「仕方なく来た」20歳―ひきこもりの青年に最初にかける言葉
第109回医師国家試験 G問題 第49問
国試問題にチャレンジ
20歳の男性。大学へ行かないことを主訴に家族とともに来院した。2年前に大学に進学したものの半年後から行かなくなり,昼夜逆転の生活が続いている。趣味の集まりには月1回程度参加し,時に買い物に出かけたりするものの,その他は自室にこもり終日インターネットでゲームなどをして過ごしている。不規則ではあるが食事や入浴はしている。「仕方なく来院した」というが礼節は保たれ,質問に対して的確に回答し,表情の動きは自然である。身体所見に異常を認めない。 まず行うべき対応として適切なのはどれか。
- a.大学へ行くことを促す。
- b.インターネットを禁止する。
- c.睡眠日誌をつけるよう指示する。
- d.趣味での外出を増やすよう助言する。
- e.今の生活について悩みがないか話し合う。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
趣味の用事のときだけ外出し、半年以上おおむね家庭にとどまる状態は「準ひきこもり」にあたり、ひきこもりは診断名ではなく状態像です。背景には統合失調症、うつ病、不安症、発達障害、適応障害、ゲーム障害などが隠れていることも、明らかな精神疾患がないこともあり、初診の礼節や受け答えが良好でも背景疾患は否定できません。不本意に受診した本人への最初の対応は、登校の説得、インターネットの禁止、睡眠日誌や外出の指示ではなく、今の生活や悩みについて話し合い、傾聴を通じて信頼関係を築くことです。支援は家族支援から個人面接、集団活動、就学・就労支援へと段階的に進み、継続的な面接で背景を評価していきます。指示より関係づくりを優先するという姿勢は、精神科に限らずあらゆる医療面接の基本として身につけておきたい考え方です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・20歳男性。大学入学の半年後から通学しなくなり、約1年半が経過している。 ・昼夜逆転の生活で、ほとんどの時間を自室でインターネットゲームなどをして過ごす。一方で、月1回程度は趣味の集まりに参加し、ときには買い物にも出かける。 ・食事や入浴は不規則ながら行えており、日常生活の基本的な部分は保たれている。 ・受診は家族に連れられた形で、本人は「仕方なく来院した」と述べるが、礼節は保たれ、質問には的確に答え、表情も自然である。身体所見に異常はない。
状態の評価
社会参加(就学)を避けて6か月以上おおむね家庭にとどまっているが、趣味の用事のときには外出できている。これはいわゆる「ひきこもり」のうち、趣味に関する用事のときだけ外出する「準ひきこもり」に相当する状態である。 ひきこもりは病名ではなく状態像であり、その背景には統合失調症、うつ病、不安症(社交不安症など)、発達障害(自閉スペクトラム症、ADHD)、適応障害、ゲーム障害など多様な精神疾患が隠れていることもあれば、明らかな精神疾患を伴わない場合もある。 本例では、礼節が保たれ、受け答えが的確で、表情の動きも自然であることから、幻覚・妄想や思考障害を伴う統合失調症、感情の平板化、重いうつ状態などを示唆する所見は初診時点では見当たらない。ただし、これだけの情報で背景疾患の有無を判断することはできず、通学しなくなった理由も不明のままである。
まず何をすべきか
この段階で医師に求められるのは、指導や行動の指示ではなく、本人との信頼関係(ラポール)を築きながら情報を集めることである。本人は家族に促されて不本意ながら来院しており、いきなり生活の改善を指示すれば反発を招き、受診そのものが途切れてしまう危険がある。一方で「仕方なく」とはいえ来院したこと自体は、本人も現状に何らかの問題意識を持っている可能性を示している。 したがって、まずは本人が今の生活をどう感じているか、困っていることや悩みはないかを本人の言葉で語ってもらい、受容的・共感的に耳を傾ける(傾聴する)ことが最初の対応となる。そのうえで、大学に行かなくなったきっかけ、対人関係、気分・意欲・不安、睡眠、ゲームへののめり込みの程度などを評価し、背景にある問題や介入の糸口を探っていく。
選択肢考察
- ×a. 大学へ行くことを促す。
大学に通えなくなった理由(学業上のつまずき、対人関係の問題、不安や抑うつ、発達特性など)がまだ全く分かっていない。原因を評価しないまま登校を促しても状況は改善せず、本人に「分かってもらえない」と感じさせて治療関係を損なうおそれがある。家族と同じ立場から説得することになり、初回の対応としては不適切である。
- ×b. インターネットを禁止する。
ひきこもりの原因がインターネットそのものにあるとは限らず、禁止してもひきこもり状態が解消する根拠はない。本人にとってインターネットは外界とつながる数少ない手段である可能性もあり、一方的に取り上げれば孤立を深めたり、家族や医師への反発・不信を強めたりしかねない。仮にゲーム障害が疑われる場合でも、まず使用状況や本人の考えを聴き取ることが先であり、最初から禁止を指示するのは適切でない。
- ×c. 睡眠日誌をつけるよう指示する。
睡眠日誌は、入眠・覚醒の時刻や睡眠の状態を毎日記録して睡眠覚醒リズムを把握するもので、不眠症や概日リズム睡眠・覚醒障害(睡眠相後退型など)の評価に用いられる。本例の主訴は睡眠の問題ではなく通学しないことであり、昼夜逆転はひきこもり生活の結果として生じている面が大きい。経過中に睡眠リズムの障害が問題となれば有用になりうるが、最初に行う対応ではない。
- ×d. 趣味での外出を増やすよう助言する。
趣味の場は本人が外の世界と接点を保っている貴重な機会であり、状況を把握した後の段階で、社会とのつながりを広げる手段として活用を勧めることはありうる。しかし、本人の悩みや背景を把握する前に行動の目標を提示するのは順序が逆である。また、趣味での外出が増えても、それだけで就学や社会参加の回復につながるとは限らない。
- ○e. 今の生活について悩みがないか話し合う。
本人は不本意な形で受診しているため、まずは本人が現状をどう受け止め、何に困っているのかを尋ね、評価や指示を交えずに傾聴することで信頼関係を築く必要がある。この対話を通じて、大学に行かなくなった経緯、背景にある精神疾患(うつ病、不安症、発達障害、統合失調症の初期など)の可能性、本人が望む支援を把握でき、以後の介入方針を立てる土台となる。初回にまず行う対応として最も適切である。
ひきこもりの定義
厚生労働省の「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」(2010年)では、ひきこもりを「様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6か月以上にわたっておおむね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出はしていてもよい)」と定義している。これは診断名ではなく状態像を表す言葉である。
狭義・準・広義のひきこもり
内閣府の調査では、次のように区分されている。 ・狭義のひきこもり:「ふだんは家にいるが、近所のコンビニなどには出かける」「自室からは出るが、家からは出ない」「自室からほとんど出ない」 ・準ひきこもり:「ふだんは家にいるが、自分の趣味に関する用事のときだけ外出する」 ・広義のひきこもり:狭義と準ひきこもりを合わせたもの 2010年の調査(15~39歳対象)では、狭義のひきこもりが約23.6万人、準ひきこもりが約46.0万人、広義のひきこもりが約69.6万人と推計された。その後の調査では中高年層を含めた推計も行われ、ひきこもりの長期化・高年齢化が社会的課題となっている。本例は趣味の集まりには出かけているため、準ひきこもりに当たる。
背景にある精神疾患の評価
ひきこもりの背景として、統合失調症、うつ病、社交不安症などの不安症、強迫症、自閉スペクトラム症やADHDなどの発達障害、適応障害、パーソナリティ障害、ゲーム障害などが挙げられる。初診で明らかな精神症状がなくても、継続的な面接の中で症状が明らかになることも少なくないため、一度の診察で結論を出さず経過を追うことが重要である。
支援の進め方
支援は一般に、家族支援(家族相談・家族教室)→本人への個人療法(面接・カウンセリング)→集団での活動(デイケア、居場所づくり)→就学・就労支援、と段階的に進められる。本人が受診を望まない場合には、まず家族を支援し、家族を通じて本人との接点を作ることも多い。いずれの段階でも、本人の意思を尊重し、指示や説得よりも信頼関係の構築を優先する。
POINT
・趣味の用事のときだけ外出する状態は「準ひきこもり」。ひきこもりは診断名ではなく状態像であり、背景疾患の評価が必要である。 ・不本意に受診したひきこもり例への初期対応は、指示・禁止・説得ではなく、本人の悩みや考えを傾聴して信頼関係を築くこと。 ・登校の促し、インターネットの禁止、睡眠日誌、外出の助言などは、背景を把握する前に行う最初の対応としては不適切である。 ・礼節が保たれ受け答えが的確でも、精神疾患の存在を否定はできない。継続的な面接で経過を評価する。
