StudyMed医師国家試験

頭蓋底の真ん中で羽を広げるチョウ―蝶形骨と上眼窩裂を地図で覚える

第109回医師国家試験 B問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第109回 B問題 第9問

蝶形骨にあるのはどれか。

  1. a.篩板
  2. b.内耳道
  3. c.頸静脈孔
  4. d.上眼窩裂
  5. e.舌下神経管

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は頭蓋底の解剖、それも「どの孔や裂がどの骨にあるか」を問う問題だ。丸暗記で挑むと混乱しやすいけれど、頭蓋底を前・中・後の3段の窪みに分けて、それぞれをどの骨が作っているかを先に押さえると一気に整理できる。まず、蝶形骨がどこにある骨か思い浮かべられるかな。
医学生医学生
頭蓋底の真ん中あたりにある、チョウの形をした骨ですよね。解剖実習で頭蓋骨標本を見たときに、トルコ鞍があったのを覚えています。
ドクタードクター
そうそう。体の上面がトルコ鞍で、下垂体が収まっている。体から左右に小翼と大翼が張り出し、下には翼状突起が伸びる。頭蓋底の3段でいうと、前頭蓋窩は主に前頭骨と篩骨、中頭蓋窩は主に蝶形骨と側頭骨、後頭蓋窩は主に後頭骨と側頭骨の錐体が作っているんだ。
医学生医学生
ということは、中頭蓋窩にある孔なら蝶形骨の可能性が高い、という考え方でいいですか。
ドクタードクター
大筋ではその見方で役に立つ。ただし側頭骨も中頭蓋窩に加わるし、蝶形骨小翼は前頭蓋窩の後端にもかかっているから、最後は骨ごとに確認しよう。蝶形骨にある主な通路は、小翼の視神経管、小翼と大翼の間の上眼窩裂、それに大翼の正円孔・卵円孔・棘孔だ。
医学生医学生
選択肢の中だと上眼窩裂が当てはまりますね。でも篩板も前の方にあるので、蝶形骨の一部かと一瞬迷いました。
ドクタードクター
篩板は名前のとおり篩骨の一部だよ。前頭蓋窩の正中、鶏冠の両側に広がる薄い骨板で、ふるいのような小孔がたくさんあいている。鼻腔の天井の嗅粘膜から来た嗅神経の線維がここを通って嗅球に入るんだ。頭部外傷で篩板が折れると、髄液鼻漏や嗅覚障害が起こりうる。
医学生医学生
救急外来の実習で、鼻から透明な液が出ている外傷患者さんでは髄液漏を疑うと教わりました。内耳道はどうでしょう。耳に関係するので側頭骨でしょうか。
ドクタードクター
その通り。内耳道は後頭蓋窩に面した側頭骨錐体の後面にあって、顔面神経と内耳神経、迷路動静脈が通る。聴神経鞘腫などの小脳橋角部腫瘍が内耳道を広げながら大きくなることがあるので、画像でも注目される場所だね。
医学生医学生
頸静脈孔と舌下神経管は、どちらも後頭蓋窩なので後頭骨ですか。
ドクタードクター
半分正解。舌下神経管は後頭骨にある短い管で、舌下神経が通る。一方、頸静脈孔は側頭骨の錐体と後頭骨の間にできる隙間で、舌咽神経・迷走神経・副神経、そしてS状静脈洞から内頸静脈への移行部が通る。どちらにも蝶形骨は関わらない。この部位の病変で舌咽・迷走・副神経がまとめて障害されるのが頸静脈孔症候群だ。
医学生医学生
整理すると、篩板は篩骨、内耳道は側頭骨、頸静脈孔は側頭骨と後頭骨の間、舌下神経管は後頭骨で、蝶形骨にあるのは上眼窩裂だけ、ということですね。
ドクタードクター
完璧。せっかくなので上眼窩裂を通るものも確認しよう。中頭蓋窩と眼窩をつなぐ裂け目で、外眼筋を支配する動眼神経・滑車神経・外転神経、三叉神経第1枝の眼神経、上眼静脈が通る。
医学生医学生
神経内科の講義で「上眼窩裂症候群」というのを聞きました。眼が動かなくなるんでしたっけ。
ドクタードクター
そう。この部位が腫瘍や炎症、骨折などで障害されると、眼球運動障害、動眼神経麻痺による眼瞼下垂、眼神経領域である前額部の感覚障害などが組み合わさって出る。病変がさらに視神経管に及ぶと視力障害も加わり、眼窩尖端症候群と呼ばれる。神経症状の組み合わせから、病変の場所を頭蓋底の地図の上で推定できるわけだ。
医学生医学生
大翼の正円孔・卵円孔・棘孔は、三叉神経の枝と中硬膜動脈でしたよね。
ドクタードクター
正解。正円孔が上顎神経、卵円孔が下顎神経、棘孔が中硬膜動脈だ。中硬膜動脈は側頭部の骨折で損傷されると急性硬膜外血腫の原因になるから、臨床でも重要だよ。もう一つ、蝶形骨の体の中には副鼻腔の蝶形骨洞があって、そのすぐ上がトルコ鞍。下垂体腺腫に対する経蝶形骨洞手術は、この位置関係を利用して鼻から到達する方法なんだ。
医学生医学生
解剖の位置関係が、そのまま手術のルートや症状の出方につながっているんですね。CBTのときは孔と神経の対応だけ覚えていましたが、骨と一緒に地図で覚え直します。
ドクタードクター
それが一番だね。骨・孔・通過する神経・障害されたときの症状、の4点をセットで覚えておくと、解剖の問題にも臨床の問題にも対応できるよ。

まとめ

頭蓋底は前・中・後頭蓋窩の3段に分けられ、前頭蓋窩は主に前頭骨と篩骨、中頭蓋窩は主に蝶形骨と側頭骨、後頭蓋窩は主に後頭骨と側頭骨錐体が形づくります。蝶形骨にある主な通路は、視神経管(小翼)、上眼窩裂(小翼と大翼の間)、正円孔・卵円孔・棘孔(大翼)であり、篩板は篩骨、内耳道は側頭骨、頸静脈孔は側頭骨と後頭骨の間、舌下神経管は後頭骨に属します。上眼窩裂には動眼・滑車・外転神経、眼神経、上眼静脈が通り、障害されると眼球運動障害や前額部の感覚障害を伴う上眼窩裂症候群を、視神経管まで及ぶと眼窩尖端症候群をきたします。骨・孔・通過構造・障害時の症状をひとつの地図として結びつけて覚えることが、頭蓋底病変の局在診断や外傷・手術の理解の基礎になります。

解答・解説

正解はdです

頭蓋底には脳神経や血管が通る孔・管・裂が多数あり、それぞれがどの骨にあるかが問われている。頭蓋底を内側(脳の側)から見ると、前頭蓋窩・中頭蓋窩・後頭蓋窩の3段に分かれている。どの骨がどの段を作っているかを押さえると整理しやすい。 ・前頭蓋窩:主に前頭骨と篩骨からなり、後端に蝶形骨小翼が加わる。 ・中頭蓋窩:主に蝶形骨(体・大翼)と側頭骨からなる。 ・後頭蓋窩:主に後頭骨と側頭骨(錐体の後面)からなる。 蝶形骨は頭蓋底の中央に位置するチョウのような形の骨である。中央の体、左右に張り出す小翼と大翼、下方へ伸びる翼状突起から成る。蝶形骨にある主な通路は、視神経管(小翼)、上眼窩裂(小翼と大翼の間)、正円孔・卵円孔・棘孔(大翼)である。 選択肢のうち蝶形骨にあるのは上眼窩裂だけである。篩板は篩骨、内耳道は側頭骨、頸静脈孔は側頭骨と後頭骨の間、舌下神経管は後頭骨にある。

選択肢考察

  1. ×a.  篩板

    篩板は篩骨の一部で、前頭蓋窩の正中にある鶏冠という突起の両側に広がる薄い骨板である。ふるい(篩)のように小さな孔(篩板孔)が多数あいており、鼻腔の天井にある嗅粘膜から出た嗅神経(第I脳神経)の線維が、ここを通って嗅球に入る。蝶形骨の構造ではない。頭部外傷で篩板が骨折すると、髄液鼻漏(鼻から脳脊髄液が漏れること)や嗅覚障害が起こりうる。

  2. ×b.  内耳道

    内耳道は、後頭蓋窩に面した側頭骨錐体の後面中央にある管である。顔面神経(第VII脳神経、中間神経を含む)、内耳神経(第VIII脳神経)、迷路動静脈が通る。蝶形骨にはない。小脳橋角部腫瘍(聴神経鞘腫など)は内耳道を広げながら発育することがあり、画像診断でも注目される部位である。

  3. ×c.  頸静脈孔

    頸静脈孔は後頭蓋窩にあり、側頭骨の錐体と後頭骨の間にできる不整形の孔である。前内側の部分を舌咽神経(IX)・迷走神経(X)・副神経(XI)と下錐体静脈洞が通る。後外側の部分ではS状静脈洞が内頸静脈に移行する。蝶形骨は関与しない。この部位の病変で IX・X・XI がまとめて障害されるものを頸静脈孔症候群(Vernet症候群)という。

  4. ○d.  上眼窩裂

    上眼窩裂は、蝶形骨の小翼と大翼の間にある裂け目状の隙間である。中頭蓋窩と眼窩をつないでいる。外眼筋を支配する動眼神経(III)・滑車神経(IV)・外転神経(VI)、三叉神経第1枝の眼神経(V1)、上眼静脈が通る。上眼窩裂は蝶形骨そのものの中にある構造であり、本問の正解である。この部位が障害されると、III・IV・V1・VIの障害が組み合わさった上眼窩裂症候群(眼球運動障害、眼瞼下垂、前額部の感覚障害など)が起こる。視神経管も通る場合は眼窩尖端症候群と呼ばれる。

  5. ×e.  舌下神経管

    舌下神経管は後頭骨にある長さ数mmの短い管である。大後頭孔の外側縁の前方寄りから始まり、後頭顆の上を前外側に向かって走り、頸静脈孔の下方で頭蓋の外に開く。舌下神経(第XII脳神経)が通る。蝶形骨の構造ではない。

頭蓋底の主な孔と通過する構造

〔前頭蓋窩〕 ・篩板(篩骨):嗅神経(I) 〔中頭蓋窩〕 ・視神経管(蝶形骨小翼):視神経(II)、眼動脈 ・上眼窩裂(蝶形骨小翼と大翼の間):動眼神経(III)、滑車神経(IV)、眼神経(V1)、外転神経(VI)、上眼静脈 ・正円孔(蝶形骨大翼):上顎神経(V2) ・卵円孔(蝶形骨大翼):下顎神経(V3) ・棘孔(蝶形骨大翼):中硬膜動脈 ・破裂孔(蝶形骨・側頭骨・後頭骨の間):生体では線維軟骨でふさがれている。内頸動脈は破裂孔の上を通過する。 〔後頭蓋窩〕 ・内耳道(側頭骨錐体):顔面神経(VII)、内耳神経(VIII)、迷路動静脈 ・頸静脈孔(側頭骨と後頭骨の間):舌咽神経(IX)、迷走神経(X)、副神経(XI)、内頸静脈(S状静脈洞からの移行部) ・舌下神経管(後頭骨):舌下神経(XII) ・大後頭孔(後頭骨):延髄、椎骨動脈、副神経の脊髄根

蝶形骨の構造

体の上面にはトルコ鞍があり、下垂体が収まっている。体の内部には副鼻腔の一つである蝶形骨洞がある。下垂体腫瘍に対する経蝶形骨洞手術は、この位置関係を利用したものである。

眼窩の開口

眼窩には上眼窩裂のほか、視神経管、下眼窩裂、鼻涙管、前・後篩骨孔、眼窩下管、眼窩上孔(切痕)、前頭孔(切痕)、頬骨眼窩孔などが開口する。

POINT

・蝶形骨にある主な孔:視神経管(小翼)、上眼窩裂(小翼と大翼の間)、正円孔(V2)・卵円孔(V3)・棘孔(中硬膜動脈)(いずれも大翼)。 ・上眼窩裂を通るのは III・IV・V1・VI と上眼静脈で、障害されると上眼窩裂症候群を起こす。 ・篩板は篩骨(I)、内耳道は側頭骨(VII・VIII)、頸静脈孔は側頭骨と後頭骨の間(IX・X・XI、内頸静脈)、舌下神経管は後頭骨(XII)にある。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。