起き上がるたびに世界が回る―数十秒で消えるめまいの正体は迷い込んだ耳石
第111回医師国家試験 F問題 第21問
国試問題にチャレンジ
42歳の女性。繰り返す回転性めまいを主訴に来院した。昨日の朝,起床時に激しい回転性のめまいを自覚した。じっとしていると数十秒で止まったが,洗濯物を干すときと就寝時に再燃した。発作時に難聴や耳鳴りはなかったという。今朝も起床時に同様のめまいが出現したため来院した。眼振検査で頭位変換眼振を認める。純音聴力検査は正常である。他に神経症状を認めない。 最も考えられるのはどれか。
- a.小脳梗塞
- b.Ménière病
- c.前庭神経炎
- d.聴神経腫瘍
- e.良性発作性頭位眩暈症
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
特定の頭位変化をきっかけに回転性めまいが起こり、数秒〜数十秒で治まり、蝸牛症状も神経症状も伴わない場合は、良性発作性頭位眩暈症(BPPV)を第一に考えます。原因は卵形嚢から剥がれた耳石の半規管への迷入で、後半規管型ではDix-Hallpike法で回旋性眼振が誘発され、Epley法などの耳石置換法が有効です。めまいの持続時間はBPPVが秒単位、Ménière病が分〜時間単位(蝸牛症状を伴う)、前庭神経炎が日単位と大きく異なり、鑑別の強力な手がかりになります。一方、持続するめまいや失調、構音障害、垂直性眼振などがあれば小脳・脳幹病変を疑い、画像検査で除外することが重要です。誘因・持続時間・随伴症状で整理する思考法は、外来や救急でのめまい診療の基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・42歳女性、回転性めまいが繰り返し起こっている。 ・誘因:起床時、洗濯物を干すとき(上を見上げる動作)、就寝時(横になる動作)など、いずれも頭の位置を変えた直後に起こる。 ・持続:じっとしていれば数十秒で治まる。 ・随伴症状:難聴・耳鳴りといった蝸牛症状はない。純音聴力検査も正常。 ・眼振検査で頭位変換眼振(頭の位置を急に変えたときに出る眼振)がある。 ・他の神経症状(構音障害、四肢の失調、感覚障害、複視など)はない。
診断へのプロセス
めまいの鑑別では、まず「末梢性(内耳・前庭神経)か中枢性(脳幹・小脳)か」を考え、次に「誘因」「持続時間」「蝸牛症状の有無」で絞り込む。 本例は回転性めまいで神経症状を伴わないため末梢性が考えやすい。そのうえで、①頭位の変化で誘発される、②持続が秒単位(数十秒)と短い、③蝸牛症状がない、④頭位変換眼振が出る、という4点がそろっている。この組み合わせは良性発作性頭位眩暈症(BPPV:benign paroxysmal positional vertigo)の典型像である。 持続時間で見ると、BPPVは数秒〜数十秒、Ménière病は10分程度〜数時間、前庭神経炎は数日にわたる持続性のめまいであり、本例の「数十秒」はBPPVに一致する。蝸牛症状がなく聴力が正常であることから、Ménière病や突発性難聴、聴神経腫瘍は考えにくい。
設問の考え方
「頭を動かしたときだけ、短時間の回転性めまい、聴力正常、神経症状なし」と整理できれば、BPPVを選べる。
選択肢考察
- ×a. 小脳梗塞
誤り。小脳梗塞は中枢性めまいの代表で、めまいは頭位と無関係に持続することが多く、体幹・四肢の失調、構音障害、頭痛などを伴いやすい。眼振も純粋な垂直性や注視方向性など中枢性のパターンを示しうる。本例はめまいが頭位変換で誘発されて数十秒で消え、神経症状を認めないため否定的である。ただし小脳梗塞では失調がめだたない例もあるので、実臨床では持続するめまいや立てないほどの体幹失調があれば画像検査で除外する必要がある。
- ×b. Ménière病
誤り。Ménière病は内リンパ水腫を本態とし、10分程度〜数時間続く回転性めまい発作に、低音域優位の感音難聴、耳鳴り、耳閉感などの蝸牛症状が伴い、これを反復する疾患である。本例では発作が数十秒と短く、難聴・耳鳴りがなく純音聴力検査も正常で、めまいが頭位変換で誘発されている点から合わない。
- ×c. 前庭神経炎
誤り。前庭神経炎は上気道感染などの先行感染の後に起こることが多く、突然の激しい回転性めまいが数日間持続する。頭を動かすと増悪はするが、頭位変換で誘発されて秒単位で消えるという経過ではない。眼振は健側向きの方向固定性水平性(回旋混合性)眼振で、蝸牛症状は伴わない。温度眼振検査(カロリックテスト)で患側の反応低下がみられる。本例の数十秒で治まる反復性のめまいとは合わない。
- ×d. 聴神経腫瘍
誤り。聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)は前庭神経のSchwann細胞から生じる良性腫瘍で、主症状は一側性の進行性感音難聴と耳鳴りである。腫瘍の発育がゆっくりなため中枢で代償が働き、激しい回転性めまいはむしろ少なく、ふらつき程度のことが多い。めまいが頭位変換で誘発されることもない。本例は聴力正常であり否定的である。
- ○e. 良性発作性頭位眩暈症
正しい。起床時・見上げる動作・横になる動作といった特定の頭位変化をきっかけに回転性めまいが起こり、安静にすると数十秒で消失する。蝸牛症状はなく聴力は正常、他の神経症状もなく、頭位変換眼振が確認されている。これらはいずれも良性発作性頭位眩暈症の特徴に合致する。耳石器(卵形嚢)から剥がれた耳石が半規管内に迷入し、頭位変化で半規管内のリンパ流が生じて異常な回転感覚を引き起こすことが原因である。
良性発作性頭位眩暈症(BPPV)の概要
・末梢性めまいの中で最も頻度が高い。中高年の女性に多い。頭部外傷や長期臥床の後に起こることもある。 ・病態:卵形嚢の耳石(耳石器の炭酸カルシウム結晶)が剥がれて半規管に入り込み(半規管結石症)、あるいはクプラに付着する(クプラ結石症)。頭位の変化で異常な内リンパ流やクプラの偏位が起こり、めまいと眼振が生じる。 ・障害部位は後半規管が最も多く、次いで外側(水平)半規管である。 ・症状:特定の頭位をとると数秒の潜時の後に回転性めまいが起こり、数秒〜数十秒で減衰する。繰り返すと減弱する(疲労現象)。蝸牛症状や神経症状は伴わない。 ・眼振:後半規管型ではDix-Hallpike法(座位から患側へ頭を向けて懸垂頭位に倒す)で、上眼瞼向き成分を伴う回旋性眼振が出現する。外側半規管型では仰臥位で頭を左右に回すと(supine roll test)、方向交代性の水平性眼振(地面向き、あるいは天井向き)がみられる。 ・治療:耳石を半規管から卵形嚢へ戻す頭位治療(耳石置換法)が有効で、後半規管型ではEpley法が代表的である。外側半規管型ではLempert法などが用いられる。自然軽快することも多い。
末梢性めまい3疾患の比較
・BPPV:頭位変換で誘発、数秒〜数十秒、蝸牛症状なし。 ・Ménière病:誘因なく発作、10分程度〜数時間、低音障害型感音難聴・耳鳴り・耳閉感を伴い反復。 ・前庭神経炎:先行感染後に突然発症、数日持続、蝸牛症状なし、カロリックテストで患側の反応低下。
中枢性めまいを疑う所見
頭痛、構音障害、複視、四肢・体幹の失調、感覚障害などの神経症状、純粋な垂直性眼振や純回旋性の自発眼振、注視方向で向きが変わる眼振、固視で抑制されない眼振などは中枢性を示唆する。末梢性の自発眼振は通常、水平性または水平回旋混合性で方向が一定である。
POINT
・頭位変換で誘発され、数秒〜数十秒で治まる回転性めまい+蝸牛症状なし+神経症状なし=良性発作性頭位眩暈症。 ・めまいの持続時間:BPPVは秒単位、Ménière病は分〜時間単位、前庭神経炎は日単位。 ・末梢性めまいで蝸牛症状を伴うのはMénière病(と突発性難聴)。 ・BPPVの原因は耳石の半規管迷入で、治療はEpley法などの頭位治療。 ・神経症状や垂直性眼振があれば中枢性(小脳・脳幹病変)を考える。
