指先が語る胸の病変―ばち指から肺癌を見抜く
第111回医師国家試験 G問題 第15問
国試問題にチャレンジ
手の写真を別に示す。 この症候を呈するのはどれか。

- a.肺癌
- b.結核腫
- c.胸腺腫
- d.肺分画症
- e.自然気胸
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ばち指は指先の末節が丸く膨らみ、爪郭角が180°を超えて爪の根元のくぼみが消失する所見で、Schamroth徴候でも簡便に確認できます。機序は完全には解明されていませんが、巨核球や血小板の凝集塊が末梢に達して増殖因子を放出することが関与すると考えられています。原因として肺癌は最も重要で、ほかに間質性肺炎、気管支拡張症などの慢性化膿性肺疾患、チアノーゼ性先天性心疾患、感染性心内膜炎、肝硬変、炎症性腸疾患などがあり、肺癌では肥大性肺性骨関節症を合併することもあります。一方、結核腫、胸腺腫、肺分画症、自然気胸、そしてCOPDや気管支喘息単独では通常ばち指はみられず、COPD患者にばち指が出現したら肺癌などの合併を疑います。手指の診察という簡単な身体所見から重大な疾患を拾い上げる視点は、日常診療で大いに役立ちます。
解答・解説
正解はaです
写真の所見
手指の先端(末節)が太鼓のばちのように丸く膨らみ、爪が上に凸に弯曲している。爪の根元(爪甲基部)が盛り上がり、爪と後爪郭(爪の根元の皮膚)の間に通常みられるくぼみが消失している。これはばち指(clubbed finger)の所見である。
ばち指の判定
・爪郭角(Lovibond角):指を真横から見たとき、爪甲と後爪郭の皮膚がなす角度。正常では約160°で180°未満だが、ばち指では180°を超える。 ・末節の厚さの比:爪の付け根部分での指の厚さ(DPD)が遠位指節間関節部の厚さ(IPD)を上回る(DPD/IPD>1)。 ・Schamroth徴候:左右の同じ指の爪の背面どうしを合わせると、正常では爪の根元に菱形のすき間ができるが、ばち指ではこのすき間が消える。
ばち指をきたす疾患
ばち指は、末梢の結合組織の増生や毛細血管の拡張によって生じる。機序は完全には解明されていないが、本来は肺毛細血管で捕捉される巨核球や血小板の凝集塊が、右左シャントや肺の血管床の変化によって末梢循環へ流入し、指先で血小板由来増殖因子(PDGF)や血管内皮増殖因子(VEGF)を放出するためと考えられている。原因疾患は以下のように多岐にわたる。 ・呼吸器疾患:肺癌、特発性肺線維症などの間質性肺炎、気管支拡張症・肺膿瘍・膿胸などの慢性化膿性肺疾患、嚢胞性線維症、石綿肺 ・心疾患:チアノーゼ性先天性心疾患(Fallot四徴症など)、感染性心内膜炎 ・消化器疾患:肝硬変、Crohn病、潰瘍性大腸炎 ・その他:甲状腺疾患(甲状腺先端症)、先天性(家族性) このうち選択肢の中でばち指の代表的原因となるのは肺癌である。肺癌ではばち指に加えて、長管骨の骨膜性骨新生と関節痛を伴う肥大性肺性骨関節症を合併することがあり、腫瘍随伴症状の一つとして重要である。
選択肢考察
- ○a. 肺癌
肺癌はばち指をきたす最も重要な疾患の一つであり、特に非小細胞肺癌(腺癌、扁平上皮癌など)で多い。ばち指は腫瘍随伴症状として出現し、ばち指・長管骨遠位部の骨膜肥厚・関節痛を三徴とする肥大性肺性骨関節症(Pierre Marie-Bamberger症候群)の一部をなすこともある。新たにばち指が出現した成人、とりわけ喫煙者では、胸部画像検査で肺癌を検索することが重要である。腫瘍の切除などで原因が除かれるとばち指が改善することもある。
- ×b. 結核腫
結核腫は、結核菌感染による乾酪壊死巣が線維性被膜に包まれて境界明瞭な結節影となったもので、多くは無症状で胸部画像検査で偶然発見される。肺癌との鑑別が問題となる孤立性肺結節の代表であるが、限局した病変で全身への影響に乏しく、一般にばち指はきたさない。なお、空洞を伴う広範な肺結核の後遺症として気管支拡張や慢性化膿性病変が生じた場合にはばち指がみられることがあるが、結核腫そのものの症候ではない。
- ×c. 胸腺腫
胸腺腫は前縦隔腫瘍の代表で、腫瘍そのものによる症状よりも、重症筋無力症、赤芽球癆(赤血球系のみが著減する貧血)、低ガンマグロブリン血症(Good症候群)などの自己免疫性の合併症で発見されることが多い。ばち指は一般にみられない。
- ×d. 肺分画症
肺分画症は、正常な気管支との交通をもたず、大動脈から直接分岐する異常動脈によって血液を受ける肺組織が存在する先天異常である。正常肺と同じ胸膜に包まれる肺葉内肺分画症と、独立した胸膜に包まれる肺葉外肺分画症に分けられる。肺葉内型は下葉(特に左下葉)の背側に多く、繰り返す肺炎などの感染症状で発見されることが多い。一般にばち指を呈する疾患としては扱われない。
- ×e. 自然気胸
自然気胸は、肺の表面にあるブラ・ブレブ(肺胞が壊れてできた嚢胞)の破裂などで胸腔内に空気がたまる急性の病態で、やせ型で長身の若年男性に多い。突然の胸痛や呼吸困難で発症し、慢性の低酸素状態や組織増殖を背景とするばち指はみられない。
ばち指の観察ポイント
・指を横から見て、爪の根元のくぼみが消え、爪郭角が180°を超えるか ・爪の根元を押すと浮くような感触(爪床の柔らかさ)があるか ・Schamroth徴候(爪の背面同士を合わせたときのすき間の消失) ・手指だけでなく足趾にも出現しうる
肥大性肺性骨関節症
ばち指、長管骨(前腕・下腿の骨など)遠位部の骨膜性骨新生、関節痛・関節腫脹を特徴とする。肺癌などの胸腔内悪性腫瘍に伴うことが多く、単純X線や骨シンチグラフィで骨膜反応を確認できる。
注意すべき点
COPD(慢性閉塞性肺疾患)だけでは通常ばち指はみられない。COPD患者にばち指が出現した場合は、肺癌や気管支拡張症などの合併を疑って検索する。また、ばち指は気管支喘息でも通常みられない。
選択肢に挙がった疾患の代表的所見
・結核腫:境界明瞭な結節影、石灰化を伴うことがある ・胸腺腫:前縦隔腫瘤、重症筋無力症・赤芽球癆の合併 ・肺分画症:下葉背側の異常陰影、大動脈からの異常動脈 ・自然気胸:突然の胸痛・呼吸困難、患側呼吸音減弱
POINT
・ばち指は爪郭角>180°、爪根部のくぼみの消失が特徴 ・呼吸器の原因:肺癌、間質性肺炎(特発性肺線維症)、気管支拡張症・肺膿瘍などの慢性化膿性疾患 ・その他の原因:チアノーゼ性先天性心疾患、感染性心内膜炎、肝硬変、炎症性腸疾患 ・肺癌では肥大性肺性骨関節症を合併することがある ・COPD単独ではばち指は通常きたさない(出現時は肺癌などの合併を疑う)
