「引いて、止まるか」―Lachmanテストで前十字靱帯の破綻を見抜く
第109回医師国家試験 E問題 第29問
国試問題にチャレンジ
膝関節の徒手検査手技を別に示す。 診断する病変部位はどれか。

- a.内側側副靱帯
- b.外側側副靱帯
- c.前十字靱帯
- d.半月板
- e.膝蓋腱
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
膝軽度屈曲位で大腿骨を固定し、脛骨を前方へ引き出す手技はLachmanテストで、前十字靱帯(ACL)の機能を評価します。健側より前方移動量が大きく、硬い終末感(end point)が得られなければ陽性で、受傷直後の疼痛や腫脹があっても行いやすい感度の高い検査です。ACLにはほかに前方引き出しテストやピボットシフトテストがあり、内側側副靱帯は外反ストレス、外側側副靱帯は内反ストレス、半月板はMcMurrayテスト、後十字靱帯は後方引き出しテストやサギング徴候で評価します。ACL損傷は非接触型のスポーツ外傷で関節血症を伴うことが多く、放置すると膝崩れから半月板損傷や変形性膝関節症を招くため、若年のスポーツ選手では再建術が検討されます。「ストレスの方向」と「それを制御する組織」を対応させる考え方は、膝に限らず関節診察全般の基本になります。
解答・解説
正解はcです
図に示された手技は、仰臥位で膝関節を軽度屈曲(約20〜30°)させ、一方の手で大腿骨遠位部を固定し、もう一方の手で脛骨近位部を把持して下腿を前方へ引き出すものであり、ラックマン(Lachman)テストである。 前十字靱帯(anterior cruciate ligament:ACL)は大腿骨外側顆の顆間窩側から脛骨の顆間隆起前方へ走行し、脛骨が大腿骨に対して前方へずれること(前方動揺)を抑える主要な制動組織である。そのため、脛骨を前方へ引き出す力を加え、その移動量と止まり方を評価すれば、ACLの機能が保たれているかを判定できる。 正常膝では脛骨を前方に引くとACLが緊張してすぐに「カチッ」と止まる硬い終末感(firm end point)が得られる。ACL損傷膝では前方移動量が健側より大きく、終末感がはっきりしない(soft end point、end pointの消失)。これを陽性と判定する。 したがって、本手技で診断する病変部位は前十字靱帯である。各靱帯・組織にはそれぞれ対応する徒手検査があり、「どの方向にストレスをかけるか」と「どの組織がその方向の動きを制御しているか」を対応させて覚えると理解しやすい。
選択肢考察
- ×a. 内側側副靱帯
内側側副靱帯(medial collateral ligament:MCL)は膝の内側にあり、膝が外反する(下腿が外側へ開く)動きを制御する。評価には外反ストレステストを用いる。検者は一方の手を膝の外側に当て、他方の手で下腿遠位または足関節部を持って膝を外反させ、内側関節裂隙の開大や疼痛をみる。伸展位と軽度屈曲位(約30°)の両方で行うのが基本である。前方引き出しを行う図の手技とは異なる。
- ×b. 外側側副靱帯
外側側副靱帯(lateral collateral ligament:LCL)は大腿骨外側上顆から腓骨頭へ走り、膝の内反(下腿が内側へ入る動き)を制御する。評価には内反ストレステストを用いる。一方の手を膝の内側に当て、他方の手で下腿を内側へ押して膝を内反させ、外側関節裂隙の開大や疼痛をみる。図の手技とは異なる。
- ○c. 前十字靱帯
図はラックマンテストであり、ACLの機能を評価する手技である。膝軽度屈曲位で脛骨を前方へ引き出し、健側より前方移動量が大きく、硬い終末感(end point)が得られない場合に陽性とし、ACL損傷を示唆する。ACL損傷の徒手検査としてはほかに、膝90°屈曲位で脛骨を前方に引く前方引き出しテスト(anterior drawer test)、膝に外反・内旋力を加えながら屈伸させて脛骨の亜脱臼と整復をみるピボットシフトテスト(pivot shift test)やNテストがある。ラックマンテストは受傷直後の疼痛や腫脹で深く屈曲できない時期でも行いやすく、感度が高い検査として重視される。
- ×d. 半月板
半月板損傷の代表的な徒手検査はマックマレー(McMurray)テストである。膝を最大屈曲位にして関節裂隙に指を当て、下腿に内旋あるいは外旋の力を加えながら膝を伸展させ、疼痛やクリック(引っかかり音)が誘発されれば陽性とする。腹臥位で膝90°屈曲位として下腿に軸圧をかけながら回旋させるアプレー(Apley)テストもある。いずれも回旋と圧迫を加える手技であり、前方引き出しを行う図の手技とは異なる。
- ×e. 膝蓋腱
膝蓋腱は膝蓋骨下極から脛骨粗面に付着し、大腿四頭筋の収縮を脛骨に伝える膝伸展機構の一部である。断裂すると自力で膝を伸展できなくなり(伸展不能、下肢伸展挙上ができない)、断裂部に陥凹を触れ、膝蓋骨が近位へ移動する(膝蓋骨高位)。診断は自動伸展の可否、触診、単純X線写真での膝蓋骨高位などで行い、靱帯の動揺性をみる図の手技で評価するものではない。
膝の主な靱帯と働き
・前十字靱帯(ACL):脛骨の前方移動と回旋を制御する。スポーツ中のジャンプ着地、急停止、方向転換などの非接触型損傷が多く、受傷時に断裂音(pop)を自覚し、関節血症を伴うことが多い。 ・後十字靱帯(PCL):脛骨の後方移動を制御する。屈曲位で脛骨前面を打つダッシュボード損傷が典型的である。後方引き出しテストや、膝90°屈曲位で脛骨が後方に落ち込むサギング(sagging)徴候で評価する。 ・内側側副靱帯(MCL):外反を制御する。膝靱帯損傷の中で頻度が高い。 ・外側側副靱帯(LCL):内反を制御する。
膝の徒手検査の対応
・ACL:ラックマンテスト、前方引き出しテスト、ピボットシフトテスト、Nテスト ・PCL:後方引き出しテスト、サギング徴候 ・MCL:外反ストレステスト ・LCL:内反ストレステスト ・半月板:マックマレーテスト、アプレーテスト
ACL損傷の診断と治療の概略
徒手検査に加え、MRIで靱帯の連続性の途絶を確認する。ACLは自然治癒しにくく、放置すると膝崩れ(giving way)を繰り返して半月板損傷や変形性膝関節症を招きやすいため、スポーツ活動を続ける若年者では自家腱(膝屈筋腱や骨付き膝蓋腱など)を用いた再建術が行われることが多い。
POINT
・ラックマンテスト=膝軽度屈曲位で脛骨を前方に引き出し、前十字靱帯損傷を評価する。 ・陽性所見は前方移動量の増大と硬い終末感(end point)の消失。 ・ACLの他の検査:前方引き出しテスト(膝90°屈曲位)、ピボットシフトテスト、Nテスト。 ・MCL=外反ストレス、LCL=内反ストレス、半月板=マックマレーテスト、PCL=後方引き出し・サギング徴候。
