歪んで見える世界の正体を暴け―加齢黄斑変性と蛍光眼底造影の役割
第110回医師国家試験 B問題 第41問
国試問題にチャレンジ
73歳の男性。左眼の視力低下と物が歪んで見えることとを主訴に来院した。症状は6か月前から始まり最近になって増悪したため受診した。矯正視力は右眼1.2,左眼0.3。左眼の眼底写真(A)と光干渉断層像(B)とを別に示す。右眼眼底に異常を認めない。 診断に有用な検査はどれか。

- a.色覚検査
- b.暗順応検査
- c.眼球超音波検査
- d.蛍光眼底造影検査
- e.網膜電図〈ERG〉検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
高齢者の片眼の視力低下と変視症は黄斑疾患を示唆し、黄斑部の出血やOCTでの網膜色素上皮下の隆起性病変があれば滲出型加齢黄斑変性を考えます。その本態は脈絡膜新生血管であり、存在や病型を確定するにはフルオレセインやインドシアニングリーンを用いた蛍光眼底造影検査が有用です。色覚検査は非特異的、暗順応検査やERGは網膜色素変性症など網膜全体の機能評価、眼球超音波検査は眼底が透見できない場合の評価に用いるもので、新生血管の描出には向きません。治療の第一選択は抗VEGF薬の硝子体内注射で、OCTによる経過観察、禁煙指導、Amslerチャートによる自己チェックも重要です。病態の本体を描出できる検査を選ぶという考え方は、眼科に限らず検査選択の基本になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
73歳男性。6か月前からの左眼の視力低下と変視症(物が歪んで見える症状)があり、最近増悪した。矯正視力は右1.2、左0.3で、眼鏡で矯正しても視力が出ないことから、屈折異常ではなく眼球内の器質的疾患が考えられる。右眼眼底は正常で、片眼性の病変である。
画像所見
眼底写真(A)では黄斑部に出血と、その周囲の滲出性変化がみられる。光干渉断層像(OCT:optical coherence tomography、近赤外光で網膜の断面を描出する検査)(B)では、黄斑部の網膜色素上皮(RPE)の下に脈絡膜新生血管と考えられる隆起性病変があり、網膜色素上皮が持ち上げられている。網膜下・網膜内の滲出液により黄斑の形状が乱れていることが、変視症の原因である。
診断と設問の考え方
高齢者、片眼の視力低下と変視症、黄斑部の出血、OCTでの網膜色素上皮下の隆起性病変という組み合わせから、滲出型加齢黄斑変性が最も考えられる。滲出型加齢黄斑変性の本態は、脈絡膜から伸びてきた異常な新生血管(脈絡膜新生血管、CNV:choroidal neovascularization)が網膜色素上皮の下や網膜下に入り込み、出血や滲出を起こすことである。したがって診断を確定するには、この新生血管の存在と広がりを描出できる検査が必要であり、それが造影剤を静注して眼底を撮影する蛍光眼底造影検査である。
選択肢考察
- ×a. 色覚検査
色覚検査は主に錐体(色を感じる視細胞)の機能を評価する検査で、先天色覚異常の判定や視神経疾患・黄斑疾患の機能評価に用いる。黄斑が障害されれば後天的な色覚異常を生じうるが、この所見はどの黄斑疾患でも起こりうる非特異的なものであり、脈絡膜新生血管の有無もわからないため、加齢黄斑変性の診断には結びつかない。
- ×b. 暗順応検査
暗順応検査は暗所での光覚閾値の回復過程を測定し、主に杆体(暗所で働く視細胞)の機能を評価する検査である。夜盲を主症状とする網膜色素変性症や先天停在性夜盲、ビタミンA欠乏症などの診断に用いる。黄斑部の新生血管を評価することはできない。
- ×c. 眼球超音波検査
眼球超音波検査(Bモード)は、成熟白内障や硝子体出血などで眼底が透見できない場合に、網膜剝離、硝子体混濁、眼内腫瘍などの有無を調べるのに有用である。しかし解像度が低く、黄斑部の微細な構造や新生血管の描出はできない。本例は眼底写真やOCTが撮影できており、眼底は透見可能であるため、行う意義は乏しい。
- ○d. 蛍光眼底造影検査
フルオレセイン(フルオレセイン蛍光眼底造影:FA)やインドシアニングリーン(インドシアニングリーン蛍光眼底造影:IA)を静注して眼底を連続撮影する検査である。FAは主に網膜血管と網膜色素上皮レベルの病変を、IAは網膜色素上皮より深い脈絡膜循環やポリープ状脈絡膜血管症の異常血管網・ポリープ状病巣を描出するのに優れる。脈絡膜新生血管は造影剤の早期の過蛍光とその後の蛍光漏出として描出され、その存在、位置、病型を確認することで滲出型加齢黄斑変性の確定診断と治療方針の決定に用いられる。
- ×e. 網膜電図〈ERG〉検査
網膜電図(ERG:electroretinogram)は光刺激に対する網膜の電気的反応を記録し、網膜全体の機能を評価する検査である。網膜色素変性症の診断や、眼底が透見できない場合の網膜機能評価に用いる。通常の全視野ERGは網膜全体の反応を反映するため、黄斑部という狭い範囲の病変は反映されにくく、新生血管の形態学的評価もできない。
加齢黄斑変性(AMD:age-related macular degeneration)
50歳以上に発症し、加齢に伴って黄斑部が障害される疾患である。日本では視覚障害の主要な原因の一つで、男性、喫煙が危険因子である。 ・萎縮型:網膜色素上皮と脈絡毛細血管板が徐々に萎縮する(地図状萎縮)。進行は緩徐で、日本では確立した治療はない。 ・滲出型:脈絡膜新生血管が網膜色素上皮下・網膜下に生じ、出血・滲出・網膜色素上皮剝離を起こす。進行が速く、日本ではこちらが多い。特殊型としてポリープ状脈絡膜血管症(PCV、日本人に多い)と網膜血管腫状増殖(RAP)がある。
症状
中心暗点、変視症、視力低下。変視症の検出にはAmslerチャート(格子状の図表で、線の歪みや欠けを自覚させる)が簡便である。
診断に用いる検査
・眼底検査:黄斑部の出血、滲出物(硬性白斑)、網膜色素上皮剝離、灰白色の新生血管膜。前駆病変としてドルーゼン(網膜色素上皮下の老廃物の沈着)。 ・OCT:網膜下液、網膜内浮腫、網膜色素上皮の隆起などを非侵襲的に評価でき、治療効果の判定にも繰り返し用いる。 ・蛍光眼底造影(FA・IA):脈絡膜新生血管の存在と病型の確定に必要。 ・OCTアンギオグラフィー(OCTA):造影剤を使わずに新生血管を描出でき、近年普及している。
治療
滲出型の第一選択は抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬の硝子体内注射である。PCVなどでは光線力学的療法(PDT)を併用することもある。萎縮型に対しては禁煙指導などを行う。
その他の検査の主な用途
色覚検査:先天色覚異常、視神経疾患。 暗順応検査・ERG:網膜色素変性症などの網膜変性疾患。 眼球超音波検査:中間透光体の混濁で眼底が見えないときの網膜剝離・眼内腫瘍の評価。
POINT
・高齢者の片眼の視力低下+変視症は黄斑疾患、特に加齢黄斑変性を考える。 ・滲出型加齢黄斑変性の本態は脈絡膜新生血管であり、その描出には蛍光眼底造影(FA・IA)が有用である。 ・OCTは網膜下液や網膜色素上皮の隆起の評価に、Amslerチャートは変視症の検出に用いる。 ・治療の第一選択は抗VEGF薬の硝子体内注射である。 ・暗順応検査・ERGは網膜色素変性症、超音波は眼底透見不良時の評価に用いる。
