濃い尿が告げる胆道の渋滞―閉塞性黄疸で上がる検査値・下がる検査値
第108回医師国家試験 H問題 第36問(連問)
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連問の共通文
次の文を読み,35と36の問いに答えよ。 60歳の女性。上腹部痛を主訴に来院した。 現病歴:1か月前から食後に腹痛を自覚するようになった。昨夜,還暦祝いに家族と外食をした後に悪心と右肩から背部に放散する上腹部の痛みがあり受診した。今朝からやや色の濃い尿に気付いたという。 既往歴:18歳時に虫垂切除術。 家族歴:母親が糖尿病。 現症:意識は清明。身長152 cm,体重62 kg。体温37.5℃。脈拍92/分,整。血圧124/70 mmHg。呼吸数16/分。SpO2 98%(room air)。眼球結膜に黄染を認める。
この患者の血液検査所見として最も考えられるのはどれか。
- a.ALP高値
- b.尿酸高値
- c.白血球減少
- d.プロトロンビン時間短縮
- e.間接型優位のビリルビン高値
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
胆石による閉塞性黄疸では、肝臓で抱合された直接ビリルビンが胆汁中に排泄できず血中に逆流するため、直接型優位の高ビリルビン血症となり、水溶性の直接ビリルビンが尿に出て濃い尿になります。同時に胆道系酵素であるALP、γ-GTP、LAPが上昇し、胆汁うっ滞が続けばビタミンK吸収障害によりPTが延長します(ビタミンK静注で改善)。急性胆嚢炎・胆管炎を伴えば白血球増加とCRP上昇がみられ、間接型優位の黄疸であれば溶血や体質性黄疸を考えます。検査値を「炎症」と「胆汁うっ滞」の2系統で整理し、増減の向きを病態生理から説明できるようにしておくことが、黄疸患者の鑑別と重症度評価の基礎になります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・60歳の女性、BMI 26.8(62÷1.52²)の肥満があり、1か月前から食後の腹痛を繰り返している。 ・脂っこい外食の後に悪心と、右肩から背部へ放散する上腹部痛が出現した。 ・体温37.5℃、脈拍92/分と軽度の炎症反応がうかがえるが、血圧・呼吸数・SpO2 は保たれている。 ・眼球結膜の黄染(顕性黄疸)と、濃い色の尿がある。
診断へのプロセス
胆石症の危険因子(中年・女性・肥満)をもつ患者が、脂肪食をきっかけに胆道由来の痛み(右肩への放散痛)を起こしており、胆嚢結石による胆石発作~急性胆嚢炎が考えられる。加えて黄疸と濃染尿があることから、胆汁の流れが総胆管レベルで妨げられた閉塞性黄疸を合併していると判断する。機序としては、胆嚢結石が総胆管へ落下した総胆管結石、あるいは胆嚢頸部の嵌頓結石が総胆管を外から圧迫するMirizzi(ミリッツィ)症候群が考えられる。腹痛・発熱・黄疸はCharcot(シャルコー)の3徴であり、軽症の急性胆管炎の合併も念頭に置く。
設問の考え方
この病態で予想される血液検査所見は、大きく次の2系統に分けて考えるとよい。 1. 炎症の所見: 白血球増加、CRP上昇。 2. 胆汁うっ滞(胆道閉塞)の所見: 直接(抱合型)ビリルビン優位の高ビリルビン血症、胆道系酵素(ALP、γ-GTP:γ-グルタミルトランスペプチダーゼ、LAP:ロイシンアミノペプチダーゼ)の上昇、胆汁酸上昇。閉塞が続けばビタミンKの吸収障害によるプロトロンビン時間の延長。胆管内圧の上昇に伴い、AST・ALTが一過性に上昇することもある。 この枠組みに照らし、各選択肢が病態と合致するか、向きが逆になっていないかを確認する。
選択肢考察
- ○a. ALP高値
ALP(アルカリホスファターゼ)は胆管上皮の細胞膜などに多く含まれ、胆汁うっ滞で胆管内圧が上がると、胆管上皮での産生が増えるとともに血中へ流出して上昇する。γ-GTPやLAPとともに胆道系酵素と呼ばれ、胆道閉塞・胆汁うっ滞の代表的な指標である。本症例は胆石による閉塞性黄疸をきたしており、ALP高値が最も予想される。なお、ALPは骨(成長期、骨疾患)や胎盤(妊娠)にも由来するため、胆道由来かどうかはγ-GTPの同時上昇やアイソザイムで判断する。
- ×b. 尿酸高値
高尿酸血症は痛風の基盤となる病態であり、ほかに腫瘍崩壊症候群、腎機能低下、利尿薬の使用などでみられる。尿酸結石による尿管結石の原因にはなりうるが、胆石や胆道閉塞とは直接の関係はなく、本症例に特徴的な所見ではない。
- ×c. 白血球減少
胆嚢炎や胆管炎などの細菌感染を伴う急性炎症では、好中球を中心に白血球は増加するのが通常である。本症例も微熱と頻脈があり、白血球増加・CRP上昇が予想される。なお、重症の敗血症では白血球が逆に減少することがあり、急性胆管炎の重症度判定でも白血球の著明な増加・減少がともに炎症の強さを示す指標とされるが、全身状態が保たれた本症例で予想される所見ではない。
- ×d. プロトロンビン時間短縮
向きが逆である。胆汁が腸管へ流れないと、脂肪とともに吸収される脂溶性ビタミンであるビタミンKが吸収されにくくなる。ビタミンKは肝臓で凝固因子(第II・VII・IX・X因子)が働ける形になるために必要なので、不足するとプロトロンビン時間(PT)は延長する。この場合はビタミンKの静注で改善し、肝細胞の合成能低下によるPT延長(ビタミンK投与で改善しにくい)との区別に役立つ。閉塞性黄疸でPTが短縮することはない。
- ×e. 間接型優位のビリルビン高値
閉塞性黄疸では、肝細胞で抱合を受けた直接(抱合型)ビリルビンが胆汁中へ排泄できずに血中へ逆流するため、直接型優位の高ビリルビン血症となる。直接ビリルビンは水溶性で尿中へ排泄されるので、本症例の濃い色の尿(ビリルビン尿)とも合致する。一方、間接(非抱合型)ビリルビンは脂溶性でアルブミンと結合しており尿中には出ない。間接型優位の上昇は、溶血性貧血、無効造血、Gilbert症候群などの体質性黄疸でみられる。
ビリルビン代謝と黄疸の分類
赤血球のヘモグロビンが分解されて間接(非抱合型)ビリルビンとなり、アルブミンと結合して肝臓へ運ばれる。肝細胞でグルクロン酸抱合を受けて直接(抱合型)ビリルビンとなり、胆汁中に排泄される。腸管内では細菌によりウロビリノゲンに変わり、一部は再吸収されて尿中へ出る。 ・肝前性(溶血など): 間接型優位。尿ビリルビン陰性、尿ウロビリノゲン増加。 ・肝細胞性(肝炎など): 直接型・間接型ともに上昇し、AST・ALTの上昇が目立つ。 ・閉塞性(胆石、腫瘍による胆道閉塞など): 直接型優位。尿ビリルビン陽性(濃い尿)、胆汁が腸に届かないため尿ウロビリノゲン低下~消失、便は灰白色になる。皮膚瘙痒感(胆汁酸の蓄積による)を伴うことがある。
胆汁うっ滞で上昇する主な検査値
・直接ビリルビン、総胆汁酸 ・胆道系酵素: ALP、γ-GTP、LAP ・総コレステロール(長期のうっ滞で) ・PT延長(ビタミンK吸収障害。ビタミンK静注で改善)
急性胆嚢炎・胆管炎で上昇する炎症所見
白血球増加(好中球優位)、CRP上昇。胆石が乳頭部に詰まれば胆石性膵炎を合併し、血清アミラーゼ・リパーゼが上昇するため、黄疸を伴う胆石症では膵酵素も確認する。
画像検査と治療の流れ
腹部超音波で胆嚢結石、胆嚢壁肥厚、肝内・肝外胆管の拡張を確認し、CTやMRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影)で総胆管結石を評価する。総胆管結石には内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)下の截石術やドレナージを行い、胆嚢結石・胆嚢炎には腹腔鏡下胆嚢摘出術を行うのが基本である。
POINT
・閉塞性黄疸では、直接ビリルビン優位の高ビリルビン血症と胆道系酵素(ALP、γ-GTP、LAP)の上昇が特徴。 ・濃い尿は直接ビリルビンの尿中排泄による(間接型は尿に出ない)。 ・胆道閉塞が続くとビタミンK吸収障害でPTが延長し、ビタミンK投与で改善する。 ・急性胆嚢炎・胆管炎では白血球は増加する。 ・間接ビリルビン優位の黄疸は溶血、無効造血、Gilbert症候群を考える。
