「何をすると楽になる?」―腹痛の寛解因子から読み解く消化器疾患
第108回医師国家試験 E問題 第22問
国試問題にチャレンジ
疾患とその腹痛を軽快させる因子の組合せで正しいのはどれか。
- a.胆石症 ―― 脂肪摂取
- b.慢性膵炎 ―― 飲酒
- c.十二指腸潰瘍 ―― 絶食
- d.汎発性腹膜炎 ―― 体動
- e.過敏性腸症候群 ―― 排便
対話形式の解説
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医学生まとめ
腹痛の増悪・寛解因子は、痛みを生む機序を反映するため鑑別診断の重要な手がかりになります。胆石発作は脂肪摂取によるコレシストキニン分泌と胆嚢収縮で誘発され、膵炎は飲酒・脂肪で増悪して前屈位で軽快し、十二指腸潰瘍は空腹時痛で食事により軽快し、腹膜炎は壁側腹膜への刺激のため体動で増悪します。過敏性腸症候群は腸管運動異常と内臓知覚過敏による機能性腸疾患で、腹痛は排便に関連し、典型的には排便で軽快します(Rome IV基準では「排便に関連する」と表現)。ただし高齢発症、体重減少、血便などの警告徴候があれば器質的疾患の除外が必要です。暗記ではなく痛みの機序から因子を理解しておくことが、問診から鑑別診断を組み立てる臨床力につながります。
解答・解説
正解はeです
腹痛の診察では、痛みの部位や性状に加えて「何をすると悪くなり、何をすると楽になるか」(増悪・寛解因子)を必ず聴取する。この因子は、痛みがどの臓器のどんな機序で起きているかを反映するため、鑑別診断の大きな手がかりとなる。 本問では、それぞれの疾患の痛みの成り立ちを考えれば正誤を判断できる。 ・胆石症:食事(特に脂肪)→ コレシストキニン分泌 → 胆嚢収縮 → 結石が胆嚢頸部・胆嚢管に嵌頓して疝痛 ・慢性膵炎:アルコールや脂肪 → 膵外分泌刺激・膵管内圧上昇・炎症増悪 → 痛み ・十二指腸潰瘍:空腹時に胃酸が十二指腸潰瘍面を刺激 → 痛み、食事で酸が緩衝されて軽快 ・汎発性腹膜炎:炎症の及んだ壁側腹膜が体動・振動で刺激 → 痛み増強 ・過敏性腸症候群:腸管の運動異常と内臓知覚過敏 → 排便で腸管内圧が下がり痛みが和らぐ したがって「軽快させる因子」として正しい組合せは、過敏性腸症候群と排便である。選択肢の多くは、腹痛を誘発・増悪させる因子や、空腹時痛を食事で軽快させる十二指腸潰瘍の逆(絶食)が並べられている点に注意する。
選択肢考察
- ×a. 胆石症 ―― 脂肪摂取
誤り。脂肪を含む食事をとると十二指腸からコレシストキニン(CCK)が分泌され、胆嚢が強く収縮する。このとき結石が胆嚢頸部や胆嚢管にはまり込むと内圧が急上昇し、右季肋部〜心窩部の疝痛発作(胆石発作)が生じる。発作は脂っこい食事の後や夜間に起こりやすく、右肩・背部への放散痛を伴うこともある。つまり脂肪摂取は痛みを軽快させるのではなく、誘発する因子である。
- ×b. 慢性膵炎 ―― 飲酒
誤り。飲酒は慢性膵炎の最大の成因(日本では男性例の大半がアルコール性)であり、同時に腹痛の増悪因子でもある。飲酒や脂肪の多い食事は膵外分泌を刺激し、膵管内圧の上昇や炎症の再燃を招いて心窩部〜背部痛を悪化させる。このため治療の基本は断酒と脂肪制限である。なお、膵炎の痛みは前かがみ(膝胸位)で和らぐことがあり、これが代表的な軽快因子である。
- ×c. 十二指腸潰瘍 ―― 絶食
誤り。十二指腸潰瘍の特徴は空腹時痛・夜間痛であり、胃が空になって酸が十二指腸に流れ込むと潰瘍面が刺激されて痛む。食物や制酸薬で胃酸が中和・緩衝されると痛みは軽くなる。したがって軽快因子は「食事摂取」であり、絶食はむしろ痛みを起こしやすい状態である。これに対し胃潰瘍では食後早期に痛みが出やすい、という対比で覚えておく。
- ×d. 汎発性腹膜炎 ―― 体動
誤り。汎発性腹膜炎では炎症が腹膜全体に広がり、壁側腹膜(体性神経支配で痛みを鋭く感じる)が刺激されている。そのため体を動かす、咳をする、歩く、車の振動を受けるといった刺激で痛みが強くなる。患者は痛みを避けるため動かずにじっと横たわっていることが多い。筋性防御、反跳痛(Blumberg徴候)、板状硬などの腹膜刺激症状も同じ機序による。体動は増悪因子である。
- ○e. 過敏性腸症候群 ―― 排便
正しい組合せである。過敏性腸症候群(IBS: irritable bowel syndrome)は、器質的異常がないにもかかわらず、腹痛と便通異常(下痢・便秘・交替性)が慢性に続く機能性腸疾患である。腸管の運動亢進や内臓知覚過敏のため、腸内容や腸管の伸展が痛みとして感じられやすい。排便によって腸管内圧が下がり伸展刺激が減ると、腹痛は軽快することが多い。このように腹痛が排便と関連する点は、IBSの診断基準(Rome基準)の項目にも含まれている。
過敏性腸症候群の診断基準(Rome IV)
最近3か月の間に、平均して週1日以上繰り返す腹痛があり、次のうち2項目以上を満たす。 1. 排便に関連する 2. 排便頻度の変化を伴う 3. 便の形状(外観)の変化を伴う (6か月以上前から症状があり、最近3か月間は基準を満たしていること) かつてのRome III基準では「排便によって軽快する」と表現されていたが、Rome IVでは排便後に悪化する例もあることから「排便に関連する」に改められた。とはいえ、典型的には排便で腹痛が軽くなる。便の性状によって便秘型・下痢型・混合型・分類不能型に分けられる。
腹痛の主な増悪・軽快因子の整理
・胆石発作:脂肪食で誘発 ・急性膵炎・慢性膵炎:飲酒・脂肪食で増悪、前屈位(膝胸位)で軽快 ・十二指腸潰瘍:空腹時・夜間に痛み、食事・制酸薬で軽快 ・胃潰瘍:食後に痛みが出やすい ・腹膜炎:体動・咳・振動で増悪、じっとしていると多少楽 ・尿管結石:体位で変化せず、痛みで動き回る(腹膜炎と対照的) ・過敏性腸症候群:排便で軽快することが多い ・腸間膜動脈閉塞症の前段階(腹部アンギーナ):食後に腹痛
警告徴候(アラームサイン)
IBSを疑う場合でも、50歳以上での発症、体重減少、血便、発熱、夜間に目を覚ますほどの症状、大腸癌の家族歴などがあれば、大腸内視鏡検査などで器質的疾患を除外する必要がある。
POINT
・腹痛の増悪・軽快因子は、痛みを生む機序(胆嚢収縮、酸刺激、腹膜刺激、腸管伸展など)から考える。 ・過敏性腸症候群の腹痛は排便に関連し、典型的には排便で軽快する。 ・十二指腸潰瘍は空腹時痛で食事により軽快、胃潰瘍は食後痛。 ・胆石発作は脂肪食で誘発、膵炎は飲酒・脂肪で増悪し前屈位で軽快。 ・腹膜炎は体動で増悪し、患者は動かずにじっとしている。
