胆嚢か、胆管か―略語の迷路を抜けて急性胆嚢炎の減圧にたどり着く
第110回医師国家試験 I問題 第5問
国試問題にチャレンジ
急性胆嚢炎の治療はどれか。
- a.EST〈Endoscopic Sphincterotomy〉
- b.EBS〈Endoscopic Biliary Stenting〉
- c.ENBD〈Endoscopic Nasobiliary Drainage〉
- d.EPBD〈Endoscopic Papillary Balloon Dilatation〉
- e.PTGBD〈Percutaneous Transhepatic Gallbladder Drainage〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急性胆嚢炎は胆嚢結石の嵌頓による胆嚢内の胆汁うっ滞と炎症で、根本治療は早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術です。高齢や重い併存疾患、臓器障害などで早期手術が難しい中等症〜重症例では、経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)で胆嚢を減圧し、炎症が落ち着いてから待機的に手術します。一方、EST・EPBDは総胆管結石除去のための乳頭処置、EBS(内瘻)・ENBD(外瘻)は胆管の減圧で、いずれもERCPを用いて胆管を対象とする手技です。抗凝固薬内服中などで経皮的穿刺が難しい場合には、内視鏡的胆嚢ドレナージやEUS下胆嚢ドレナージも選択肢になります。胆道系の略語は「胆嚢か胆管か」「内視鏡か経皮経肝か」の2軸で整理すると、病態に応じた処置選択が理解しやすくなります。
解答・解説
正解はeです
急性胆嚢炎は、多くの場合、胆嚢結石が胆嚢頸部や胆嚢管にはまり込んで胆嚢内の胆汁が流れ出なくなり、胆嚢壁に化学的・細菌性の炎症が起こる疾患である。治療の基本は、絶食・輸液・抗菌薬などの初期治療に加え、原因である胆嚢を取り除く胆嚢摘出術(多くは腹腔鏡下)である。全身状態が悪い、重症である、などの理由ですぐに手術ができない場合には、うっ滞した胆嚢内の感染胆汁を外へ出す「胆嚢ドレナージ」を行って炎症をしずめ、手術までの橋渡しとする。その代表が経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)である。 選択肢 a〜d はいずれも内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP:十二指腸内視鏡で十二指腸乳頭から胆管・膵管へアプローチする手技)を用いて行う「胆管」に対する処置である。総胆管結石、急性胆管炎、悪性腫瘍などによる閉塞性黄疸が主な対象であり、胆嚢そのものを減圧する手技ではない。 したがって本問は、各略語が「どこに」「何をする」手技かを正しく理解しているかが問われている。胆嚢に直接アプローチする処置は選択肢中で PTGBD だけである。
選択肢考察
- ×a. EST〈Endoscopic Sphincterotomy〉
誤り。内視鏡的乳頭括約筋切開術であり、ERCP の際に十二指腸乳頭の括約筋(Oddi 括約筋)を高周波ナイフで切開して胆管の出口を広げる手技である。主に総胆管結石を除去するための前処置として行われ、切開後にバスケットカテーテルやバルーンカテーテルで結石を取り出す。胆管へのアプローチであり、急性胆嚢炎の治療ではない。
- ×b. EBS〈Endoscopic Biliary Stenting〉
誤り。内視鏡的胆道ステント留置術(内視鏡的胆管ステント留置術)であり、ERCP 下にプラスチックステントや金属ステントを胆管狭窄部に留置して胆汁の流れを確保する内瘻術である。膵頭部癌や胆管癌などによる悪性胆道閉塞の減黄、急性胆管炎や総胆管結石の一時的なドレナージなどに用いられる。内視鏡的なアプローチが困難な場合は、経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD、PTCD とも呼ぶ)が選択される。いずれも胆管が対象であり、急性胆嚢炎の治療ではない。
- ×c. ENBD〈Endoscopic Nasobiliary Drainage〉
誤り。内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(内視鏡的経鼻胆管ドレナージ)であり、ERCP 下に細いチューブの先端を胆管内に置き、もう一方を鼻から体外へ出して胆汁を外へ流す外瘻術である。排出された胆汁の量・性状を観察でき、胆汁の培養や細胞診、造影も行える利点がある一方、鼻からのチューブによる不快感や自己抜去の危険がある。急性胆管炎や悪性腫瘍による閉塞性黄疸の減黄に用いられ、その後ステント留置(EBS)に切り替えることが多い。胆管の処置であり、急性胆嚢炎の治療ではない。
- ×d. EPBD〈Endoscopic Papillary Balloon Dilatation〉
誤り。内視鏡的乳頭バルーン拡張術であり、ERCP 下に十二指腸乳頭部をバルーンでふくらませて拡張し、総胆管結石を取り出しやすくする手技である。EST と違い括約筋を切開しないため、出血の危険が比較的少なく、乳頭括約筋機能を温存できるとされる。一方で術後膵炎のリスクがやや高く、大きな結石には向かないため、EST と症例に応じて使い分けられる(大結石には EST 後に大口径バルーンで拡張する EPLBD も用いられる)。胆管結石の治療であり、急性胆嚢炎の治療ではない。
- ○e. PTGBD〈Percutaneous Transhepatic Gallbladder Drainage〉
正しい。経皮経肝胆嚢ドレナージであり、超音波ガイド下に体表から肝臓を経由して胆嚢を穿刺し、カテーテルを留置して胆嚢内の感染胆汁を体外へ排出する手技である。胆嚢内圧を下げて炎症を速やかに軽減できるため、中等症〜重症の急性胆嚢炎で早期の胆嚢摘出術が難しい場合(高齢、重い併存疾患、臓器障害がある場合など)や、保存的治療に反応しない場合に行われる。肝臓を経由することで、胆汁が腹腔内へ漏れて胆汁性腹膜炎を起こす危険を減らしている。炎症が落ち着いた後に待機的に胆嚢摘出術を行うのが一般的である。
急性胆嚢炎の治療の流れ(急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン〈Tokyo Guidelines〉の考え方)
全例でまず絶食、輸液、鎮痛薬、抗菌薬投与などの初期治療を行い、重症度(軽症・中等症・重症)と手術に耐えられるかを評価する。 ・軽症:早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術が基本である。 ・中等症:手術リスクが許容できれば早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術を行う。困難なら保存的治療や胆嚢ドレナージを行い、待機的に手術する。 ・重症:臓器障害の治療を優先し、状態に応じて早期手術または胆嚢ドレナージを行う。
胆嚢ドレナージの方法
・PTGBD(経皮経肝胆嚢ドレナージ):カテーテルを留置する方法。標準的な方法である。 ・PTGBA(経皮経肝胆嚢吸引穿刺法):穿刺して胆汁を吸引するだけでカテーテルを留置しない方法。簡便だが効果が一時的になりやすい。 ・内視鏡的経乳頭的胆嚢ドレナージ(ENGBD、EGBS)や超音波内視鏡下胆嚢ドレナージ(EUS-GBD):抗凝固薬内服中や腹水がある患者など、経皮的アプローチが難しい場合の選択肢となる。
胆道系の処置の整理
・ERCP 関連手技(胆管が対象):EST(乳頭括約筋切開)、EPBD(乳頭バルーン拡張)、EBS(胆管ステント留置=内瘻)、ENBD(経鼻胆管ドレナージ=外瘻) ・経皮経肝的手技:PTBD/PTCD(経皮経肝胆道ドレナージ、胆管が対象)、PTGBD(経皮経肝胆嚢ドレナージ、胆嚢が対象) ERCP 関連手技は内視鏡を用いて行い、経皮経肝的手技は主に超音波ガイド下(透視併用)で行う。
POINT
・急性胆嚢炎の根本治療は胆嚢摘出術(原則として早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術)である。 ・早期手術が困難な中等症〜重症例では、胆嚢ドレナージ(代表は PTGBD)で減圧し、待機的に手術する。 ・EST・EPBD は総胆管結石除去のための乳頭処置、EBS・ENBD は胆管の減圧(ドレナージ)であり、いずれも胆管が対象である。 ・略語は「どこへ(胆管か胆嚢か)」「どの経路で(内視鏡か経皮経肝か)」で整理すると覚えやすい。
