術前の「つかえ」と術後の「肺炎」―食道癌手術を乗り切る周術期管理の3本柱
第109回医師国家試験 D問題 第18問
国試問題にチャレンジ
胸部中部進行食道癌根治切除術の周術期について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.術前には栄養不良が多い。
- b.術前には液状より固形の食物が摂取しやすい。
- c.口腔ケアは術後肺炎の予防に有用である。
- d.術後早期の経管栄養は禁忌である。
- e.術後は長期の中心静脈栄養を行う。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
進行食道癌では器質的狭窄により固形物から先に通りにくくなり、経口摂取量の低下や悪液質、術前化学療法の影響で、術前から栄養不良や脱水を伴うことが多くあります。食道癌術後は長時間手術、人工呼吸管理、反回神経麻痺による誤嚥などから肺炎が主要な合併症となり、口腔ケア、禁煙、呼吸訓練といった術前からの対策が予防に有効です。術後の栄養は「腸が使えるなら腸を使う」が原則で、空腸瘻などを用いた早期経腸栄養が推奨されます。長期の中心静脈栄養は腸管粘膜の萎縮やバクテリアルトランスロケーション、カテーテル感染を招くため、経腸栄養ができない場合に限って用います。侵襲の大きな手術ほど周術期管理が予後を左右するという視点は、外科診療全般に通じる重要な考え方です。
解答・解説
正解はa, cです
胸部中部食道癌に対する根治切除術は、一般に右開胸(または胸腔鏡)による食道切除、3領域(頸部・胸部・腹部)にわたるリンパ節郭清、胃管などを用いた再建を組み合わせた手術であり、消化器外科の中でも特に侵襲が大きい。そのため、周術期(手術前後の期間)の管理が合併症の発生率や予後を大きく左右する。 本問は、この周術期管理の要点を問うている。整理すべき視点は次の3つである。 (1) 術前の患者の状態:進行食道癌では腫瘍によって食道内腔が狭くなり、つかえ感(嚥下困難)が生じる。まず固形物が通らなくなり、進行すると液体も通りにくくなる。その結果、体重減少や低栄養、脱水を伴っていることが多い。さらに飲酒・喫煙歴のある高齢男性に多いという患者背景もある。 (2) 術後肺炎の予防:食道切除後は、長時間の手術と人工呼吸管理、反回神経(声帯を動かす神経)周囲の郭清による声帯麻痺、嚥下機能の低下などから、肺炎が最も多い重篤な合併症の一つとなる。口腔ケア、禁煙、呼吸訓練などの術前からの対策が重要である。 (3) 術後の栄養管理:腸管が使える状態なら腸管を使う(経腸栄養を優先する)のが原則である。手術中に空腸瘻などを造設し、術後早期から経腸栄養を始めることが推奨されている。
選択肢考察
- ○a. 術前には栄養不良が多い。
正しい。進行食道癌では腫瘍による食道の狭窄で経口摂取量が減り、体重減少、低アルブミン血症、脱水をきたしていることが多い。加えて、癌そのものによる代謝亢進(悪液質)や、術前化学療法による食欲低下も栄養状態を悪化させる。術前の低栄養は縫合不全や感染症など術後合併症の危険を高めるため、術前に栄養状態を評価し、必要に応じて経腸栄養剤の追加や経管栄養などで栄養状態を改善しておくことが重要である。
- ×b. 術前には液状より固形の食物が摂取しやすい。
誤り。食道の器質的狭窄(腫瘍などの物理的な狭窄)では、形のある固形物ほど狭い部分を通過しにくく、液体は比較的通過しやすい。そのため嚥下困難はまず固形物で自覚され、狭窄が高度になると液体も通らなくなる。これに対し、アカラシアなどの機能的な通過障害では、初期から固形物と液体の両方で通過障害がみられることが多い点が鑑別の手がかりとなる。
- ○c. 口腔ケアは術後肺炎の予防に有用である。
正しい。食道癌術後は、長時間の手術・人工呼吸管理、反回神経麻痺による声門閉鎖不全、嚥下機能の低下などにより誤嚥性肺炎が起こりやすい。口腔内の細菌が唾液とともに気道へ流れ込む(不顕性誤嚥:本人が気づかないうちに少量ずつ誤嚥すること)ことが肺炎の主要な原因となるため、術前から歯科と連携して口腔ケアを行い、口腔内の細菌数を減らすことで術後肺炎を減らせることが示されている。口腔ケアは人工呼吸器関連肺炎や要介護高齢者の誤嚥性肺炎の予防にも有効である。
- ×d. 術後早期の経管栄養は禁忌である。
誤り。むしろ術後早期からの経管栄養(経腸栄養)が推奨される。食道癌術後は吻合部の安定や嚥下機能の回復を待つ必要があり、十分な経口摂取ができるまでに時間がかかる。そこで手術中に空腸瘻(空腸にチューブを入れる瘻孔)を造設したり、経鼻チューブを留置したりして、術後早期から少量ずつ栄養剤を投与する。早期経腸栄養は腸管粘膜の萎縮を防ぎ、腸管免疫を保ち、感染性合併症を減らす効果がある。
- ×e. 術後は長期の中心静脈栄養を行う。
誤り。腸管が機能している場合は経腸栄養を優先するのが原則である。長期間の中心静脈栄養(TPN:total parenteral nutrition)では、腸管を使わないため腸管粘膜が萎縮し、腸内細菌や毒素が体内へ移行するバクテリアルトランスロケーションを起こしやすくなる。また、カテーテル関連血流感染症や高血糖、肝機能障害などの合併症も問題となる。経腸栄養に比べて感染性合併症が多いことが示されており、中心静脈栄養は経腸栄養ができない場合や不足分を補う場合に限って用いる。
食道癌の概要
日本の食道癌の大部分は扁平上皮癌であり、胸部中部食道に最も多い。飲酒(特に少量で顔が赤くなる体質の人の飲酒)と喫煙が主な危険因子で、高齢男性に多い。
食道癌術後の主な合併症
・肺炎(誤嚥性肺炎を含む) ・縫合不全(食道と再建臓器の吻合部から内容が漏れること) ・反回神経麻痺(嗄声や誤嚥の原因となる) ・乳び胸(胸管損傷によりリンパ液が胸腔にたまる) ・不整脈(特に心房細動)
術後肺炎の予防策
・術前の禁煙(少なくとも1か月程度前から) ・口腔ケア(歯科と連携した口腔清掃、歯石除去など) ・呼吸訓練(インセンティブ・スパイロメトリーなど) ・術後の早期離床、十分な鎮痛による排痰の促進
栄養療法の選び方
「If the gut works, use it(腸が使えるなら腸を使え)」が基本原則である。 ・経口摂取が可能 → 経口摂取 ・経口摂取は困難だが腸管が使える → 経腸栄養(経鼻胃管、経鼻空腸管、胃瘻、空腸瘻など) ・腸管が使えない、または経腸栄養だけでは不足 → 静脈栄養(短期間なら末梢静脈栄養、長期間なら中心静脈栄養)
嚥下困難の鑑別の手がかり
・器質的狭窄(食道癌、良性狭窄など):固形物から始まり、進行すると液体も困難になる。 ・機能的障害(アカラシア、びまん性食道けいれんなど):初期から固形物と液体の両方で症状が出やすい。
POINT
・進行食道癌の術前は、狭窄による経口摂取不良で栄養不良や脱水が多い。 ・器質的狭窄では固形物が先に通りにくくなり、液体のほうが通過しやすい。 ・食道癌術後は肺炎が主要な合併症であり、術前からの口腔ケア・禁煙・呼吸訓練が予防に有効である。 ・術後は早期経腸栄養(空腸瘻など)が推奨される。長期の中心静脈栄養は腸管萎縮や感染症を招くため避ける。 ・栄養療法の原則は「腸が使えるなら腸を使う」である。
