Sertoli細胞に届く2つのシグナル―「直接」と「間接」を見分ける精子形成のホルモン制御
第109回医師国家試験 G問題 第33問
国試問題にチャレンジ
精子形成のためにSertoli細胞に直接作用するホルモンはどれか。2つ選べ。
- a.ACTH〈副腎皮質刺激ホルモン〉
- b.FSH〈卵胞刺激ホルモン〉
- c.GnRH
- d.LH〈黄体化ホルモン〉
- e.テストステロン
対話形式の解説
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医学生まとめ
男性の生殖機能はGnRH→LH・FSH→精巣という階層で調節され、精巣内ではLHが間質のLeydig細胞に作用してテストステロンを産生させ、FSHは精細管内のSertoli細胞に直接結合します。Sertoli細胞はアンドロゲン受容体ももち、Leydig細胞から拡散した高濃度のテストステロンを直接受け取るため、Sertoli細胞に直接作用するのはFSHとテストステロンの2つです。LHやGnRHは精子形成に不可欠ですが作用は間接的で、ACTHは副腎皮質を標的とするホルモンです。Sertoli細胞はABP、インヒビンB、AMHを分泌し、インヒビンBはFSHを、テストステロンは主にLHを負に調節します。外因性アンドロゲンが精巣内テストステロンを低下させて不妊を招く理由や、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症でhCGとFSHを併用する理由も、この「どの細胞に直接作用するか」の整理から理解できます。
解答・解説
正解はb, eです
男性の生殖機能は、視床下部―下垂体前葉―精巣の三段階の内分泌系(視床下部-下垂体-性腺系)によって調節されている。視床下部から放出されるGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)が下垂体前葉に作用し、2種類のゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)、すなわちLH(黄体化ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)の分泌を促す。 精巣内でこの2つのホルモンが作用する標的細胞は異なる。LHは精細管の外側(間質)にあるLeydig細胞(間質細胞)の受容体に結合し、テストステロンの合成・分泌を促す。一方、FSHは精細管の内側にあって精細胞を支持・栄養するSertoli細胞に直接結合する。Sertoli細胞はアンドロゲン受容体ももっており、Leydig細胞から拡散してきた高濃度のテストステロンを受け取る。つまり、精子形成を直接支えるSertoli細胞には、FSHとテストステロンの2つのシグナルが入る。 本問は「Sertoli細胞に直接作用するもの」を問うている点がポイントである。LHやGnRHも精子形成には不可欠だが、その作用は間接的(LHはテストステロン産生を介して、GnRHはLH・FSH分泌を介して)であり、Sertoli細胞に直接結合するわけではない。経路を一段ずつ区別して整理できれば正解に至る。
選択肢考察
- ×a. ACTH〈副腎皮質刺激ホルモン〉
ACTHは下垂体前葉から分泌され、副腎皮質(主に束状層)のMC2受容体に作用してコルチゾールなどの副腎皮質ホルモンの合成・分泌を促す。精巣のSertoli細胞を標的とするホルモンではなく、精子形成への直接作用はない。
- ○b. FSH〈卵胞刺激ホルモン〉
FSHはSertoli細胞の細胞膜にあるFSH受容体に直接結合する。刺激を受けたSertoli細胞はアンドロゲン結合タンパク(ABP)を産生して精細管内のテストステロン濃度を高く保ち、精細胞の分裂・成熟(特に精子形成の開始や精祖細胞の増殖)を支える。またSertoli細胞はFSH刺激に応じてインヒビンBを分泌し、これが下垂体のFSH分泌を負に調節する。したがって、Sertoli細胞に直接作用して精子形成を促すホルモンとして正しい。
- ×c. GnRH
GnRHは視床下部で産生され、下垂体門脈を通って下垂体前葉のゴナドトロピン産生細胞に作用し、LHとFSHの合成・分泌を促す。精子形成に必要な上位ホルモンではあるが、その作用は下垂体を介した間接的なものであり、Sertoli細胞へ直接は作用しない。
- ×d. LH〈黄体化ホルモン〉
LHの精巣での標的は間質にあるLeydig細胞である。LH受容体に結合してテストステロンの合成・分泌を促し、そのテストステロンがSertoli細胞に作用する。LHは精子形成に必要であるが、Sertoli細胞に対する作用はテストステロンを介した間接的なものであり、Sertoli細胞へ直接作用するホルモンではない。
- ○e. テストステロン
テストステロンはLH刺激によりLeydig細胞で合成され、隣接する精細管へ拡散する。Sertoli細胞は細胞内にアンドロゲン受容体をもち、テストステロンが結合することで精子形成(特に減数分裂の完了や精子細胞の成熟)に必要な遺伝子発現が起こる。精細管内のテストステロン濃度は血中より著しく高く保たれており、これが精子形成に不可欠である。よってSertoli細胞に直接作用するホルモンとして正しい。
精巣を構成する主な細胞
・Sertoli細胞:精細管の基底膜から内腔に伸びる支持細胞。精細胞を物理的・栄養的に支え、隣り合うSertoli細胞間の密着結合で血液精巣関門を形成する。FSH受容体とアンドロゲン受容体をもつ。ABP(アンドロゲン結合タンパク)、インヒビンB、抗Müller管ホルモン(AMH、胎生期にMüller管を退縮させる)を分泌する。 ・Leydig細胞:精細管の間の間質に存在し、LH受容体をもつ。テストステロンを産生する。 ・精細胞:精祖細胞→精母細胞→精子細胞→精子と分化する。
男性の視床下部-下垂体-性腺系のフィードバック
・GnRH(パルス状分泌)→下垂体前葉からLH・FSH分泌 ・LH→Leydig細胞→テストステロン ・FSH+テストステロン→Sertoli細胞→精子形成 ・テストステロン(およびそれから芳香化されたエストラジオール)は視床下部・下垂体に負のフィードバックをかけ、主にLH分泌を抑える。 ・インヒビンB(Sertoli細胞由来)は下垂体に作用し、主にFSH分泌を選択的に抑える。
臨床との関連
外因性にテストステロン(アンドロゲン)製剤を投与すると、負のフィードバックによりLH・FSHが低下し、精巣内テストステロン濃度が下がるため、精子形成が抑制され男性不妊の原因となる。また低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(Kallmann症候群など)では、hCG(LH作用)とFSH製剤の併用で精子形成の誘導を図る。
POINT
・LH→Leydig細胞→テストステロン産生 ・FSH→Sertoli細胞(直接)→精子形成の支持、ABP・インヒビンB分泌 ・テストステロン→Sertoli細胞のアンドロゲン受容体(直接)→精子形成 ・Sertoli細胞に直接作用するのはFSHとテストステロンの2つ。GnRH・LHは間接的に関与するのみ。
