7歳の胸のふくらみと急な背の伸び―LH-RH負荷試験で思春期の「スイッチ」がどこで入ったかを見極める
第120回医師国家試験 A問題 第45問
国試問題にチャレンジ
7歳の女児。胸のふくらみを主訴に母親に連れられて来院した。2か月前から乳房腫大が目立つようになり,2週間前に陰毛も生えていることに母が気付いた。もともとクラスの真ん中くらいの身長だったが,この6か月で急に背が伸びたという。生来健康で,骨折歴はない。父の身長は168cm,母は156cm。身長132cm,体重28kg。均整の取れた体格で,乳房はTannerⅢ度,陰毛はTannerⅡ度だった。 診断に有用な検査はどれか。
- a.アルギニン負荷試験
- b.グルカゴン負荷試験
- c.経口ブドウ糖負荷試験
- d.LH-RH負荷試験
- e.PTH負荷試験
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
女児で7歳6か月未満の乳房発育や8歳未満の陰毛発生がみられ、身長の急伸を伴う場合は思春期早発症を考えます。診断の要となるのはLH-RH(GnRH)負荷試験で、中枢性ではLH優位の思春期型反応を示し、末梢性では性ホルモンのフィードバックにより反応が抑えられます。中枢性と判断したら骨年齢、エストラジオール、骨盤部超音波に加えて頭部MRIで視床下部過誤腫や脳腫瘍を除外し、治療にはGnRHアナログを用いて受容体の脱感作でゴナドトロピン分泌を抑えます。アルギニン・グルカゴン負荷はGH分泌不全、経口ブドウ糖負荷試験は糖尿病や先端巨大症、PTH負荷試験は偽性副甲状腺機能低下症の検査であり、各負荷試験の目的を整理しておくことは内分泌疾患全般の理解に役立ちます。未治療では骨端線の早期閉鎖で最終身長が低くなるため、早期に気づいて病型を見極めることが重要です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・7歳の女児。2か月前から乳房腫大、2週間前から陰毛の発生:思春期の二次性徴が年齢に比べて早く出現している。わが国の診断の手引きでは、女児で7歳6か月未満の乳房発育、8歳未満の陰毛・腋毛の発生、10歳6か月未満の初経が、思春期早発症を疑う目安とされている。本児はこれに該当する。 ・乳房Tanner III度、陰毛Tanner II度:二次性徴が一時的なものではなく、段階的に進んでいる。 ・もともと身長は中くらいだったが、この6か月で急に伸びた:性ホルモン(エストロゲン)の作用による思春期の成長スパート(身長増加の加速)が早く始まっていることを示す。 ・現在の身長132 cm:7歳女児の平均(およそ120 cm台前半)を大きく上回り、+2 SD前後の高身長である。一方、両親の身長から求める標的身長(target height)は女児で(父の身長+母の身長−13)÷2=(168+156−13)÷2=155.5 cmであり、家族性の高身長では説明しにくい。 ・均整の取れた体格:甲状腺機能低下症(低身長・肥満傾向)や骨系統疾患などを示唆する体型の異常はない。 ・生来健康で骨折歴なし:McCune-Albright症候群(多骨性線維性骨異形成症による病的骨折、カフェオレ斑、末梢性思春期早発症を三徴とする)を示唆する病歴はない。
診断へのプロセス
年齢不相応の二次性徴の進行と身長の急伸から、思春期早発症と考えられる。思春期早発症は、①視床下部-下垂体-性腺系が早く活性化する中枢性(ゴナドトロピン依存性)と、②性腺や副腎、外因性の性ホルモンなどによる末梢性(ゴナドトロピン非依存性)に大別される。女児では中枢性が大部分で、その多くは原因となる病変のない特発性である。 両者を区別するのに最も重要なのが、視床下部ホルモンであるLH-RH(GnRH:ゴナドトロピン放出ホルモン)を投与して下垂体からのLH(黄体形成ホルモン)・FSH(卵胞刺激ホルモン)の分泌反応をみるLH-RH負荷試験である。中枢性では思春期の反応、すなわちLHが優位に大きく増加する反応を示し、末梢性では性ホルモンによる負のフィードバックのためLH・FSHの反応が抑えられる。
その他の検査
手根骨エックス線撮影による骨年齢(促進がみられる)、血中エストラジオール、基礎LH・FSHの測定、骨盤部超音波検査(子宮・卵巣の大きさ、卵巣腫瘍・嚢胞の有無)を行う。中枢性と判断されたら、視床下部過誤腫や脳腫瘍などの器質的原因を除外するため頭部MRIを撮影する。
選択肢考察
- ×a. アルギニン負荷試験
誤り。アルギニン負荷試験は成長ホルモン(GH)分泌刺激試験の一つで、成長ホルモン分泌不全性低身長症を疑うときに行う。アルギニンは視床下部からのソマトスタチン分泌を抑制してGH分泌を促す。本児は低身長ではなく、むしろ高身長で身長増加が加速しており、GH分泌不全を疑う状況ではない。
- ×b. グルカゴン負荷試験
誤り。グルカゴン負荷試験は、GH分泌刺激試験として成長ホルモン分泌不全性低身長症の診断に用いられるほか、内因性インスリン分泌能(Cペプチド反応)の評価にも用いられる。また褐色細胞腫が疑われる患者では、カテコールアミンの大量放出による高血圧クリーゼを招くおそれがあるため禁忌とされる。いずれも本児の二次性徴早発の評価には関係しない。
- ×c. 経口ブドウ糖負荷試験
誤り。経口ブドウ糖負荷試験(75g OGTT)は、ブドウ糖を飲んだ後の血糖・インスリンの推移をみて、糖尿病や耐糖能異常を診断する検査である。また、正常ではブドウ糖負荷でGHが抑制されるのに対し、先端巨大症・下垂体性巨人症ではGHが抑制されないことを確かめる目的でも用いる。本児の身長の急伸は二次性徴に伴う成長スパートと考えられ、GH過剰を疑う根拠はない。
- ○d. LH-RH負荷試験
正しい。LH-RH(GnRH)を静注し、その後のLH・FSHの上昇を経時的に測定して下垂体ゴナドトロピンの分泌能を評価する検査である。中枢性思春期早発症では、思春期の視床下部-下垂体系がすでに活性化しているため、LHの頂値が思春期レベルまで大きく上昇し、FSHよりLHの反応が優位となる。これに対し、思春期前の小児や末梢性思春期早発症では、LHの反応は低いままである。したがって本検査は、中枢性思春期早発症の確定と、末梢性との鑑別に有用である。
- ×e. PTH負荷試験
誤り。PTH負荷試験(Ellsworth-Howard試験)は、副甲状腺ホルモン(PTH)を投与して尿中cAMPやリンの排泄増加をみる検査で、PTHに対する腎の反応性(受容体以降の機能)を評価する。偽性副甲状腺機能低下症の診断と病型分類(cAMP反応がないI型、cAMPは増えるがリン排泄が増えないII型)に用いる。本児の病態とは関係がない。
思春期早発症の分類
1.中枢性(ゴナドトロピン依存性)思春期早発症 ・特発性:女児の中枢性の大部分を占める。 ・器質性:視床下部過誤腫、脳腫瘍(胚細胞腫、視神経膠腫など)、水頭症、頭部外傷・放射線照射後など。男児では器質性の割合が女児より高い。 2.末梢性(ゴナドトロピン非依存性)思春期早発症 ・McCune-Albright症候群(GNAS遺伝子の体細胞変異。カフェオレ斑、多骨性線維性骨異形成症、思春期早発症) ・卵巣腫瘍・卵巣嚢腫、副腎腫瘍、先天性副腎過形成(男性化)、外因性の性ホルモン、家族性男性限性思春期早発症(LH受容体の活性化変異)など。
診断の目安(女児)
7歳6か月未満の乳房発育、8歳未満の陰毛・腋毛の発生、10歳6か月未満の初経。男児では、9歳未満の精巣・陰茎・陰嚢の発育、10歳未満の陰毛の発生、11歳未満の腋毛・ひげの発生や変声が目安となる。
主な検査所見(中枢性)
・骨年齢の促進(暦年齢より進む)。 ・LH-RH負荷試験でLH優位の思春期型反応、基礎LHの上昇。 ・血中エストラジオール(女児)・テストステロン(男児)の上昇。 ・頭部MRIで器質的病変の有無を確認する。
治療(中枢性)
長時間作用型のGnRHアナログ(リュープロレリンなど)を定期的に注射する。GnRH受容体に持続的に作用させると、受容体の脱感作が起こり、LH・FSHの分泌が抑えられて二次性徴の進行が止まる。開始直後は一時的にLH・FSHを刺激するため、症状の一過性悪化や性器出血がみられることがある。
治療しない場合の問題点
エストロゲンにより骨端線が早く閉鎖するため、現在は高身長でも、最終的には低身長となる。また、早すぎる初経や身体の変化による心理的・社会的な問題も生じる。
POINT
・女児で7歳6か月未満の乳房発育、8歳未満の陰毛発生 → 思春期早発症を疑う。 ・身長の急伸と骨年齢促進を伴い、現在は高身長でも最終身長は低くなる。 ・中枢性と末梢性の鑑別にはLH-RH負荷試験(中枢性ではLH優位の思春期型反応)。 ・中枢性なら頭部MRIで視床下部過誤腫や脳腫瘍を除外する。治療はGnRHアナログ。 ・アルギニン・グルカゴン負荷はGH分泌不全、OGTTは糖尿病・先端巨大症、PTH負荷は偽性副甲状腺機能低下症の検査。
