吸うか、吐くか―乳児の喘鳴が教える急性細気管支炎の見抜き方
第109回医師国家試験 F問題 第23問
国試問題にチャレンジ
3か月の乳児。呼吸困難と口唇チアノーゼとを主訴に母親に連れられて来院した。数日前から鼻汁と咳嗽とを認め,今朝から多呼吸と呼気性喘鳴とが出現し,息苦しそうであったため受診した。口唇チアノーゼを認め,診察中に無呼吸がみられた。白血球増多を認めず,CRPは陰性であった。胸部エックス線写真で肺野全体に微細な無気肺と肺の過膨張とを認める。 最も考えられるのはどれか。
- a.百日咳
- b.咽後膿瘍
- c.喉頭軟化症
- d.急性細気管支炎
- e.クループ症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
乳児でかぜ症状の数日後に多呼吸と呼気性喘鳴が出現し、炎症反応が乏しく、胸部エックス線写真で肺の過膨張と散在する微小無気肺を認めれば、RSウイルスを代表とする急性細気管支炎を考えます。吸気性喘鳴は上気道(クループ症候群、喉頭軟化症、咽後膿瘍など)、呼気性喘鳴は下気道(細気管支炎、喘息など)の狭窄を示し、この区別が鑑別の出発点になります。月齢の低い乳児では細気管支炎でも無呼吸を来しうるため、リンパ球増多を伴う百日咳との鑑別では経過と検査所見を総合して判断します。治療は酸素投与や鼻汁吸引などの支持療法が中心で、重症化リスクの高い児にはパリビズマブなどによる予防が行われます。喘鳴の時相から狭窄部位を推定する考え方は、小児の呼吸器救急で迅速に判断するための基本です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・3か月の乳児。数日前から鼻汁・咳嗽という上気道炎(かぜ)症状が先行した。 ・今朝から多呼吸と「呼気性」喘鳴が出現し、呼吸困難、口唇チアノーゼ、診察中の無呼吸を認める。 ・白血球増多なし、CRP陰性で、細菌感染を示す炎症所見に乏しい。 ・胸部エックス線写真: 肺野全体に散在する微細な無気肺と、肺の過膨張。
診断へのプロセス
まず喘鳴の時相に注目する。息を吸うときの喘鳴(吸気性喘鳴、stridor)は喉頭・気管など胸郭外の上気道の狭窄を、息を吐くときの喘鳴(呼気性喘鳴、wheeze)は胸郭内の下気道(細い気管支・細気管支)の狭窄を示す。本例は呼気性喘鳴であり、下気道の閉塞が主体と考えられる。 胸部エックス線写真の所見もこれに合う。細気管支が炎症で狭くなると、息を吐き出しにくくなって空気がとらえられ(エアトラッピング)肺が過膨張し、完全に詰まった部分は小さな無気肺となる。 ウイルス性の上気道炎症状が先行し、数日後に下気道症状が現れる経過、炎症反応が乏しいこと、月齢が低く無呼吸を伴うことを合わせると、RSウイルス(respiratory syncytial virus)などによる急性細気管支炎が最も考えられる。生後間もない乳児、特に早産児や生後2か月未満では、細気管支炎の初発症状として無呼吸が出ることがある。 乳児の無呼吸とチアノーゼでは百日咳も重要な鑑別であるが、呼気性喘鳴・肺過膨張という下気道閉塞の所見があり、百日咳を示唆する白血球(リンパ球)増多がないことから、急性細気管支炎を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 百日咳
百日咳は百日咳菌(Bordetella pertussis)による感染症で、かぜ様症状のカタル期(1〜2週間)のあと、短い咳が連続し最後に笛のような音を立てて息を吸い込む発作(レプリーゼ)を繰り返す痙咳期に移る。検査では白血球増多、特にリンパ球の増加が特徴で、CRPは上がりにくい。3か月未満の乳児では典型的な咳発作が目立たず、無呼吸やチアノーゼで発症することがあるため、本例でも鑑別に挙がる。しかし、本例は発症数日で呼気性喘鳴と肺の過膨張という下気道閉塞の所見が前面に出ており、白血球増多も認めないため、百日咳は考えにくい。
- ×b. 咽後膿瘍
咽後膿瘍は咽頭後壁と椎体の間(咽後間隙)にあるリンパ節の化膿などから膿瘍ができる細菌感染症で、主に乳幼児にみられる。高熱、嚥下痛・嚥下困難、流涎、頸部の動かしにくさ(頸部の伸展・回旋制限)を来し、膿瘍が大きいと上気道が圧迫されて吸気性喘鳴が出る。白血球増多とCRP上昇を伴い、頸部側面エックス線写真で椎体前面の軟部組織の肥厚を認める。本例は呼気性喘鳴で炎症反応も陰性であり、合わない。
- ×c. 喉頭軟化症
喉頭軟化症は喉頭の軟骨や組織が柔らかく、息を吸うときに喉頭蓋や披裂部が内側へ引き込まれて気道が狭くなる先天的な状態で、乳児の吸気性喘鳴の原因として最も多い。生後まもなく(多くは生後数週以内)から吸気性喘鳴が続き、啼泣・哺乳・仰臥位で強くなる。多くは1〜2歳頃までに自然に改善する。本例は数日前に始まった急性経過であり、呼気性喘鳴であることからも合わない。
- ○d. 急性細気管支炎
急性細気管支炎は、主に2歳未満、特に生後6か月未満の乳児にみられる細気管支のウイルス感染症である。原因の多くはRSウイルスで、ほかにヒトメタニューモウイルス、ライノウイルス、パラインフルエンザウイルスなどがある。鼻汁・咳嗽などの上気道炎症状が数日続いたのち、多呼吸、陥没呼吸、呼気性喘鳴が出現し、重症例ではチアノーゼを来す。月齢の低い乳児では無呼吸を起こすことがある。ウイルス感染のため白血球増多やCRP上昇は目立たない。胸部エックス線写真では肺の過膨張(横隔膜の平低化、肋間の開大など)と散在する小さな無気肺がみられる。本例の経過・身体所見・検査・画像のすべてが合致する。
- ×e. クループ症候群
クループ症候群は喉頭から声門下にかけての炎症・浮腫による上気道狭窄で、主にパラインフルエンザウイルスによるウイルス性クループ(急性喉頭気管気管支炎)が多い。好発は生後6か月〜3歳頃である。犬が吠えるような咳(犬吠様咳嗽)、嗄声、吸気性喘鳴が三徴で、頸部正面エックス線写真で声門下が先細りに狭くなる像(steeple sign)がみられる。本例は犬吠様咳嗽を欠き、喘鳴は呼気性であり、肺過膨張という下気道の所見もあるため合わない。
喘鳴の時相と狭窄部位
・吸気性喘鳴(stridor): 胸郭外の上気道(喉頭・声門下・頸部気管)の狭窄。例: クループ症候群、急性喉頭蓋炎、喉頭軟化症、咽後膿瘍、気道異物(喉頭・気管)。 ・呼気性喘鳴(wheeze): 胸郭内の下気道の狭窄。例: 急性細気管支炎、気管支喘息、気管支異物。
急性細気管支炎
・原因: RSウイルスが最多。RSウイルスはほぼすべての小児が2歳までに一度は感染する。 ・重症化しやすい児: 生後早期の乳児(特に生後3か月未満)、早産児、慢性肺疾患(気管支肺異形成症など)、血行動態に影響のある先天性心疾患、免疫不全、ダウン症候群など。 ・診断: 臨床症状を中心に行う。RSウイルスは鼻咽頭ぬぐい液の迅速抗原検査で確認できる。 ・治療: 特効薬はなく、酸素投与、鼻汁吸引、哺乳不良時の輸液、必要に応じて高流量鼻カニュラ酸素療法や人工呼吸管理などの支持療法が中心である。気管支拡張薬や副腎皮質ステロイドの日常的な使用は推奨されていない。 ・予防: 重症化リスクの高い児に対し、抗RSウイルスモノクローナル抗体であるパリビズマブを流行期に毎月筋注する。近年は効果が長く持続するモノクローナル抗体(ニルセビマブ)や、妊婦に接種して胎盤経由で児に抗体を移行させるRSウイルスワクチンも国内で承認されている。 ・長期的には、乳児期の重症RSウイルス細気管支炎はその後の反復性喘鳴との関連が指摘されている。
POINT
・乳児で、かぜ症状の数日後に呼気性喘鳴・多呼吸・陥没呼吸が出現 → 急性細気管支炎(RSウイルスが最多)。 ・胸部エックス線写真: 肺の過膨張と散在する微小無気肺。 ・月齢の低い乳児では無呼吸を来しうる。 ・吸気性喘鳴は上気道、呼気性喘鳴は下気道の狭窄。 ・百日咳はリンパ球増多、クループは犬吠様咳嗽と吸気性喘鳴、喉頭軟化症は生後早期からの吸気性喘鳴。 ・治療は支持療法、高リスク児にはパリビズマブで予防する。
