StudyMed医師国家試験

リンパ節転移は「取れる」、気管・大動脈・遠隔転移は「取れない」―進行食道癌の手術適応を見極める

第110回医師国家試験 A問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第110回 A問題 第12問

進行食道癌で認める因子のうち原発巣を含めた切除術の適応となるのはどれか。

  1. a.肝転移
  2. b.脳転移
  3. c.気管浸潤
  4. d.大動脈浸潤
  5. e.所属リンパ節転移

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、進行食道癌のどんな因子があっても手術で原発巣を切除できるのか、という治療方針の問題だ。考えるポイントは2つ。「癌を取り残さずに切除できるか」と「切除で予後が良くなるか」。この物差しで各因子を見ていこう。
医学生医学生
進行癌というだけで手術できないイメージがありました。リンパ節に転移していたら、もう全身に広がっているのではないでしょうか。
ドクタードクター
そこが一番の誤解ポイントだね。食道癌の根治手術は、もともと食道切除とリンパ節郭清がセットなんだ。癌の占居部位ごとに郭清すべき所属リンパ節の範囲が決まっていて、頸部・胸部・腹部の3領域郭清などが定型的に行われている。
医学生医学生
つまり、所属リンパ節転移は最初から手術で取り除く範囲に入っている、ということですか。
ドクタードクター
その通り。郭清範囲内の転移なら一緒に切除できるから、遠隔転移や切除不能な浸潤がなければ手術の対象になる。これが正解だ。日本では切除可能なStage II・IIIに対して、術前化学療法を行ってから食道切除とリンパ節郭清をするのが標準治療なんだ。
医学生医学生
消化器外科の実習で、食道癌の手術が朝から夕方まで続いたのを覚えています。首とお腹にも創があって驚きました。
ドクタードクター
食道癌は粘膜下層に達するとリンパ節転移の頻度が高くなって、頸部から腹部まで広く転移しやすい。だから3領域にまたがる大きな手術になるんだね。では、肝転移や脳転移はどうだろう。
医学生医学生
肝転移は血行性の遠隔転移なのでM1、Stage IVBですね。手術しても意味がない気がします。
ドクタードクター
そう。遠隔臓器転移があるということは、癌がすでに全身に広がっていると考えられる。原発巣だけ取っても予後は改善しないから、全身化学療法が中心になる。脳転移も同じM1で、脳の病変には個数や症状に応じて定位放射線照射や全脳照射を組み合わせる。通過障害がつらい場合はステントや放射線で緩和を図るよ。
医学生医学生
気管浸潤と大動脈浸潤は遠隔転移ではないので、周りごと取ればいいのでは、と一瞬思いました。
ドクタードクター
直接浸潤だから局所の問題ではあるけれど、気管・気管支、大動脈、椎体などへの浸潤はT4bといって「切除不能な周囲臓器浸潤」に分類される。合併切除で根治を得るのは困難だし、大動脈なら致死的出血の危険もあり、侵襲が大きすぎる。だから初回治療は根治的化学放射線療法になるんだ。
医学生医学生
T4aとT4bの違いは何でしたっけ。CBTの勉強のときに曖昧なまま流してしまいました。
ドクタードクター
T4aは胸膜・心膜・横隔膜・肺・奇静脈など、合併切除できる周囲臓器への浸潤。T4bは大動脈・気管・気管支・肺動静脈・椎体など切除できない臓器への浸潤だ。食道には漿膜がないから、外膜を越えるとすぐ周囲臓器に浸潤しやすいという解剖学的特徴も一緒に覚えておこう。
医学生医学生
胃や大腸と違って漿膜がないから、局所進行しやすいんですね。T4bでは手術の可能性はまったくないんですか。
ドクタードクター
化学放射線療法がよく効いて腫瘍が縮小し、切除可能になった場合には、コンバージョン手術を検討することがある。それから気管浸潤例では、治療経過中に食道気管瘻を生じることがあるから、咳込みや誤嚥性肺炎には注意が必要だよ。
医学生医学生
整理すると、所属リンパ節転移は郭清で取れるから手術適応、遠隔転移は全身病なので化学療法、T4bは切除不能なので化学放射線療法、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に治療全体を俯瞰しておこう。上皮や粘膜固有層にとどまる表在癌なら内視鏡的切除、切除可能なStage II・IIIなら術前化学療法+手術。術前化学療法は以前はシスプラチン+5-FUだったけれど、臨床試験の結果を受けて現在はドセタキセルを加えた3剤併用が推奨されている。手術を望まない人や耐術能が低い人には根治的化学放射線療法が選ばれる。
医学生医学生
食道癌は高齢で飲酒・喫煙歴のある人が多いので、耐術能の評価も大事そうですね。
ドクタードクター
いい視点だね。日本の食道癌は大部分が扁平上皮癌で胸部中部食道に好発し、喫煙と飲酒、特にお酒で顔が赤くなる体質の人の飲酒がリスクになる。心肺機能や栄養状態も含めて、腫瘍の進行度と患者さんの状態の両面から治療を選ぶことが大切だよ。

まとめ

進行食道癌の手術適応は、癌を取り残さず切除できるか、切除で予後改善が見込めるかで判断します。所属リンパ節転移は頸部・胸部・腹部の定型的な郭清範囲に含まれるため、遠隔転移や切除不能浸潤がなければ切除の対象となり、日本ではStage II・IIIに術前化学療法を行ったうえで食道切除術とリンパ節郭清を行うのが標準です。一方、肝転移や脳転移などの遠隔臓器転移(M1)は全身化学療法が中心となり、気管・大動脈・椎体などへの浸潤(T4b)は切除不能として根治的化学放射線療法が選択されます。食道には漿膜がなく周囲臓器へ浸潤しやすいこと、T4aとT4bの区別も合わせて押さえておきましょう。TNMの各因子を「切除できるか」という視点で読み解く力は、食道癌に限らず固形癌の治療方針を理解する基本になります。

解答・解説

正解はeです

進行食道癌のうち、原発巣を含めた外科切除(食道切除術+リンパ節郭清)の対象となるのはどのような病態かを問う問題である。 食道癌の進行度はTNM分類で評価する。T因子は壁深達度(どの層まで、あるいは周囲のどの臓器まで癌が及んでいるか)、N因子は所属(領域)リンパ節転移、M因子は遠隔転移を表す。手術適応を考えるうえでの基本は次の2点である。 ・癌を肉眼的にも顕微鏡的にも取り残さずに切除できるか(根治切除が可能か) ・切除によって予後の改善が見込めるか 遠隔臓器転移(M1)がある場合は、癌がすでに全身に広がっていると考えられるため、原発巣を切除しても予後は改善せず、全身化学療法などが選択される。また、気管・気管支、大動脈、椎体など切除できない周囲臓器へ浸潤している場合(T4b)は、合併切除による根治が困難で手術リスクも極めて高いため、初回治療としては根治的化学放射線療法が選ばれる。 一方、所属リンパ節転移は、食道癌手術ではもともと郭清(リンパ節をまとめて取り除くこと)の対象として定型化された範囲に含まれている。したがって、所属リンパ節転移があっても遠隔転移や切除不能な浸潤がなければ、切除可能な進行癌として手術の対象となる。日本では切除可能なStage II・IIIの食道癌に対し、術前化学療法を行ったうえで食道切除術とリンパ節郭清を行うのが標準治療である。

選択肢考察

  1. ×a.  肝転移

    肝転移は血行性の遠隔臓器転移(M1)であり、Stage IVBに相当する。癌が全身に広がった状態であるため、原発巣を切除しても予後の改善は期待できず、初回治療として手術は選択されない。全身化学療法(フッ化ピリミジン系薬とプラチナ製剤の併用に免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせるレジメンなど)が中心となり、通過障害などの症状にはステントや放射線治療による緩和を行う。

  2. ×b.  脳転移

    脳転移も遠隔臓器転移(M1)であり、肝転移と同様に原発巣切除の適応とはならない。治療は全身化学療法が基本で、脳転移巣に対しては定位放射線照射や全脳照射などを症状や個数に応じて行う。

  3. ×c.  気管浸潤

    気管・気管支への浸潤はT4b(切除不能な隣接臓器浸潤)に分類される。食道とともに気管を合併切除して根治を得ることは困難で、侵襲も極めて大きいため、初回治療としての手術適応はない。根治的化学放射線療法が選択され、治療後に腫瘍が縮小して切除可能となった場合に手術(コンバージョン手術)を検討することがある。なお、気管浸潤例では治療経過中に食道気管瘻を生じることがあり注意を要する。

  4. ×d.  大動脈浸潤

    大動脈への浸潤も気管浸潤と同じくT4bであり、切除不能と判断される。大動脈を合併切除して根治を得ることは現実的でなく、致死的出血の危険もあるため、初回治療は根治的化学放射線療法となる。

  5. ○e.  所属リンパ節転移

    食道癌の根治手術では、原発巣の占居部位(頸部・胸部・腹部食道)ごとに郭清すべき所属リンパ節の範囲が定められており、頸部・胸部・腹部の3領域郭清などが定型的に行われる。所属リンパ節転移はこの郭清範囲内で取り除くことができるため、遠隔転移や切除不能な臓器浸潤がなければ切除の適応となる。日本では、所属リンパ節転移を伴う切除可能なStage II・III症例に対し、術前化学療法(かつてはシスプラチン+5-FU、現在はドセタキセルを加えた3剤併用療法が推奨される)の後に食道切除術とリンパ節郭清を行うのが標準である。

食道癌のTNM分類の要点(T因子)

・T1a:粘膜内にとどまる T1b:粘膜下層まで ・T2:固有筋層まで T3:外膜まで ・T4a:胸膜・心膜・横隔膜・肺・胸管・奇静脈・神経など(切除可能な周囲臓器) ・T4b:大動脈・気管・気管支・肺静脈・肺動脈・椎体など(切除不能な周囲臓器) 食道には漿膜がないため、外膜を越えると周囲臓器へ浸潤しやすい。

治療方針の概略

・粘膜内にとどまる表在癌(T1aのうち上皮・粘膜固有層まで):内視鏡的切除(EMR・ESD) ・切除可能なStage II・III:術前化学療法+食道切除術+リンパ節郭清。手術を希望しない例や耐術能が低い例では根治的化学放射線療法 ・切除不能局所進行(T4b):根治的化学放射線療法(効果があればコンバージョン手術を検討) ・遠隔転移(Stage IVB):全身化学療法、緩和的治療

食道癌の特徴

日本では扁平上皮癌が大部分を占め、胸部中部食道に好発する。危険因子は喫煙と飲酒(特にアルコール代謝酵素の活性が低い人の飲酒)である。粘膜下層に達するとリンパ節転移の頻度が高くなり、頸部から腹部まで広範囲に転移しやすいことが、3領域郭清が行われる理由である。

POINT

・所属リンパ節転移は郭清範囲内で切除可能 → 手術適応あり(術前化学療法+食道切除+郭清) ・遠隔臓器転移(肝・脳・肺・骨など、M1)→ 手術適応なし、全身化学療法 ・気管・大動脈・椎体への浸潤(T4b)→ 切除不能、根治的化学放射線療法 ・食道には漿膜がなく、周囲臓器へ浸潤しやすい

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。