StudyMed医師国家試験

消えたバンドが語る診断―PCRで読み解くDuchenne型筋ジストロフィー

第109回医師国家試験 I問題 第63問

国試問題にチャレンジ

第109回 I問題 第63問

9歳の男児。遺伝子診断を希望した両親に連れられて来院した。3歳ころに歩容異常と床からの立ち上り困難とに気付かれ筋ジストロフィーと診断された。歩行障害は次第に進行し,かろうじて支え立ちができる程度となった。両親は新聞報道で筋ジストロフィーの遺伝子治療の臨床試験が始まることを知り,事前に必要な検査を希望している。頭部の筋は正常で舌は大きい。四肢体幹筋は萎縮しており,徒手筋力テストで下肢近位筋が2,遠位筋が4である。腱反射は消失している。白血球からDNAを抽出し,ジストロフィン遺伝子の複数のエクソンを同時にPCR法で増幅してアガロースゲル電気泳動した。結果の一部を別に示す。矢印で所見を示す。  診断はどれか。

第109回 I問題 第63問の問題画像
  1. a.筋強直性ジストロフィー
  2. b.肢帯型筋ジストロフィー
  3. c.Duchenne型筋ジストロフィー
  4. d.福山型先天性筋ジストロフィー
  5. e.顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、筋ジストロフィーの男の子について、臨床像と遺伝子検査の結果から病型を決める問題だ。ポイントは2つ。「男児・幼児期発症・近位筋優位で進行が速い」という臨床像と、ジストロフィン遺伝子のPCRで矢印の部分に何が起きているか、だ。
医学生医学生
幼児期に床から立ち上がりにくくなった男の子、と聞くとDuchenne型がまず浮かびます。
ドクタードクター
いい出発点だね。立ち上がりの困難は、太ももや腰回りといった近位筋の筋力低下を表している。徒手筋力テストでも近位筋が遠位筋より明らかに弱いし、9歳で支え立ちがやっとというのは進行がかなり速い。では、舌が大きいという所見はどう解釈するかな。
医学生医学生
舌が大きいのは、筋肉が肥大しているということですか。
ドクタードクター
見た目は大きいけれど、実は筋線維が壊れて脂肪や結合組織に置き換わっている「仮性肥大」の表れと考えられるんだ。Duchenne型では腓腹筋の仮性肥大が有名だけど、舌にもみられることがある。
医学生医学生
なるほど、大きいのに力は弱い、ということですね。神経内科の講義でGowers徴候の動画を見たのを思い出しました。手を膝について、自分の体をよじ登るように立つ姿でした。
ドクタードクター
そう、その立ち方が近位筋の筋力低下の典型だ。では遺伝子検査を見ていこう。今回は複数のエクソンを一度に増幅するマルチプレックスPCRを行い、電気泳動している。正常ならどうなるはずかな。
医学生医学生
調べたエクソンの数だけバンドが並ぶはずです。矢印のところだけバンドが出ていないということは…。
ドクタードクター
そう、そのエクソンを含む領域がゲノムから欠失しているということ。男児はX染色体を1本しかもたないから、欠失があれば補ってくれる正常なアレルがなく、バンドが完全に消えるんだ。基礎医学の分子生物学実習で電気泳動をやったことはあるかな。
医学生医学生
やりました。マーカーと並べてバンドを確認しましたが、まさか「ないこと」が診断の決め手になるとは思いませんでした。
ドクタードクター
ジストロフィン遺伝子はXp21にある巨大な遺伝子で、Duchenne型の変異でいちばん多いのがこのエクソン単位の欠失なんだ。欠失によって読み枠がずれ、ジストロフィン蛋白がほぼ作られなくなる。だから診断はDuchenne型筋ジストロフィーになる。ほかの病型がなぜ違うか確認しよう。筋強直性ジストロフィーはどうかな。
医学生医学生
CTGリピートの伸長で起こる病気ですよね。把握ミオトニアや斧様顔貌がありそうですが、この子は頭部の筋が正常です。
ドクタードクター
その通り。筋強直性ジストロフィーはDMPK遺伝子のCTGリピート伸長による常染色体優性遺伝で、遠位筋優位の筋力低下に加え、白内障、前頭部脱毛、耐糖能異常、心伝導障害など多臓器に症状が出る。ジストロフィン遺伝子とは関係しない。
医学生医学生
肢帯型は近位筋優位という点では似ていて、少し迷いました。
ドクタードクター
迷うのは自然だよ。肢帯型も肩甲帯・腰帯から弱くなるけれど、カルパイン3やジスフェルリン、サルコグリカンなど多くの異なる遺伝子が原因の疾患群で、常染色体遺伝なので性差がない。ジストロフィン遺伝子の欠失が証明された時点で外れる。では福山型先天性筋ジストロフィーは?
医学生医学生
日本人に多い病型ですよね。小児科の実習で、生まれてすぐからぐったりしたフロッピーインファントとして紹介されていました。
ドクタードクター
よく覚えているね。福山型はフクチン遺伝子の異常による常染色体劣性遺伝で、乳児期早期から筋緊張低下があり、多くは独歩を獲得できない。多小脳回などの脳形成異常による知的障害やけいれんも伴う。3歳まで歩けていた今回の経過とは合わない。顔面肩甲上腕型はどうだろう。
医学生医学生
名前の通り顔の筋肉が侵されるはずなので、頭部の筋が正常なこの子とは違いますね。
ドクタードクター
そう。顔面肩甲上腕型はD4Z4反復配列の短縮などでDUX4が異常発現して起こり、閉眼や口すぼめの障害、翼状肩甲が特徴で、左右差を伴いやすい。思春期以降の発症が多く、進行も緩やかだ。
医学生医学生
臨床像で当たりをつけて、ジストロフィン遺伝子の欠失で確定する、という流れですね。ところで、ご両親はなぜ治療前に遺伝子検査を希望したのでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だ。Duchenne型の治療の一つに、アンチセンス核酸で特定のエクソンを読み飛ばさせ、ずれた読み枠を回復させるエクソンスキッピング療法がある。どのエクソンが欠失しているかで使える薬が決まるから、欠失部位の特定が欠かせないんだ。ちなみに、読み枠が保たれて短いジストロフィンがある程度作られる場合は、軽症のBecker型になる。
医学生医学生
エクソンスキッピングは、重症のDuchenne型をBecker型のような状態に近づける治療、というイメージでしょうか。
ドクタードクター
その理解でいい。臨床ではほかにも、血清CKが発症前から著明に高いこと、ステロイドで歩行期間の延長が期待できること、10歳前後で歩行不能になった後は側弯、呼吸不全、心筋障害の管理が予後を左右することを押さえておこう。また、マルチプレックスPCRでは重複や点変異は見つからないので、現在はMLPA法や塩基配列解析も組み合わせる。患者の約3分の1は新生突然変異だけど、母親が保因者のこともあるから、遺伝カウンセリングも大切だよ。

まとめ

男児、幼児期発症、近位筋優位で急速に進行する筋力低下、Gowers徴候、腓腹筋や舌の仮性肥大はDuchenne型筋ジストロフィーの典型像です。原因はXp21のジストロフィン遺伝子異常(X連鎖劣性)で、最も多いエクソン欠失は、X染色体が1本の男児ではマルチプレックスPCRのバンド消失として検出され、ジストロフィン蛋白の欠損につながります。筋強直性ジストロフィー(CTGリピート伸長)、肢帯型(カルパイン3など多数)、福山型先天性(フクチン)、顔面肩甲上腕型(D4Z4短縮)とは原因遺伝子・遺伝形式・臨床像で区別でき、読み枠が保たれる変異は軽症のBecker型となります。欠失エクソンの特定はエクソンスキッピング療法の適応判断に直結するため、遺伝子診断の意味を理解しておくことは、診断だけでなく治療選択や遺伝カウンセリングにも役立ちます。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・9歳の男児。3歳ころに歩き方の異常と、床から立ち上がりにくいことで発症した(幼児期発症の下肢近位筋の筋力低下)。 ・その後、歩行障害は徐々に進行し、9歳の時点で支えがあれば何とか立てる程度にまで悪化している(進行が速い)。 ・頭部の筋は保たれる一方、舌が大きい(巨舌)。巨舌は筋線維が脂肪・結合組織に置き換わって見かけ上大きくなる「仮性肥大」の一つの表れと考えられる。 ・四肢・体幹の筋が萎縮し、徒手筋力テスト(MMT:0〜5の6段階で筋力を評価する方法)では下肢近位筋2、遠位筋4と近位筋優位の筋力低下である。腱反射は消失している。 ・白血球から取り出したDNAを用い、ジストロフィン遺伝子の複数のエクソン(蛋白質の情報をもつ部分)を一度に増幅するマルチプレックスPCR法を行ったところ、矢印で示すエクソンのバンドが欠けている。

診断へのプロセス

男児・幼児期発症・近位筋優位の筋力低下・急速な進行・仮性肥大という臨床像は、典型的なDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)である。さらに決め手となるのが遺伝子検査である。マルチプレックスPCRでは、正常であれば検査対象のすべてのエクソンに対応するバンドが電気泳動で現れる。ある一つのエクソンのバンドだけが出現しないのは、そのエクソンを含む領域がゲノム上から欠失していることを意味する。X染色体を1本しかもたない男児では、欠失があれば相補する正常アレルがないため、バンドが完全に消失する。 したがって本例は、ジストロフィン遺伝子のエクソン欠失によってジストロフィン蛋白が作られなくなったDMDと診断できる。

設問への考え方

選択肢の筋ジストロフィーはいずれも原因遺伝子が異なる。「ジストロフィン遺伝子の異常で起こるのはどれか」という視点で選べば一つに決まる。臨床像の鑑別(発症年齢、筋力低下の分布、遺伝形式、合併症)も同じ結論を支持する。 なお、両親が遺伝子治療の臨床試験の前に検査を希望しているのは、DMDの治療法の一つであるエクソンスキッピング療法などが、どのエクソンが欠失しているかによって適応が決まるためである。

選択肢考察

  1. ×a.  筋強直性ジストロフィー

    誤り。筋強直性ジストロフィー1型は、19番染色体上のDMPK遺伝子にある3塩基(CTG)の繰り返し配列が異常に伸びて起こる常染色体優性遺伝の疾患である。筋の収縮後に力が抜けにくいミオトニア(把握ミオトニア・叩打ミオトニア)、顔面筋・側頭筋・胸鎖乳突筋の萎縮(斧様顔貌)、遠位筋優位の筋力低下が特徴で、白内障、前頭部脱毛、耐糖能異常、心伝導障害、性腺萎縮など多臓器の障害を伴う。本例ではミオトニアや顔面筋の萎縮がなく、筋力低下も近位筋優位であり、ジストロフィン遺伝子の欠失とも結び付かない。

  2. ×b.  肢帯型筋ジストロフィー

    誤り。肢帯型筋ジストロフィーは、肩甲帯・腰帯(体幹に近い部分の筋)を中心に筋力低下と筋萎縮が進む点ではDMDと似るが、常染色体優性または劣性遺伝を示し、カルパイン3、ジスフェルリン、サルコグリカン類など多数の異なる蛋白質の遺伝子異常からなる疾患群である。性差がなく、発症年齢も小児から成人まで幅広い。ジストロフィン遺伝子の欠失が確認された本例は該当しない。

  3. ○c.  Duchenne型筋ジストロフィー

    正しい。DMDはX染色体短腕(Xp21)にあるジストロフィン遺伝子の異常による伴性(X連鎖)劣性遺伝の疾患で、ほぼ男児にのみ発症する。読み枠(コドンの読み取りの区切り)がずれる変異によりジストロフィン蛋白がほぼ完全に欠損するとDMDとなり、読み枠が保たれて短縮・異常なジストロフィンがある程度作られる場合は軽症のBecker型筋ジストロフィーとなる。2〜5歳ころに転びやすさ・動揺性歩行・登攀性起立(Gowers徴候)で気付かれ、腓腹筋などの仮性肥大を伴い、10歳前後で歩行不能となる。本例の臨床経過、近位筋優位の筋力低下、巨舌、そしてPCRによるエクソン欠失の証明はすべてDMDに合致する。

  4. ×d.  福山型先天性筋ジストロフィー

    誤り。福山型先天性筋ジストロフィーは、9番染色体上のフクチン(fukutin)遺伝子の異常による常染色体劣性遺伝の疾患で、日本人に多い。乳児期早期から筋緊張低下(フロッピーインファント)を示し、多くは独歩を獲得できない。筋病変に加え、多小脳回などの脳形成異常による知的障害やけいれん、眼の異常を伴う。本例は3歳ころまで発達上の異常の指摘がなく歩行もできており、知的障害の記載もなく、遺伝子所見も一致しない。

  5. ×e.  顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー

    誤り。顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーは、4番染色体長腕末端のD4Z4反復配列の短縮などによってDUX4遺伝子が異常に発現して起こる、主に常染色体優性遺伝の疾患である。名前のとおり顔面筋(閉眼・口すぼめの障害)、肩甲帯(翼状肩甲)、上腕の筋から萎縮が始まり、左右差を伴うことが多い。発症は思春期以降が多く、進行は緩やかで生命予後も比較的良い。本例は頭部(顔面)の筋が正常で下肢近位筋から発症しており、合致しない。

ジストロフィン遺伝子とDMDの遺伝子診断

ジストロフィン遺伝子はXp21に位置し、約2.2〜2.4Mbにおよぶヒト最大級の遺伝子である。79個のエクソンが長いイントロン(蛋白質の情報をもたない部分)の間に散らばっており、遺伝子が巨大であることが突然変異の起こりやすさの一因と考えられている。そのため患者の約3分の1は母親が保因者でない新生突然変異による。 DMDの遺伝子変異はエクソン単位の欠失が最も多く(約60%前後)、重複が約10%、残りが点変異などの微小変異である。欠失はエクソン45〜55付近と遺伝子前半部に集中しやすい。マルチプレックスPCRは欠失の検出に有用だが、重複や点変異は検出できないため、現在はMLPA法(多数のエクソンのコピー数を一度に測定する方法)が欠失・重複の検出に広く用いられ、それで見つからなければ塩基配列解析を行う。

Duchenne型筋ジストロフィーの臨床

・頻度:男児出生約3,000〜3,500人に1人。 ・症状:転びやすい、走れない、動揺性歩行(腰を左右に振る歩き方)、Gowers徴候(床から立つとき手を膝について体をよじ登るように立つ)、腓腹筋の仮性肥大、腰椎前弯。 ・経過:10歳前後で歩行不能、その後側弯、呼吸不全、拡張型心筋症様の心筋障害が進行する。人工呼吸管理の普及により、死因は心不全の比重が高まっている。 ・検査:血清CK(クレアチンキナーゼ)が発症前から著明高値(正常の数十〜百倍以上)。筋生検ではジストロフィン染色で筋細胞膜の染色が欠如する。 ・治療:副腎皮質ステロイドで歩行期間の延長が期待できる。呼吸・心臓の管理が予後を左右する。読み枠を回復させるアンチセンス核酸を用いたエクソンスキッピング療法(例:エクソン53スキッピング薬)が実用化されており、欠失エクソンの特定が適応判断に必要となる。 ・女性保因者は通常無症状だが、X染色体不活化の偏りにより筋力低下や心筋障害をきたすことがある。

主な筋ジストロフィーの原因遺伝子と遺伝形式

・Duchenne型/Becker型:ジストロフィン、X連鎖劣性 ・筋強直性ジストロフィー1型:DMPKのCTGリピート伸長、常染色体優性 ・肢帯型:カルパイン3、ジスフェルリン、サルコグリカンなど、常染色体優性または劣性 ・福山型先天性:フクチン、常染色体劣性 ・顔面肩甲上腕型:D4Z4反復配列短縮とDUX4発現、主に常染色体優性 ・Emery-Dreifuss型:エメリン(X連鎖)、ラミンA/C(常染色体優性など)

POINT

・男児、幼児期発症、近位筋優位の進行性筋力低下、仮性肥大(腓腹筋・舌)、Gowers徴候 → Duchenne型筋ジストロフィー。 ・原因はXp21のジストロフィン遺伝子異常(X連鎖劣性)。最も多い変異はエクソン欠失で、男児ではPCRのバンド消失として検出される。 ・ジストロフィン欠損→Duchenne型、量的・質的に異常なジストロフィンが残る→Becker型。 ・各筋ジストロフィーの原因遺伝子(CTGリピート、フクチン、D4Z4短縮など)を対応付けて覚える。 ・エクソンスキッピング療法の適応には欠失部位の特定が必要である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。