「話が途切れる」6歳児―3Hz棘徐波が映し出す数秒間の空白
第111回医師国家試験 D問題 第41問
国試問題にチャレンジ
6歳の女児。時々,会話が途切れることがあるため母親に連れられて来院した。これまでに2回の単純型熱性けいれんの既往があるが,成長や発達に異常を認めない。身体所見に異常を認めない。過呼吸時の脳波を別に示す。 この所見が出現したときの症状はどれか。

- a.閉眼する。
- b.顔色が蒼白になる。
- c.全身がけいれんする。
- d.呼びかけに反応しない。
- e.頭部が前屈し両上肢が挙上する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
学童期前後の小児に数秒から十数秒の意識の中断がみられ、過呼吸で誘発される全般性・両側同期性の3Hz棘徐波複合を認めれば、定型欠神発作(小児欠神てんかん)を考えます。発作中は動作や会話が止まり、開眼したまま凝視して呼びかけに反応せず、けいれん・顔面蒼白・発作後のもうろう状態は伴いません。頭部前屈と上肢挙上のシリーズ形成はWest症候群のてんかん性スパズム、顔面蒼白を伴う意識消失は失神や憤怒けいれんで、欠神発作とは区別されます。治療はエトスクシミドやバルプロ酸が中心で、カルバマゼピンは悪化させうる点に注意が必要です。発症年齢・発作症状・脳波所見を対応づけて覚えることが、小児てんかん全体の理解と適切な薬剤選択につながります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・6歳女児。時々会話が途切れる、という短時間の意識の中断を疑わせるエピソードがある。 ・単純型熱性けいれんの既往が2回あるが、成長・発達は正常で、身体所見にも異常はない。 ・過呼吸(過換気)負荷時の脳波で異常所見が出現している。画像では、全誘導にほぼ同期して左右対称に出現する、約3Hz(1秒間に3回)の規則的な棘徐波複合が、突然始まり突然終わる形で記録されている。
診断へのプロセス
発達が正常で神経学的異常もないことから、脳の器質的病変や基礎疾患に伴う症候性(構造的)てんかんは考えにくい。学童期前後の女児、会話が途切れるような短い意識減損発作、過換気で誘発される全般性3Hz棘徐波複合という組み合わせは、定型欠神発作の典型像であり、小児欠神てんかんと考えられる。過換気は血中二酸化炭素分圧を下げて脳血管を収縮させ、欠神発作を誘発しやすくするため、診断時の脳波検査や外来での発作誘発に用いられる。 なお、単純型熱性けいれんは小児に頻度の高いありふれた病態であり、その既往自体は本例のてんかん診断を左右する所見ではない。
設問の考え方
脳波上の3Hz棘徐波複合が出現している間、患者には定型欠神発作が起きている。発作の本質は数秒〜十数秒程度の突然の意識消失であり、けいれんや転倒は伴わない。したがって、発作中の症状として選ぶべきは「呼びかけに反応しない」である。
選択肢考察
- ×a. 閉眼する。
定型欠神発作では、動作を止めて目を開けたまま一点を見つめる(凝視する)のが典型的である。発作に伴って瞬目や眼瞼のぴくつき(眼瞼ミオクロニー)がみられることはあるが、眼を閉じたままになるわけではない。
- ×b. 顔色が蒼白になる。
欠神発作では循環動態は変化せず、血圧低下や脳血流の低下による顔面蒼白は生じない。顔面蒼白を伴う一過性の意識消失は、血管迷走神経性失神や、泣いた後に起こる憤怒けいれん(息止め発作)の蒼白型などでみられ、欠神発作との鑑別点となる。
- ×c. 全身がけいれんする。
定型欠神発作は意識減損が主体の全般発作であり、全身の強直性・間代性のけいれんは伴わない。けいれんがないため周囲にてんかん発作と気づかれにくく、「ぼんやりしている」「話が途切れる」「返事をしない」などとして見過ごされることが多い。なお小児欠神てんかんの経過中に全般強直間代発作を併発することはあるが、それは3Hz棘徐波複合に対応する症状ではない。
- ○d. 呼びかけに反応しない。
定型欠神発作の中核症状は、突然始まり突然終わる短時間(多くは数秒〜20秒以内)の意識消失である。発作中は動作や会話が止まり、開眼したまま一点を凝視し、呼びかけに反応しない。発作が終わるとすぐに元の動作に戻り、発作後のもうろう状態(postictal state)はみられず、本人は発作を自覚していないことが多い。本例の「時々会話が途切れる」という訴えはまさにこの発作を反映しており、脳波の3Hz棘徐波複合が出現している間に対応する症状である。
- ×e. 頭部が前屈し両上肢が挙上する。
頭部を前屈させ、両上肢を挙上(伸展)させる瞬間的な筋収縮が、数秒〜数十秒ごとに繰り返し起こる(シリーズ形成)のは、てんかん性スパズムであり、West症候群(点頭てんかん)に特徴的である。West症候群は主に乳児期(生後3〜11か月頃)に発症し、脳波ではヒプスアリスミア(高振幅の徐波と棘波が無秩序に混在する所見)を示し、精神運動発達の停止・退行を伴う。6歳で発達正常の本例とは合致しない。
小児欠神てんかん
・発症年齢は4〜10歳頃(学童期前後)が多く、女児にやや多い。遺伝的素因が関与する特発性全般てんかんの一つである。 ・発作: 定型欠神発作が1日に数回〜数十回以上起こる。持続は数秒〜十数秒で、急に始まり急に終わる。軽い自動症(口をもぐもぐさせる、手をまさぐるなど)や瞬目を伴うことがある。 ・誘発: 過呼吸で誘発されやすい。 ・脳波: 背景活動は正常で、発作時に全般性・両側同期性の3Hz棘徐波複合が出現する。 ・治療: エトスクシミドまたはバルプロ酸が第一選択であり、ラモトリギンも用いられる。カルバマゼピンやフェニトインは欠神発作を悪化させることがあるため避ける。 ・予後: 多くは思春期までに発作が消失し、比較的良好である。
小児の主なてんかん・発作と脳波
・定型欠神発作(小児欠神てんかん): 3Hz棘徐波複合、過呼吸で誘発。 ・West症候群: 乳児期発症、てんかん性スパズム(頭部前屈・上肢挙上のシリーズ形成)、ヒプスアリスミア、発達の停止・退行。治療はACTH療法やビガバトリン(特に結節性硬化症例)。 ・Lennox-Gastaut症候群: 幼児期発症、強直発作・非定型欠神発作・脱力発作など多彩な発作、遅棘徐波複合(2.5Hz以下)、知的障害。 ・中心側頭部に棘波をもつ自然終息性てんかん(いわゆるローランドてんかん): 学童期、睡眠中の片側顔面・口周囲の発作、中心側頭部棘波。予後良好。 ・若年ミオクロニーてんかん: 思春期発症、起床後のミオクロニー発作、多棘徐波複合、光過敏。バルプロ酸が有効。
熱性けいれん
生後6か月〜5歳頃に38℃以上の発熱に伴って起こる発作で、中枢神経感染症などの明らかな原因がないものをいう。持続が短い(15分未満)全般発作で24時間以内に再発しないものを単純型とよぶ。単純型熱性けいれんの多くは後遺症を残さず、その後のてんかん発症率も一般小児と比べてわずかに高い程度である。
POINT
・学童期前後の女児、短時間の意識の中断(会話が途切れる、凝視)、過呼吸で誘発→定型欠神発作(小児欠神てんかん)。 ・脳波: 全般性・両側同期性の3Hz棘徐波複合。 ・発作中は開眼して凝視し、呼びかけに反応しない。けいれん・顔面蒼白・発作後もうろう状態はない。 ・治療はエトスクシミドまたはバルプロ酸。カルバマゼピンは悪化させうる。 ・頭部前屈+上肢挙上のシリーズ形成発作はWest症候群(てんかん性スパズム、ヒプスアリスミア)。
