「どこが痛いの?」の一言が鍵―子どもの腹痛から虫垂炎を見分ける問診術
第111回医師国家試験 F問題 第17問
国試問題にチャレンジ
8歳の男児。腹痛を主訴に母親に連れられて来院した。昨日午後の授業中におなかが痛くなり早退した。帰宅したら腹痛は治まり,いつも通り夕食を食べて入眠したが,今朝おなかが痛くて目が覚め,痛みが続くため受診した。 急性虫垂炎を鑑別するために患児に尋ねる有用な質問はどれか。
- a.「学校に行くのは楽しいかな」
- b.「おなかのどこが痛いのかな」
- c.「うんちは1日に何回するの」
- d.「昨日の給食は何を食べたの」
- e.「おなかを痛がっているお友だちはいるかな」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
急性虫垂炎は、心窩部から臍周囲の内臓痛で始まり、炎症が壁側腹膜に及ぶと右下腹部(McBurney点付近)に限局する体性痛へ移るという特徴的な経過をとるため、「どこが痛いか」と痛みの部位・移動を尋ねることが最も有用な問診です。学童であれば本人が痛む場所を示せることが多く、「最初はどこが痛かったか」まで聴き取ると診断精度が上がります。一方、学校生活は心因性腹痛、排便回数は便秘や胃腸炎、食事内容は食中毒、周囲の流行は感染性胃腸炎を想定した質問であり、虫垂炎の鑑別には直結しません。また、痛みで目が覚める腹痛は器質的疾患を疑うサインです。問診の一つひとつを鑑別疾患と結びつけて組み立てる姿勢は、小児の急性腹痛に限らず、あらゆる医療面接の基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・8歳男児の急性腹痛。前日午後、授業中に発症し早退した。 ・帰宅後には腹痛が消え、普段どおり夕食をとって眠れている。つまり前日の時点では食欲も一般状態も保たれていた。 ・翌朝、腹痛で目が覚め、その後も痛みが続いている。睡眠を妨げるほどの痛みは器質的疾患を疑う手がかりになる。
鑑別の考え方
小児の急性腹痛の原因は幅広く、急性虫垂炎のほか、感染性胃腸炎、食中毒、便秘、腸重積症(この年齢では少ない)、心因性腹痛、IgA血管炎(旧称 Henoch-Schönlein紫斑病)による腹痛などが挙がる。問題文の情報だけでは一つに絞れない。
設問の考え方
問われているのは、数ある鑑別の中で「急性虫垂炎かどうか」を見分けるのに役立つ質問である。急性虫垂炎では、痛む場所が時間とともに移る(初めは心窩部〜臍周囲、数時間〜半日ほどで右下腹部へ)という特徴的な経過をとり、最終的には右下腹部の McBurney点(臍と右上前腸骨棘を結ぶ線の外側1/3の点)付近に圧痛が局在する。したがって、痛みの部位とその移り変わりを本人に尋ねることが最も診断に直結する。他の選択肢は、それぞれ別の疾患を疑ったときに意味をもつ質問である。 なお、8歳児であれば自分で痛む場所を指し示せることが多く、保護者だけでなく患児本人から直接聴き取ることにも意味がある。
選択肢考察
- ×a. 「学校に行くのは楽しいかな」
学校生活のストレスや登校しぶりの有無を探る質問であり、心因性腹痛(反復性腹痛、機能性腹痛など)を考える際に役立つ。授業中に始まり帰宅後に消えたという経過は一見心因性を思わせるが、翌朝痛みで目を覚ましている点は器質的疾患を示唆する。いずれにせよ急性虫垂炎の鑑別には直接つながらない。
- ○b. 「おなかのどこが痛いのかな」
急性虫垂炎では、初期に虫垂の内圧上昇による内臓痛が心窩部〜臍周囲の漠然とした痛みとして現れ、炎症が虫垂周囲の壁側腹膜に及ぶと右下腹部に限局した体性痛へ移行する。痛みの部位と、それが移動したかどうかを確認することは虫垂炎を疑ううえで最も重要な病歴情報であり、続く診察(McBurney点の圧痛、反跳痛など)にもつながる。そのため最も有用な質問である。
- ×c. 「うんちは1日に何回するの」
排便の回数や性状を尋ねる質問で、便秘症や過敏性腸症候群、下痢を伴う胃腸炎を考える場合に有用である。虫垂炎でも下痢などの便通異常を伴うことはあるが特異的ではなく、虫垂炎の鑑別に直結する情報とはいえない。
- ×d. 「昨日の給食は何を食べたの」
摂取した食品を確認する質問で、食中毒や食物アレルギーによる腹痛を疑う際に意味がある。急性虫垂炎は食事内容と関係なく発症するため、虫垂炎の鑑別には役立たない。
- ×e. 「おなかを痛がっているお友だちはいるかな」
周囲に同じ症状の人がいるか、すなわち集団発生や流行の有無を確認する質問であり、感染性胃腸炎(ノロウイルスなど)や集団食中毒を考える際に有用である。急性虫垂炎は伝染性の疾患ではないため、鑑別には役立たない。
急性虫垂炎の概要
・虫垂の内腔が糞石やリンパ組織の過形成などで閉塞し、内圧上昇・細菌増殖・血流障害を経て炎症が進行する。小児の急性腹痛で手術が必要となる疾患として最も頻度が高く、学童期〜青年期に多い。
典型的な症状の経過
・心窩部〜臍周囲の痛み(内臓痛)→ 悪心・嘔吐、食欲不振 → 右下腹部痛(体性痛)への移動 → 発熱、という順序が典型である。 ・ただし、初期には心窩部や上腹部の痛みとして訴えることがあり、穿孔して汎発性腹膜炎を起こすと腹部全体の痛みになる。病期によって痛みの部位は変わるため、「今どこが痛いか」だけでなく「最初はどこが痛かったか」も聞くとよい。 ・小児、とくに乳幼児では症状をうまく訴えられず、穿孔してから診断されることが少なくない。
診察所見
・McBurney点の圧痛、Lanz点(左右の上前腸骨棘を結ぶ線の右1/3の点)の圧痛 ・Blumberg徴候(反跳痛)、筋性防御:腹膜刺激症状 ・Rovsing徴候:左下腹部を圧迫すると右下腹部に痛みが出る ・Rosenstein徴候:左側臥位で McBurney点の圧痛が増強する ・腸腰筋徴候(psoas sign):右股関節を伸展させると痛む
検査
・血液検査で白血球数増加(好中球優位)、CRP上昇 ・小児では被曝を避けるため、まず腹部超音波検査で腫大した虫垂(外径6mm以上が目安)や周囲の液体貯留を確認する。必要に応じてCTを行う。 ・小児の診断補助としてスコア(Pediatric Appendicitis Score など)が用いられ、項目には右下腹部への痛みの移動、食欲不振、右下腹部の圧痛などが含まれる。
小児の急性腹痛での問診の視点
・部位と移動:虫垂炎 ・排便状況:便秘、胃腸炎 ・食事内容:食中毒、食物アレルギー ・周囲の流行:感染性胃腸炎 ・学校・家庭環境:心因性腹痛 ・紫斑や関節痛:IgA血管炎
POINT
・急性虫垂炎の診断では痛みの部位とその移動(心窩部・臍周囲 → 右下腹部)を聴き取ることが最も重要である。 ・初期は心窩部痛、穿孔後は腹部全体の痛みとなるため、経過を追って部位を確認する。 ・問診内容と想定する疾患の対応:排便回数=便秘・過敏性腸症候群、食事内容=食中毒、周囲の流行=感染性胃腸炎、学校生活=心因性腹痛。 ・痛みで目が覚める腹痛は器質的疾患を疑う。
