腋窩の「ぷよぷよ」は何と呼ぶ?―波動とエコーで読み解く嚢腫という発疹用語
第111回医師国家試験 E問題 第52問
国試問題にチャレンジ
45歳の男性。2か月前から生じた右腋窩の皮疹を主訴に来院した。被覆皮膚と癒着し波動を触れる径20mmの皮疹が存在する。腋窩の写真(A)と皮疹部の超音波像(B)とを別に示す。 この皮疹の種類はどれか。

- a.丘疹
- b.苔癬
- c.嚢腫
- d.膿疱
- e.膨疹
対話形式の解説
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ドクターまとめ
皮疹を正しい発疹学の用語で表現することは、皮膚科診療と症例記載の基本です。真皮〜皮下にあって被覆皮膚と癒着し、波動を触れ、超音波で境界明瞭な内部低エコーを示す病変は、壁をもつ空洞に内容物がたまった「嚢腫」であり、腋窩なら粉瘤(表皮嚢腫)が代表です。丘疹は径5mm程度までの充実性の小隆起、苔癬は丘疹の集簇が持続する状態、膿疱は表皮内外の小さな膿のたまり、膨疹は24時間以内に消える真皮の一過性浮腫で、大きさ・存在する層・持続時間・内容物の性状で区別できます。脂肪腫は皮膚と癒着せず波動を触れない点で嚢腫と異なり、粉瘤の治療では嚢腫壁を含めた切除が再発予防の鍵となります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・45歳男性、右腋窩に2か月前から存在する皮疹。 ・大きさは径20mmで、丘疹(小さな隆起)の範囲を明らかに超える。 ・被覆皮膚(病変を覆う表皮)と癒着している:病変が皮膚の浅い層にあり、表皮と連続していることを示す。 ・波動を触れる:中身が固形の組織ではなく、液体・粥状物・膿など流動性のある内容物であることを示す。 ・写真(A)では腋窩に表面平滑なドーム状の膨隆を認める。 ・超音波像(B)では、境界が明瞭で表面平滑な類円形の病変が皮下浅層にあり、内部は不均一な低エコーを呈する。
診断へのプロセス
真皮〜皮下に位置し、表皮と癒着し、波動を触れ、超音波で境界明瞭な内部低エコー(液状〜粥状内容物を示唆)の病変であることから、壁に囲まれた袋状の構造に内容物がたまった病変、すなわち嚢腫と判断できる。臨床的には腋窩・背部などに好発する粉瘤(表皮嚢腫)が最も考えやすい。 鑑別として以下が挙がる。 ・脂肪腫:皮下の柔らかい腫瘤であるが、通常は被覆皮膚と癒着せず可動性があり、波動は触れない。超音波では内部に線状・網状の高エコーを伴うことが多く、本例とは合わない。 ・腋窩リンパ節腫大:腋窩では重要な鑑別だが、リンパ節は皮膚より深い層にあり、皮膚と癒着するのは進行例などに限られる。また充実性であり波動を触れない。 ・せつ(毛包の細菌感染)や化膿性汗腺炎:発赤・疼痛など炎症所見を伴うのが普通である。
設問の考え方
本問は診断名そのものではなく、皮疹を「発疹学(個疹の形態分類)」のどの用語で表すかを問うている。上皮性または線維性の壁をもつ空洞に内容物がたまった病変であるため、発疹の種類としては「嚢腫」に分類される。
選択肢考察
- ×a. 丘疹
丘疹は皮膚面から限局性に半球状・扁平に隆起する小型の発疹で、大きさはおおむね径5mm程度(成書により1cm未満)までを指す。充実性で波動は触れず、超音波で内部が低エコーの空洞として描出されることもない。径20mmという大きさからも該当しない。これより大きい充実性の隆起は結節、さらに大きいものは腫瘤と呼ぶ。
- ×b. 苔癬
苔癬は、同じような大きさの丘疹が多数集まって存在し、長期間その状態を保ち、個々の丘疹が他の発疹(水疱や膿疱など)に変化しないものをいう。扁平苔癬、光沢苔癬などが代表である。本例は単発の径20mmの嚢状病変であり、丘疹の集簇ではない。なお、慢性の掻破で皮膚が厚く硬くなり皮溝が深くなる状態は苔癬化(苔癬化局面)と呼び、苔癬とは区別する。
- ○c. 嚢腫
嚢腫は、真皮や皮下に生じた空洞で、上皮性あるいは線維性の壁で囲まれ、内部に液体や角質・皮脂などの半固形物を含む病変である。本例は径20mmで表皮と癒着し、波動を触れ、超音波で境界明瞭・内部低エコーの袋状構造として描出されている。これらはいずれも内容物をもつ嚢状病変を示す所見であり、発疹の種類として嚢腫に分類される。臨床的には粉瘤(表皮嚢腫)が最も考えやすく、粉瘤では中央に開口部(黒点状の点)がみられることがある。
- ×d. 膿疱
膿疱は、表皮内または表皮下に膿(好中球などの白血球)がたまった、黄白色の小隆起である。水疱の内容が膿性になったものと考えてよく、通常は数mm程度の小型の発疹で、多発・集簇することが多い(例:膿疱性乾癬、掌蹠膿疱症、毛包炎)。本例は径20mmで真皮〜皮下に位置する嚢状病変であり、表皮内の小さな膿のたまりである膿疱には当たらない。
- ×e. 膨疹
膨疹は真皮上層の一過性・限局性の浮腫による扁平な隆起で、紅斑を伴い、瘙痒が強い。個々の皮疹は通常24時間以内(多くは数時間)に跡を残さず消えるのが特徴で、蕁麻疹の基本となる発疹である。本例は2か月間持続し、波動を触れる嚢状構造であるため、膨疹とは全く異なる。
発疹学の基本(主な原発疹)
・斑:皮膚の隆起を伴わない色調の変化(紅斑、紫斑、色素斑、白斑など)。 ・丘疹:径5mm程度(〜1cm未満)までの限局性の隆起。 ・結節:丘疹より大きい充実性の隆起(おおむね径1〜3cm程度)。 ・腫瘤:結節よりさらに大きい隆起。 ・水疱:表皮内または表皮下に透明な液体がたまったもの。 ・膿疱:水疱の内容が膿性のもの。 ・嚢腫:真皮・皮下にあって壁をもつ空洞に内容物がたまったもの。 ・膨疹:真皮上層の一過性の浮腫(蕁麻疹)。 ※大きさの境界は成書により若干異なる。
続発疹の例
表皮剥離、びらん、潰瘍、亀裂、鱗屑、痂皮、胼胝、瘢痕、萎縮など。
苔癬と苔癬化の違い
苔癬は丘疹が集簇して持続する状態、苔癬化は慢性の掻破などにより皮膚が肥厚し皮溝・皮丘が明瞭になった状態を指す。
粉瘤(表皮嚢腫)
表皮成分が真皮内に袋状に陥入し、その内腔に角質や皮脂がたまる良性の嚢腫。顔面、頸部、背部、腋窩、耳垂などに好発する。中央に開口部を認めることがあり、圧迫すると悪臭のある粥状物が出ることがある。細菌感染などで炎症を起こすと、発赤・疼痛・腫脹を伴う炎症性粉瘤となる。治療は嚢腫壁を含めた外科的切除が基本で、壁を取り残すと再発しやすい。炎症が強いときは切開排膿を先行させる。
脂肪腫との鑑別
脂肪腫は成熟脂肪細胞からなる皮下の良性腫瘍で、柔らかく可動性があり、通常は皮膚と癒着しない。超音波では周囲の皮下脂肪と同程度〜やや高いエコーで、内部に線状の高エコーを伴うことが多い。
POINT
・嚢腫は、真皮・皮下に生じた壁(上皮性または線維性)をもつ空洞に内容物がたまった病変である。 ・「被覆皮膚と癒着」「波動を触れる」「超音波で境界明瞭な内部低エコー」は嚢腫(粉瘤など)を示唆する。 ・丘疹は径5mm程度までの小さな隆起、苔癬は丘疹の集簇、膿疱は表皮内外の小さな膿のたまり、膨疹は一過性の真皮浮腫である。 ・脂肪腫は皮膚と癒着せず、波動を触れない。
