解剖室・書面・第4月・2人以上―「死」をめぐる法律は数字と言葉で引っかける
第110回医師国家試験 G問題 第19問
国試問題にチャレンジ
死に関連した事項について正しいのはどれか。
- a.死体の解剖は手術室で行わなければならない。
- b.系統解剖は生前に口頭で意思表示があれば行える。
- c.死産とは妊娠第6月以後における死児の出産である。
- d.臓器移植にかかわる脳死判定は主治医が1人で行う。
- e.臓器の移植に関する法律における臓器とは内臓と眼球とをいう。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
臓器移植法でいう「臓器」とは、心臓・肺・肝臓・腎臓・省令で定める内臓(膵臓・小腸)と眼球のことで、皮膚や心臓弁、骨などは「組織」として扱われます。死体の解剖は原則として特に設けた解剖室で行い(死体解剖保存法)、献体の意思は書面で表示する必要があります(献体法)。死産は妊娠第4月(満12週)以後の死児の出産で、周産期死亡の基準である22週とは区別が必要です。法的脳死判定は移植に関わらない2人以上の医師が2回行い、死亡時刻は第2回判定の終了時となります。これらの規定は病理解剖の依頼や臓器提供の説明など臨床の現場で直接求められる知識であり、数字と要件を正確に押さえることが大切です。
解答・解説
正解はeです
本問は、人の死に関わる法制度(死体解剖、献体、死産の定義、脳死判定、臓器移植)の基本事項を問う一般問題である。それぞれ根拠となる法令が異なるため、どの法律・規程が何を定めているかを対応づけて覚えておくことが大切である。
関係する主な法令
・死体解剖保存法:死体の解剖を行う場所、解剖を行う者の資格、遺族の承諾などを定める。 ・医学及び歯学の教育のための献体に関する法律(献体法):系統解剖のための献体の意思表示などを定める。 ・死産の届出に関する規程:死産の定義と届出義務を定める。 ・臓器の移植に関する法律(臓器移植法):移植に用いる「臓器」の範囲、脳死判定の手続き、臓器提供の要件を定める。
考え方
選択肢の「手術室」「口頭」「第6月」「主治医が1人」といった語は、本来の規定(解剖室、書面、第4月、移植に無関係な2人以上の医師)とずらしてあり、正確な規定を知っていれば誤りと判断できる。臓器移植法第5条は「臓器」を心臓・肺・肝臓・腎臓その他厚生労働省令で定める内臓および眼球と定義しており、これに合致する選択肢が正解となる。
選択肢考察
- ×a. 死体の解剖は手術室で行わなければならない。
誤り。死体解剖保存法第9条は、死体の解剖は特に設けた解剖室で行わなければならないと定めている。手術室は生きている患者の治療の場であり、解剖の場所として定められているのではない。例外として、特別の事情があり解剖を行う地の保健所長の許可を受けた場合や、刑事訴訟法に基づく司法解剖の場合は、解剖室以外での実施が認められる。
- ×b. 系統解剖は生前に口頭で意思表示があれば行える。
誤り。系統解剖とは、医学・歯学の学生が人体の正常な構造を学ぶために行う解剖で、その遺体は献体によって提供される。献体法では、献体の意思は本人が書面で表示することとされており、口頭の意思表示だけでは要件を満たさない。また、死体解剖保存法では原則として遺族の承諾が必要だが、献体法により、本人が書面で献体の意思を表示しており、かつ遺族が解剖を拒まない場合(または遺族がいない場合)には解剖を行うことができる。生前に大学などの献体登録団体へ書面で登録しておくのが一般的である。
- ×c. 死産とは妊娠第6月以後における死児の出産である。
誤り。死産の届出に関する規程では、死産を「妊娠第4月以後における死児の出産」と定義している。妊娠第4月は満12週0日以降にあたり、妊娠12週以降の死児の出産には死産届(死産後7日以内に市町村長へ)の提出が必要となる。ここでいう死児とは、出産後に心臓の拍動・随意筋の運動・呼吸のいずれも認めないものをいい、自然死産と人工死産(人工妊娠中絶のうち12週以降のものなど)の両方を含む。なお、妊娠22週以降の死産は周産期死亡の算定に用いられるので、死産の定義(12週以降)と混同しないように注意する。
- ×d. 臓器移植にかかわる脳死判定は主治医が1人で行う。
誤り。臓器移植法に基づく法的脳死判定は、脳死判定に必要な知識と経験を持つ2人以上の医師が行う。判定医は臓器の摘出や移植を行う医師とは別の、移植に関わらない医師でなければならない。これは判定の公正性と、提供者の利益を守るためである。判定は深昏睡、瞳孔の固定・散大、脳幹反射の消失、平坦脳波、自発呼吸の消失(無呼吸テスト)を確認する形で2回行い、第1回判定終了後、6歳以上では6時間以上、6歳未満では24時間以上あけて第2回判定を行う。死亡時刻は第2回判定の終了時とされる。
- ○e. 臓器の移植に関する法律における臓器とは内臓と眼球とをいう。
正しい。臓器移植法第5条は、この法律における「臓器」を、人の心臓、肺、肝臓、腎臓その他厚生労働省令で定める内臓および眼球と定義している。省令で定める内臓は膵臓と小腸である。したがって、法律上の臓器は内臓(心臓・肺・肝臓・腎臓・膵臓・小腸)と眼球からなる。脳死下で提供できるのは心臓・肺・肝臓・腎臓・膵臓・小腸・眼球(角膜)であり、心停止後に提供できるのは腎臓・膵臓・眼球(角膜)である。なお、皮膚・心臓弁・血管・骨などは「組織」として扱われ、この法律の臓器には含まれない。
解剖の種類
・系統解剖:医学・歯学教育のための正常解剖。献体による。 ・病理解剖:病死した患者の死因や病態、治療効果を明らかにするための解剖。遺族の承諾が必要。 ・司法解剖:犯罪が疑われる死体について、刑事訴訟法に基づき裁判所の鑑定処分許可状を得て行う。遺族の承諾は不要。 ・行政解剖(監察医解剖):犯罪性はないが死因が不明な死体について、死体解剖保存法第8条に基づき監察医が行う。遺族の承諾は不要。監察医制度のない地域では、遺族の承諾を得て承諾解剖として行われる。 ・調査法解剖:死因・身元調査法に基づき、警察署長の判断で行う解剖で、遺族の承諾は不要。
臓器移植法の改正(2009年改正、2010年施行)
・本人の意思が不明な場合でも、家族が書面で承諾すれば脳死下の臓器提供が可能となった。 ・これにより15歳未満の小児からの脳死下臓器提供も可能となった。 ・親族への優先提供の意思表示が認められた。 ・本人が書面で提供を拒否している場合は、家族が同意しても提供できない。
法的脳死判定の主な項目
(1) 深昏睡、(2) 瞳孔の固定と両側4 mm以上の散大、(3) 脳幹反射(対光反射、角膜反射、毛様脊髄反射、眼球頭反射、前庭反射、咽頭反射、咳反射)の消失、(4) 平坦脳波、(5) 自発呼吸の消失(無呼吸テスト)。判定の前提として、器質的脳障害で原因が確定していること、回復の可能性がないこと、薬物中毒・低体温・代謝内分泌障害などを除外することが求められる。生後12週未満(在胎週数40週未満の児は出産予定日から起算)の児は法的脳死判定の対象外である。
POINT
・死体の解剖は特に設けた解剖室で行う(死体解剖保存法第9条)。 ・献体(系統解剖)の意思表示は書面で行う(献体法)。 ・死産は妊娠第4月(満12週)以後の死児の出産。死産届は7日以内。 ・法的脳死判定は移植に無関係な2人以上の医師が2回行う(6歳以上は6時間以上、6歳未満は24時間以上の間隔)。死亡時刻は第2回判定終了時。 ・臓器移植法の「臓器」=心臓・肺・肝臓・腎臓・省令で定める内臓(膵臓・小腸)・眼球。
