耳が詰まる原因は鼻の奥に―大人の片側滲出性中耳炎に潜む上咽頭癌
第109回医師国家試験 A問題 第28問
国試問題にチャレンジ
60歳の女性。左耳閉感を主訴に来院した。3か月前から左耳閉感と左難聴とを自覚していたが改善しないため受診した。頭部造影CTを別に示す。 最も考えられる疾患はどれか。

- a.外耳癌
- b.上顎癌
- c.口腔癌
- d.上咽頭癌
- e.聴神経腫瘍
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
中高年に一側性の耳閉感・難聴が新たに出現して遷延する場合は、上咽頭癌が耳管咽頭口を閉塞して生じた滲出性中耳炎を疑い、上咽頭の内視鏡観察や画像検査を行います。上咽頭癌はRosenmüller窩に好発し、CTでは上咽頭側壁の造影される腫瘤による左右非対称と、患側乳突蜂巣の含気低下がみられることがあります。EBウイルスとの関連が強く、低分化〜未分化の扁平上皮癌が多く、耳症状のほか鼻症状、頸部リンパ節転移、外転神経・三叉神経などの脳神経症状を呈します。放射線感受性が高いため放射線治療(進行例では化学放射線療法)が中心で、確定診断は内視鏡下生検で行います。小児の滲出性中耳炎とは背景が異なることを理解し、症状の部位と病変の部位を結びつけて考える姿勢は、頭頸部腫瘍の早期発見に直結します。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・60歳女性。3か月続く左耳閉感と左難聴で、改善がみられない。 ・症状は一側性で、成人に新たに生じ、長引いている。 耳閉感・難聴の原因としては、耳垢栓塞や外耳道腫瘍などの外耳疾患、滲出性中耳炎や慢性中耳炎などの中耳疾患、突発性難聴や聴神経腫瘍などの内耳・後迷路疾患が広く鑑別に挙がる。問題文だけでは絞り込めないが、「耳の検査」ではなく頭部造影CTが提示されている点がヒントになる。
画像の読み方
提示されたCTは上咽頭(鼻咽腔)の高さの水平断で、前方に鼻腔と両側上顎洞、後方に小脳が写っている。正常では上咽頭は左右対称な含気腔で、両側壁には耳管咽頭口とその後上方の陥凹(Rosenmüller窩)がある。本症例では、左の上咽頭側壁から後壁にかけて造影効果を伴う軟部組織腫瘤が突出し、左側の含気腔を狭めて左右非対称となっている。腫瘤は左耳管咽頭口の付近を占めている。一方、外耳道、上顎洞、口腔には明らかな腫瘤はない。また、左の乳突蜂巣は右に比べ含気が乏しく、中耳・乳突腔への液体貯留が示唆される。
診断のプロセス
上咽頭側壁の腫瘍が耳管咽頭口を圧排・閉塞すると、中耳腔の換気が障害されて陰圧となり、滲出液が貯留する(滲出性中耳炎)。その結果、耳閉感と伝音難聴が生じる。成人、とくに中高年に一側性の滲出性中耳炎が新たに出現し遷延する場合は、上咽頭癌を必ず疑い、上咽頭の内視鏡観察や画像検査を行う必要がある。本症例は画像所見と臨床経過から上咽頭癌が最も考えられる。確定診断は内視鏡下の生検で行う。
選択肢考察
- ×a. 外耳癌
外耳癌(外耳道癌)は耳漏、耳痛、耳出血、外耳道の腫瘤などを呈し、腫瘤が外耳道を閉塞すれば難聴を生じうる。しかし本症例のCTで腫瘤が存在するのは上咽頭であり、外耳道には病変を認めない。外耳道の病変であれば耳鏡で直接観察できる点も異なる。
- ×b. 上顎癌
上顎癌は上顎洞に発生し、進展方向により頬部腫脹、片側の鼻閉・血性鼻漏、歯痛、眼球突出、複視などを呈する。提示されたCTには両側上顎洞が写っているが、骨破壊や腫瘤はみられない。耳閉感・難聴が主症状となることもまれである。
- ×c. 口腔癌
口腔癌(舌癌、歯肉癌など)は口腔内の潰瘍・腫瘤、疼痛、出血などで気付かれることが多く、耳への放散痛を訴えることはあっても耳閉感・難聴が主症状となることは少ない。提示されたCTの断面は上咽頭の高さであり、病変は口腔ではなく上咽頭に存在する。
- ○d. 上咽頭癌
CTで左上咽頭側壁(耳管咽頭口〜Rosenmüller窩付近)に造影される腫瘤を認める。上咽頭癌はRosenmüller窩に好発し、早期から耳管咽頭口を閉塞して一側の滲出性中耳炎をきたすため、耳閉感と伝音難聴が初発症状となることが多い。本症例の一側性で遷延する耳閉感・難聴は、この機序で説明できる。
- ×e. 聴神経腫瘍
聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)は内耳道から小脳橋角部に発生する良性腫瘍で、緩徐に進行する一側性の感音難聴、耳鳴、ふらつきなどを呈し、耳閉感を訴えることもある。しかし画像では小脳橋角部・内耳道に造影される腫瘤が描出されるはずであり、本症例のCTではそのような所見はなく、腫瘤は上咽頭にある。評価にはガドリニウム造影MRIが最も有用である。
上咽頭癌の概要
・疫学:中国南部、台湾、東南アジアで多く、日本では比較的まれである。男性に多い。 ・危険因子:EBウイルス(Epstein-Barrウイルス)感染が強く関連する。ほかに塩蔵魚の摂取などの食習慣、遺伝的素因、喫煙が挙げられる。 ・病理:扁平上皮癌が大部分で、特に角化を伴わない低分化〜未分化型が多い。 ・好発部位:上咽頭側壁のRosenmüller窩。
症状(進展方向ごとに整理)
・耳症状:耳管閉塞による一側性の滲出性中耳炎 → 耳閉感、伝音難聴。 ・鼻症状:鼻閉、鼻出血、血性鼻漏。 ・頸部症状:頸部リンパ節腫脹。初診時に頸部リンパ節転移を認めることが多く、頸部腫瘤が受診のきっかけになることもある。 ・脳神経症状:頭蓋底へ進展すると、海綿静脈洞付近で外転神経(複視)、三叉神経(顔面の感覚障害・疼痛)などが障害される。さらに進行すると舌咽・迷走・副・舌下神経などの下位脳神経も障害される。
診断
内視鏡による上咽頭の観察と生検で確定する。進展範囲の評価にはMRI(頭蓋底浸潤や頭蓋内進展の評価に優れる)、CT、PET-CTを用いる。血中EBウイルスDNA量は、治療効果判定や再発の指標として用いられる。
治療
解剖学的に手術での根治的切除が難しく、また放射線感受性が高いため、放射線治療が中心となる。局所進行例ではシスプラチンなどを併用する化学放射線療法が標準である。
臨床上の教訓
成人の一側性滲出性中耳炎、特に中高年で新たに出現し長引くものは、上咽頭癌による耳管閉塞を念頭に置いて上咽頭を観察する。小児の滲出性中耳炎がアデノイド増殖症や感冒を背景とすることが多いのと対照的である。
POINT
・成人(特に中高年)の一側性で遷延する耳閉感・難聴(滲出性中耳炎)→ 上咽頭癌による耳管閉塞を疑う。 ・上咽頭癌の好発部位はRosenmüller窩、組織型は低分化〜未分化の扁平上皮癌が多い。 ・EBウイルスとの関連が強い。 ・症状は耳症状、鼻症状、頸部リンパ節転移、脳神経症状(外転神経・三叉神経など)。 ・治療は放射線治療(進行例では化学放射線療法)が主体。
