出発まで1か月―アフリカ渡航前の健康相談で伝えるべき「備え」と「誤解の訂正」
第110回医師国家試験 A問題 第53問
国試問題にチャレンジ
21歳の男性。海外渡航前の健康相談を目的として来院した。大学のサークル活動で学校建設を支援するため,1か月後から2週間アフリカ東部に滞在する予定という。生来健康であるが予防接種歴や感染症の既往歴については良く覚えていない。 医師のアドバイスとして適切なのはどれか。2つ選べ。
- a.「母子健康手帳で予防接種歴を確認しましょう」
- b.「下痢をしたら十分な水分補給を心がけて下さい」
- c.「動物に咬まれても犬以外なら狂犬病は発病しません」
- d.「蚊で媒介される感染症はワクチンを使っても予防できません」
- e.「渡航先で罹った感染症なら帰国後1週間以内に発症するはずです」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
海外渡航前の健康相談では、渡航前・渡航中・帰国後の3つの時期に分けて助言を整理します。渡航前は母子健康手帳などで予防接種歴を確認し、不足分の追いつき接種と、黄熱・A型肝炎・狂犬病など渡航先に応じたワクチンを計画しますが、複数回接種や接種間隔の制約があるため早めの相談が望まれます。渡航中は飲食物の衛生、防蚊対策、動物との接触回避が基本で、旅行者下痢症では脱水予防のための水分・電解質補給が対処の中心です。狂犬病は犬以外の哺乳類からも感染し、黄熱のようにワクチンで予防できる蚊媒介感染症もあり、潜伏期間は数週〜数か月に及ぶものもあるため、帰国後の発熱では時期を問わず渡航歴を伝えて受診するよう指導します。こうした誤解を正す視点は、国試だけでなく日常診療で渡航歴を問診する意義の理解にもつながります。
解答・解説
正解はa, bです
状況の整理
・21歳の健康な男性が、1か月後から2週間、アフリカ東部へ渡航する予定である。学校建設の支援活動であり、屋外作業や地域住民・動物との接触が想定される。 ・予防接種歴と感染症の既往歴が不明である。
考え方
渡航前の健康相談(トラベルクリニック)では、次の3点を整理して助言する。 1. 渡航前: 予防接種歴を確認し、定期接種の不足分の追いつき接種と、渡航先に応じた任意接種(黄熱、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病、破傷風、髄膜炎菌など)を計画する。ワクチンによっては複数回接種が必要で、効果発現まで時間がかかるため、出発まで1か月という時期は計画を急ぐ必要がある。マラリア流行地では予防内服の要否も検討する。 2. 渡航中: 飲食物の衛生(生水・生ものを避ける)、蚊などの節足動物に刺されない対策(長袖・忌避剤・蚊帳)、動物に近づかない、旅行者下痢症などへの対処を指導する。 3. 帰国後: 感染症によって潜伏期間が大きく異なるため、帰国後しばらくして発熱などが出た場合は渡航歴を伝えて受診するよう説明する。 本問では、これらの原則に合致する助言を選ぶ。
選択肢考察
- ○a. 「母子健康手帳で予防接種歴を確認しましょう」
本人が予防接種歴を覚えていない場合、小児期の定期接種の記録が残る母子健康手帳を確認するのが最も確実である。麻疹・風疹、破傷風(DPTなど)、ポリオ、日本脳炎、B型肝炎などの接種状況を把握し、不足分の追加接種や渡航用ワクチンの計画を立てる基礎となる。
- ○b. 「下痢をしたら十分な水分補給を心がけて下さい」
途上国への渡航で最も多い健康問題の一つが旅行者下痢症(細菌・ウイルス・原虫などによる感染性腸炎)である。多くは自然軽快するが、脱水が主な問題となるため、水分と電解質の補給(経口補水液など)が対処の基本となる。高熱、血便、激しい症状が続く場合は医療機関を受診するよう併せて伝える。
- ×c. 「動物に咬まれても犬以外なら狂犬病は発病しません」
狂犬病ウイルスは犬だけでなく、猫、キツネ、アライグマ、スカンク、コウモリ、サルなど哺乳類全般に感染し、これらに咬まれたり引っかかれたりしても感染しうる。発症するとほぼ100%死亡するため、流行地で動物に咬まれた場合は傷口を石けんと流水でよく洗い、速やかに医療機関で曝露後予防(ワクチン接種、必要に応じて抗狂犬病免疫グロブリン)を受ける必要がある。動物との接触が予想される渡航では、曝露前の予防接種も検討される。
- ×d. 「蚊で媒介される感染症はワクチンを使っても予防できません」
アフリカ(東部の一部を含む)で流行する黄熱は、ネッタイシマカなどの蚊が媒介するウイルス感染症であるが、弱毒生ワクチンで有効に予防でき、入国時に接種証明書(イエローカード)を求める国もある。同じく蚊が媒介する日本脳炎にもワクチンがある。マラリアのように渡航者向けワクチンがなく予防内服や防蚊対策で対処する感染症もあるが、蚊媒介感染症がすべてワクチンで予防できないというのは誤りである。
- ×e. 「渡航先で罹った感染症なら帰国後1週間以内に発症するはずです」
潜伏期間は感染症ごとに大きく異なる。例えば熱帯熱マラリアは通常1~4週間、三日熱・卵形マラリアは肝内に休眠体が残るため数か月以上たって発症することがあり、A型肝炎は約1か月、狂犬病は通常1~3か月、B型肝炎は1~6か月程度である。帰国後1週間を過ぎて発症する感染症は多く、発熱などがあれば時期にかかわらず渡航歴を伝えて受診するよう指導すべきである。
渡航前に検討する主な予防接種
・定期接種の確認と追いつき接種: 麻疹・風疹、破傷風、ポリオ、日本脳炎など。 ・渡航先・活動内容に応じた任意接種: 黄熱、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病、髄膜炎菌、腸チフスなど。 ・黄熱ワクチン: 弱毒生ワクチン。1回接種で、国際証明書(イエローカード)は接種10日後から有効となる。2016年以降、証明書の有効期間は生涯とされている。国内では検疫所など限られた施設で接種する。 ・不活化ワクチンは複数回接種が必要なものが多く、生ワクチン同士を別の日に接種する場合は27日以上の間隔をあける必要がある。このため渡航が決まったら早めに相談することが望ましい。
渡航中の注意
・飲食物: 加熱調理したものを食べ、生水・氷・生野菜・カットフルーツなどは避ける。 ・防蚊対策: 長袖・長ズボン、虫よけ剤(ディートなど)、蚊帳。マラリア流行地では予防内服も検討する。 ・動物: 野犬やサルなどに近づかない。咬傷時は直ちに洗浄し曝露後予防を受ける。
帰国後の注意
・発熱、下痢、発疹などの症状が出た場合は渡航歴を医師に伝える。熱帯熱マラリアは急速に重症化しうるため、流行地からの帰国者の発熱は早期に鑑別が必要である。 ・空港などの検疫所では帰国時の健康相談を受け付けている。
POINT
・渡航前相談では予防接種歴の確認(母子健康手帳)と、渡航先に応じたワクチン計画を行う。 ・旅行者下痢症の対処の基本は水分・電解質補給。 ・狂犬病は犬以外の哺乳類(コウモリ、猫、キツネ、サルなど)からも感染する。 ・黄熱は蚊が媒介するがワクチンで予防できる。 ・潜伏期間は疾患によりさまざまで、帰国後数週~数か月で発症するものもある。
