膵臓の嚢胞は「形」で見分ける―膵管が語るIPMNの正体
第109回医師国家試験 I問題 第16問
国試問題にチャレンジ
膵腫瘍と画像所見の組合せで正しいのはどれか。
- a.腺房細胞癌 ―― 乏血性腫瘍
- b.膵仮性嚢胞 ―― 血管に富む腫瘍
- c.漿液性嚢胞腫瘍 ―― 大きな嚢胞腔
- d.粘液性嚢胞腫瘍 ―― 小嚢胞の集簇
- e.膵管内乳頭粘液性腫瘍 ―― 膵管拡張
対話形式の解説
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ドクターまとめ
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は膵管内で粘液を産生するため膵管が拡張し、主膵管型では主膵管拡張、分枝型ではブドウの房状の多房性病変を示し、膵管と交通するのが特徴です。漿液性嚢胞腫瘍は小嚢胞の集簇(蜂巣状)と中心瘢痕、粘液性嚢胞腫瘍は中年女性の膵体尾部に生じる厚い被膜とcyst in cyst構造が典型で、両者の所見を取り違えないことが重要です。膵仮性嚢胞は膵炎後の上皮をもたない液体貯留で造影される充実成分はなく、乏血性腫瘍の代表は通常型膵癌であって、腺房細胞癌や膵神経内分泌腫瘍はより造影されやすい腫瘍です。IPMNでは壁在結節や主膵管径の増大などの悪性化所見に加え、膵の別部位に生じる通常型膵癌にも注意が必要です。嚢胞の形態・膵管との交通・造影効果・患者背景を組み合わせる考え方は、膵病変の画像診断と治療方針決定の基本となります。
解答・解説
正解はeです
膵臓に生じる腫瘤・嚢胞性病変は種類が多いが、それぞれ画像に「顔つき」がある。本問は、代表的な膵腫瘍・嚢胞性病変とその典型的な画像所見を正しく対応させられるかを問うている。 考え方の軸は二つある。 一つ目は充実性腫瘍の血流(造影効果)である。膵臓の充実性腫瘍は、間質の線維化が強く造影されにくい「乏血性」のもの(代表は通常型膵癌〈浸潤性膵管癌〉)と、血管に富みよく造影される「多血性」のもの(膵神経内分泌腫瘍など)に大別され、造影CTの染まり方が鑑別の第一歩となる。 二つ目は嚢胞性病変の形態である。嚢胞性病変では、①小さな嚢胞が集まっているか、大きな嚢胞腔があるか、②膵管と交通・連続しているか、③壁や隔壁の厚さ、内部の充実成分の有無、④好発部位・性別・年齢、を組み合わせて鑑別する。漿液性嚢胞腫瘍は小嚢胞の集簇(蜂巣状)、粘液性嚢胞腫瘍は厚い被膜をもつ大きな嚢胞の中に嚢胞がある構造(cyst in cyst)、膵管内乳頭粘液性腫瘍は膵管内で粘液を産生するため膵管そのものが拡張する、という対比で整理すると覚えやすい。 選択肢のうち、病変と画像所見の対応が正しいのは膵管内乳頭粘液性腫瘍と膵管拡張の組合せである。その他の選択肢は、所見を別の病変と入れ替えた組合せになっている。
選択肢考察
- ×a. 腺房細胞癌 ―― 乏血性腫瘍
誤り。腺房細胞癌は膵外分泌の腺房細胞への分化を示す比較的まれな悪性腫瘍で、膵癌全体の1%程度とされる。間質の線維化(desmoplastic reaction)が乏しく血管成分に富むため、乏血性の通常型膵癌とは異なり、造影CTで造影効果がみられ、動脈相から遅延相にかけて徐々に濃染することが多い。腫瘍は大きくなっても境界明瞭で膨張性に発育しやすく、内部に壊死や出血を伴うことがある。リパーゼの過剰産生により皮下脂肪壊死や多発関節痛(リパーゼ過分泌症候群)をきたす例があることも特徴である。乏血性腫瘍の代表は通常型膵癌である。
- ×b. 膵仮性嚢胞 ―― 血管に富む腫瘍
誤り。膵仮性嚢胞は腫瘍ではなく、急性膵炎・慢性膵炎・膵外傷などの後に、漏出した膵液がその周囲に貯留し、肉芽組織や線維性組織で被包されてできる液体貯留である。嚢胞壁に上皮細胞の裏打ちがない点が真性嚢胞との違いであり、内容は膵液のほか壊死物質や血液を含むことがある。CTでは被膜に囲まれた類円形の低吸収域として描出され、内部に造影される充実成分はなく、血管に富む所見は示さない。膵炎の既往、血清・嚢胞内アミラーゼ高値が診断の手がかりとなる。なお、仮性嚢胞の壁を走る動脈が破綻して仮性動脈瘤を形成し出血することがあるが、これは合併症であり、病変自体が多血性という意味ではない。
- ×c. 漿液性嚢胞腫瘍 ―― 大きな嚢胞腔
誤り。漿液性嚢胞腫瘍(SCN)は、グリコーゲンに富む淡明な細胞が漿液を分泌する腫瘍で、中高年女性に多い。典型例は数mm程度の微小な嚢胞が多数集まった構造をとり、蜂巣状(スポンジ状)と表現される。中心部に星芒状の瘢痕や石灰化を伴うことがあるのも特徴である。隔壁に毛細血管が豊富なため、造影CTでは隔壁や病変全体が濃染し、充実性の多血性腫瘍のように見えることもある。ほとんどが良性で、症状がなければ経過観察が基本となる。大きな嚢胞腔を形成するのは粘液性嚢胞腫瘍の特徴である(漿液性嚢胞腫瘍にも大きな嚢胞からなる亜型はあるが、典型像ではない)。
- ×d. 粘液性嚢胞腫瘍 ―― 小嚢胞の集簇
誤り。粘液性嚢胞腫瘍(MCN)は中年女性の膵体尾部に好発し、病理学的に卵巣様間質をもつことが特徴の嚢胞性腫瘍である。厚い線維性被膜に覆われた大きな嚢胞の内部に、隔壁で仕切られた嚢胞が存在する「cyst in cyst」構造をとり、その外観は夏みかん(オレンジ)の断面にたとえられる。主膵管との交通は通常認めない。悪性化する可能性があるため、原則として外科切除の対象となる。小嚢胞の集簇は漿液性嚢胞腫瘍の所見であり、本組合せは両者を取り違えている。
- ○e. 膵管内乳頭粘液性腫瘍 ―― 膵管拡張
正しい。膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は、膵管上皮から発生した腫瘍細胞が膵管内で乳頭状に増殖し、大量の粘液を産生する腫瘍である。粘液が膵管内に貯留するため、病変の主座となる膵管が拡張する。主座によって主膵管型・分枝型・混合型に分けられ、主膵管型では主膵管のびまん性または区域性の拡張、分枝型では分枝膵管が嚢胞状に拡張してブドウの房状の多房性病変を形成する。いずれの型でも病変は膵管と連続・交通しており、MRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影)で確認できる。内視鏡では粘液の排出で十二指腸乳頭の開口部が開大する所見(fish-eye sign)がみられることがある。高齢男性の膵頭部に多い。
膵嚢胞性病変の鑑別
・膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN):高齢男性、膵頭部に多い。膵管と交通。主膵管型は主膵管拡張、分枝型はブドウの房状。悪性化の指標として、壁在結節、主膵管径の増大(10mm以上は高危険所見とされる)、閉塞性黄疸などが重視される。分枝型IPMNでは、病変そのものの悪性化に加え、膵の別の部位に通常型膵癌が併存・発生しやすいことにも注意が必要である。 ・粘液性嚢胞腫瘍(MCN):中年女性、膵体尾部。厚い被膜、cyst in cyst(夏みかん様)。卵巣様間質。膵管とは通常交通しない。原則切除。 ・漿液性嚢胞腫瘍(SCN):中高年女性。小嚢胞の集簇(蜂巣状)、中心の星芒状瘢痕・石灰化。隔壁が多血性。ほぼ良性で経過観察が基本。 ・膵仮性嚢胞:膵炎・外傷の既往。上皮をもたない。内部は造影されない。感染・出血・破裂などの合併症に注意。 ・充実性偽乳頭状腫瘍(SPN):若年女性。充実部分と出血・壊死による嚢胞部分が混在し、被膜を有する。低悪性度。
膵充実性腫瘍の血流による整理
・乏血性:通常型膵癌(浸潤性膵管癌)。豊富な線維性間質のため造影早期に周囲膵より低吸収となり、遅延相で徐々に造影される。上流の主膵管拡張や膵実質の萎縮を伴いやすい。 ・多血性:膵神経内分泌腫瘍(動脈相で強く濃染)、腎細胞癌の膵転移など。 ・腺房細胞癌は通常型膵癌に比べて造影効果があり、境界明瞭で大きな腫瘤を形成しやすい。
POINT
・IPMN=膵管内で粘液産生→膵管拡張(主膵管型:主膵管拡張、分枝型:ブドウの房状)。膵管と交通する。 ・MCN=中年女性の膵体尾部、厚い被膜、cyst in cyst(夏みかん様)、卵巣様間質。 ・SCN=小嚢胞の集簇(蜂巣状)、中心瘢痕・石灰化、ほぼ良性。 ・膵仮性嚢胞=膵炎後、上皮なし、腫瘍ではなく造影されない。 ・通常型膵癌は乏血性、腺房細胞癌や神経内分泌腫瘍は造影されやすい。
