妊娠20週、胎児の心臓は右が主役―発生のタイムラインで解く胎児の成熟度
第111回医師国家試験 B問題 第19問
国試問題にチャレンジ
妊娠20週の胎児について正しいのはどれか。
- a.網膜が完成する。
- b.造血は主に骨髄で行われる。
- c.生理的臍帯ヘルニアを認める。
- d.肺では肺胞の発達が完成する。
- e.心拍出量は右心室からが左心室からよりも多い。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
妊娠20週は器官形成期を終え、各器官が成熟に向かう途中の段階です。生理的臍帯ヘルニアは妊娠10〜12週頃までに消失し、造血は卵黄嚢から肝臓、骨髄へと移って妊娠中期の主体は肝臓、肺は管状期にあって肺胞形成は妊娠末期から出生後に進み、網膜血管は満期頃に完成します。胎児循環では右心室から出た血液の多くが動脈管を経て下行大動脈・胎盤へ向かうため、右心室拍出量が左心室拍出量を上回る右心優位の状態にあります。出生後は肺血管抵抗の低下とともに卵円孔・動脈管が閉鎖し、左心優位の循環に切り替わります。発生のタイムラインを理解しておくことは、早産児に起こりやすい呼吸窮迫症候群や未熟児網膜症、動脈管開存症などを理解する土台になります。
解答・解説
正解はeです
妊娠20週は妊娠中期のちょうど中ほどにあたる。器官形成期(妊娠4〜7週頃が最も感受性が高く、概ね妊娠12週頃まで)はすでに終わり、各器官は「形はできているが機能的には未熟」な成長・成熟の段階にある。この時期の胎児の推定体重は約300g前後、頭殿長ではなく大横径や大腿骨長で発育を評価する時期である。 本問を解くには、各器官の発生・成熟のタイムラインを押さえておく必要がある。 ・腸管の生理的臍帯ヘルニア:妊娠6週頃に始まり、妊娠10〜12週頃までに腹腔内へ戻る。 ・造血の場:卵黄嚢 → 肝臓(脾臓) → 骨髄の順に移行し、妊娠中期は肝臓が主体。 ・肺:胎芽期 → 偽腺様期 → 管状期 → 終末嚢期 → 肺胞期と進み、肺胞の形成は妊娠末期から出生後まで続く。 ・網膜:網膜血管の発達は妊娠36週頃から満期にかけて周辺部に達し、完成する。 ・胎児循環:卵円孔と動脈管という2つの短絡路が開存し、右心系が優位である。 これらに照らすと、妊娠20週の胎児に当てはまるのは「右心室からの拍出量が左心室より多い」ことのみである。
選択肢考察
- ×a. 網膜が完成する。
誤り。網膜血管は視神経乳頭から周辺へ向かって伸びていき、鼻側の周辺部には妊娠36週頃、耳側の周辺部には妊娠40週頃(満期)に到達して完成する。妊娠20週では網膜はまだ未熟である。早産児で網膜血管が未完成のまま出生し、その後に異常な血管新生が起こるのが未熟児網膜症であり、在胎週数が短いほど発症リスクが高い。
- ×b. 造血は主に骨髄で行われる。
誤り。胎児の造血は、妊娠3週頃の卵黄嚢(血島)に始まり、妊娠6週頃から肝臓(および脾臓)が中心となり、妊娠中期は肝臓造血が主体である。骨髄造血は妊娠中期に始まって徐々に増加し、妊娠後期に主たる造血の場となり、出生後は骨髄がほぼ唯一の造血臓器となる。妊娠20週では骨髄造血は始まっているものの、主体は肝臓である。
- ×c. 生理的臍帯ヘルニアを認める。
誤り。妊娠6週頃、急速に伸長する中腸が狭い腹腔内に収まりきらず臍帯内へ脱出する(生理的臍帯ヘルニア)。その後、中腸は回転しながら妊娠10〜12週頃までに腹腔内へ還納される。したがって妊娠20週で臍帯内に腸管が脱出していれば病的であり、臍帯ヘルニアや腹壁破裂などの腹壁異常を考える。
- ×d. 肺では肺胞の発達が完成する。
誤り。肺の発達は、偽腺様期(妊娠5〜17週頃:気管支樹の形成)、管状期(妊娠16〜26週頃:呼吸細気管支と毛細血管の発達、Ⅱ型肺胞上皮細胞の出現)、終末嚢期(妊娠24〜36週頃:原始肺胞の形成)、肺胞期(妊娠36週頃〜出生後数年:真の肺胞の増加・成熟)と進む。妊娠20週は管状期にあたり、肺胞はまだ形成されていない。肺サーファクタントは妊娠20週台半ばから産生が始まり、妊娠34週頃以降に十分量となる。そのため早産児では呼吸窮迫症候群が起こりやすい。
- ○e. 心拍出量は右心室からが左心室からよりも多い。
正しい。胎児では、胎盤から戻る血液と全身からの静脈血がともに右心房に戻り、その一部は卵円孔を通って左心房へ流れるが、残りは右心室へ入る。右心室から肺動脈へ駆出された血液の大部分は、肺血管抵抗が高いため肺へは向かわず、動脈管を経て下行大動脈へ流れる。このように右心室は肺動脈・動脈管を介して下半身と胎盤へ大量の血液を送り出しており、右心室拍出量は左心室拍出量を上回る(ヒトでは両心室の合計拍出量のうち右心室が約55〜60%を占める)。出生後は肺循環が確立して短絡路が閉じ、左心系が優位となる。
胎児循環の流れ
胎盤で酸素化された血液 → 臍静脈 → 静脈管(Arantius管、肝臓を一部迂回) → 下大静脈 → 右心房。 右心房に入った酸素飽和度の比較的高い血液の多くは卵円孔を経て左心房 → 左心室 → 上行大動脈へ送られ、冠動脈と脳(頭頸部)に優先的に供給される。 上大静脈からの酸素の乏しい血液は主に右心室へ向かい → 肺動脈 → 動脈管 → 下行大動脈 → 下半身と臍動脈(2本) → 胎盤へ戻る。
3つの短絡路と出生後の遺残
・静脈管 → 静脈管索 ・卵円孔 → 卵円窩 ・動脈管 → 動脈管索 なお臍静脈は肝円索、臍動脈は内側臍索となる。
出生後の変化
第一呼吸で肺が膨らみ肺血管抵抗が低下、肺血流が増えて左心房圧が上昇し卵円孔が機能的に閉鎖する。血中酸素分圧の上昇とプロスタグランジンの低下により動脈管は収縮し、通常生後数日以内に機能的に閉鎖する。
胎児の造血とヘモグロビン
胎児期の主なヘモグロビンはHbF(α2γ2)で、HbA(α2β2)より酸素親和性が高く、胎盤で母体血から酸素を受け取りやすい。HbFからHbAへの切り替えは妊娠後期から始まり、生後半年頃までにほぼ完了する。
肺の発達段階(目安)
・偽腺様期:妊娠5〜17週 ・管状期:妊娠16〜26週 ・終末嚢期:妊娠24〜36週 ・肺胞期:妊娠36週〜出生後数年
POINT
・胎児は右心優位:右心室拍出量>左心室拍出量(右室血の多くは動脈管経由で下行大動脈へ)。 ・生理的臍帯ヘルニアは妊娠10〜12週頃までに消失する。 ・造血の場は卵黄嚢 → 肝臓(脾臓) → 骨髄。妊娠中期の主体は肝臓。 ・肺胞形成は妊娠末期から出生後に進み、サーファクタントは妊娠34週頃以降に十分となる。 ・網膜血管は満期頃に完成するため、早産児では未熟児網膜症が起こりやすい。
