思春期男子の止まらない鼻血―「触るな危険」の若年性血管線維腫
第110回医師国家試験 D問題 第48問
国試問題にチャレンジ
16歳の男子。鼻出血を主訴に来院した。2か月前から大量の鼻出血を繰り返しており,右の鼻閉もある。頰部痛や鼻漏はなく,視覚異常や体重減少もない。血液所見と血液生化学所見とに異常を認めない。右鼻腔内視鏡写真(A),副鼻腔造影CT(B)(C)及び手術時に摘出した組織のH-E染色標本(D)を別に示す。 考えられる疾患はどれか。

- a.上顎癌
- b.乳頭腫
- c.神経鞘腫
- d.血管線維腫
- e.悪性リンパ腫
対話形式の解説
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ドクターまとめ
思春期男子に片側性の鼻閉と反復する大量鼻出血がみられたら、まず若年性血管線維腫を考えます。鼻腔後部から上咽頭に造影で強く濃染する血流豊富な腫瘤があり、病理で線維性間質の中に多数の血管が増生していれば診断に合致します。上顎癌や内反性乳頭腫は中高年に多く、神経鞘腫は柵状配列、鼻腔の悪性リンパ腫は壊死や全身症状と異型リンパ球の増殖が特徴であり、年齢・画像・組織像で区別できます。本腫瘍は良性でも局所浸潤性が強く再発しやすいうえ、安易な生検は大出血の危険があるため、術前塞栓術を併用した外科的切除が治療の基本です。片側性の鼻症状を年齢から鑑別する考え方は、鼻腔腫瘍を見逃さないための重要な土台になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・16歳の男子(思春期の男性) ・2か月前から大量の鼻出血を繰り返し、右側(片側)の鼻閉を伴う ・頰部痛・鼻漏はない → 副鼻腔炎や上顎洞由来の悪性腫瘍を積極的に疑う所見に乏しい ・視覚異常・体重減少はなく、血液検査も正常 → 眼窩・頭蓋内への進展や全身性疾患(血液疾患、悪性リンパ腫など)を示唆する所見がない
画像・病理の読み方
・右鼻腔内視鏡(A): 鼻腔後方を占める表面平滑な赤色調の腫瘤で、表面に拡張した血管がみられる。上皮が乳頭状・不整に増殖する像ではない。 ・副鼻腔造影CT(B)(C): 右の鼻腔後部から上咽頭(後鼻孔付近)にかけて、造影剤で強く濃染する腫瘤がある。上顎洞内の陰影は軽度にとどまり、病変の主座は上顎洞ではない。 ・H-E染色標本(D): 線維性の間質(膠原線維と紡錘形細胞)のなかに、大小さまざまな形の血管が多数増生している。強い細胞異型や異型リンパ球のびまん性増殖はみられない。
診断へのプロセス
思春期男子に片側性の鼻閉と反復する大量鼻出血がみられた場合、まず若年性血管線維腫(juvenile nasopharyngeal angiofibroma: JNA)を想起する。CTで鼻腔後部〜上咽頭に強く造影される血流豊富な腫瘤があり、病理で「線維性間質+多数の血管」という本腫瘍の名前どおりの組織像が確認されることから、血管線維腫と診断できる。 設問は「考えられる疾患」を問うており、年齢・性別・症状・画像・病理のすべてが一致するものを選べばよい。
選択肢考察
- ×a. 上顎癌
上顎洞から発生する扁平上皮癌が主体で、中高年(50〜60歳代以降)の男性に多い。初期症状は片側の鼻閉・血性鼻漏・頰部痛や頰部腫脹、進行すると歯痛、眼球突出・複視などの眼症状が出る。本例は16歳と若く、頰部痛も鼻漏も視覚異常もない。CTでも上顎洞の陰影は軽度で、病変の中心は鼻腔後部〜上咽頭にあり骨破壊性の上顎洞腫瘍ではない。病理でも癌細胞の浸潤像はみられないため誤り。
- ×b. 乳頭腫
鼻副鼻腔の乳頭腫(特に内反性乳頭腫)は中高年男性の鼻腔外側壁に好発し、ヒトパピローマウイルス(HPV)の関与が知られる良性腫瘍である。片側性の鼻閉や鼻出血をきたしうるが、内視鏡では表面が凹凸のある桑実状・乳頭状の腫瘤として見え、病理では上皮細胞が乳頭状あるいは間質内へ内反性に増殖する。本例の表面平滑で血管の目立つ腫瘤、線維性間質と血管増生からなる組織像とは合わないため誤り。
- ×c. 神経鞘腫
神経鞘腫はSchwann細胞由来の良性腫瘍で、頭頸部では副咽頭間隙や頸動脈鞘周囲(迷走神経・交感神経由来など)に多く、鼻腔内の発生はまれである。発育は緩徐で、繰り返す大量の鼻出血をきたすことは通常ない。病理では紡錘形細胞が柵状配列をとるAntoni A領域と疎なAntoni B領域が特徴であり、本例の多数の血管増生を主体とする組織像とは異なるため誤り。
- ○d. 血管線維腫
若年性血管線維腫は、思春期前後(おおむね10〜20歳)の男性にほぼ限って発生する、上咽頭〜鼻腔後部(蝶口蓋孔付近)の血流豊富な良性腫瘍である。初発症状は片側性の鼻閉と反復する大量の鼻出血で、本例の年齢・性別・症状と一致する。造影CTで強く濃染する腫瘤が鼻腔後部〜上咽頭にあり、病理で線維性間質内に大小不同の血管が多数増生していることも本腫瘍に合致するため、これが正しい。
- ×e. 悪性リンパ腫
鼻腔に発生する悪性リンパ腫としては節外性NK/T細胞リンパ腫・鼻型が代表的で、鼻閉や鼻出血に加え、壊死を伴う潰瘍性病変、発熱・体重減少などの全身症状を伴うことが多い。本例には全身症状や血液検査異常がなく、病理でも異型リンパ球のびまん性増殖はみられないため誤り。
若年性血管線維腫(JNA)の概要
・好発: 10歳代の男性(思春期男子)。女性の発生は極めてまれで、アンドロゲンなど性ホルモンの関与が考えられている。 ・発生部位: 鼻腔後外側壁の蝶口蓋孔付近から生じ、鼻腔後部・上咽頭を占める。 ・性質: 組織学的には良性だが局所浸潤性が強く、翼口蓋窩・上顎洞・蝶形骨洞、さらに眼窩や頭蓋内へ進展することがある。切除後の再発も少なくない。 ・症状: 片側性の鼻閉、反復する大量鼻出血が初発症状。増大すると閉鼻声、耳管閉塞による耳閉感・滲出性中耳炎・難聴、頰部腫脹や眼球突出などをきたす。 ・画像: 造影CT/MRIで強く造影される腫瘤。翼口蓋窩への進展により上顎洞後壁が前方へ弯曲する所見(Holman-Miller徴候)が知られる。血管造影では主に外頸動脈系の顎動脈(特に蝶口蓋動脈)から栄養される濃染像を示す。 ・診断上の注意: 生検で大出血をきたす危険があるため、典型的な臨床像と画像所見がそろえば、安易な外来生検は避けるのが原則である。 ・治療: 外科的切除が第一選択(近年は内視鏡下鼻内手術が多い)。術中出血を減らすために術前に栄養血管の塞栓術を行うことが多い。切除困難例・残存例では放射線治療が考慮される。ホルモン療法が試みられたこともあるが標準治療ではない。
片側性の鼻出血・鼻閉をきたす腫瘍の鑑別(年齢の目安)
・思春期男子: 若年性血管線維腫 ・中高年: 上顎癌、内反性乳頭腫、悪性黒色腫 ・全年齢(成人に多い): 悪性リンパ腫(NK/T細胞リンパ腫)、上咽頭癌(EBウイルス関連) ・小児: 鼻腔異物(悪臭のある片側性鼻漏が特徴)
POINT
・思春期男子+片側性鼻閉+反復する大量鼻出血 → 若年性血管線維腫を第一に考える。 ・上咽頭〜鼻腔後部に、造影で強く濃染する腫瘤。病理は線維性間質+多数の血管増生。 ・良性だが局所浸潤性が強く再発しやすい。生検は大出血の危険があり慎重に。 ・治療は術前塞栓術を併用した外科的切除が基本。
