フクロウの目が見つめる頸部リンパ節―巨細胞を「核」で見分けてHodgkinリンパ腫へ
第108回医師国家試験 B問題 第23問
国試問題にチャレンジ
頸部リンパ節腫大を主訴に来院した58歳男性のリンパ節生検組織のH-E染色標本(A)(B)を別に示す。 この病変の診断として最も考えられるのはどれか。

- a.結核性リンパ節炎
- b.甲状腺乳頭癌
- c.サルコイドーシス
- d.肺小細胞癌
- e.Hodgkinリンパ腫
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
リンパ節に巨細胞をみたときは、核の配置と核小体の性状、背景の構造で鑑別することが重要です。2核の鏡像核(owl's eye)で各核に大型の好酸性核小体をもつReed-Sternberg細胞が、小リンパ球などの反応性細胞を背景に散在していればHodgkinリンパ腫と診断でき、古典的Hodgkinリンパ腫ではRS細胞がCD15・CD30陽性を示します。乾酪壊死を伴う肉芽腫とLanghans巨細胞なら結核、乾酪壊死のない肉芽腫ならサルコイドーシス、乳頭状構造とすりガラス状核なら甲状腺乳頭癌、核小体の目立たない小型細胞のシート状増殖なら肺小細胞癌と、組織像で区別します。Hodgkinリンパ腫は頸部リンパ節が好発部位で、ABVD療法などにより治癒が期待できるため、巨細胞の見分け方は病理診断と臨床判断の両面で欠かせない知識です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
58歳男性が頸部リンパ節腫大で受診し、リンパ節生検のH-E(ヘマトキシリン・エオジン)染色標本が提示されている。 弱拡大(A)では、小型リンパ球を主体とする反応性の細胞の中に、ひときわ大きな細胞が散在している。乾酪壊死(チーズ様の無構造な壊死)や、類上皮細胞が集まってつくる肉芽腫の構造は見られない。 強拡大(B)では、この大型細胞に核が2つ(あるいは分葉した核)があり、それぞれの核の中央に大きく好酸性の核小体がみられる。2つの核が鏡に映したように向かい合う像は「フクロウの目(owl's eye)」とよばれ、Reed-Sternberg細胞(RS細胞)の典型像である。
診断へのプロセス
リンパ節で巨細胞をみたとき、まず区別すべきなのは次の2つである。 ・結核などの肉芽腫でみられるLanghans巨細胞:多数の核が細胞の辺縁に馬蹄形に並び、核小体は目立たない。周囲に類上皮細胞や乾酪壊死を伴う。 ・Hodgkinリンパ腫のRS細胞:2核〜多分葉核で、核ごとに封入体のような大型核小体をもつ。背景には非腫瘍性の小リンパ球、好酸球、形質細胞、組織球などが混在する。 本標本は後者の特徴を満たし、肉芽腫や上皮性腫瘍の構造もないため、Hodgkinリンパ腫と診断する。
設問への考え方
画像問題であるが、「多核(2核)」「大型の核小体」「背景の小リンパ球」という3点を読み取ることが鍵となる。巨細胞=結核と短絡せず、核の配置と核小体の性状で区別する。
選択肢考察
- ×a. 結核性リンパ節炎
結核性リンパ節炎では、類上皮細胞肉芽腫の中心に乾酪壊死があり、Langhans巨細胞を伴う。Langhans巨細胞は多数の核が細胞周辺に馬蹄形・花冠状に並ぶ多核巨細胞で、核小体は目立たない。本標本には乾酪壊死も肉芽腫構造もなく、巨細胞の核はそれぞれ大型核小体をもつため合致しない。
- ×b. 甲状腺乳頭癌
甲状腺乳頭癌は頸部リンパ節転移を起こしやすいが、組織学的には線維血管性の芯をもつ乳頭状構造や、すりガラス状核、核溝、核内細胞質封入体といった特徴的な核所見がみられ、砂粒体を伴うこともある。本標本はリンパ球を背景に大型の2核細胞が散在する像で、上皮性の乳頭状増殖はないため該当しない。
- ×c. サルコイドーシス
サルコイドーシスは乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫を特徴とし、肉芽腫内にLanghans型や異物型の多核巨細胞、星状小体・Schaumann小体がみられることがある。好発リンパ節は両側肺門・縦隔リンパ節である。本標本には肉芽腫の構造がなく、巨細胞もRS細胞の形態なので該当しない。
- ×d. 肺小細胞癌
肺小細胞癌は早期からリンパ節転移をきたし、鎖骨上窩など頸部リンパ節腫大で見つかることもある。組織では、細胞質に乏しく核クロマチンが細顆粒状で核小体の目立たない小型〜中型の腫瘍細胞が密にシート状に増殖し、核の圧排像(nuclear molding)や壊死を伴う。大型で明瞭な核小体をもつ本標本の細胞とは正反対の特徴であり、該当しない。
- ○e. Hodgkinリンパ腫
反応性の小リンパ球などを背景に、2核で各核に大型の好酸性核小体をもつ巨細胞が散在しており、Reed-Sternberg細胞と判断できる。RS細胞(およびその単核型であるHodgkin細胞)の存在はHodgkinリンパ腫の診断の根拠となる。頸部リンパ節は本症の最も多い初発部位でもあり、臨床像とも矛盾しない。
Hodgkinリンパ腫の概要
・B細胞由来の悪性リンパ腫で、腫瘍細胞(Hodgkin細胞/RS細胞)は病変のごく一部(数%程度)にすぎず、大部分は反応性の炎症細胞が占める。 ・日本では悪性リンパ腫の約5〜10%程度と欧米より少ない。発症年齢は若年成人と高齢者の二峰性を示す。 ・頸部リンパ節から始まり、隣接するリンパ節領域へ連続的に広がる傾向がある。 ・全身症状(B症状):38℃以上の発熱、盗汗(寝汗)、6か月以内に10%以上の体重減少。ほかに皮膚瘙痒感、周期的に繰り返す発熱(Pel-Ebstein熱)、飲酒後のリンパ節痛が知られる。 ・Epstein-Barr(EB)ウイルスの関与が一部でみられる。
分類(WHO分類)
1. 古典的Hodgkinリンパ腫:結節硬化型(日本・欧米で最多、縦隔病変が多い、lacunar細胞)、混合細胞型、リンパ球豊富型、リンパ球減少型 2. 結節性リンパ球優位型Hodgkinリンパ腫:popcorn細胞(LP細胞)が特徴
免疫組織化学
古典的Hodgkinリンパ腫のRS細胞はCD15陽性、CD30陽性で、CD45(白血球共通抗原)陰性、CD20は陰性〜弱陽性のことが多い。結節性リンパ球優位型ではCD20陽性、CD15・CD30陰性である。
治療の概略
病期と予後因子に応じて、ABVD療法(ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバジン)を中心とする化学療法、限局期では放射線治療を組み合わせる。進行期ではCD30を標的とするブレンツキシマブ ベドチンを含む治療も用いられる。治癒率の高いリンパ腫である。
リンパ節にみられる巨細胞の鑑別
・Langhans巨細胞:核が辺縁に馬蹄形に並ぶ(結核、サルコイドーシス、その他の肉芽腫) ・異物型巨細胞:核が細胞内に不規則に散在(異物反応) ・Reed-Sternberg細胞:2核〜分葉核、各核に大型好酸性核小体(Hodgkinリンパ腫)
POINT
・Reed-Sternberg細胞=2核(鏡像核、owl's eye)で、各核に大型の好酸性核小体をもつ巨細胞。Hodgkinリンパ腫の診断根拠。 ・背景は小リンパ球・好酸球・形質細胞などの反応性細胞で、腫瘍細胞はごく少数。 ・Langhans巨細胞(核が馬蹄形に辺縁配列、乾酪壊死・類上皮細胞肉芽腫を伴う)との区別が頻出。 ・古典的Hodgkinリンパ腫のRS細胞はCD15・CD30陽性。 ・最多病型は結節硬化型。頸部リンパ節が好発部位。
