悪い知らせは「聞く」ことから始まる―SPIKESモデルの核心
第110回医師国家試験 C問題 第5問
国試問題にチャレンジ
SPIKESモデルに基づく悪い知らせの伝え方について正しいのはどれか。
- a.疾患によって説明内容は一律である。
- b.説明は面談用の個室で行わなければならない。
- c.患者自身の病気に対する認識を聞くことが前提である。
- d.患者に話す内容について予め家族の許可を得てから行う。
- e.患者自身の考えを聞く前に十分に疾患の情報を伝えなければならない。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
ドクターまとめ
SPIKESは悪い知らせを伝えるための6段階のプロトコールで、Setting(環境設定)、Perception(認識の把握)、Invitation(知りたい意向の確認)、Knowledge(情報提供)、Emotions(感情への対応)、Strategy and Summary(方針とまとめ)からなります。核心は、情報提供の前に患者自身の病状認識と知りたい範囲を確かめ、それに合わせて内容や言葉を個別に調整することです。プライバシーへの配慮は重要ですが個室は必須ではなく、知る権利と自己決定権は本人にあるため、本人への説明に家族の許可は要りません。感情への対応にはNURSE、日本の患者の意向に基づくモデルとしてSHAREも知っておくとよいでしょう。悪い知らせの伝え方は、OSCEの医療面接から臨床現場まで一貫して求められる、医師の基本的なコミュニケーション能力です。
解答・解説
正解はcです
テーマ
悪い知らせ(bad news:がんの診断、再発、治療が効かないことなど、患者の将来の見通しを大きく悪い方へ変える情報)を伝えるためのコミュニケーション手法であるSPIKESモデルについて問う問題である。SPIKESはBaileらが2000年に提唱した6段階のプロトコールで、各段階の頭文字をとって名付けられている。
SPIKESの6段階
・S(Setting up:面談の準備・環境設定):プライバシーが保てる落ち着いた場所を確保し、同席者を確認し、着席して患者と向き合い、十分な時間をとる。 ・P(Perception:患者の認識の把握):説明の前に、患者が自分の病状をどのように理解しているかを開かれた質問で尋ねる。 ・I(Invitation:情報を知りたいという意向の確認):患者がどこまで、どの程度詳しく知りたいかを確認する。 ・K(Knowledge:知識・情報の提供):前置き(「残念なお知らせがあります」など)をしてから、専門用語を避け、患者の理解度に合わせて少しずつ情報を伝え、理解できているかを確かめながら進める。 ・E(Emotions:感情への対応):患者の感情(衝撃、怒り、悲しみなど)に気づいて言葉にし、共感的に応答する。 ・S(Strategy and Summary:今後の方針とまとめ):話した内容を要約し、今後の治療やケアの計画を患者と共有する。
正解を導く考え方
SPIKESの要点は、医師が一方的に情報を伝えるのではなく、患者の認識(P)と知りたいという意向(I)を確かめたうえで、それに合わせて情報提供(K)を行う点にある。患者の理解と実際の病状の間にどれだけ隔たりがあるかを把握しなければ、どこから、どの言葉で説明を始めるべきかが決まらない。したがって「患者自身の病気に対する認識を聞くこと」が情報提供の前提となる。
選択肢考察
- ×a. 疾患によって説明内容は一律である。
誤り。同じ疾患・同じ病期であっても、患者の病状の認識、理解力、知りたい情報の範囲、価値観や生活背景は一人ひとり異なる。SPIKESでは認識(P)と意向(I)を確認したうえで、それに合わせて説明の内容・量・順序・言葉を個別に調整する。疾患ごとに説明を一律にするという考え方は、この個別化の原則に反する。
- ×b. 説明は面談用の個室で行わなければならない。
誤り。Setting(環境設定)ではプライバシーが守られ、落ち着いて話せる環境を整えることが重要であり、面談室などの個室が望ましい。しかし「必ず面談用の個室でなければならない」わけではない。個室が確保できない場合でも、多床室ならカーテンを閉める、周囲に声が届かないよう配慮する、着席して視線を合わせる、電話などで中断されないようにするといった工夫により、適切な環境をつくることが求められる。
- ○c. 患者自身の病気に対する認識を聞くことが前提である。
正しい。SPIKESのP(Perception)にあたる。悪い知らせを伝える前に「ご自身では今の病状をどのように受け止めていますか」「これまでの検査についてどのように聞いていますか」などの開かれた質問で患者の理解を確認する。これにより、患者の誤解や過度な楽観・否認の有無、使っている言葉や理解の水準がわかり、実際の病状との隔たりを踏まえて、どこから、どのように説明を始めるかを決めることができる。
- ×d. 患者に話す内容について予め家族の許可を得てから行う。
誤り。自分の病状について知る権利と、それに基づいて治療を選ぶ権利(自己決定権)は患者本人にあり、本人への説明に家族の許可は必要ない。SPIKESのI(Invitation)で確認するのは、家族の意向ではなく、患者本人がどこまで知りたいかである。患者が希望すれば家族に同席してもらうことはできるが、家族の判断で本人への説明を制限することは、患者の自律性の尊重に反する。
- ×e. 患者自身の考えを聞く前に十分に疾患の情報を伝えなければならない。
誤り。SPIKESでは、情報の提供(K:Knowledge)は、患者の認識(P)と知りたいという意向(I)を確認した後に行う。患者の考えを聞かずに大量の情報を一方的に伝えると、理解が追いつかず強い精神的衝撃を与えたり、患者が望まない詳細まで告げてしまったりするおそれがある。情報は患者の反応と理解を確かめながら、少しずつ伝えるのが原則である。
SPIKESの各段階で用いる具体的な工夫
・Setting:同席者(家族など)を本人の希望に沿って決める。座って話し、ティッシュを用意するなど感情表出にも備える。時間の制約がある場合は事前に伝える。 ・Perception:「これまでの経過をどのように理解されていますか」などの開かれた質問を用いる。 ・Invitation:「検査結果について、どの程度詳しくお話ししましょうか」と尋ねる。詳しく知りたくない患者には、その意向を尊重し、知りたくなったときにいつでも尋ねられることを伝える。 ・Knowledge:「残念ですが」などの前置き(警告ショット)で心の準備を促し、平易な言葉を用い、少しずつ区切って説明する。 ・Emotions:沈黙を恐れず待ち、患者の感情を観察し、その感情と原因を言葉で確かめ、共感的な応答(「つらいお知らせでしたね」など)を返す。 ・Strategy and Summary:理解を確認しながら要点をまとめ、今後の選択肢や治療計画を話し合い、次回の面談予定や相談窓口を示す。
関連するコミュニケーションモデル
・SHARE:日本のがん患者の意向調査をもとに作られたモデル。S(Supportive environment:支持的な環境設定)、H(How to deliver the bad news:悪い知らせの伝え方)、A(Additional information:付加的な情報)、RE(Reassurance and Emotional support:安心感と情緒的サポート)の4要素からなる。 ・NURSE:感情への対応を具体化した技法。Naming(感情を名指す)、Understanding(理解を示す)、Respecting(敬意を示す)、Supporting(支援を表明する)、Exploring(さらに探索する)。
悪い知らせを受けた患者の心理
キューブラー・ロスの死の受容過程(否認、怒り、取引、抑うつ、受容)のように、患者は様々な心理的反応を示しうる。順序どおりに進むとは限らず、医療者は患者の反応を否定せず、継続的に支えることが求められる。
POINT
・SPIKES:Setting(環境設定)→ Perception(患者の認識の把握)→ Invitation(知りたい意向の確認)→ Knowledge(情報提供)→ Emotions(感情への対応)→ Strategy and Summary(方針とまとめ)。 ・情報提供の前に、患者の病状認識(P)と知りたい範囲(I)を確認するのが前提。 ・説明内容は患者ごとに個別化する。一律ではない。 ・プライバシーへの配慮が重要だが、個室は必須ではない。 ・知る権利・自己決定権は患者本人にあり、本人への説明に家族の許可は不要。
