「ばかげている」と分かっていても―自分の考えと自覚する強迫観念の見分け方
第110回医師国家試験 I問題 第37問
国試問題にチャレンジ
強迫性障害の症状と考えられるのはどれか。2つ選べ。
- a.考えが勝手に頭に浮かんでくる。
- b.自分で考えているという実感がない。
- c.過去に見た光景が頭の中にありありと浮かぶ。
- d.人を殴ってしまうのではないかと考え続けてしまう。
- e.机の上に置く物と机の辺が平行になっていないと気がすまない。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
強迫性障害は、不合理だと自覚しながら意に反して繰り返し浮かぶ強迫観念と、その不安を打ち消すための強迫行為を中核とし、加害恐怖や対称性・正確さへのこだわりはその典型です。強迫観念では、その考えが自分の心の産物であるという自覚が保たれている点が重要で、能動感が失われる離人感や作為体験、意図と無関係に湧く自生思考、外傷体験を再体験するPTSDのフラッシュバックとは区別されます。治療はSSRIを中心とした薬物療法と、曝露反応妨害法を中心とする認知行動療法が柱です。「反復性」「不合理感と抵抗」「自己所属感の保持」という視点で症状を読み解く力は、精神症候学全般の理解と臨床での問診に直結します。
解答・解説
正解はd, eです
強迫性障害(obsessive-compulsive disorder:OCD、DSM-5では強迫症/強迫性障害)は、強迫観念(強迫思考)と強迫行為を中核症状とする疾患である。 【強迫観念】繰り返し・持続的に浮かんでくる思考、衝動、イメージで、本人はそれを不合理・過剰だと感じ、望まないもので強い不安や苦痛をもたらす。本人は無視したり打ち消したりしようとするが、うまくいかない。重要なのは、その考えが「自分自身の心の産物である」と認識されている点である。この点で、考えが外部から吹き込まれる・操られると体験する統合失調症の自我障害とは区別される。 【強迫行為】強迫観念による不安を打ち消す、あるいは厳格な規則に従わなければならないと感じて行う反復的な行動(手洗い、確認、整理整頓など)や心の中の行為(数を数える、祈るなど)である。 選択肢を検討する際は、①望まない考えが繰り返し侵入してくるか(反復性・常同性)、②本人がそれを不合理と感じつつ自分の考えだと自覚しているか、③不安を伴い、それを打ち消すための行動があるか、という観点で判断する。単に「考えが自然に湧く」「実感がない」「過去の光景が浮かぶ」といった表現は、それぞれ別の精神症状(自生思考・観念奔逸、自我意識の障害・離人感、フラッシュバック)を指していると読むのが適切である。
選択肢考察
- ×a. 考えが勝手に頭に浮かんでくる。
考えが本人の意図と関係なく自然に次々と湧いてくる体験は、統合失調症の初期などにみられる自生思考を想定した表現である。また、考えが次々に湧き出て話題が飛ぶ観念奔逸(躁状態でみられる思考過程の障害)とも読める。強迫観念も意思に反して浮かぶ点では共通するが、強迫観念は特定の内容が反復して浮かび、本人が不合理と感じて抵抗し、不安を伴うことが特徴である。この選択肢にはそうした反復性・不合理感・抵抗が示されておらず、より典型的な選択肢(d、e)があるため選ばない。
- ×b. 自分で考えているという実感がない。
自分が考えている・行っているという能動感(自己所属感)が失われる体験であり、自我意識の障害にあたる。離人感(離人症)でみられるほか、さらに進んで「他者に考えを吹き込まれる」と感じれば統合失調症の作為体験(させられ体験、思考吹入)となる。強迫性障害では、考えの内容が不合理で本人の意に反するものであっても、それが自分の考えであるという自覚は保たれているため、この症状とは異なる。
- ×c. 過去に見た光景が頭の中にありありと浮かぶ。
過去の体験場面が、あたかも今起こっているかのように鮮明によみがえる現象はフラッシュバック(侵入的想起)であり、主に心的外傷後ストレス障害(PTSD)の再体験症状として出現する。強迫観念は過去の記憶の再生ではなく、「汚染されたのではないか」「人を傷つけるのではないか」といった常同的な観念が反復するものであり、本選択肢には反復性や不合理感も表現されていない。
- ○d. 人を殴ってしまうのではないかと考え続けてしまう。
実際には起こりそうにない「人に危害を加えてしまうのではないか」という考えが、本人の意に反して繰り返し浮かび、頭から離れない状態であり、強迫観念(加害恐怖)の典型である。本人はその考えをばかげている・したくないと感じて苦痛を覚え、打ち消そうとするが止められない。本人に実際の攻撃の意図はなく、そのため刃物を遠ざける、人ごみを避ける、何度も確認するといった回避・確認行為につながることも多い。
- ○e. 机の上に置く物と机の辺が平行になっていないと気がすまない。
物の配置が左右対称である・まっすぐ揃っている・決まった順序であることに強くこだわり、そうでないと強い不快感(「ぴったりしない」という不全感)や不安が生じ、納得がいくまで並べ直さずにはいられない状態である。これは対称性・正確さへの強迫観念と、それに伴う整理整頓の強迫行為として、強迫性障害の代表的な症状型の一つである。「きちんと置かないと悪いことが起こる」という魔術的な不安が背景にある場合もある。
強迫性障害の概要
・有病率は生涯で1〜2%程度、男女差はほぼなく、多くは青年期〜成人早期に発症する(小児期発症もある)。 ・DSM-5では不安症群から独立し、「強迫症および関連症群」に分類された。同群には醜形恐怖症、ためこみ症、抜毛症、皮膚むしり症などが含まれる。 ・病識の程度はさまざまで、「病識が十分または概ね十分」「病識が不十分」「病識が欠如・妄想的な信念を伴う」と特定する。 ・チック症の併存や、うつ病の合併が多い。
代表的な症状型
・汚染恐怖 → 過剰な手洗い・洗浄 ・加害恐怖、不完全恐怖(鍵・火の元など)→ 確認行為 ・対称性・正確さへのこだわり → 整理整頓、並べ直し ・数への固執 → 数を数える、決まった回数繰り返す ・宗教的・性的・攻撃的な侵入思考
治療
・薬物療法:選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI;フルボキサミン、パロキセチンなど)が第一選択。うつ病より高用量・長期間を要することが多い。三環系抗うつ薬ではクロミプラミンも有効。 ・精神療法:認知行動療法、特に曝露反応妨害法(不安を引き起こす状況にあえて身を置き、強迫行為をせずに不安が自然に軽減するのを経験させる方法)が有効である。
鑑別に関わる症状用語
・自生思考:考えが自分の意図と無関係に勝手に浮かぶ(統合失調症の初期など) ・観念奔逸:考えが次々に湧き、話題が飛ぶ(躁状態) ・作為体験:思考や行動が他者に操られていると体験する(統合失調症) ・離人感:自分が自分である・自分が行っているという実感が乏しい ・フラッシュバック:外傷体験の鮮明な再体験(PTSD)
POINT
・強迫観念:不合理と自覚しつつ、意に反して反復する思考・イメージ。自分の考えであるという自覚は保たれる ・強迫行為:不安を打ち消すための反復行動(手洗い、確認、整理整頓など) ・加害恐怖(人を傷つけるのではないか)や対称性へのこだわりは強迫性障害の典型 ・能動感の喪失は自我意識障害(離人感・作為体験)、過去の光景の再体験はPTSDのフラッシュバック ・治療はSSRIと曝露反応妨害法
