抜管後に呼吸が弱い!―麻酔薬と「解毒役」の正しいペアを見抜く
第108回医師国家試験 G問題 第18問
国試問題にチャレンジ
抜管後の術後呼吸抑制の原因薬物と拮抗薬の組合せで適切なのはどれか。
- a.ジアゼパム ―― アトロピン
- b.フェンタニル ―― ナロキソン
- c.ベクロニウム ―― ロクロニウム
- d.チオペンタール ―― スガマデクス
- e.スキサメトニウム ―― ダントロレン
対話形式の解説
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医学生まとめ
抜管後の呼吸抑制は、オピオイド、鎮静薬・静脈麻酔薬、筋弛緩薬の作用残存が主な原因で、それぞれに対応する拮抗薬を正しく選ぶことが求められます。フェンタニルなどのオピオイドにはオピオイド受容体拮抗薬のナロキソンを用い、作用時間が短いため再び呼吸抑制が現れないか観察を続けます。ベンゾジアゼピン系にはフルマゼニル、ロクロニウムやベクロニウムにはスガマデクスまたはネオスチグミン+アトロピンが対応し、チオペンタール、プロポフォール、スキサメトニウムには特異的な拮抗薬がありません。ダントロレンは悪性高熱症の治療薬であり、筋弛緩薬の拮抗薬ではない点も紛らわしいポイントです。原因を問わずまず気道確保と換気補助を行い、そのうえで薬理学的な拮抗を考えるという順序は、周術期の安全管理の基本となります。
解答・解説
正解はbです
本問は、全身麻酔で用いる薬物と、その作用を打ち消す拮抗薬(リバース薬)の正しい組合せを問う一般問題である。 全身麻酔の終了後、気管チューブを抜いた(抜管した)後に呼吸が弱くなる「術後呼吸抑制」は、麻酔中に使った薬の作用が残っていることで起こりやすい。原因となる薬は大きく次の3群に分けられる。 ・鎮痛薬のオピオイド(フェンタニル、レミフェンタニル、モルヒネなど): 延髄の呼吸中枢を抑え、呼吸数の減少や無呼吸を起こす。 ・鎮静薬・静脈麻酔薬(ベンゾジアゼピン系、バルビツール酸系、プロポフォールなど): 意識レベルを下げ、呼吸中枢の反応を鈍らせる。 ・筋弛緩薬(ロクロニウム、ベクロニウムなど): 呼吸筋の力が戻りきらない(残存筋弛緩)ために換気が不十分となる。 解き方としては、各組合せについて「左側の薬の作用機序」と「右側の薬がその機序を打ち消すものか」を確認すればよい。拮抗薬は、同じ受容体を競合的に遮断するか、薬物そのものを捕まえて無効にするかのいずれかである。オピオイド受容体を遮断するナロキソンがオピオイドであるフェンタニルに対応するので、b が適切である。
選択肢考察
- ×a. ジアゼパム ―― アトロピン
不適切である。ジアゼパムはベンゾジアゼピン系薬で、GABA-A受容体に結合して抑制性神経伝達物質 GABA の作用を強め、鎮静・抗不安・抗けいれん作用を示す。大量投与やオピオイドとの併用で呼吸抑制を起こしうる。その拮抗薬はベンゾジアゼピン受容体拮抗薬のフルマゼニルである。アトロピンは抗コリン薬(ムスカリン受容体拮抗薬)で、徐脈の治療や唾液・気道分泌の抑制、ネオスチグミン投与時の副作用予防などに用いられ、ジアゼパムの作用は打ち消さない。なお、フルマゼニルは作用時間がジアゼパムより短いため、いったん覚醒しても再び鎮静に陥る(再鎮静)ことに注意する。
- ○b. フェンタニル ―― ナロキソン
適切である。フェンタニルは合成オピオイドで、モルヒネのおよそ50〜100倍の鎮痛効力をもち、術中・術後の鎮痛に広く使われる。μオピオイド受容体を刺激するため、延髄の呼吸中枢の二酸化炭素に対する反応が鈍くなり、呼吸数の低下や無呼吸をきたす。ナロキソンはオピオイド受容体を競合的に遮断する拮抗薬であり、オピオイドによる呼吸抑制を速やかに改善する。ただし、急に大量投与すると鎮痛効果まで消えて強い痛み、興奮、血圧上昇などを招くため、少量ずつ効果をみながら投与する。また、ナロキソンの作用時間(30〜60分程度)はオピオイドより短いことがあり、効果が切れた後に呼吸抑制が再び現れる可能性があるので、投与後も観察を続ける。
- ×c. ベクロニウム ―― ロクロニウム
不適切である。ベクロニウムとロクロニウムはいずれも非脱分極性筋弛緩薬で、神経筋接合部のニコチン性アセチルコリン受容体をアセチルコリンと競合して遮断する。同じ作用をもつ薬どうしであり、ロクロニウムを投与すれば筋弛緩はむしろ深まる。非脱分極性筋弛緩薬の拮抗には、筋弛緩薬の分子を包み込んで不活化するスガマデクス(ロクロニウムに最も強く、ベクロニウムにも有効)、またはアセチルコリンの分解を抑えて接合部のアセチルコリンを増やすコリンエステラーゼ阻害薬ネオスチグミン(ムスカリン作用による徐脈や分泌亢進を防ぐためアトロピンを併用)を用いる。
- ×d. チオペンタール ―― スガマデクス
不適切である。チオペンタールは超短時間作用型のバルビツール酸系静脈麻酔薬で、GABA-A受容体を介して中枢神経を抑制し、全身麻酔の導入などに用いられてきた。呼吸抑制を起こしうるが、特異的な拮抗薬はなく、呼吸抑制に対しては作用が切れるまで補助換気などの呼吸管理で対応する。ヒスタミン遊離による気管支けいれんを起こしうるため気管支喘息では避け、急性ポルフィリン症では禁忌である。現在は導入薬としてプロポフォールが主流になっている。スガマデクスは非脱分極性ステロイド系筋弛緩薬(ロクロニウム、ベクロニウム)専用の拮抗薬で、チオペンタールには効かない。
- ×e. スキサメトニウム ―― ダントロレン
不適切である。スキサメトニウム(サクシニルコリン)は脱分極性筋弛緩薬で、アセチルコリン受容体を持続的に刺激して終板を脱分極させたままにし、筋線維束れん縮の後に筋弛緩を起こす。血漿中の偽コリンエステラーゼ(ブチリルコリンエステラーゼ)で速やかに分解されるため作用は数分と短い。特異的な拮抗薬はなく、ネオスチグミンは分解を妨げてかえって作用を延長させうる。偽コリンエステラーゼの先天的な異常がある患者では無呼吸が遷延し、回復まで人工呼吸で管理する。ダントロレンは骨格筋の筋小胞体からの Ca2+ 放出(リアノジン受容体)を抑える末梢性筋弛緩薬で、悪性高熱症の特効薬である。スキサメトニウムは揮発性吸入麻酔薬とともに悪性高熱症の誘因となるが、ダントロレンはスキサメトニウムによる筋弛緩や呼吸抑制を拮抗する薬ではない。
麻酔関連薬と拮抗薬の組合せ
・オピオイド(フェンタニル、モルヒネ、レミフェンタニルなど) ― ナロキソン(オピオイド受容体拮抗薬) ・ベンゾジアゼピン系(ジアゼパム、ミダゾラムなど) ― フルマゼニル(ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬) ・非脱分極性筋弛緩薬(ロクロニウム、ベクロニウム) ― スガマデクス(包接による不活化)、ネオスチグミン+アトロピン(コリンエステラーゼ阻害) ・脱分極性筋弛緩薬(スキサメトニウム) ― 拮抗薬なし ・バルビツール酸系(チオペンタール)、プロポフォール ― 拮抗薬なし ・ヘパリン ― プロタミン
スガマデクスとネオスチグミンの違い
ネオスチグミンはアセチルコリンを増やして競合に勝たせる間接的な方法のため、深い筋弛緩状態からは十分に回復させられず、ムスカリン作用(徐脈、気道分泌増加、気管支収縮、腸管運動亢進)への対策としてアトロピン併用が必要である。スガマデクスは環状オリゴ糖(γ-シクロデキストリン誘導体)で、ロクロニウム分子を1対1で包み込んで作用部位から取り除くため、深い筋弛緩からも速やかに回復でき、ムスカリン作用もない。
術後呼吸抑制への基本対応
原因を問わず、まず気道確保と酸素投与、必要ならバッグ・バルブ・マスクによる補助換気を行い、そのうえで原因薬に応じた拮抗薬を用いる。残存筋弛緩の評価には筋弛緩モニター(四連刺激 TOF: train-of-four)を用い、TOF比 0.9以上への回復を抜管の目安とする。
主流となる薬の変化
静脈麻酔導入薬はチオペンタールからプロポフォールへ、筋弛緩薬はベクロニウムからロクロニウムへ、拮抗薬はネオスチグミンからスガマデクスへ、鎮静薬はジアゼパムからミダゾラムへと、使用の中心が移っている。
POINT
・オピオイド(フェンタニル)の拮抗薬はナロキソン。作用時間が短く再抑制に注意。 ・ベンゾジアゼピン系の拮抗薬はフルマゼニル。 ・ロクロニウム、ベクロニウムの拮抗薬はスガマデクス(またはネオスチグミン+アトロピン)。 ・スキサメトニウム、チオペンタール、プロポフォールに特異的拮抗薬はない。 ・ダントロレンは悪性高熱症の治療薬であり、筋弛緩薬の拮抗薬ではない。
