生まれ年と性別で読み解く風疹の「免疫の空白」―ワクチン政策の歴史が残した穴
第111回医師国家試験 G問題 第1問
国試問題にチャレンジ
風疹に対する免疫がない人の割合が最も高いのはどれか。
- a.1960年(昭和35年)生まれの男性
- b.1960年(昭和35年)生まれの女性
- c.1975年(昭和50年)生まれの男性
- d.1975年(昭和50年)生まれの女性
- e.1990年(平成2年)生まれの男性
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
風疹の免疫の有無は「自然感染の機会」と「予防接種の機会」の2つで決まり、日本ではワクチン政策の変遷によって生まれ年と性別で大きな差が生じています。1977年からの定期接種は女子中学生のみが対象だったため、自然感染の機会も減っていた1962年4月2日~1979年4月1日生まれの男性は免疫をもたない人の割合が最も高く、1975年生まれの男性がこれに該当します。ワクチン導入前に育った世代は男女とも自然感染で免疫をもつ人が多く、1995年以降は男女の幼児が定期接種の対象となり、2006年からは麻疹風疹混合ワクチンの2回接種が行われています。成人男性の感染は妊婦への感染源となり先天性風疹症候群につながるため、2019年度からこの世代の男性に抗体検査と公費接種が実施されています。政策の歴史から集団免疫の穴を読み取る視点は、感染症対策を考えるうえで重要な基礎となります。
解答・解説
正解はcです
テーマ
風疹に対する免疫(抗体)をもつかどうかは、(1) 自然感染した機会があったか、(2) 予防接種を受ける機会があったか、の二つで決まる。日本の風疹ワクチン政策は時代とともに対象が変わってきたため、生まれ年と性別によって免疫保有率に大きな差がある。
日本の風疹予防接種の変遷(要点)
・1977年(昭和52年)8月~:先天性風疹症候群(CRS)の予防を目的に、女子中学生のみを対象とした学校での集団接種が開始された。男性は対象外であった。 ・1995年(平成7年)~:1994年の予防接種法改正により、男女の幼児(生後12~90か月)が定期接種の対象になった。同時に、1979年4月2日~1987年10月1日生まれの男女は中学生時に接種対象とされたが、医療機関での個別接種になったため接種率が低かった。 ・2006年(平成18年)~:麻疹風疹混合(MR)ワクチンによる2回接種が始まった。
考え方
ワクチン導入前に子ども時代を過ごした世代(おおむね1960年代前半以前生まれ)は、風疹の流行に繰り返しさらされたため、自然感染によって男女とも多くが免疫をもっている。一方、1962年4月2日~1979年4月1日生まれの男性は、子ども時代に自然感染の機会が減りつつあったうえ、定期接種の対象が女子中学生に限られていたため、一度も公的な接種機会がなかった。この世代の男性で免疫をもたない人の割合が最も高い。選択肢のうちこの条件に当てはまるのは1975年生まれの男性である。
選択肢考察
- ×a. 1960年(昭和35年)生まれの男性
定期接種の機会はなかったが、幼少期は風疹ワクチン導入前であり、流行の中で多くが自然感染して免疫を獲得している。そのため免疫をもたない人の割合は比較的低い。
- ×b. 1960年(昭和35年)生まれの女性
女子中学生への集団接種が始まった1977年にはすでに17歳前後で、中学生の時期を過ぎていたため定期接種は受けていない。しかし同年生まれの男性と同様に、幼少期に自然感染した人が多く、免疫保有率は比較的高い。
- ○c. 1975年(昭和50年)生まれの男性
正しい。1962年4月2日~1979年4月1日生まれの男性に含まれる。この世代の男性は、女子中学生のみを対象とした集団接種の対象外であり、幼児期の男女定期接種(1995年~)が始まったときにはすでに対象年齢を過ぎていた。加えて、自然感染の機会も上の世代より少なかったため、免疫をもたない人の割合が最も高い。2012~2013年の全国的な流行では、この世代を含む成人男性が患者の多くを占め、妊婦への感染による先天性風疹症候群の増加につながった。
- ×d. 1975年(昭和50年)生まれの女性
中学生の時期(1988年前後)に女子中学生を対象とした学校での集団接種を受けており、接種率も高かった。そのため同年生まれの男性に比べて免疫保有率は高い。
- ×e. 1990年(平成2年)生まれの男性
1995年からの制度で、男女を問わず幼児期に定期接種を受ける対象となった世代である。さらに後年、MRワクチンによる追加接種の機会が設けられた世代でもあり、1975年生まれの男性に比べて免疫保有率は高い。
風疹の概要
風疹ウイルスによる感染症で、飛沫感染する。潜伏期間は約2~3週間で、発熱、全身の小さな紅色の発疹、耳介後部・後頸部などのリンパ節腫脹が三主徴である。成人では関節痛・関節炎を伴いやすい。まれに血小板減少性紫斑病や脳炎を合併する。
先天性風疹症候群(CRS)
妊娠初期(とくに妊娠20週ごろまで、早いほど高率)に母体が感染すると、胎児に先天性心疾患(動脈管開存症など)、白内障、難聴などを生じる。難聴が最も多い。風疹ワクチンは弱毒生ワクチンのため妊娠中は接種できず、接種後は一定期間(2か月程度)の避妊が勧められる。そのため、妊娠前の女性だけでなく、周囲の男性も含めて集団の免疫を高めることが重要である。
免疫のない世代への対策
2012~2013年の流行で多数の成人男性が感染しCRSが増加したことを受け、1962年4月2日~1979年4月1日生まれの男性を対象に、抗体検査を行い、抗体価が低い人にMRワクチンを定期接種として公費で接種する制度(いわゆる第5期の定期接種)が2019年度から実施された。
自然感染と接種機会からみた世代別の傾向
・ワクチン導入前に育った世代:男女とも自然感染による免疫が多い。 ・1962年4月2日~1979年4月1日生まれ:女性は中学生時に集団接種を受け免疫保有率が高いが、男性は接種機会がなく免疫保有率が低い。 ・1979年4月2日~1987年10月1日生まれ:男女とも中学生時に個別接種の対象だったが、接種率が低かった。 ・それ以降の世代:男女とも幼児期の定期接種、2006年以降はMRワクチン2回接種が行われている。
POINT
・免疫の有無は「自然感染の機会」と「予防接種の機会」で決まる。 ・1977年からの風疹定期接種は女子中学生のみが対象で、男性は対象外だった。 ・1962年4月2日~1979年4月1日生まれの男性は公的な接種機会がなく、免疫をもたない人の割合が最も高い。 ・成人男性の感染が妊婦への感染源となり、先天性風疹症候群の原因となる。
