壁や内側壁が骨折するものである。下壁骨折では下直筋やその周囲の軟部組織が骨折部に嵌頓し、上方視が制限されて上下方向の複視を生じる。内側壁骨折では内直筋が絡んで水平方向の眼球運動障害を起こしうる。眼窩下神経の障害による頬部の感覚低下や、眼球陥凹を伴うこともある。小児では骨が柔らかく、骨片が元に戻って筋を強く挟み込む閉鎖型(trapdoor型)骨折となりやすく、筋の虚血を防ぐため早期の整復手術が必要になる。
単眼性複視と両眼性複視
・単眼性複視:片眼を閉じても残る複視。乱視、白内障、角膜疾患など眼球内の光学的異常が原因。 ・両眼性複視:片眼を閉じると消える複視。眼位のずれ(眼球運動障害)が原因で、神経・筋疾患の評価が必要。
外眼筋と支配神経
・動眼神経(III):上直筋、下直筋、内直筋、下斜筋、上眼瞼挙筋(瞳孔括約筋への副交感神経線維も含む) ・滑車神経(IV):上斜筋 ・外転神経(VI):外直筋
甲状腺眼症の要点
眼瞼後退(上眼瞼が上方に引かれて白目が見える)、眼球突出、外眼筋腫大による眼球運動障害が主な症状である。外眼筋腫大はCTやMRIで筋腹の紡錘状腫大として確認される。重症例では腫大した筋が眼窩先端部で視神経を圧迫し(圧迫性視神経症)、視力障害をきたすことがある。喫煙は増悪因子。活動期にはステロイドパルス療法、眼窩放射線治療などが行われる。
眼窩吹き抜け骨折の要点
症状は複視(特に上方視時)、眼球運動障害、眼球陥凹、眼窩下神経領域の感覚障害。診断はCT(冠状断)で骨折部と筋の嵌頓を確認する。嵌頓が強い場合は眼球運動に伴い眼心臓反射(徐脈、悪心・嘔吐)が誘発されることがある。
POINT
・両眼性複視は眼球運動系(脳神経III・IV・VI、神経筋接合部、外眼筋、眼窩)の障害で生じる。 ・甲状腺眼症:外眼筋の腫大・線維化による伸展障害。下直筋が最も侵されやすく上方視で複視。 ・眼窩吹き抜け骨折:下直筋などが骨折部に嵌頓し上転障害・複視。小児の閉鎖型骨折は早期手術。 ・視神経炎・網膜色素変性は視力・視野の障害であり、複視は起こさない。 ・顔面神経麻痺は兎眼を起こすが、外眼筋は支配しないので複視は起こさない。
