透析を「今すぐ」回すべき異常はどれ?―急性腎不全の緊急透析適応AEIOU
第111回医師国家試験 E問題 第37問
国試問題にチャレンジ
急性腎不全における血液透析の適応はどれか。2つ選べ。
- a.高リン血症
- b.高カリウム血症
- c.低カルシウム血症
- d.代謝性アシドーシス
- e.代謝性アルカローシス
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急性腎不全(急性腎障害)では水・電解質・酸塩基平衡の調節が破綻しますが、透析を導入するのは保存的治療では生命の危険を回避できない場合です。緊急透析の適応は「AEIOU」、すなわち高度アシドーシス、高カリウム血症を中心とする電解質異常、透析で除去可能な中毒、利尿薬抵抗性の体液過剰、尿毒症症状と整理できます。高カリウム血症は致死的不整脈を、代謝性アシドーシスは心機能低下を招き、薬物治療で是正困難なら血液透析の適応となります。一方、高リン血症や低カルシウム血症は腎不全でよくみられるものの緊急透析の基準ではなく、腎不全では通常アルカローシスではなくアシドーシスに傾きます。「腎不全で起こる異常」と「今すぐ透析で是正すべき異常」を区別する視点は、救急・集中治療の現場での判断に直結します。
解答・解説
正解はb, dです
急性腎不全で何が問題になるか
急性腎不全(現在は急性腎障害〈AKI: acute kidney injury〉と呼ぶのが一般的)では、数時間〜数日の単位で腎機能が急激に低下し、水・電解質・酸塩基平衡の調節と老廃物の排泄ができなくなる。その結果、体液過剰、高カリウム血症、代謝性アシドーシス、尿毒素の蓄積(高窒素血症)などが生じる。
血液透析(腎代替療法)を始める判断
急性腎不全の多くは原因の除去と保存的治療で回復しうるため、透析は「保存的治療では生命の危険を回避できない合併症があるとき」に導入する。代表的な緊急適応は次のとおりである。 ・薬物治療に反応しない高度の高カリウム血症(致死的不整脈の危険) ・薬物治療で是正できない高度の代謝性アシドーシス ・利尿薬に反応しない体液過剰(肺水腫、心不全) ・尿毒症症状(意識障害、痙攣、心膜炎、出血傾向など) ・透析で除去可能な薬物・毒物の中毒 英語の頭文字で「AEIOU」(Acidosis, Electrolytes〈高K血症〉, Intoxication, Overload, Uremia)と覚えることが多い。
解き方の考え方
選択肢の電解質・酸塩基異常のうち、「放置すると短時間で生命に関わり、かつ保存的治療で是正困難なときに透析で速やかに是正できるもの」を選ぶ。高カリウム血症と代謝性アシドーシスがこれに当たる。高リン血症や低カルシウム血症も急性腎不全でよくみられる異常だが、それ自体が緊急透析導入の基準とはされていない。
選択肢考察
- ×a. 高リン血症
誤り。リンは主に腎から排泄されるため、急性腎不全では高リン血症が起こりやすく、特に横紋筋融解症や腫瘍崩壊症候群のように細胞内からリンが大量に放出される病態では高度になる。しかし高リン血症そのものが急速に致死的となることは少なく、食事制限やリン吸着薬などで対応し、その程度が透析導入の判断基準になることはない。
- ○b. 高カリウム血症
正しい。カリウムの大部分は腎から排泄されるため、急性腎不全では血清カリウム値が上昇する。高カリウム血症は心筋の興奮性を変化させ、テント状T波、P波の消失、QRS幅の拡大を経て心室細動や心停止に至りうる。グルコン酸カルシウム静注(心筋保護)、グルコース・インスリン療法や炭酸水素ナトリウム(細胞内への移行)、陽イオン交換樹脂やループ利尿薬(体外への除去)などで対処しても改善しない場合、あるいは高度の上昇(目安として血清K 6mEq/L以上、特に心電図変化を伴う場合)では、カリウムを確実に体外へ除去できる血液透析の適応となる。
- ×c. 低カルシウム血症
誤り。急性腎不全では、高リン血症に伴うリン酸カルシウムの沈着や、腎での活性型ビタミンD産生低下などにより低カルシウム血症をきたすことがある。しかし通常はカルシウム製剤の投与などで対応でき、低カルシウム血症の程度が血液透析導入の判断基準とはならない。
- ○d. 代謝性アシドーシス
正しい。腎は不揮発性酸(硫酸、リン酸など)を排泄し、重炭酸イオン(HCO3-)を再生して酸塩基平衡を保っているため、急性腎不全では酸が蓄積して代謝性アシドーシスが進行する。高度のアシドーシスは心収縮力の低下、カテコラミンへの反応性低下、不整脈などを招く。炭酸水素ナトリウム投与ではナトリウム・水負荷による体液過剰が問題となるため、是正困難な高度アシドーシスは透析の適応である。透析導入の目安は血清HCO3- 15mEq/L以下であり、動脈血pH 7.1〜7.2未満も補足的な目安として用いられる。血液透析では透析液中の重炭酸イオンが血中へ移行し、アシドーシスが速やかに補正される。
- ×e. 代謝性アルカローシス
誤り。腎機能が低下すると酸の排泄ができないため、急性腎不全ではアルカローシスではなくアシドーシスに傾くのが通常である。代謝性アルカローシスは嘔吐や利尿薬使用などで起こる病態であり、血液透析導入の適応とはならない。
急性腎不全(AKI)の分類
・腎前性:脱水、出血、心不全などによる腎血流低下。 ・腎性:急性尿細管壊死(虚血、腎毒性物質)、急性糸球体腎炎、急性間質性腎炎など。 ・腎後性:尿路閉塞(前立腺肥大症、両側尿管結石、腫瘍など)。 腎後性は閉塞の解除、腎前性は循環の改善で回復することが多く、まず原因の鑑別が重要である。
AKIの診断基準(KDIGO)
血清クレアチニンが48時間以内に0.3mg/dL以上上昇、または7日以内に基礎値の1.5倍以上に上昇、あるいは尿量0.5mL/kg/時未満が6時間以上持続、のいずれかで診断する。
急性腎不全で起こる主な電解質・酸塩基異常
・高カリウム血症、代謝性アシドーシス(アニオンギャップ増大型が多い) ・高リン血症、低カルシウム血症、高マグネシウム血症 ・高尿酸血症 ・希釈性低ナトリウム血症(水分過剰時)
高カリウム血症の緊急治療
1. グルコン酸カルシウム静注:心筋細胞膜を安定化(K値は下がらない) 2. グルコース・インスリン療法、β2刺激薬、炭酸水素ナトリウム:Kを細胞内へ移動 3. 陽イオン交換樹脂、ループ利尿薬、血液透析:Kを体外へ除去
腎代替療法の種類
・間欠的血液透析(IHD):短時間で効率よく除去できるが、循環変動が大きい。 ・持続的腎代替療法(CRRT、持続的血液濾過透析〈CHDF〉など):緩徐に除去するため循環動態が不安定な重症患者に適する。 ・腹膜透析:小児などで用いられることがある。
POINT
・急性腎不全の緊急透析適応は「AEIOU」:高度アシドーシス(目安 HCO3- 15mEq/L以下)、電解質異常(主に高カリウム血症、目安 K 6mEq/L以上)、透析で除去可能な中毒、利尿薬抵抗性の体液過剰(肺水腫)、尿毒症症状(意識障害、心膜炎など)。 ・いずれも「保存的治療で是正できず生命に危険があるとき」に適応となる。 ・高リン血症、低カルシウム血症は急性腎不全でよくみられるが、透析導入の基準にはならない。 ・腎不全ではアシドーシスに傾き、アルカローシスは通常起こらない。
