StudyMed医師国家試験

酸を止めたらブレーキが外れた―PPIと高ガストリン血症のフィードバック

第110回医師国家試験 I問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第110回 I問題 第17問

プロトンポンプ阻害薬の投与で血中濃度が上昇するのはどれか。

  1. a.グレリン
  2. b.ガストリン
  3. c.ソマトスタチン
  4. d.コレシストキニン
  5. e.グルカゴン類似ペプチド1〈GLP-1〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、プロトンポンプ阻害薬、つまりPPIを投与したときに血中で増えるホルモンを問う問題だ。消化管ホルモンの暗記問題に見えるけれど、カギは胃酸分泌の負のフィードバックにある。まずPPIの作用機序から確認しよう。
医学生医学生
胃の壁細胞にあるH+/K+-ATPaseを阻害して、胃酸分泌を止める薬ですよね。
ドクタードクター
その通り。プロトンポンプは酸分泌の最終段階だから、刺激の経路にかかわらず強力に酸を抑えられる。オメプラゾールやランソプラゾールなどが代表薬で、消化性潰瘍や逆流性食道炎、ピロリ菌の除菌に使われる。では、胃酸分泌を促すホルモンといえば何だろう。
医学生医学生
ガストリンです。でも、PPIは酸を抑える薬なので、酸を促すガストリンはむしろ下がるのかなと一瞬思いました。
ドクタードクター
その迷いがまさにこの問題の核心だ。生理学の講義で習った調節系を思い出してほしい。胃前庭部のG細胞がガストリンを出し、ガストリンは壁細胞を直接刺激するとともに、ECL細胞からヒスタミンを放出させて酸分泌を高める。そして胃の中が十分酸性になると、その酸がG細胞のガストリン分泌を抑えるんだ。
医学生医学生
酸が増えすぎないようにする負のフィードバックですね。
ドクタードクター
そう。PPIで酸が減って胃内pHが上がると、この「酸によるブレーキ」が外れる。するとG細胞はガストリンを出し続けて、高ガストリン血症になる。だから正解はガストリンだ。
医学生医学生
薬はポンプの段階で効いているので、上流のガストリンが増えても酸は出ない、ということですか。
ドクタードクター
その理解でいい。上流からの刺激は強まっても、最終段階が塞がれているわけだ。では他の選択肢も見ていこう。ソマトスタチンはどうかな。
医学生医学生
ソマトスタチンはいろいろなホルモンを抑える抑制性ホルモンでしたよね。ガストリンが増えるなら、それを抑えるために増えるのでは?
ドクタードクター
直感的にはそう考えたくなるね。でも前庭部のD細胞は胃内の酸に刺激されてソマトスタチンを出し、G細胞を抑えている。この経路もブレーキの一部なんだ。PPIで酸が減ればD細胞への刺激も弱まるから、ソマトスタチンは上がるどころか局所ではむしろ減る方向に働くと考えられる。
医学生医学生
ブレーキ役のD細胞も酸がスイッチだったんですね。グレリンも胃から出るホルモンでしたが。
ドクタードクター
グレリンは胃底腺の内分泌細胞から出て、空腹時に上昇し、摂食を促したり成長ホルモン分泌を刺激したりする。調節の主役は栄養状態や摂食で、胃酸のフィードバックを受けるホルモンではないから、PPIで上がるものとしては挙がらない。
医学生医学生
コレシストキニンとGLP-1は小腸から出るホルモンで、食事の成分が刺激でしたね。
ドクタードクター
その通り。コレシストキニンは十二指腸・空腸のI細胞から脂肪酸やアミノ酸に反応して分泌され、胆嚢収縮や膵酵素分泌を促す。GLP-1は回腸や大腸のL細胞から栄養素に反応して出るインクレチンで、血糖依存性にインスリン分泌を促す。どちらもPPIで血中濃度が上がるものではない。
医学生医学生
内分泌代謝内科を回ったとき、GLP-1受容体作動薬を使っている患者さんがいました。消化管ホルモンが治療薬につながっているんですね。
ドクタードクター
いい結びつけ方だね。最後に臨床での注意点だ。ガストリンにはECL細胞を増殖させる作用もあるから、長期の高ガストリン血症はECL細胞過形成をきたし、動物実験ではカルチノイドの発生も報告されている。もう一つ大事なのが、ガストリノーマ、つまりZollinger-Ellison症候群を疑って血清ガストリンを測るときだ。
医学生医学生
PPIを飲んでいるとガストリンが上がっているから、ガストリノーマと紛らわしくなるわけですね。
ドクタードクター
その通り。区別のポイントは胃酸の状態だ。PPIや萎縮性胃炎、特に自己免疫性胃炎では「酸が少ないから」ガストリンが上がる。一方ガストリノーマは腫瘍が自律的にガストリンを作るので「酸も多い」。この対比を押さえておけばCBTでも国試でも迷わない。ほかにもPPIの長期投与では、ビタミンB12・鉄・マグネシウムの吸収低下やClostridioides difficile感染症のリスクなどが指摘されているから、漫然と続けないことが大切だ。

まとめ

プロトンポンプ阻害薬は壁細胞のH+/K+-ATPaseを阻害して胃酸分泌を抑えますが、胃酸には前庭部G細胞のガストリン分泌を抑える負のフィードバック作用があるため、酸が減るとこの抑制が外れて高ガストリン血症となります。酸に刺激されてG細胞を抑えるD細胞のソマトスタチンは、PPI投与で上昇する方向には働かず、グレリン、コレシストキニン、GLP-1は主に摂食や栄養素で調節されるため、PPIの影響で上昇するホルモンではありません。高ガストリン血症は「酸が少ない」状態(PPI、萎縮性胃炎)と「酸が多い」状態(ガストリノーマ)を区別することが重要で、PPI内服中のガストリン測定は解釈に注意が必要です。長期投与ではECL細胞過形成や微量元素の吸収低下などにも配慮が求められます。ホルモンを単独で暗記するのではなくフィードバック系として理解することが、薬物の作用や検査値の解釈につながります。

解答・解説

正解はbです

プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、胃底腺の壁細胞にあるH+/K+-ATPase(プロトンポンプ)を不可逆的に阻害し、胃酸分泌の最終段階を止める薬剤である。代表薬にオメプラゾール、ランソプラゾール、エソメプラゾールなどがあり、消化性潰瘍、逆流性食道炎、Helicobacter pylori除菌などに用いられる。 本問を解く鍵は、胃酸分泌の負のフィードバック機構である。 ・胃前庭部(幽門部)のG細胞はガストリンを分泌し、ガストリンは壁細胞を直接刺激するとともに、ECL細胞(腸クロム親和性細胞様細胞)からのヒスタミン放出を促して胃酸分泌を高める。 ・胃内が十分に酸性になると、その酸がG細胞からのガストリン分泌を抑える(前庭部D細胞からのソマトスタチン分泌を介する経路も含む)。 PPIで胃酸が減ると胃内pHが上昇し、この「酸によるブレーキ」が外れるため、G細胞からのガストリン分泌が持続的に増加して高ガストリン血症となる。したがって血中濃度が上昇するのはガストリンである。

選択肢考察

  1. ×a.  グレリン

    誤り。グレリンは主に胃底腺の内分泌細胞(X/A様細胞)から分泌されるペプチドで、空腹時に上昇し、摂食を促すとともに下垂体からの成長ホルモン分泌を刺激する。摂食やソマトスタチンで分泌が抑制される。分泌の主な調節因子は栄養状態・摂食であり、胃酸のフィードバックを受けるホルモンではないため、PPI投与で上昇するものとしては挙げられない。

  2. ○b.  ガストリン

    正しい。ガストリンは胃前庭部G細胞から分泌され、壁細胞およびECL細胞を刺激して胃酸分泌を促す。胃内の酸はG細胞のガストリン分泌を抑えるという負のフィードバックが働いているが、PPIで酸分泌が抑えられるとこの抑制が外れ、ガストリン分泌が増えて高ガストリン血症となる。ガストリンにはECL細胞を増殖させる作用もあるため、長期の高ガストリン血症はECL細胞の過形成をきたし、動物実験ではカルチノイド(神経内分泌腫瘍)の発生が報告されている。なお同じ理由で、PPI服用中は血清ガストリン値が上昇するため、Zollinger-Ellison症候群(ガストリノーマ)の診断目的でガストリンを測定する際には解釈に注意が必要である。

  3. ×c.  ソマトスタチン

    誤り。ソマトスタチンは視床下部、膵ランゲルハンス島および消化管のD細胞から分泌され、ガストリン、セクレチン、インスリン、グルカゴンなど多くのホルモン分泌を抑制する「抑制性ホルモン」である。胃前庭部のD細胞は胃内の酸によって刺激されソマトスタチンを放出し、G細胞を抑えている。PPIで酸が減るとこの刺激が弱まるため、ソマトスタチンが上昇する方向には働かない(むしろ局所の分泌は減少する方向である)。

  4. ×d.  コレシストキニン

    誤り。コレシストキニン(CCK)は、ペプチド・アミノ酸・脂肪酸が十二指腸に流入すると上部小腸のI細胞から分泌される。胆嚢を収縮させOddi括約筋を弛緩させて胆汁排出を促すほか、膵酵素分泌の促進や胃排出の遅延作用をもつ。分泌刺激は食事成分であり、PPIによる胃酸抑制で血中濃度が上昇するホルモンではない。

  5. ×e.  グルカゴン類似ペプチド1〈GLP-1〉

    誤り。GLP-1は炭水化物や脂質の摂取に反応して主に下部小腸(回腸・大腸)のL細胞から分泌されるインクレチンである。血糖依存性にインスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌の抑制、胃排出の遅延、中枢性の食欲抑制などの作用をもつ。分泌は栄養素の刺激によるもので、PPIによって血中濃度が上昇するものではない。GLP-1受容体作動薬やDPP-4阻害薬は、この作用を利用した糖尿病治療薬である。

主な消化管ホルモンの整理

ガストリン:胃前庭部G細胞/刺激:蛋白質(ペプチド・アミノ酸)、胃の伸展、迷走神経(GRP)/抑制:胃内の酸、ソマトスタチン/作用:胃酸分泌促進、ECL細胞・胃粘膜の増殖 セクレチン:十二指腸S細胞/刺激:十二指腸内の酸/作用:膵からの重炭酸分泌促進、ガストリン分泌抑制 コレシストキニン:十二指腸・空腸I細胞/刺激:脂肪酸、アミノ酸/作用:胆嚢収縮、膵酵素分泌促進、胃排出遅延 ソマトスタチン:膵島・消化管D細胞、視床下部/作用:多くのホルモン分泌の抑制 GIP:十二指腸・空腸K細胞/作用:インクレチン作用 GLP-1:回腸・大腸L細胞/作用:インクレチン作用、食欲抑制、胃排出遅延 グレリン:胃底腺X/A様細胞/作用:摂食促進、成長ホルモン分泌刺激

高ガストリン血症をきたす主な状態

・酸分泌が低下しフィードバックが外れる状態:PPIの長期投与、萎縮性胃炎(特に自己免疫性胃炎=A型胃炎、悪性貧血) ・ガストリンが自律的に過剰産生される状態:ガストリノーマ(Zollinger-Ellison症候群)。この場合は胃酸分泌も亢進している点が前者と異なる。 ・その他:腎不全(ガストリンのクリアランス低下)など

PPI長期投与で注意すべき事項

高ガストリン血症とECL細胞過形成、ビタミンB12・鉄・マグネシウムの吸収低下(低Mg血症)、腸管感染症(Clostridioides difficile感染症など)のリスク上昇、骨折リスクとの関連などが指摘されている。

POINT

・PPIは壁細胞のH+/K+-ATPaseを阻害して胃酸分泌を抑える。 ・胃酸はG細胞のガストリン分泌を抑える(負のフィードバック)。 ・PPIで酸が減る→フィードバックが外れる→高ガストリン血症。 ・高ガストリン血症はECL細胞過形成の原因となる。 ・高ガストリン血症は「酸が少ない(PPI・萎縮性胃炎)」場合と「酸が多い(ガストリノーマ)」場合を区別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。