小児頭大でも痛くない精巣―AFPが告げる非セミノーマと後腹膜への転移
第109回医師国家試験 I問題 第75問
国試問題にチャレンジ
31歳の男性。右陰嚢腫大を主訴に来院した。1年前から右陰嚢腫大に気付いていたが,疼痛を自覚しないため様子をみていた。1か月前から陰嚢腫大が増悪してきたため受診した。身長172 cm,体重60 kg。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。外陰部では右精巣が小児頭大に腫大しているが圧痛を認めない。血液生化学所見:LD 658 IU/L(基準176~353),hCG 12 mIU/mL,α-フェトプロテイン〈AFP〉64 ng/mL(基準20以下)。胸部CTと頭部MRIとに異常を認めない。腹部造影CTを別に示す。 この患者について正しいのはどれか。2つ選べ。

- a.右陰嚢に透光性を認める。
- b.所属リンパ節転移を認める。
- c.5年生存率は50%と予想される。
- d.精巣の針生検で組織診断を決定する。
- e.予測される組織型は非セミノーマである。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
若年男性の無痛性の精巣腫大では精巣腫瘍を疑い、超音波で充実性腫瘤を確認するとともにLD・hCG・AFPを測定します。純粋なセミノーマはAFPを産生しないため、AFP上昇は非セミノーマ(または非セミノーマ成分を含む混合型)を示し、hCGの軽度上昇だけでは両者を区別できません。精巣は後腹膜で発生して下降するため所属リンパ節は傍大動脈などの後腹膜リンパ節であり、腫瘍は充実性なので透光性は陰性、組織診断は経陰嚢的な針生検ではなく高位精巣摘除術で行います。シスプラチンを含む化学療法がよく効くため、リンパ節転移を伴う症例でも5年生存率はおおむね80%以上と良好です。腫瘍マーカーの意味、リンパ流の発生学的背景、診断手技の禁忌を結びつけて理解することが、精巣腫瘍の診療全体を把握する近道になります。
解答・解説
正解はb, eです
所見の整理
・31歳男性:精巣腫瘍(胚細胞腫瘍)の好発年齢(20〜40歳代、発症の中央値は30歳代)に一致する。 ・1年前からの無痛性の右陰嚢腫大が、1か月前から急に増大:炎症(精巣上体炎・精巣炎)や精巣捻転のような急性で痛みを伴う疾患は考えにくく、腫瘍性の増大が疑われる。 ・右精巣が小児頭大、圧痛なし:精巣そのものが充実性に大きく腫れている。 ・LD〈乳酸脱水素酵素〉658 IU/L:基準上限(353)の約1.9倍。腫瘍量(tumor burden)を反映する。 ・hCG〈ヒト絨毛性ゴナドトロピン〉12 mIU/mL:軽度上昇。 ・AFP〈α-フェトプロテイン〉64 ng/mL:上昇。 ・胸部CT・頭部MRIに異常なし:肺転移・脳転移はない。 ・腹部造影CT:腹部大動脈の周囲(傍大動脈・後腹膜)に腫大したリンパ節があり、リンパ節転移と判断できる。
診断へのプロセス
若年男性の無痛性精巣腫大で、LD・hCG・AFPという精巣腫瘍の3つの腫瘍マーカーが上昇しているので、精巣腫瘍(胚細胞腫瘍)と考える。陰嚢内の腫大は頻度としては陰嚢水瘤などの良性疾患が多いが、精巣実質の充実性腫大では常に精巣腫瘍を念頭に置き、まず超音波検査で充実性か液体貯留かを確認する。 組織型の推定にはAFPが鍵となる。AFPは卵黄嚢腫瘍(yolk sac tumor)や胎児性癌などの非セミノーマ成分から産生され、純粋なセミノーマでは上昇しない。したがってAFP上昇は非セミノーマ(または非セミノーマ成分を含む混合型)を意味する。 病期は、所属リンパ節である後腹膜(傍大動脈)リンパ節への転移があり、肺・脳などの遠隔転移を認めないことからstage II(日本泌尿器科学会分類)に相当する。
設問の考え方
「この患者について正しいもの」を2つ選ぶ。陰嚢の診察所見(透光性)、CTでの転移の有無、予後、組織診断の方法、組織型の推定という、精巣腫瘍の診療の流れを一通り問う問題である。
選択肢考察
- ×a. 右陰嚢に透光性を認める。
誤り。透光性試験は、暗室で陰嚢の後方からペンライトなどの光を当て、陰嚢内が明るく透けて見えるかをみる診察法である。透光性陽性となるのは陰嚢水瘤や精液瘤のように内容が液体の場合であり、本例のような精巣腫瘍は充実性の腫瘤なので光を通さず、透光性は陰性である。
- ○b. 所属リンパ節転移を認める。
正しい。腹部造影CTで腹部大動脈周囲(後腹膜)のリンパ節が腫大しており、リンパ節転移と考えられる。精巣は胎生期に腎臓の近く(後腹膜)で発生し、陰嚢まで下降してくるため、リンパ流は精巣動静脈に沿って後腹膜へ向かう。このため精巣の所属リンパ節は鼠径リンパ節ではなく傍大動脈・下大静脈周囲などの後腹膜リンパ節である。なお、右精巣腫瘍では大動脈と下大静脈の間(大動静脈間)や下大静脈周囲、左精巣腫瘍では大動脈左側(傍大動脈)に初期転移しやすい。
- ×c. 5年生存率は50%と予想される。
誤り。精巣胚細胞腫瘍はシスプラチンを中心とする化学療法(BEP療法:ブレオマイシン・エトポシド・シスプラチン)が非常によく効き、進行例でも根治が期待できる代表的な固形癌である。本例は後腹膜リンパ節転移のある非セミノーマで、肺以外の臓器転移はなく、AFP(1,000 ng/mL未満)とhCGは低値だがLDが基準上限の1.5倍以上であるため、国際胚細胞腫瘍共同研究グループ(IGCCCG)分類では中間予後群(intermediate prognosis)に相当する。この群の5年生存率は約80%(近年の報告では約90%)とされ、50%より明らかに高い。
- ×d. 精巣の針生検で組織診断を決定する。
誤り。精巣腫瘍が疑われる場合に、経陰嚢的な針生検や陰嚢切開による生検は行わない(原則禁忌)。陰嚢皮膚のリンパ流は鼠径リンパ節へ向かうため、陰嚢を経由して腫瘍に触れると、本来とは異なる経路(鼠径リンパ節)への転移や陰嚢内への腫瘍播種を起こすおそれがある。組織診断と治療を兼ねて、鼠径部を切開し、内鼠径輪の高さで精索を先に結紮・切断してから精巣を摘出する高位精巣摘除術を行い、摘出標本で組織型を確定する。
- ○e. 予測される組織型は非セミノーマである。
正しい。AFPは卵黄嚢腫瘍や胎児性癌などの非セミノーマ成分が産生するマーカーであり、純粋なセミノーマではAFPは上昇しない。本例はAFPが64 ng/mLと上昇しているので、非セミノーマ(非セミノーマ成分を含む混合型を含む)と予測される。hCGは合胞体栄養膜細胞を含むセミノーマでも軽度上昇することがあるため、hCGの軽度上昇だけでは両者を区別できない。臨床的には、摘出標本でセミノーマ成分しか見つからなくてもAFPが高値であれば非セミノーマとして扱う。
精巣腫瘍の概要
・精巣腫瘍の約95%は胚細胞腫瘍であり、20〜40歳代の若年男性に多い。高齢者の精巣腫大の原因としては悪性リンパ腫が多い。 ・危険因子:停留精巣(精巣が陰嚢に下降していない状態)、対側の精巣腫瘍の既往、家族歴など。 ・症状:無痛性の精巣腫大が典型的だが、腫瘍内出血や急速な増大で疼痛を伴うこともある。進行例では後腹膜リンパ節転移による腹部腫瘤や腰背部痛、肺転移による咳嗽・呼吸困難、hCG高値による女性化乳房で発見されることもある。
組織型と腫瘍マーカー
・セミノーマ:胚細胞腫瘍の約半数。AFPは上昇しない。hCGは軽度上昇することがある。放射線感受性・化学療法感受性ともに高い。 ・非セミノーマ:胎児性癌、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、奇形腫、およびこれらの混合型。 - 卵黄嚢腫瘍:AFP上昇 - 絨毛癌:hCGが著明に上昇 - 胎児性癌:AFP・hCGともに上昇しうる ・LD:組織型に特異的ではないが、腫瘍量を反映し予後因子となる。
診断と治療の流れ
1. 陰嚢超音波検査で精巣内の充実性腫瘤を確認する(陰嚢水瘤などの液体貯留との鑑別)。 2. 腫瘍マーカー(LD・hCG・AFP)を測定する(術前値は病期・予後分類に用いる)。 3. 高位精巣摘除術で組織型を確定する(針生検・経陰嚢的手技は行わない)。 4. 胸腹部CTなどで転移を検索し、病期を決定する。 5. 病期・組織型・IGCCCG予後分類に応じて、経過観察、放射線療法(主にセミノーマ)、BEP療法などの化学療法、化学療法後の残存腫瘍切除(後腹膜リンパ節郭清)を組み合わせる。
病期分類(日本泌尿器科学会)
・stage I:転移なし ・stage II:横隔膜以下のリンパ節にのみ転移あり ・stage III:遠隔転移あり(横隔膜より上のリンパ節転移や肺・肝・脳などへの転移)
IGCCCG予後分類(非セミノーマ)の目安
・予後良好群:精巣または後腹膜原発、肺以外の臓器転移なし、AFP<1,000 ng/mL、hCG<5,000 IU/L、LD<基準上限の1.5倍(すべてを満たす) ・中間予後群:肺以外の臓器転移なし、マーカーのいずれかが中間域(AFP 1,000〜10,000 ng/mL、hCG 5,000〜50,000 IU/L、LD 基準上限の1.5〜10倍) ・予後不良群:縦隔原発、肺以外の臓器転移、またはマーカーが高値域(AFP>10,000 ng/mL、hCG>50,000 IU/L、LD>基準上限の10倍)
POINT
・若年男性の無痛性精巣腫大では精巣腫瘍を疑い、LD・hCG・AFPを測定する。 ・AFPが上昇していれば非セミノーマ(純粋なセミノーマはAFPを産生しない)。 ・精巣の所属リンパ節は後腹膜(傍大動脈)リンパ節であり、鼠径リンパ節ではない。 ・精巣腫瘍は充実性なので透光性陰性。透光性陽性は陰嚢水瘤・精液瘤。 ・組織診断は高位精巣摘除術で行い、経陰嚢的な針生検は禁忌。 ・シスプラチンを含む化学療法がよく効き、リンパ節転移例でも5年生存率はおおむね80%以上。
