StudyMed医師国家試験

検査で異常なし、でもお腹はつらい―過敏性腸症候群の「ある症状」と「ない症状」

第108回医師国家試験 C問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第108回 C問題 第4問

過敏性腸症候群でみられるのはどれか。

  1. a.嘔吐
  2. b.下血
  3. c.脱水
  4. d.発熱
  5. e.便秘

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は過敏性腸症候群、いわゆるIBSでみられる症候を選ぶ問題だ。ポイントは、IBSが「器質的な異常のない機能性疾患」だということ。この性質から、出る症状と出ない症状を論理的に仕分けていこう。まず、IBSとはどんな病気だと理解しているかな。
医学生医学生
消化器内科の講義で、ストレスでお腹を壊しやすい病気と習いました。検査では異常が見つからないんですよね。
ドクタードクター
その通り。内視鏡や血液検査で炎症・腫瘍・潰瘍といった病変がないのに、腹痛と便通異常が慢性的に繰り返される。背景には消化管運動の異常、内臓知覚過敏、ストレスを介した脳腸相関の乱れ、感染性腸炎のあとに発症する感染後IBS、腸内細菌叢の変化などが関わると考えられているんだ。
医学生医学生
便通異常というと、下痢のイメージが強いです。試験前にお腹を壊す友人がいて。
ドクタードクター
下痢も確かに多いけれど、それだけじゃない。IBSは便の性状で便秘型、下痢型、両方を繰り返す混合型、どれにも当てはまらない分類不能型に分けられる。便の硬さはブリストル便形状スケールという7段階の尺度で評価するんだ。
医学生医学生
ということは、便秘もIBSの中核症状なんですね。今回の選択肢では便秘が当てはまりそうです。
ドクタードクター
正解。便秘型では兎糞状の硬い便や残便感を訴えることが多く、排便すると腹痛が軽くなるのが特徴的だ。一般に女性は便秘型、男性は下痢型が多いとされている。では、ほかの選択肢がなぜ違うのか考えよう。下血はどうかな。
医学生医学生
下痢がひどければ、少しくらい血が混じることもあるのでは、と思ってしまいました。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだね。IBSは粘膜が傷ついていないから、下血や血便は本来起こらない。もし血便があれば、大腸癌や潰瘍性大腸炎・Crohn病、虚血性大腸炎、感染性腸炎といった器質的疾患を疑って大腸内視鏡で調べる必要がある。
医学生医学生
発熱も同じ理屈で、炎症がないから出ないということですか。
ドクタードクター
その理解でいい。腹痛と下痢に発熱が加われば、感染性腸炎や炎症性腸疾患、憩室炎などを考える。血便や発熱は「警告徴候(アラームサイン)」と呼ばれ、IBSと決めつける前に器質的疾患を除外すべきサインなんだ。
医学生医学生
脱水はどうでしょう。下痢型なら起こりそうな気もします。
ドクタードクター
IBSの下痢は1回量が比較的少なく、回数が増えても水分や電解質を大きく失うことはまれだ。頻回の水様便が続けば二次的に脱水になる可能性は否定できないけれど、IBSの特徴とはいえない。明らかな脱水を伴う下痢なら、感染性腸炎などをまず考えよう。
医学生医学生
嘔吐も典型的ではないですよね。IBSは大腸が中心の病気なので。
ドクタードクター
そう。中心は腹痛と便通異常で、嘔吐が目立つなら腸閉塞や上部消化管疾患、胆道・膵疾患、中枢神経疾患など別の原因を探すべきだ。
医学生医学生
「器質的病変がない」から逆算すると、炎症や出血、消耗を示す所見はIBSらしくない、という整理ですね。
ドクタードクター
まさにそれがこの問題の核心だよ。診断にはRome IV基準が使われていて、繰り返す腹痛が最近3か月間に平均週1日以上あり、排便との関連、排便頻度の変化、便形状の変化のうち2項目以上を満たすことが条件になる。症状は診断の6か月以上前から始まっている必要がある。
医学生医学生
臨床実習の外来で、50歳を過ぎて初めて便通異常が出た方に内視鏡を勧めていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい場面を見ているね。50歳以上での発症、6か月以内の予期せぬ体重減少、腹部腫瘤、貧血や炎症反応の上昇、大腸疾患の家族歴なども警告徴候だ。治療は生活習慣と食事の改善、そして病態を説明して安心してもらうことが基本。薬物療法では高分子重合体や消化管運動調節薬、プロバイオティクスを使い、下痢型にはラモセトロン、便秘型にはリナクロチドなどの上皮機能変容薬が選択肢になる。難治例では抗うつ薬や認知行動療法も考慮されるよ。

まとめ

過敏性腸症候群は器質的病変がないのに腹痛と便通異常が慢性的に続く機能性消化管疾患で、便秘・下痢・その交代が中核症状であり、腹痛は排便で軽くなることが多いのが特徴です。病型はブリストル便形状スケールで便秘型・下痢型・混合型・分類不能型に分けられ、診断にはRome IV基準が用いられます。炎症や出血を伴わないため、発熱や血便はみられず、これらや体重減少、貧血、50歳以上での発症は器質的疾患を疑う警告徴候として大腸内視鏡などの精査につなげます。嘔吐や脱水もIBSの典型像ではありません。「機能性疾患だから何が起こらないか」を逆算する考え方は、日常診療でIBSと見逃してはならない疾患を見分ける力の基礎になります。

解答・解説

正解はeです

過敏性腸症候群(IBS:irritable bowel syndrome)は、内視鏡検査や血液検査などで説明できる器質的な病変(炎症、腫瘍、潰瘍など)がないにもかかわらず、腹痛と便通異常(便秘や下痢)が慢性的に繰り返される機能性消化管疾患である。消化管運動の異常、内臓知覚過敏(腸が刺激を痛みとして感じやすい状態)、ストレスなど心理社会的因子による脳と腸の相互作用(脳腸相関)の乱れ、感染性腸炎後の変化(感染後IBS)、腸内細菌叢の変化などが関与すると考えられている。

症状の特徴

・腹痛(腹部不快感)が排便と関連し、排便によって軽くなることが多い ・便通異常として便秘、下痢、あるいは両者の交代がみられる ・腹部膨満感やガスの貯留感を伴うことも多い ・ストレスや緊張で悪化しやすく、睡眠中には症状が出にくい

考え方

IBSは器質的疾患ではないため、炎症・出血・全身性の消耗を示す所見(発熱、下血・血便、体重減少、貧血など)は本来みられない。こうした所見があれば、大腸癌や炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、Crohn病)、感染性腸炎などの器質的疾患を疑う「警告徴候(アラームサイン)」となる。したがって、選択肢の中からIBSの便通異常そのものに当たるものを選べばよい。

選択肢考察

  1. ×a.  嘔吐

    誤り。IBSは主に大腸を中心とした下部消化管の機能異常による疾患で、中心となる症状は腹痛と便通異常である。嘔吐は典型的な症状ではない。嘔吐が目立つ場合は、腸閉塞、上部消化管疾患、胆道・膵疾患、中枢神経疾患など他の原因を考えるべきである。

  2. ×b.  下血

    誤り。IBSでは下痢を生じることはあっても、粘膜の損傷がないため下血・血便はみられない。血便はIBSの警告徴候の一つであり、大腸癌、潰瘍性大腸炎・Crohn病などの炎症性腸疾患、虚血性大腸炎、感染性腸炎などの器質的疾患を疑って大腸内視鏡検査などで精査する必要がある。

  3. ×c.  脱水

    誤り。IBSの下痢は1回量が比較的少なく、排便回数が増えても水分・電解質を大きく失うことはまれであるため、脱水をきたすことは通常ない。下痢型で頻回の水様便が続けば二次的に脱水となる可能性は否定できないが、IBSの特徴的な所見とはいえない。明らかな脱水を伴う下痢では、感染性腸炎や分泌性下痢をきたす疾患などをまず考える。

  4. ×d.  発熱

    誤り。IBSは炎症を伴わない機能性疾患なので、発熱はみられない。腹痛・下痢に発熱を伴う場合は、感染性腸炎、炎症性腸疾患、憩室炎などの炎症性疾患を考える必要があり、発熱はIBSの警告徴候の一つとされる。

  5. ○e.  便秘

    正しい。便秘はIBSの中核症状である便通異常の一つである。IBSは便の性状によって便秘型、下痢型、便秘と下痢を繰り返す混合型、いずれにも当てはまらない分類不能型に分けられ、便秘は便秘型と混合型でみられる。便秘型では兎糞状の硬い便や残便感を訴えることが多く、排便によって腹痛が軽くなるのが特徴である。

診断基準(Rome IV、2016年)

繰り返す腹痛が、最近3か月間に平均して週1日以上あり、次の3項目のうち2項目以上を満たす。 1)排便に関連する 2)排便頻度の変化に関連する 3)便形状(外観)の変化に関連する これらの基準を最近3か月間満たし、かつ少なくとも診断の6か月以上前に症状が始まっていること。 なお、以前のRome IIIでは「腹痛あるいは腹部不快感」が月3日以上とされていたが、Rome IVでは腹部不快感が削除され、腹痛の頻度も週1日以上に改められた。

病型分類

ブリストル便形状スケール(便の硬さを1〜7の7段階で評価する尺度)を用いて、異常便のうち硬便・兎糞状便が多いものを便秘型(IBS-C)、軟便・水様便が多いものを下痢型(IBS-D)、両方が多いものを混合型(IBS-M)、いずれにも当てはまらないものを分類不能型(IBS-U)とする。一般に、男性は下痢型、女性は便秘型が多いとされる。

警告徴候(アラームサイン)

発熱、関節痛、血便、6か月以内の予期せぬ体重減少(3kg以上)、腹部腫瘤などの異常な身体所見がある場合や、50歳以上での発症、大腸の器質的疾患の既往歴・家族歴がある場合は、器質的疾患を除外するため大腸内視鏡検査などを行う。貧血や炎症反応上昇などの検査異常も同様に扱う。

治療

・生活習慣・食事の改善(規則正しい食事と排便習慣、刺激物や脂肪の多い食品を控える等)と、病態の説明による安心感の付与 ・薬物療法:高分子重合体(ポリカルボフィルカルシウム)、消化管運動調節薬、プロバイオティクス、抗コリン薬(腹痛に対して)、下痢型にはセロトニン5-HT3受容体拮抗薬(ラモセトロン)、便秘型には上皮機能変容薬(リナクロチドなど)や浸透圧性下剤 ・難治例では抗うつ薬、心理療法(認知行動療法など)を考慮する

POINT

・IBSは器質的異常のない機能性消化管疾患で、腹痛と便通異常(便秘・下痢)が主症状。 ・腹痛は排便と関連し、排便で軽くなることが多い。 ・病型は便秘型・下痢型・混合型・分類不能型(ブリストル便形状スケールで分類)。 ・発熱、血便(下血)、体重減少、貧血、50歳以上での発症などは警告徴候であり、器質的疾患の精査が必要。 ・嘔吐や脱水はIBSの典型像ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。