「3人に1人」をどう伝えるか―熱性けいれんの予後と母親への説明
第108回医師国家試験 I問題 第54問
国試問題にチャレンジ
9か月の乳児。発熱を主訴に母親に連れられて来院した。生来健康で今回初めての発熱である。診察を待っているときに全身性左右対称の強直性間代性けいれんを認めた。3分後にけいれんは消失し意識も回復した。血液所見に異常は認めなかった。 母親への説明で適切なのはどれか。
- a.「遺伝性はありません」
- b.「すぐに脳波の検査をしましょう」
- c.「約半数に知能への影響がみられます」
- d.「将来,てんかんへ移行する可能性が高いです」
- e.「このけいれん発作は3人に1人の割合で再発する可能性があります」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
生後6か月〜5歳の発熱時に、全身性・左右対称で15分未満、24時間以内に反復しない発作が起き、意識も速やかに戻れば単純型熱性けいれんと考えます。再発率は約30%(3人に1人)で、家族歴、1歳未満発症、発熱から発作までが短いこと、発作時体温39℃以下が再発の危険因子です。一方、知能や発達への影響はなく、てんかんへの移行は数%程度にとどまり、単純型では脳波検査をルーチンに行う必要もありません。また遺伝的素因があるため、問診で家族歴を確認することが大切です。正確な予後と発作時の対処法をセットで伝えることは、保護者の不安を和らげる小児診療の基本であり、髄膜炎・脳症など見逃してはならない疾患との鑑別意識とともに身につけておきたい知識です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・9か月の乳児で、生来健康であり、今回が初めての発熱である。 ・発熱に伴って、全身性で左右対称の強直間代発作(手足を突っ張る強直相に続き、リズミカルに四肢をがくがくさせる間代相がみられる発作)が起きた。 ・発作は3分で止まり、意識もすみやかに回復している。 ・血液検査に異常はなく、低血糖や電解質異常(低Na血症・低Ca血症など)による発作は考えにくい。
診断へのプロセス
乳幼児の発熱に伴うけいれんをみたら、まず熱性けいれん(熱性発作)と、細菌性髄膜炎・脳炎・脳症などの中枢神経感染症や急性脳症を区別する必要がある。後者では、発作が長く続く、発作後も意識障害が続く、項部硬直や大泉門膨隆がみられる、といった特徴が出やすい。本例は発作が3分と短く、意識も回復しており、中枢神経感染症を強く疑う所見はない。また、年齢(生後6か月〜5歳)、発熱という誘因、全身性で左右差がないこと、15分未満の持続、ほかに発作の原因が見当たらないことから、単純型熱性けいれんと考えられる。9か月で初めての発熱という経過からは、背景の発熱疾患として突発性発疹(ヒトヘルペスウイルス6・7型感染症)もよくある原因として念頭に置く。
設問の考え方
問われているのは、単純型熱性けいれんの予後についての母親への説明である。押さえるべき事実は、①家族内に起こりやすい(遺伝的素因がある)、②単純型では急いで脳波検査をする必要はない、③知能や発達への悪影響はない、④てんかんへの移行はまれ、⑤再発は約30%(およそ3人に1人)にみられる、の5点である。これらに照らして各選択肢を判断すればよい。
選択肢考察
- ×a. 「遺伝性はありません」
誤り。熱性けいれんは家族内に集積しやすく、遺伝的素因の関与が知られている。両親や同胞に熱性けいれんの既往があると発症率は明らかに高まり、家族歴は再発の危険因子の一つでもある。原因遺伝子として、一部の家系でナトリウムチャネル遺伝子(SCN1Aなど)などの変異が見つかっているが、多くは複数の遺伝要因と環境要因が関わる多因子性と考えられている。したがって「遺伝性はない」と説明するのは不正確であり、むしろ診療では家族歴を必ず聴取する。
- ×b. 「すぐに脳波の検査をしましょう」
誤り。単純型熱性けいれんでは、脳波検査はルーチンには推奨されない。脳波を記録しても、その後の熱性けいれんの再発やてんかんの発症を予測する役に立たないことが示されているためである。さらに発作直後や発熱中の脳波には、非特異的な徐波などが出やすく、判断を誤る原因にもなる。脳波検査を考慮するのは、焦点性発作、長く続く発作、発達の遅れや神経学的異常がある場合など、てんかんを疑う要素があるときである。
- ×c. 「約半数に知能への影響がみられます」
誤り。単純型熱性けいれんは予後良好な疾患であり、発作を繰り返したとしても知能・運動発達・行動に後遺症を残さないことが大規模な追跡研究で示されている。「約半数に知能への影響がある」という説明は事実と大きく異なり、保護者の不安を不必要にあおる。
- ×d. 「将来,てんかんへ移行する可能性が高いです」
誤り。熱性けいれんを起こした子どもが後にてんかんを発症する割合は数%程度(おおむね2〜7.5%と報告される)で、一般人口(約0.5〜1%)よりはやや高いものの、大多数はてんかんに移行しない。特に本例のような単純型で、発症前の神経学的異常やてんかんの家族歴がない場合は、てんかん発症のリスクは低い。てんかん発症の危険因子としては、発症前からの神経学的異常・発達遅滞、両親・同胞のてんかんの家族歴、複雑型熱性けいれん、発熱から発作までの時間が短いこと(1時間以内)が挙げられる。
- ○e. 「このけいれん発作は3人に1人の割合で再発する可能性があります」
正しい。熱性けいれんの再発率は全体で約30%、すなわちおよそ3人に1人であり、裏を返せば約3分の2は生涯1回のみで終わる。再発の危険因子として、①両親または同胞の熱性けいれんの家族歴、②1歳未満での発症、③発熱から発作までの時間が短い(おおむね1時間以内)、④発作時の体温が39℃以下(比較的低い体温で発作が起きる)、が知られている。これらを満たす場合は再発率がさらに高くなる。本例は9か月発症で②に該当するため、再発の可能性を伝えておくことは特に重要である。そのうえで、再発しても予後は良好であることを併せて説明し、発作時の対応(安全な場所に寝かせ、顔を横に向ける、口に物を入れない、持続時間を確認する、5分以上続けば受診・救急要請する)を指導する。
熱性けいれん(熱性発作)の定義
主に生後6か月から5歳(60か月)までの乳幼児に起こる、通常38℃以上の発熱に伴う発作性疾患(けいれん性・非けいれん性を含む)で、髄膜炎などの中枢神経感染症、代謝異常、その他の明らかな発作の原因がみられず、てんかんの既往もないものをいう。日本では小児の約7〜11%が経験するとされ、欧米(2〜5%)よりも頻度が高い。なお、2023年改訂の国内ガイドラインでは「熱性けいれん(熱性発作)」と、けいれんを伴わない発作も含む呼称が併記されている。
単純型と複雑型
次のいずれか一つ以上を満たすものを複雑型、どれも満たさないものを単純型とする。 ・焦点性発作(部分発作)の要素がある(左右差、一側優位など) ・発作が15分以上持続する ・一発熱機会(通常24時間以内)に複数回反復する
初期対応と検査
・発作が5分以上続く場合は、けいれん重積状態への移行を防ぐため、ジアゼパム静注やミダゾラム(口腔用液・静注など)で止痙を図る。 ・意識障害の遷延、髄膜刺激徴候、大泉門膨隆などがあれば、髄膜炎・脳炎・脳症を疑い、髄液検査や頭部画像検査を考慮する。 ・単純型では、脳波・頭部画像検査・髄液検査をルーチンに行う必要はない。
予防投与
ジアゼパム坐剤の発熱時予防投与は、全例に行うものではない。遷延性発作(15分以上)の既往がある場合や、焦点性発作・24時間以内の反復・発症前からの神経学的異常・熱性けいれんやてんかんの家族歴・12か月未満発症・発熱後1時間未満の発作・38℃未満での発作などの因子を複数有し、かつ短期間に発作を繰り返す場合などに考慮する。解熱薬には熱性けいれんの再発予防効果はないが、使用によって再発が増えることもないとされる。
鑑別すべき疾患
・細菌性髄膜炎・脳炎・急性脳症:意識障害の遷延、長い発作、神経学的異常所見 ・胃腸炎関連けいれん(軽症胃腸炎に伴うけいれん):無熱〜微熱で群発しやすい ・低血糖・電解質異常 ・Dravet症候群:1歳未満に発熱や入浴を契機とする長い片側性・全身性の発作を繰り返し、のちに発達遅滞を伴う難治てんかん(SCN1A変異が多い)
POINT
・単純型熱性けいれん:6か月〜5歳、発熱に伴う全身性の対称性発作、15分未満、24時間以内に反復しない。 ・再発率は約30%(3人に1人)。危険因子は家族歴、1歳未満発症、発熱から発作まで短時間(1時間以内)、発作時体温39℃以下。 ・てんかんへの移行は数%程度で、大多数は移行しない。 ・知能・発達への影響はなく予後良好。 ・家族歴が多く、遺伝的素因がある。 ・単純型では脳波検査をルーチンに行う必要はない。
