頭蓋底の真ん中で羽を広げるチョウ―蝶形骨と上眼窩裂を地図で覚える
第109回医師国家試験 B問題 第9問
国試問題にチャレンジ
蝶形骨にあるのはどれか。
- a.篩板
- b.内耳道
- c.頸静脈孔
- d.上眼窩裂
- e.舌下神経管
対話形式の解説
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ドクターまとめ
頭蓋底は前・中・後頭蓋窩の3段に分けられ、前頭蓋窩は主に前頭骨と篩骨、中頭蓋窩は主に蝶形骨と側頭骨、後頭蓋窩は主に後頭骨と側頭骨錐体が形づくります。蝶形骨にある主な通路は、視神経管(小翼)、上眼窩裂(小翼と大翼の間)、正円孔・卵円孔・棘孔(大翼)であり、篩板は篩骨、内耳道は側頭骨、頸静脈孔は側頭骨と後頭骨の間、舌下神経管は後頭骨に属します。上眼窩裂には動眼・滑車・外転神経、眼神経、上眼静脈が通り、障害されると眼球運動障害や前額部の感覚障害を伴う上眼窩裂症候群を、視神経管まで及ぶと眼窩尖端症候群をきたします。骨・孔・通過構造・障害時の症状をひとつの地図として結びつけて覚えることが、頭蓋底病変の局在診断や外傷・手術の理解の基礎になります。
解答・解説
正解はdです
頭蓋底には脳神経や血管が通る孔・管・裂が多数あり、それぞれがどの骨にあるかが問われている。頭蓋底を内側(脳の側)から見ると、前頭蓋窩・中頭蓋窩・後頭蓋窩の3段に分かれている。どの骨がどの段を作っているかを押さえると整理しやすい。 ・前頭蓋窩:主に前頭骨と篩骨からなり、後端に蝶形骨小翼が加わる。 ・中頭蓋窩:主に蝶形骨(体・大翼)と側頭骨からなる。 ・後頭蓋窩:主に後頭骨と側頭骨(錐体の後面)からなる。 蝶形骨は頭蓋底の中央に位置するチョウのような形の骨である。中央の体、左右に張り出す小翼と大翼、下方へ伸びる翼状突起から成る。蝶形骨にある主な通路は、視神経管(小翼)、上眼窩裂(小翼と大翼の間)、正円孔・卵円孔・棘孔(大翼)である。 選択肢のうち蝶形骨にあるのは上眼窩裂だけである。篩板は篩骨、内耳道は側頭骨、頸静脈孔は側頭骨と後頭骨の間、舌下神経管は後頭骨にある。
選択肢考察
- ×a. 篩板
篩板は篩骨の一部で、前頭蓋窩の正中にある鶏冠という突起の両側に広がる薄い骨板である。ふるい(篩)のように小さな孔(篩板孔)が多数あいており、鼻腔の天井にある嗅粘膜から出た嗅神経(第I脳神経)の線維が、ここを通って嗅球に入る。蝶形骨の構造ではない。頭部外傷で篩板が骨折すると、髄液鼻漏(鼻から脳脊髄液が漏れること)や嗅覚障害が起こりうる。
- ×b. 内耳道
内耳道は、後頭蓋窩に面した側頭骨錐体の後面中央にある管である。顔面神経(第VII脳神経、中間神経を含む)、内耳神経(第VIII脳神経)、迷路動静脈が通る。蝶形骨にはない。小脳橋角部腫瘍(聴神経鞘腫など)は内耳道を広げながら発育することがあり、画像診断でも注目される部位である。
- ×c. 頸静脈孔
頸静脈孔は後頭蓋窩にあり、側頭骨の錐体と後頭骨の間にできる不整形の孔である。前内側の部分を舌咽神経(IX)・迷走神経(X)・副神経(XI)と下錐体静脈洞が通る。後外側の部分ではS状静脈洞が内頸静脈に移行する。蝶形骨は関与しない。この部位の病変で IX・X・XI がまとめて障害されるものを頸静脈孔症候群(Vernet症候群)という。
- ○d. 上眼窩裂
上眼窩裂は、蝶形骨の小翼と大翼の間にある裂け目状の隙間である。中頭蓋窩と眼窩をつないでいる。外眼筋を支配する動眼神経(III)・滑車神経(IV)・外転神経(VI)、三叉神経第1枝の眼神経(V1)、上眼静脈が通る。上眼窩裂は蝶形骨そのものの中にある構造であり、本問の正解である。この部位が障害されると、III・IV・V1・VIの障害が組み合わさった上眼窩裂症候群(眼球運動障害、眼瞼下垂、前額部の感覚障害など)が起こる。視神経管も通る場合は眼窩尖端症候群と呼ばれる。
- ×e. 舌下神経管
舌下神経管は後頭骨にある長さ数mmの短い管である。大後頭孔の外側縁の前方寄りから始まり、後頭顆の上を前外側に向かって走り、頸静脈孔の下方で頭蓋の外に開く。舌下神経(第XII脳神経)が通る。蝶形骨の構造ではない。
頭蓋底の主な孔と通過する構造
〔前頭蓋窩〕 ・篩板(篩骨):嗅神経(I) 〔中頭蓋窩〕 ・視神経管(蝶形骨小翼):視神経(II)、眼動脈 ・上眼窩裂(蝶形骨小翼と大翼の間):動眼神経(III)、滑車神経(IV)、眼神経(V1)、外転神経(VI)、上眼静脈 ・正円孔(蝶形骨大翼):上顎神経(V2) ・卵円孔(蝶形骨大翼):下顎神経(V3) ・棘孔(蝶形骨大翼):中硬膜動脈 ・破裂孔(蝶形骨・側頭骨・後頭骨の間):生体では線維軟骨でふさがれている。内頸動脈は破裂孔の上を通過する。 〔後頭蓋窩〕 ・内耳道(側頭骨錐体):顔面神経(VII)、内耳神経(VIII)、迷路動静脈 ・頸静脈孔(側頭骨と後頭骨の間):舌咽神経(IX)、迷走神経(X)、副神経(XI)、内頸静脈(S状静脈洞からの移行部) ・舌下神経管(後頭骨):舌下神経(XII) ・大後頭孔(後頭骨):延髄、椎骨動脈、副神経の脊髄根
蝶形骨の構造
体の上面にはトルコ鞍があり、下垂体が収まっている。体の内部には副鼻腔の一つである蝶形骨洞がある。下垂体腫瘍に対する経蝶形骨洞手術は、この位置関係を利用したものである。
眼窩の開口
眼窩には上眼窩裂のほか、視神経管、下眼窩裂、鼻涙管、前・後篩骨孔、眼窩下管、眼窩上孔(切痕)、前頭孔(切痕)、頬骨眼窩孔などが開口する。
POINT
・蝶形骨にある主な孔:視神経管(小翼)、上眼窩裂(小翼と大翼の間)、正円孔(V2)・卵円孔(V3)・棘孔(中硬膜動脈)(いずれも大翼)。 ・上眼窩裂を通るのは III・IV・V1・VI と上眼静脈で、障害されると上眼窩裂症候群を起こす。 ・篩板は篩骨(I)、内耳道は側頭骨(VII・VIII)、頸静脈孔は側頭骨と後頭骨の間(IX・X・XI、内頸静脈)、舌下神経管は後頭骨(XII)にある。
