右利きなら左を下に―腰椎穿刺の体位は「棘間を開く」と「針の向き」で決まる
第111回医師国家試験 B問題 第1問
国試問題にチャレンジ
検者が右利きの場合,腰椎穿刺を行うのに最も適切な被検者の体位はどれか。
- a.座位
- b.砕石位
- c.腹臥位
- d.右側臥位
- e.左側臥位
対話形式の解説
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ドクターまとめ
腰椎穿刺は、脊髄下端より下のL3/4またはL4/5の棘間(Jacoby線が目安)から針を刺入する手技で、両膝を抱えて背中を丸めた側臥位をとらせることで棘間を広げます。側臥位は患者が姿勢を保ちやすく、髄液初圧を正確に測定できる点で、座位や腹臥位より標準的です。棘突起は下方に傾いているため針はやや頭側へ向けて進め、右利きの検者では患者の頭が左に来る左側臥位が最も操作しやすく、左利きなら右側臥位となります。頭蓋内占拠性病変による頭蓋内圧亢進は脳ヘルニアの危険から禁忌であり、穿刺後頭痛などの合併症も含めて理解しておくことが、実習や研修で安全に手技を行う基礎になります。
解答・解説
正解はeです
腰椎穿刺は、腰椎の棘突起と棘突起の間(通常はL3/4またはL4/5の椎間)から針を刺入し、くも膜下腔に到達させる手技である。髄液の採取(髄膜炎やくも膜下出血の診断、髄液圧の測定など)や、脊髄くも膜下麻酔(いわゆる腰椎麻酔)、薬剤の髄腔内投与などに用いられる。 本問を考えるポイントは二つある。 第一に、針を棘突起間に通すためには、棘突起の間隔ができるだけ広がる姿勢をとらせる必要がある。そのため、被検者には背中を丸め、両膝を胸に引き寄せて抱え込み、顎を引いた体位(胎児のような姿勢)をとらせる。これにより腰椎が後弯し、棘間が開いて刺入しやすくなる。標準的にはこの姿勢を側臥位で行う。側臥位は被検者がリラックスしやすく、意識障害のある患者でも保持でき、さらに髄液圧(初圧)を正確に測定できるという利点がある。 第二に、側臥位の左右は検者の利き手によって決まる。検者はベッドの脇に立ち、被検者の背中と向き合う。被検者が左側臥位(左を下にして横になる)をとると、被検者の頭は検者から見て左側、足は右側に位置する。右利きの検者は右手で穿刺針を保持し、右側(尾側)から左側(頭側)へ向けて針を進めることになる。腰椎の棘突起は下方へ傾いているため、針はやや頭側(臍の方向)へ向けて刺入するのが基本であり、この向きは右手で操作しやすい。したがって右利きの検者では左側臥位が最も適している。
選択肢考察
- ×a. 座位
座位で前かがみの姿勢をとらせても棘間は開くため、肥満で正中線が分かりにくい患者や、側臥位で穿刺が困難な場合に座位で行うことはある。脊髄くも膜下麻酔でも用いられる。しかし座位では髄液圧が静水圧の影響を受けて高く測定されるため初圧の評価に適さず、また迷走神経反射による失神などで姿勢が崩れる危険もある。一般的な腰椎穿刺の標準体位ではないため、最も適切とはいえない。
- ×b. 砕石位
砕石位は仰臥位で両下肢を挙上・開脚させる体位で、産婦人科や泌尿器科の診察・手術、経会陰的処置に用いられる。背部が寝台に接しているため腰部に針を刺入することができず、腰椎穿刺には用いない。
- ×c. 腹臥位
腹臥位では腰椎がむしろ前弯しやすく、棘間が十分に開かない。また被検者の表情や呼吸状態の観察が難しい。X線透視下で穿刺する脊髄造影などで用いられることはあるが、ベッドサイドで行う通常の腰椎穿刺の体位としては一般的ではない。
- ×d. 右側臥位
右側臥位では被検者の頭が検者から見て右側に来る。右利きの検者が針を頭側へ向けるには右手を体の外側へ不自然にひねる必要があり、操作しにくい。右側臥位は左利きの検者に適した体位であり、右利きの検者に最適とはいえない。
- ○e. 左側臥位
左側臥位では、背中を検者に向けた被検者の頭が検者から見て左側に位置する。右利きの検者は右手で針を持ち、尾側から頭側方向へ自然に針を進めることができるため、棘突起の傾きに沿ったやや頭側向きの刺入が容易になる。側臥位は髄液初圧の測定にも適しており、右利きの検者にとって最も適切な体位である。
腰椎穿刺の手技の要点
・穿刺部位: 成人の脊髄下端(脊髄円錐)は通常L1〜L2の高さにあるため、それより下のL3/4またはL4/5椎間で穿刺する。左右の腸骨稜の最上部を結んだ線(Jacoby線)はおおむねL4棘突起またはL4/5椎間の高さを通り、部位決定の目安になる。 ・体位: 側臥位で背部を寝台の縁に寄せ、背面を寝台に対して垂直に保つ。両膝を抱えて背中を丸め、顎を引かせて棘間を広げる。 ・刺入方向: 正中で、やや頭側(臍の方向)へ向ける。皮膚→皮下組織→棘上靱帯→棘間靱帯→黄色靱帯→硬膜外腔→硬膜・くも膜→くも膜下腔の順に到達する。黄色靱帯や硬膜を貫く際に抵抗の消失を感じる。 ・初圧測定: 側臥位で測定し、成人の正常値はおおむね70〜180 mmH2O程度とされる。
禁忌・注意
・頭蓋内圧亢進が疑われ、特に頭蓋内占拠性病変がある場合は、脳ヘルニアを誘発する危険があるため禁忌である。事前に眼底検査(うっ血乳頭の有無)や頭部CTで確認する。 ・穿刺部位の皮膚感染、出血傾向(血小板減少や抗凝固療法中)でも原則として避ける。 ・合併症として、穿刺後頭痛(髄液漏出による低髄液圧性頭痛で、立位で増悪し臥位で軽快する)、神経根刺激症状、感染、出血などがある。
臨床での体位選択
実際の臨床では、患者がどちら向きになれるか(麻痺や疼痛、点滴ルートの位置など)も考慮して体位を決める。脊髄くも膜下麻酔では、麻酔を効かせたい側や、使用する局所麻酔薬が高比重か等比重かによっても体位を選ぶ。
POINT
・腰椎穿刺の標準体位は側臥位で、膝を抱えて背中を丸め、棘間を開かせる。 ・右利きの検者では左側臥位、左利きの検者では右側臥位が操作しやすい(被検者の頭が検者の利き手と反対側に来るようにする)。 ・穿刺部位はL3/4またはL4/5(Jacoby線が目安)。 ・頭蓋内圧亢進(特に占拠性病変)では脳ヘルニアの危険があり禁忌。
