StudyMed医師国家試験

かゆくて眼をたたく、その先に―アトピー性皮膚炎が網膜剝離を招くしくみ

第110回医師国家試験 D問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第110回 D問題 第4問

アトピー性皮膚炎の眼合併症はどれか。

  1. a.角膜実質炎
  2. b.水晶体脱臼
  3. c.網脈絡膜萎縮
  4. d.閉塞隅角緑内障
  5. e.裂孔原性網膜剝離

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、アトピー性皮膚炎に伴う眼合併症を問う問題だ。皮膚の病気なのに、なぜ眼の奥まで影響が出るのか。そのしくみを理解しておくと、選択肢がすっと絞れるよ。
医学生医学生
アトピー性皮膚炎の眼の合併症というと、アレルギー性結膜炎くらいしか思い浮かびません。
ドクタードクター
結膜や角膜表面の炎症、つまりアトピー性角結膜炎も確かに合併症の一つだね。でも国家試験で特に大事なのは、もっと深いところの合併症なんだ。アトピー性皮膚炎の患者さんは、顔、とくにまぶたの周りに湿疹が出やすい。そうすると何をしてしまうと思う?
医学生医学生
かゆいので、眼をこすったり、たたいたりしてしまいそうです。
ドクタードクター
そこが鍵なんだ。かゆみのせいで眼をこする・たたく・押さえるといった行為が習慣になり、その慢性的な外力が眼球の中にまで影響を及ぼす。代表的なのが白内障と網膜剝離だよ。
医学生医学生
外力で網膜が剝がれるということは、外傷性の網膜剝離に近い感じでしょうか。
ドクタードクター
いい発想だね。繰り返しの外力で、網膜の最周辺部、鋸状縁の付近や毛様体扁平部に裂孔ができる。そこから液化した硝子体が網膜の下に流れ込んで剝がれるのが、裂孔原性網膜剝離だ。だからこれが正解になる。
医学生医学生
眼科の講義では、裂孔原性網膜剝離は中高年の後部硝子体剝離や強度近視で起こると習いました。
ドクタードクター
それが一般的な原因だね。それに対してアトピー性皮膚炎の網膜剝離は若い人に多く、両眼に起こることもあり、白内障を合併している例も多い。裂孔が最周辺部にあるから眼底検査で見つけにくく、白内障手術の前後に見つかることもあるんだ。治療は強膜バックリング手術や硝子体手術などの手術になる。
医学生医学生
では、角膜実質炎はどうですか。アトピー性角結膜炎で角膜が傷むなら、ありそうな気もします。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。アトピー性角結膜炎で障害されるのは角膜の表面、上皮のほうで、点状表層角膜症や角膜びらんが中心だ。角膜実質炎は角膜の中間層に炎症と血管侵入が起こるもので、古典的な原因は先天梅毒。Hutchinson三徴の一つとして覚えておこう。
医学生医学生
Hutchinson三徴は、角膜実質炎、内耳性難聴、Hutchinson歯でしたね。CBTの勉強で覚えました。
ドクタードクター
完璧だ。次に水晶体脱臼。アトピー性皮膚炎で問題になる水晶体の合併症は白内障、つまり混濁であって、位置がずれる脱臼ではない。水晶体脱臼はZinn小帯が弱くなる病気、たとえばMarfan症候群では上耳側、ホモシスチン尿症では下鼻側への偏位が典型的だ。
医学生医学生
網脈絡膜萎縮と閉塞隅角緑内障は、どちらもアトピーとは別の背景が浮かびます。
ドクタードクター
そうだね。網脈絡膜萎縮は強度近視、いわゆる病的近視に伴うものが最も一般的で、遺伝性疾患やぶどう膜炎の後遺症でも起こる。閉塞隅角緑内障は遠視眼や浅前房、高齢の女性に多く、隅角が狭いという構造上の素因が背景にある。アトピー性皮膚炎で隅角が狭くなることはないんだ。
医学生医学生
でも、アトピーの治療でステロイドを使うと緑内障になると聞いたことがあります。
ドクタードクター
鋭いね。眼の周りにステロイドの外用薬や点眼薬を長く使うと、眼圧が上がるステロイド緑内障を起こすことがある。ただしこれは隅角が開いたまま眼圧が上がる開放隅角型で、閉塞隅角緑内障とは機序がまったく違う。ステロイドは後嚢下白内障の原因にもなるから、治療に伴う合併症として別に整理しておこう。
医学生医学生
つまり、病気そのものによる合併症と、治療による合併症を分けて考えるんですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床での注意点だ。10〜30歳代の若い人に白内障や網膜剝離を見たら、背景にアトピー性皮膚炎がないかを必ず確認すること。アトピー白内障は前嚢下の盾状混濁が特徴的だ。そして予防の基本は、皮膚炎をしっかりコントロールして、眼をたたかない・こすらないように指導することだよ。
医学生医学生
皮膚科で顔の湿疹がひどい患者さんを診たら、眼科受診も勧めたほうがよさそうですね。
ドクタードクター
その意識が大切だ。飛蚊症や光視症、カーテンがかかったような視野欠損が出たら網膜剝離のサインだから、患者さん本人にも症状を伝えておくと早期発見につながるよ。

まとめ

アトピー性皮膚炎では、眼瞼周囲のかゆみから眼をこする・たたく行為が習慣化し、その外力によって若年者に白内障や裂孔原性網膜剝離が起こることが重要な眼合併症です。網膜剝離の裂孔は鋸状縁付近や毛様体扁平部など最周辺部に生じやすく、見つけにくい点にも注意が必要です。角膜実質炎は先天梅毒、水晶体脱臼はMarfan症候群やホモシスチン尿症、網脈絡膜萎縮は強度近視、閉塞隅角緑内障は浅前房などの解剖学的素因が代表的な背景であり、アトピー性皮膚炎の合併症ではありません。また、ステロイド使用に伴う開放隅角型の眼圧上昇や後嚢下白内障は、治療による合併症として区別して整理します。若年者の白内障や網膜剝離をみたらアトピー性皮膚炎を疑い、皮膚炎の治療と眼への外力を避ける指導で予防するという視点は、皮膚科と眼科をつなぐ臨床判断として役立ちます。

解答・解説

正解はeです

アトピー性皮膚炎では、顔面、とくに眼瞼(まぶた)周囲に湿疹が出やすく、強いかゆみのために眼をこする・たたく・押さえるといった行為が習慣化しやすい。この慢性的な機械的刺激(物理的外力)が、眼の深部にまで影響を及ぼす点が本疾患の眼合併症を理解する鍵である。 アトピー性皮膚炎の代表的な眼合併症は次のとおりである。 ・眼瞼皮膚炎、アトピー性角結膜炎(アレルギー性の結膜・角膜表面の炎症) ・白内障(アトピー白内障):若年で発症し、前嚢下に盾状の混濁をきたすのが特徴的である。後嚢下混濁もみられる。 ・網膜剝離:眼をたたく・こするなどの外力で網膜の最周辺部(鋸状縁付近)や毛様体扁平部に裂孔が生じ、そこから液化した硝子体が網膜下に入り込む「裂孔原性網膜剝離」となる。 ・円錐角膜:眼をこする習慣との関連が指摘されている。 ・ステロイド外用薬・点眼薬の使用に伴う眼圧上昇(ステロイド緑内障)や白内障にも注意が要る。 臨床的には、10〜30歳代の若い人に白内障や網膜剝離がみられたら、背景にアトピー性皮膚炎がないかを確認することが重要である。選択肢のうちこの代表的合併症にあたるのは裂孔原性網膜剝離である。

選択肢考察

  1. ×a.  角膜実質炎

    角膜実質炎は角膜の中間層である実質に炎症と血管侵入が起こるもので、先天梅毒(Hutchinson三徴の一つ)が古典的な原因である。そのほか結核、単純ヘルペスウイルス感染、Cogan症候群(角膜実質炎と内耳障害をきたす自己免疫性疾患)などでも起こる。アトピー性皮膚炎に伴うアトピー性角結膜炎では、点状表層角膜症や角膜びらんなど角膜表面(上皮)の障害はみられるが、実質炎を起こすことは通常ない。

  2. ×b.  水晶体脱臼

    アトピー性皮膚炎で問題になる水晶体の合併症は白内障(水晶体の混濁)であり、水晶体脱臼(水晶体を支えるZinn小帯が切れたり弱くなったりして水晶体の位置がずれる状態)は通常みられない。強い打撲などの外傷があれば起こりうるが、代表的な合併症ではない。水晶体脱臼(偏位)はMarfan症候群(典型的には上耳側へ偏位)、ホモシスチン尿症(典型的には下鼻側へ偏位)、眼球打撲などで生じる。

  3. ×c.  網脈絡膜萎縮

    網脈絡膜萎縮は網膜と脈絡膜が萎縮して薄くなる状態で、強度近視(病的近視)に伴うものが最も一般的である。そのほか、脳回状網脈絡膜萎縮(オルニチン代謝異常)やコロイデレミアなどの遺伝性疾患、ぶどう膜炎や外傷の後遺症として生じる。アトピー性皮膚炎の合併症としては通常みられない。

  4. ×d.  閉塞隅角緑内障

    閉塞隅角緑内障は、角膜と虹彩の間の隅角が狭く、房水の出口がふさがれて眼圧が上がる病態である。遠視眼、浅前房、高齢者(加齢で水晶体が厚くなる)、女性に多い。アトピー性皮膚炎では隅角の構造は基本的に正常で、隅角閉塞の素因にはならない。なお、アトピー性皮膚炎の治療で眼周囲にステロイドを長期使用した場合には、ステロイド緑内障(隅角は開放している開放隅角型の眼圧上昇)を起こすことがあるが、これは閉塞隅角緑内障とは機序が異なる。

  5. ○e.  裂孔原性網膜剝離

    アトピー性皮膚炎の患者は、かゆみのため眼をこすったり、たたいたりする行為を繰り返す。この外力が眼球に加わることで、網膜の最周辺部(鋸状縁付近)や毛様体扁平部に裂孔が生じ、裂孔から網膜下に液化硝子体が流れ込んで裂孔原性網膜剝離が起こる。若年者に多く、両眼性のこともあり、白内障を合併している例も多い。裂孔が最周辺部にあるため眼底検査で見つけにくいことがあり、白内障手術の前後に発見されることもある。治療は強膜バックリング手術や硝子体手術などの手術である。予防として、皮膚炎のコントロールと眼をたたかない・こすらない指導が重要である。

アトピー性皮膚炎の眼合併症のまとめ

・眼瞼:眼瞼皮膚炎、眉毛外側の脱落(Hertoghe徴候) ・結膜・角膜:アトピー性角結膜炎、円錐角膜 ・水晶体:アトピー白内障(若年発症、前嚢下の盾状混濁が特徴的。後嚢下混濁も) ・網膜:裂孔原性網膜剝離(鋸状縁付近や毛様体扁平部の裂孔) ・治療に伴うもの:ステロイド緑内障(開放隅角型の眼圧上昇)、ステロイド白内障(後嚢下混濁)

発症機序の考え方

白内障や網膜剝離の機序には、眼をこする・たたくといった機械的刺激に加え、アトピー素因に伴う炎症の関与も考えられている。いずれにしても、顔面の皮膚炎が重い患者ほど眼合併症の頻度が高い傾向があるため、皮膚症状をきちんと治療し、眼への外力を避けるよう指導することが予防の基本となる。

裂孔原性網膜剝離の一般的事項

症状は飛蚊症、光視症(光が走って見える)、視野欠損(カーテンがかかったように見える)、黄斑に及ぶと視力低下である。原因としては加齢に伴う後部硝子体剝離、強度近視、外傷、そしてアトピー性皮膚炎が重要である。

POINT

・アトピー性皮膚炎の代表的な眼合併症は白内障と裂孔原性網膜剝離である。 ・かゆみによって眼をこする・たたく外力が主な誘因であり、若年者に多い。 ・若年者の白内障・網膜剝離をみたらアトピー性皮膚炎を疑う。 ・ステロイド使用に伴う眼圧上昇(開放隅角型)・白内障にも注意する。 ・水晶体脱臼はMarfan症候群・ホモシスチン尿症、角膜実質炎は先天梅毒が代表。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。