StudyMed医師国家試験

夏に消える流行曲線―月別グラフからインフルエンザを見抜く季節性の読み方

第110回医師国家試験 B問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第110回 B問題 第25問

あるウイルス性疾患の我が国における月別発生数の傾向を示す。  この疾患はどれか。

第110回 B問題 第25問の問題画像
  1. a.水痘
  2. b.B型肝炎
  3. c.デング熱
  4. d.インフルエンザ
  5. e.アデノウイルス感染症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、月別の発生数グラフから疾患を当てる公衆衛生の問題だ。症状や検査値は一切出てこない。手がかりは「いつ増えて、いつ消えるか」という季節性だけ。グラフの形をどう読むかがすべてだよ。
医学生医学生
ピークが真冬で、夏の間はほとんどゼロになっていますね。冬に流行するウイルスといえば、まずインフルエンザが浮かびます。
ドクタードクター
いい第一印象だね。ただ国試では、直感で選ぶ前にほかの選択肢を一つずつ消していく習慣をつけたい。特に注目してほしいのは、冬に多いことに加えて「夏にほぼゼロになる」という季節差の極端さだ。
医学生医学生
水痘も冬に多いと習った気がします。小児科の講義で、保育園で冬から春にかけて流行するという話を聞きました。
ドクタードクター
水痘で迷うのは自然だよ。たしかに水痘は冬から初夏にかけてやや多く、晩夏から秋に少なくなる傾向がある。でも夏や秋にもそれなりの発生があって、ゼロに近づくほどの落ち込みは見られない。それに2014年に定期接種(2回接種)が始まってから、発生数自体が大きく減っている。
医学生医学生
なるほど、「多い時期がある」のと「それ以外の時期にほぼ消える」のは別物なんですね。B型肝炎はどうでしょう。
ドクタードクター
B型肝炎ウイルスは血液や体液を介して感染し、成人の急性B型肝炎では性行為が主な感染経路だ。こうした感染経路は気温や湿度に左右されないから、季節性はほとんどない。グラフにするとほぼ平坦になるはずだよ。
医学生医学生
デング熱は蚊が媒介するので、むしろ夏ですよね。
ドクタードクター
その通り。ネッタイシマカやヒトスジシマカが媒介し、国内の症例の大半は流行地からの輸入例だ。夏休みの海外渡航後の8〜9月ごろに多い。2014年には東京の公園を中心に約70年ぶりの国内感染が起きたけれど、これも蚊が活動する夏から秋だった。今回のグラフとは真逆だね。
医学生医学生
アデノウイルスは、プール熱のイメージがあるので夏に多い印象です。
ドクタードクター
よく覚えているね。アデノウイルスは血清型が多く、咽頭炎、咽頭結膜熱、流行性角結膜炎、胃腸炎、出血性膀胱炎など病型が多彩だ。通年で見られ、咽頭結膜熱は夏、流行性角結膜炎は夏から秋に増える。冬に集中して夏に消えるパターンには合わない。
医学生医学生
そうすると残るのはやはりインフルエンザですね。でも、なぜあそこまで冬に偏るんでしょうか。
ドクタードクター
いくつかの要因が重なっている。インフルエンザウイルスは低温・低湿度の環境で安定して感染力を保ちやすい。乾燥した空気は気道粘膜の線毛運動などの防御能も落とす。さらに冬は換気の悪い屋内に人が集まりやすく、飛沫や接触で広がりやすい。例年11〜12月に増え始め、1〜2月にピーク、3〜4月にかけて減り、夏にはほとんど見られなくなる。これがグラフにぴったり合うわけだ。
医学生医学生
季節性で整理すると、冬はインフルエンザやノロ、夏は手足口病やヘルパンギーナ、季節性なしは血液・性行為感染症、という分け方ができそうです。
ドクタードクター
まさにそれが使える整理だよ。付け加えると、RSウイルスは冬に多いとされてきたけれど近年は夏から秋に流行が前倒しされる傾向があるし、ロタウイルス胃腸炎は冬から春だ。夏は細菌性食中毒や日本脳炎などの蚊媒介感染症も増える。
医学生医学生
公衆衛生の講義で感染症発生動向調査を習いましたが、インフルエンザは定点把握でしたよね。
ドクタードクター
そう、感染症法では5類感染症の定点把握疾患で、指定された定点医療機関からの報告で流行状況を監視している。今回のようなグラフはまさにそのデータの姿だ。学校保健安全法では第二種感染症で、出席停止は「発症後5日を経過し、かつ解熱後2日(幼児は3日)を経過するまで」。これも頻出だよ。
医学生医学生
毎年ワクチンを打ち直すのは、ウイルスが少しずつ変わるからでしたね。
ドクタードクター
その通り。A型は抗原連続変異を毎年のように起こすので繰り返し流行し、ワクチン株も毎年選び直す。大きな抗原不連続変異が起きると、新型インフルエンザとしてパンデミックになりうる。臨床では、流行期の急な高熱と強い全身症状を見たらまずインフルエンザを考えるし、逆に夏場の発熱では他の疾患をより広く考える。季節性は診断の事前確率を左右する大切な情報なんだ。

まとめ

月別発生数のグラフで冬季に集中し、夏にはほぼゼロとなる極端な季節変動を示すウイルス性疾患はインフルエンザです。インフルエンザウイルスは低温・低湿度で安定し、乾燥による気道防御能の低下や屋内での密集も重なって、例年11〜12月に増え始め1〜2月にピークを迎えます。水痘は冬〜初夏にやや多いものの夏秋もゼロにはならず、B型肝炎など血液・性行為感染症には季節性がなく、デング熱などの蚊媒介感染症や咽頭結膜熱などのアデノウイルス感染症は夏に目立ちます。インフルエンザは感染症法の5類定点把握疾患であり、学校保健安全法の出席停止基準とあわせて押さえておきたいところです。感染症の季節性を整理しておくことは、公衆衛生の統計読解だけでなく、日常診療で鑑別診断の事前確率を見積もる力にもつながります。

解答・解説

正解はdです

感染症の季節性(どの時期に流行するか)をグラフから読み取り、疾患を推定する問題である。

グラフの読み取り

・1月が最多で、2月、3月と順に減少し、4〜5月にはごくわずかとなる。 ・6〜10月はほぼゼロである。 ・11月から再び増え始め、12月に急増する。 つまり「冬(12〜3月)に集中し、夏にはほとんど発生しない」という極めて明瞭な冬季型の季節変動を示している。

考え方

季節性の強さと流行時期から選択肢を絞る。性行為や血液を介して感染する疾患(B型肝炎)は季節にほとんど左右されない。蚊が媒介する疾患(デング熱)は蚊が活動する夏〜秋に集中する。アデノウイルス感染症は年間を通じてみられ、むしろ夏に目立つ病型がある。水痘は冬から初夏にかけて多いが、夏秋もゼロにはならず、ここまでの極端な季節差は示さない。これに対し、インフルエンザは低温・低湿度の環境でウイルスが安定し飛沫・接触で広がりやすいこと、冬は換気の乏しい屋内に人が集まることなどから、毎年冬季に流行し夏にはほぼ消失する。グラフの形はインフルエンザに最もよく合致する。

選択肢考察

  1. ×a.  水痘

    誤り。水痘(水ぼうそう、水痘・帯状疱疹ウイルスによる)は、我が国では冬から初夏(おおむね12〜7月)にやや多く、8〜10月ごろに少なくなる傾向がある。ただし夏秋にも一定数の発生がみられ、グラフのように6〜10月がほぼゼロになるほどの極端な季節変動は示さない。なお2014年に定期予防接種(2回接種)が導入されて以降、発生数は大きく減少している。

  2. ×b.  B型肝炎

    誤り。B型肝炎ウイルス(HBV)は血液や体液を介して感染し、成人の急性B型肝炎の主な感染経路は性行為である。このような感染経路は気温や湿度の影響を受けないため、明らかな季節性はみられない。冬に集中する本グラフとは合わない。

  3. ×c.  デング熱

    誤り。デング熱はデングウイルスによる蚊媒介感染症で、ネッタイシマカやヒトスジシマカが媒介する。我が国の症例の大半は流行地からの輸入例で、海外渡航が増える夏季休暇後の8〜9月ごろに多い。2014年には東京都内の公園などを中心に約70年ぶりの国内感染が発生したが、これも媒介蚊(ヒトスジシマカ)が活動する夏〜秋(8〜10月)であった。冬季に多い本グラフとは逆の傾向である。

  4. ○d.  インフルエンザ

    正しい。季節性インフルエンザは我が国では例年11〜12月ごろから患者が増え始め、1〜2月にピークを迎え、3〜4月にかけて減少し、夏季にはほとんど発生しない。インフルエンザウイルスは低温・低湿度の環境で感染力を保ちやすく、乾燥した空気は気道粘膜の防御能も低下させる。さらに冬は人が屋内に密集しやすいことも流行を後押しする。グラフの「12〜3月に集中し、6〜10月はほぼゼロ」という形に合致する。

  5. ×e.  アデノウイルス感染症

    誤り。アデノウイルスは多くの血清型があり、咽頭炎、咽頭結膜熱、流行性角結膜炎、胃腸炎、出血性膀胱炎など多彩な病型を示す。通年で発生がみられ、特に咽頭結膜熱(いわゆるプール熱)は夏季に、流行性角結膜炎は夏から秋にかけて増える傾向がある。冬に集中し夏にほぼゼロとなる本グラフとは合わない。

主な感染症の季節性(我が国)

・冬に多い: インフルエンザ、RSウイルス感染症(近年は夏〜秋に流行が前倒しされる傾向もある)、ノロウイルスによる感染性胃腸炎(初冬〜冬)、ロタウイルス胃腸炎(冬〜春)、マイコプラズマ肺炎(秋〜冬に多いが通年性)。 ・夏に多い: 手足口病、ヘルパンギーナ、咽頭結膜熱(いわゆる夏かぜ)、腸管出血性大腸菌感染症などの細菌性食中毒、日本脳炎・デング熱などの蚊媒介感染症。 ・明らかな季節性がない: B型肝炎・C型肝炎・HIV感染症・梅毒などの血液・性行為感染症。

インフルエンザの基礎事項

・A型・B型が季節性流行を起こす。A型は抗原の小変異(抗原連続変異)を毎年のように起こすため、繰り返し流行し、ワクチンも毎年株を選び直す。大変異(抗原不連続変異)が起こると新型インフルエンザとして世界的大流行(パンデミック)になりうる。 ・潜伏期は1〜3日程度で、急な高熱、悪寒、頭痛、筋肉痛・関節痛などの全身症状が強い。 ・感染症法では5類感染症(定点把握)に位置づけられ、指定された定点医療機関からの報告で流行状況が監視される。 ・学校保健安全法では第二種の感染症で、出席停止期間は「発症した後5日を経過し、かつ解熱した後2日(幼児は3日)を経過するまで」である。

POINT

・インフルエンザは11〜12月に増え始め1〜2月にピーク、夏はほぼ発生しない典型的な冬季流行型である。 ・蚊媒介感染症(デング熱など)は夏〜秋、咽頭結膜熱などアデノウイルス感染症は夏に目立つ。 ・血液・性行為感染症(B型肝炎など)には季節性がない。 ・水痘は冬〜初夏にやや多いが、夏秋もゼロにはならない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。